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【にじいろWS 2023-6月】紫陽花色のテキスタイル
2023年6月21日 水曜日投稿
長雨に気持ちも沈みがち、でも今回はそれを楽しんじゃいます
梅雨時は、一年のなかでも心身ともにもっとも沈みがちなとき。
季節の便りに「長雨の候」と書き出すように、雨の日ばかりが続きます。
ぽつぽつ、しとしと、ざーざーというおなじみの擬声語が飛び交うのも、この時期ならではのことですね。
そんな雨景色のなか、私たちをひときわ魅了する植物といえば、誰もが迷うことなく紫陽花(あじさい)と言うでしょう。
明治時代の有名な歌人・正岡子規(1867- 1902年)も、梅雨の雨と紫陽花を眺めてこんな句を詠みました。
〈紫陽花や 壁のくづれを しぶく雨〉
なにげない情景描写ですが、その光景がありありと浮かんできますし、自然への想いというものが100年以上前の歌人といまの私たちと何ら変わらぬことに驚きます。
この季節は家の庭や近所の公園、または社寺、学校の花壇など、いたるところで目にします。
当園にも入口付近から玄関口に続く通路に、花や葉に雨粒を湛えた鮮やかな紫陽花が並んでいます。
その美しい佇まいは、子どもたちの送迎を毎日やさしく見守っているかのようです。
そこで今回のにじいろワークショップは、梅雨と紫陽花をイメージしながら「紫陽花色のテキスタイル」をつくります。
テキスタイル(Textile)とは、日本語で言えば織物や布地のことですが、ここでいうのは糸によって織り込まれた繊維製品そのものではなく、そこに描く(染める)などしてデザイン的な装飾を施した、いわゆるアートとしてのテキスタイルです。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「さまざまな雨によって聴こえかたの違う雨音、その雨のさま、そしていまの季節に咲く紫陽花の色彩などを五感でとらえて、子どもたちなりにそうした自然の在りようを素直に一枚の布へ写し取ってくれたらいいかな」
と話していました。
そうですね、理屈はさておき、子どもたちには新しいアートワークを存分に楽しみ、しっかり体感してもらうことが一番ですから。
「さらし」に「染料」、準備も試行錯誤・・・初ものづくしのワークショップです
今回の創作内容ですが、実は当園で行うのは初めてです。
なので、まずは使用する画材について簡単に説明しておきましょう。
画布となるのは「さらし(晒)」です。
それに筆で絵や模様などを描いていくのですが、その彩色の材料は「染料」です。
さらしは、綿100%・長さ10m・幅34cmのものを年中・年長クラスそれぞれ2本ずつ、計4本使用します。
さらしという素材は漂白された純白の織物で、主な用途は、身近なことでは台所で調理をする際の水切りなどとして使用しますし、古くから妊婦の腹帯や乳児用の肌着、おむつなどにも用いられ、または着物を着付ける際の補正などにも重宝がられています。
衛生的で肌触りが柔らかく、通気性・吸湿性や耐久性に優れているというのがその理由のようです。
彩色の染料ですが、子どもたちが直接肌に触れても安心なものを十分に吟味してそろえました。
もっとも現在では人体への影響がなく、有害指定化学物質を含まない新しいエコ染料が一般的です。
これに染料を取り分けるボール(色数分)や筆洗器、筆と染料を入れる紙コップなどを用意しました。
そして実施場所ですが、創作内容や展開などを考慮すれば屋外で行うのが最適です。
しかし梅雨時なので、室内で行うのもやむなしとあれこれ思案していたのですが、なんと、日頃の行いの良さでしょうか、ワークショップ当日はまさに梅雨の晴れ間となり、屋外での実施となりました。
それも前回に続き、園舎と隣接する送迎用の駐車場です。
雨続きで思うように園庭での遊びができなかったせいでしょうか、屋外の広い駐車場というだけで、年中・年長両クラスの子どもたちのテンションは急上昇です。
もちろん梅雨の晴れ間は温度も高くなりますから、熱中症対策に帽子とタオル、各自の水筒は必需品です。
場所(駐車場)が決まれば、そこでの準備にも触れておきましょう。
あらかじめ先生と保育士たちで駐車場に2脚のテーブルを用意し、駐車場の端(奥)と端(手前)に1脚ずつ対極になるよう置きました。
その対極に置いたテーブルとテーブルとの間隔は、距離にしておよそ10m弱。
つまり、1本10mのさらしをまっすぐに伸ばしたとき、さらしの両端を対極に置いたそれぞれのテーブル上に粘着テープで固定することができるということです。
こうして2本のさらしを、線路のレールのように平行にまっすぐ伸ばして両端のテーブル上に固定しました。
まるで、対極にある岸と岸を結ぶために架けられた長い橋のようです。
これで最初の準備は完了したのですが、年中クラスの子どもたちで行った結果を踏まえ、年長クラスのこどもたちはこの設定を若干変更し、さらしをまっすぐに伸ばして、対極に置いたテーブルへの固定ではなく、そのまま地面にさらしを置いて、ピンと張った状態のまま両端を地面に直接粘着テープで貼り付けました。
年中クラスでは、子どもたちが一斉にさらしに描きはじめた途端、宙に浮いた状態を保つのが厳しくなって、大きなたるみやよじれが出てしまい、しっかり固定していたはずのさらしも幾度が地面に落ちてしまったのです。
見るとやるとは大違い、とよく言いますが、初めてづくしのワークショップは、画材選びも準備も、あれやこれやと試行錯誤の連続です。
初めての挑戦ながら、すてきな〈アート〉作品に仕上がりました
準備もすべて整い、いよいよワークショップ開始です。
最初は年中クラスですが、その子どもたちの目にいきなり飛び込んで来たのは、駐車場の真ん中にまぶしいくらいの純白な長いさらしが2本。それも端から端まで宙に浮きながらまっすぐにピンと張られ、ときおり風に揺れているなんとも奇妙な光景でした。
これに驚くな、という方が無理というもの。
子どもたちがその瞬間どのような反応をしたか、言うに及ばず、です。
いつものように先生はそんな子どもたちを集めて、今回のワークショップについて話しはじめました。
先生は頭にかぶっていた1本の長方形の繊維製の手ぬぐいをほどいて子どもたちに見せ
「これは布で出来ているのはわかるよね?みんなの周りにもこんな布でできたものがたくさんあるでしょ」
そして今度は宙に浮いた2本のさらしを指して
「みんなの目の前にある、あの長~い真っ白なものもそうです」
子どもたちはすばやくさらしに視線を移し、大きく頷きました。
それから再び先生は自分の手ぬぐいをひろげ
「でも、先生のは、ほら、きれいな模様が入っているでしょ、でもこっちの布は真っ白で何の模様もないよね」
先生はさらに続けて
「そこで、今日はみんなにこっちの真っ白な布に模様を描いてもらいます」
子どもたちはようやく今日の趣旨を理解したようです。
先生は次にピンと張られた1本のさらしの中央に子どもたちを集め、初めて使う染料についての説明と、どのように描くのか、そのお手本を見せました。
染料の入ったコップに絵具用の筆を浸してなじませると、その筆先をゆっくり真っ白なさらしの上に押し当てます。
筆使いはいつもと違い、すべらせるのではなく、じっくりと染料がにじむように押し当てます。
筆を押し当てた真っ白なさらしのその個所に、染料がじわじわとにじんでいくのがわかります。
子どもたちは先生の筆使いや、染料がさらしににじんでいくようすをしっかり頭に焼き付けました。
そこで先生は、やはりあらかじめ摘んでおいた園に咲く紫陽花の花や葉を子どもたちに見せてこう言いました。
「今回みんなに描いて欲しいテーマは、梅雨時の美しさやこの時期に咲く紫陽花のイメージです」
紫陽花を描くもよし、その花や葉のイメージを色やかたちで表現するもよし、それは子どもたち一人ひとりに委ねました。
先生の説明を見聞きすると、子どもたちは2本のさらしを挟み二手に分かれ、各自割り当てられたさらしの位置に立ちました。
さあ、これからいよいよ初めてのアートワークに挑戦です。
年中クラスの子どもたちは、やはりワークショップの経験も浅いので初めての道具になれること、絵を描くことというふたつのチャレンジがなかなか思うようにはいきません。
それでも、個人差はあるものの、どの子も少しずつ布に〝染める〟ことの面白さがわかってきたようです。
みるみる真っ白なさらしは子どもたちの描いた模様で鮮やかな色彩に染まっていきました。
さすがにワークショップ二年目となる年長クラスの子どもたちは、さらしに筆を押し当ててにじませる技術やその要領を得るのも早いです。
それに、年中クラスの子どもたちには描けなかった紫陽花もしっかり写し取る子がいましたし、なかには葉をさらしに押し当てて染料を上から垂らし、葉のかたちをさらしに写し取る子もいました。
子どもたちの成長は、その年齢と経験の重なりによるものだと思うのですが、アートワークにおける成長もまた、年齢と経験のひとつずつの確実な重なりがもたらすものだということを改めて感じました。
自ら自然のなかに入っていけるような、そんな感性を持ってもらいたい
年中・年長クラス共に制作した作品は、さらし全体を一度水で洗い流し、それを乾かして完成品となります。
今回は世の中にたった4本しか存在しない、素敵なオリジナル・テキスタイルが完成しました。
今後は園内を飾るタペストリーのような装飾品として、または園の各行事に園舎2階などから鮮やかな垂れ幕として掲げるのも良いかと思います。
誰よりも制作した子どもたちにとって、そうして事あるごとにたくさんのひとの目に触れるような使い方が一番うれしいのではないでしょうか。
先生はワークショップ終了後に、先に仕上がったテキスタイルを1本だけ園に咲く紫陽花と絡めて、早速アート表現として展示して見せました。
表現の仕方に決まりはない、常識を外すという魅せ方と言ったらいいでしょうか、即興でしたが思わずおもしろい空間アート体験をさせてもらいました。
では最後に、そんなユニークな発想を自ら楽しんで実行する松澤先生に話しを伺いしました。
「子どもたちにとっては染色という初めての体験でしたが、屋外でやれたことで、太陽の陽射しや空の色、ときおり吹き抜ける風、子どもたちの手元に落ちるひとの影など、つねに自然を感じながらアートができたこと、それに勝るものはないですから、それがほんとうに良かったです」
自然を意識しながらアートに関わることのすばらしさは先生がいつも話されていたことだったので、参加した子どもたちはもちろんですが、サポート役の保育士たちにとっても貴重な体験になったと思います。
さらに先生は、いま再びこの本に感銘を受けている、と言って一冊の本を見せてくれました。
それは、レイチェル・カーソン(Rachel Louise Carson、1907 – 1964年)著作の『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』です。
作者をご存知の方も多いと思いますが、アメリカの海洋生物学者であり作家です。
この著書は、1965年に彼女の没後出版されたもので、幼少時から自然の不思議さや素晴らしさに触れることの大切さを語り、自然環境の重要性を訴えています。
先生はその本をさらさらと繰りながら
「自然の中にある神秘的なものに触れることで、どうしてだろう?とか、なんてきれいなんだろう!とか、人工でつくられたものじゃないからこそ受ける刺激に感動することっていっぱいあるでしょ。だから子どもたちにはそういう感性を養っておとなになって欲しいんです。そのことできっと、人工的につくられたものではない、もっと自然に満ちた豊かな発想でものごとを考えられると思うんです」
そう話しました。
先生は子どもたちへの指導においても常々こう言っています。
「風の音や、空の色や、雲のかたち、それから季節ごとに放つ植物の匂いなど、自然のもつあらゆるきらめきなどを感じ取って、自ら自然のなかに入っていけるような感性を持ってもらいたい」
レイチェル・カーソンもその著書のなかで、こう書いています。
「子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。(中略)もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目をみはる感性』を授けてほしいとたのむでしょう」
また、彼女はおとなである私たちにこんな言葉を投げています。
「もし、あなた自身は自然への知識をほんのすこししかもっていないと感じていたとしても、親として、たくさんのことを子どもにしてやることができます。たとえば、子どもといっしょに空を見あげてみましょう、そこには夜明けや黄昏の美しさがあり、流れる雲、夜空にまたたく星があります」
私も本棚に眠ったままの彼女の著書を、もう一度じっくり読み返してみようかと思いました。
(※引用文は、佑学社『センス・オブ・ワンダー(The Sense of Wonder)』上遠恵子訳による)
ドキュメンテーション
紫陽花色のテキスタイル
季節は、ちょうど、梅雨。紫陽花の似合う季節です。保育園にも美しい紫陽花がたくさんです。今回は、梅雨の水のイメージと紫陽花をイメージしながら、テキスタイルをつくっていきます。
生活の中にある、服、カーテン、カバーなどなどすべての布製品はデザインされたものなのです。瑞々しい季節、サラシを紫陽花の色に染めて、オリジナルのタペストリーを完成させましょう。
written by OSAMU TAKAYANAGI
台湾幼児教育協会の方々があおぞら保育園の見学に来ました
2023年6月15日 木曜日投稿
台湾幼児教育協会の皆さんと協会の顧問である翁麗芳教授・鍾志聡教授が、あおぞら保育園の見学にいらっしゃいました。
台湾幼児教育協会では保育研修の一環として海外視察を行っており、今回は日本の保育・幼児教育を学ぶために来日されたそうです。
皆さんとても熱心で、細かいところまで見られ、質疑も予定時間を越えての実施となりました。
【にじいろWS 2023-5月】春の空気を感じて~らくがきあそび~
2023年5月25日 木曜日投稿
いつもと違う場所で、普段できないことを堂々とやろう!
コロナ禍により、世界中が一変した三年間。
当然のことながら子どもたちの生活も変わり、たくさんの我慢を強いられた日々でした。
それがこの5月、新型コロナ感染症が〝5類感染症〟に置き換わり、ようやく長いトンネルの出口が見えたようです。
もちろん、この先のことは誰にもわからないですが、それでも大きなものをひとつ超えた、そう信じて前に歩き出してもいいんじゃないかって、そんな思いではじまった5月の「にじいろワークショップ」です。
そこで今回は、この三年間に溜め込んだ子どもたちの重い気持ちを、青空の下で春の新鮮な空気を感じながらおもいっきり発散できたらと思い、当ワークショップの松澤先生が特別に企画したプログラムです。
テーマは、『日常の生活ではなかなか許されないことだけど、それを堂々とやらせてあげたい!』
それを実施する場所として選んだのは、なんと車専用の駐車場です。
と言ってもご心配なく・・・当園に隣接した送迎用駐車場ですから、関係車両以外は入出できません。
では、その駐車場でなにをするのか?ということですが、その広い敷地すべて(全面)をキャンバスにして、子どもたちに絵を描いてもらいます。
絵を描くというよりは〝らくがき〟あそびをする、という方がわかりやすいかもしれませんね。
ですから、絵を描くための画材(道具)も〝らくがき〟あそびにふさわしく、自然から採られた「ろう石(せき)」を主に使用します。
「ろう石」と聞いて、ある世代の方にはとても懐かしく思われることでしょう。
特に昭和世代の子どもなら一度は手にしたことのあるものですし、それを使ってアスファルトやコンクリートでできた道路や壁に〝らくがき〟あそびをしたものです。
しかしいまでは「ろう石」をご存知ない方が多いかと思いますので、簡単にその説明をしておきます。
「ろう石」とは、蝋のような光沢や感触を持った、半透明でやわらかい鉱物や岩石を指します。
今回使用するのは「石筆(せきひつ)」と称される、筆記用具のように細くきれいにカットされたもので、主に建設現場などにある鉄板やコンクリート面などに作業のための記号や文字を書き入れるときに使用するものです。
また同じく自然界の成分を含んだ「カラーチョーク」も用意したので、併せて使うことにしました。
ではさっそく、子どもたちと一緒に園の門を出て駐車場に向かいましょう。
対象の素材に触れることで、想像以上に深く大きな情報が得られる
気温はやや高めですが、天気はまずまず。
季節的にはちょうどいいころ合いかもしれませんが、そんなことをいちいち気にするのはおとなだけ。
子どもたちはいつもと違った環境、しかも青空の下というだけで解放感に満たされ、誰もが弾けるような笑顔ではしゃぎまわっていました。
まずは年中クラスの子どもたちですが、みんな揃ったところできちんと整列して先生へのごあいさつです。
子どもたちはここでなにがはじまるのか、そわそわ、わくわくと、なんだか落ち着かないようす。
先生はそんな子どもたちに大きな輪を描きながら広がるように促し、いつものウォーミングアップをはじめました。
心なしかそれさえもいつも以上にのびのびとしていて、とても楽し気に見えました。
子どもたちのからだも気持ちも十分にほぐれたところで、先生はその場に座り込むように言いました。
次に先生はゆっくりと地面に自分の両手のひらを押し当てて、
「みんなも地面に手をおいてごらん」と言いました。
子どもたちもそれに倣って地面に手のひらをつけました。
その瞬間、
「熱(ア)ちっ!」
「ほんとだ、あついぞ~」とみんなおどろきの声を上げました。
アスファルトでできた駐車場の地面は、朝からそそがれた太陽の陽射しで温度が高かったのです。
さらに先生は地面をゆっくりなでながら、
「この地面はたいらで、廊下みたいにつるつるしてるかな?」と聞きました。
すると子どもたちもいっせいに地面をなでてみて、
「たいらじゃないし、つるつるしてない!」
「ざらざらで、でこぼこだ」
と、見た目の予想に反していたのか、やはりおどろきの声で答えました。
子どもたちがいつも見ていた駐車場の地面は、きっと冷たくて、たいらでつるつるしているものと感じていたのでしょうね。そんな思い込みは、いっぺんに吹き飛びました。
先生はいつも、こう話しています。
「対象となる素材(今回は自然環境としての地面)を自分の手や足で直接触れること。
子どもたちには、つねにそうした皮膚感覚を大事に欲しい。
いまは触れたことがなくても映像や動画で簡単に見られるから、そのものが持つ感触さえもイメージや第三者の説明だけで決めつけてしまいがちです。
でも実際に触れてみると、温かい、冷たい、つるつる、でこぼこ、硬い、柔らかいなど、見た目とは違っているものです。
本来、そこから得られる情報は、頭で想像する以上に深くて大きいのです」
さて、いよいよお絵描き、いえ、〝らくがき〟あそびの開始です。
先生は1本の「ろう石」を取り出して、地面に絵を描きはじめました。
「石の棒なのに、こんな地面に白い線が描ける!?」
そんな心の声が聞こえてきそうなほど、子どもたちは不思議なものを見るようにじっと見つめていました。
突然ひとりの子どもが言いました。
「先生、こんなところで〝らくがき〟してもいいの?」と。
先生はすぐさま笑顔で答えます。
「そう、ほんとはここでこんなことしちゃダメだよね。でも今日は特別だから、いいんだよ!
この駐車場いっぱいに〝らくがき〟してね」
先生と保育士が子どもたち一人ひとりに「ろう石」を配りました。
最初はどの子も初めて手にするその画材(道具)に戸惑っているようでしたが、一度使い出すとあっという間に上手に使いこなします。
子どもたちのすばらしさは、おとなのように周囲を気にしたり遠慮や躊躇することがなく、自ら積極的に実践していくところです。これは、おとなも見習うべき点ですね。
もはや駐車場という名の、にじいろW.S.専用〈アート〉スペース
子どもたちにとって、これほど広くて大きなキャンバスに絵を描くのは初めてです。
それは年中・年長クラス共にそうですし、おとなにしてもこのような経験を持っているひとはそうそう居ないと思います。
それでも子どもたちは臆することなく、どんどん敷地内(地面)のあちらこちらに描いていきます。
年中クラスの子どもたちは、点や丸、四角から描きはじめ、そのうちそれがなにかの形になり、さらにそれらが集まって大きなかたまりの絵になりました。
また一本の道のような絵から、それが二本の線に変わり、長くまっすぐに伸び、途中でカーブし、しまいには本物の電車が走っていきそうな線路になりました。
なかには地面だけでは飽きたらないのか、隣接する園と駐車場を隔てた壁にも描き出す子がいました。
それから、おもしろいことに気づいた子どもたちが、
「先生、地面よりここの方がすべすべしていて描きやすいよ!」
と大声でいうので行ってみると、なんと駐車場の各レーン内に設置されている車止めブロックのことでした。
確かに触ってみると手触りがよく、たいらですべすべになっているため「ろう石」の描き具合が地面に比べてなめらかでした。
どのように発見したのかはわかりませんが、これこそ実際に触れた感触から得た確かな気づきです。
しばらくして、色のある「カラーチョーク」も配りました。
「ろう石」だけの白線で描いたものに色を加えることで、その〝らくがき〟がまた別のものに見えてきます。
もちろん「カラーチョーク」だけで描き出すのもOKです。
年中クラスの子どもたちは、ワークショップの終わりに自分の手のひらを自慢げに見せてくれました。
どの子の手のひらも「ろう石」の白い粉や、「カラーチョーク」の色彩に染まっています。
地面の絵を消そうとしてこすったのでしょうか、それとも手のひらを地面につけながら次々と描いていったからでしょうか、いずれにしても夢中で描いた証です。
年長クラスの子どもたちには、もう先生からの細かな説明は不要です。
はじめに先生が「ろう石」の使い方について見本を見せると、子どもたちはその場で試し描きをはじめました。
あっという間に描き方を会得したようで、先生はすぐさま好きな場所で、すきな絵を描くように指示しました。
それから先は慣れたものです。
この広くて大きなキャンバスを自由に駆け回り、自分の描きたい場所を見つけ、仲良しの友だちと、またはひとりで描きはじめました。
さすがに年長クラスの子どもたちは、最初から形のあるものを描きます。
なので「カラーチョーク」も併せて配り、画材の選択肢をひろげました。
ひとつの場所で描き終えると、またその次の場所へと自ら移動していきます。
やはり隣接する園と駐車場を隔てた壁や車止めブロックにも目をつけたようです。
さらには駐車スペースを示す白ラインの上までびっしり絵で埋まっていきました。
それも具象的な形や抽象的な模様だったり、地面との色合いを考慮した色彩のおもしろみであったりと、そこに表現された〝らくがき〟は、全体で見ても、個々で見てもすでに〝らくがき〟とは言い難いものがたくさんありました。
いく人かの子どもが年中クラスの子どもたちの描き残していった線路をみつけ、さらにその線路を駐車場のいたるところに描き足していきました。俯瞰で見れば、まるで現実に存在する路線図のようです。
ワークショップの終わりが近づいたとき、子どもたちがひとつの提案をしてきました。
それは、地面に描かれたそれらの線路に沿って、みんなで電車ごっこのように走りたい、というものでした。
そこで、せっかく何本も線路があるのだから、先生も交えていくつかのグループに分かれ、それぞれのグループが描いた線路の出発点上に並び、号令と共にいっせいにスタートしよう、ということになりました。
先生の「よーい、出発!」のかけ声と共に、各線路の出発点にいたグループは同時に走りはじめました。
直進するグループがあれば、くねくねと曲がってばかりいるグループもあるし、線路が敷地の端まで行っていきなり線路が消えていたのか、あわてて引き返すもグループもあり、交差する線路上ではいくつかのグループが衝突する始末で、行ったり来たりの大騒動となりました。
それでも、どのグループの子どもたちもとびきりの笑顔で、時間いっぱい走り続けていました。
目的のない〝らくがき〟あそびから、目的をもった〝らくがき〟あそびに
わずかな時間でしたが、年中・年長クラス共に子どもたちのこの三年間の重い気持ちがおもいっきり吹き飛んでくれたらいいな、と思います。
最後になりましたが、企画・指導する松澤先生に今回のワークショップを振り返っていただきました。
まずは地面に描くということですが―
「地面への〝らくがき〟は、日常のお絵描きと違って、手先や腕ばかりではなくからだ全体の動きを使って痕
跡を残すという行為です。
幼少期の絵画はからだの動きそのものですから、情緒や知性といったものを盛り込むような表現ではなく、敢えて身をもって体感したものをそのまま素直に写し出して描くということに意味があります。
それも画用紙のような小さく区切られたスペースではなく、今回のような子どもたちにとっては限りなく広く大きなキャンバスに向かうという、それだけでも貴重な経験になったはずです」
具体的な成果などはありますか―
「直接手のひらや指で感じ取ったままの情報にからだ全体で反応し、それをいかに表現していくかというのはなかなか普段の生活ではできませんからね。今回はそれが実践できたことです。
はじめは対象とする地面によってガタガタしたり、ざらざらしたりと描きにくさを感じたはずです。
そのうちに子どもたち自身が、車止めブロックならスムーズに描けるということを発見しました。
これって、簡単なことのようで意外にすごいことです。
また、年長クラスの子が最後に線路を走ろう、と言いだしたことにも感心しています。
私や保育士に言われたものではなく、おそらく自分たちで描いた痕跡を見て思い浮かんだのでしょう。この発想を導き出したことがとても大きな成果ですし、重要なことです」
さらに先生は話しを続けて、こう締めくくりました。
「最初は目的などない〝らくがき〟あそびではじまりましたが、最後は子どもたち一人ひとりが目的をしっかりもった〝らくがき〟あそびに変化、成長していったこと。これは目に見えない、形には表れないことですが、確実にひとつの得難い成果だったといえるでしょう。
子どものうちは、はじめから〈アート〉として何らかの目的を持たせて学ばせても意味がないんじゃないか、むしろそのことを進めていくうちに自分なりに少しずつ目的を見つけたり、気づいたりしていく方が自然に〈アート〉を捉えることができるんじゃないか、そんなふうに考えています」
ドキュメンテーション
春の空気を感じて~らくがきあそび~
春の柔らかい風や、暖かい空気の色はどんなイメージかなと考えます。
ふわふわ、さわさわ、ポカポカをどんな風な色で表現できるかな。
少し特別なチョークやパステルを使って指や手で擦りながら描く面白さに触れたいと思います。
written by OSAMU TAKAYANAGI
【羽村市】新型コロナウイルス感染症に罹患した子どもの再登園について
2023年5月10日 水曜日投稿
事務連絡
令和5年5月10日
市内保育施設
施設長 各位
羽村市子ども家庭部
新型コロナウイルス感染症に罹患した子どもの再登園について
日頃より、羽村市の行政運営にご理解とご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、新型コロナウイルス感染症に関する令和5年5月8日以降の対応につきましては、令和5年5月2日付の事務連絡でお願いさせていただいたとおり、国の「保育所における感染症対策ガイドライン」に沿った対応に取り組んでいただいていることと思います。
その中で、新型コロナウイルス感染症に罹患した子どもの再登園にあたっては、「検査陰性証明書の提出を求める必要はない(ガイドライン31ページ参照)」旨をお伝えしておりますが、ガイドラインでは、「子どもの負担や医療機関の状況も考慮して、各保育所において、市区町村の支援の下、地域の医療機関等と協議して、その取扱いを決めることが大切である(ガイドライン82ページ参照)」と記載されております。
そのため、市におきまして、羽村市医師会会長に確認を行ったところ、新型コロナウイルス感染症については、「これまでも再登園にあたって医師の意見書などの提出を行っていない状況も踏まえ、医師の意見書などの提出を求める必要はないと考える」との見解を示していただきました。
このことを踏まえ、市内保育施設におかれましては、再登園にあたって医師の意見書の提出を求めることはせず、登園届の提出などにより対応いただくようお願いいたします。
【保護者の皆様】2023年5月8日以降の新型コロナウイルス感染症にかかる対応について
2023年5月2日 火曜日投稿
令和5年5月2日
保護者の皆様
社会福祉法人陽光福祉会
理事長 大庭正宏
2023年5月8日以降の新型コロナウイルス感染症にかかる対応について
新型コロナウイルス感染症が、2023年5月8日をもって五類感染症に移行することに伴い、「保育所における感染症対策ガイドライン(こども家庭庁)」が一部改訂されました。これを踏まえ、あおぞら保育園における2023年5月8日以降の新型コロナウイルス感染症にかかる対応を下記の通りとさせていただきます。
1.臨時休園について
感染拡大防止のための休園(クラス・園全体)
【現行】
園児及び園職員が5名以上同一の感染源から感染したと疑われる場合は休園となる場合がある。
【2023年5月8日以降】
今後は休園は行わない(多数の職員が感染し、職員体制が整わない場合、休園を行う場合がある)。
2.お子さんの登園に関することについて
お子さんに熱や呼吸器症状がある場合
【現行】
園児に発熱(37.5℃以上)や呼吸器症状等の風邪症状が見られる場合は、症状が治まり24時間が経過するまではお預かりできません。
【2023年5月8日以降】
37.5℃を超えた発熱、かつ、元気がなく機嫌が悪い・食欲がないなど、全身状態が不良な場合は登園をお控えください。
お子さんが感染者となった場合
【現行】
症状がある場合は発症日を0日目として7日間経過後(無症状の場合は検査日を0日目として7日間経過後)に登園可能
【2023年5月8日以降】
発症日を0日目として5日間経過後(無症状の場合は検体採取日を0日目として5日間経過後)、かつ、症状が軽快した後1日経過後に登園可能
★詳細は「新型コロナウイルス感染症の出席停止期間について」をご参照ください。
★登園の際には「登園届(保護者記入)」の提出が必要となります。
お子さんが濃厚接触者となった場合(同居家族が陽性となった場合等)
【現行】
5日間は登園停止
【2023年5月8日以降】
登園可能
※5類移行に伴い「濃厚接触者」の特定は行われなくなります。
※陽性となったご家族の方の送迎はご遠慮ください。
3.マスク着用について
2023年3月8日にお知らせした「マスク着用の考え方について」の通りとなります。
※職員のマスク着用については、園内・園外ともにマスクの着用は求めず、職員個人の判断に委ねることとさせていただきます。
4.その他
新型コロナウイルス感染症の陽性が確認できた旨をお知らせする一斉メールは中止とさせていただき、今後は他の感染症と同様に、掲示でのお知らせとさせていただきます。
【羽村市】「コロナ禍における保育施設利用ガイドライン」の廃止と今後の新型コロナウイルス感染症への対応について
2023年5月2日 火曜日投稿
事務連絡
令和5年5月2日
市内保育施設利用者 各位
羽村市子ども家庭部子育て支援課長
「コロナ禍における保育施設利用ガイドライン」の廃止と今後の新型コロナウイルス感染症への対応について
日頃より羽村市の行政運営にご理解とご協力をいただき誠にありがとうございます。
今般、新型コロナウイルス感染症に関する対応に変更がある旨、政府から発表があり、令和5年5月7日をもって、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが変わることから、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」や業種別ガイドラインが廃止されることとなりました。
それに伴い、これまで市で策定し、皆様に対応をお願いしてまいりました「コロナ禍における保育施設利用ガイドライン」につきましても、同日をもって廃止いたします。
令和5年5月8日以降につきましては、令和5年5月2日付で改定された国の「保育所における感染症対策ガイドライン」に基づき取り組んでまいります。
なお、主な変更点は下記のとおりとなりますので、保育施設利用者の皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。
- ◆ 新型コロナウイルス感染症を発症した場合の登園のめやすは、「発症した後5日を 経過し、かつ、症状が軽快した後1日を経過すること」となります。
※無症状の感染者の場合は、検体採取日を0日目として、5日を経過すること。 - ◆ 濃厚接触者の特定はなくなりますので、家族が発症した場合でも登園は可能となります。家族の発症日(または検体採取日)から5日間は児童の体調に注意してください。
- ◆ 保育施設における感染防止対策は、「保育所における感染症対策ガイドライン(令和5年5月一部改訂)」に基づく基本的な感染対策に取り組んでいきます。
保育施設では引き続き、感染症予防など子どもの安全を第一にした取組みを行いつつ保育を実施してまいりますので、保護者の皆様におかれましても日頃からのご家庭での感染症予防・体調管理などのご協力をお願いいたします。
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【にじいろWS 2023-4月】紙コップのインスタレーション
2023年4月23日 日曜日投稿
〈アート〉も、子どもたち同様に日々変化し、成長していくものです
ちょうど昨年の4月、同テーマで「にじいろワークショップ」の新年度がはじまりました。
ですから、年長クラスに進級した子どもたちは2度目となります。
もちろん年中クラスの子どもたちにとっては、初めて体験するワークショップです。
同じテーマとはいえ、子どもたちが日々成長し、新しく変化していくように、今年度の「にじいろワークショップ」も、その内容や取り組み方などあらゆる面において新しく生まれ変わっています。
なぜなら、当ワークショップが扱う〈アート〉の世界もまた、日々変化し続けているからです。
昨年はまだコロナ禍の影響も大きく、日常生活も園での生活も思うようではありませんでした。
そんななかでも、子どもたちは毎回毎回持てる発想力と想像力を存分に発揮し、明るく、のびのびと〈アート〉に接してきました。
それはそれで、明らかにそのときにしか存在し得ない〈アート〉がそこにはあり、そのときの〈アート〉を全身全霊で体感してきました。
そう考えれば、今年度には、今年度にしか存在し得ない新たな〈アート〉があるはずです。
これからはじまる新しい一年。
どんなワークショップになるのか、どんな作品が生まれるのか、そして子どもたちがどんな体験をしていくのか、いまから大いに楽しみです。
インスタレーション( Installation )とは?
アートを展示する空間そのものをひとつの作品としてとらえることで、壁・床・天井まで含め、その空間に存在する全てのものが鑑賞の対象となるということを指した言葉です。
ワークショップに欠かせない「全身運動+笑い」から創作活動へ
「ウォーミングアップ」という言葉はもう誰もが知っていると思いますが、これって、なにもスポーツのためのものとはかぎりません。
なにごとをするにも、適度な準備運動は必要です。
からだをならすことで次の動作へスムーズに移れるし、そのことで精神的な緊張や不安を軽減することもできます。
とくに子どもたちが体現する〈アート〉系ワークショップにおいては、これがとても大切になります。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、年中・年長クラス共に、毎回ワークショップのテーマ(本題)に入る前には必ずこの「ウォーミングアップ」を行います。
かといって過度な運動をするわけではなく、遊びながら手足や背筋を伸ばし、全身を軽く動かすことと、子どもたちが大はしゃぎするほどの笑いのツボを刺激します。
これを行うことで、子どもたちの緊張や不安が一気にほどけていきます。
ましてや初めてワークショップに臨む年中クラスの子どもたちには、もっとも有効なはじまりになります。
これは当ワークショップへの導入には欠かせない、先生ならではの〝全身運動+笑い〟による「ウォーミングアップ」です。
まずは年中クラスですが、先生は100個の紙コップが収まっている四角柱の細長いパッケージを数箱取り出して、子どもたちの前に差し出しました。
中身を知らない子どもたちは黙ってそれを見ています。
先生は、いつものように子どもたちの笑いを誘いながら、それをつみきのように立てたり、横にしたり、それからトンネルのようなものをつくって、子どもたちにくぐらせるなど、まさに「ウォーミングアップ」をはじめました。
次にパッケージの中から100個重なった紙コップを取り出し、そのまま煙突のように床に立てたり、手に持ってゆっさゆっさと揺らせてみせました。
ここでも子どもたちの笑いは途切れません。
続いて、その紙コップをひとつ、ふたつと床に並べ、子どもたちにその紙コップの上にさらに重ねて置くように指示しました。
子どもたちは順番に1個ずつ紙コップを積み上げて、いくつかの三角形の山をつくりました。
どこにでもある紙コップなのに、こうして積み上げることでかたちも大きさもみるみる変化していきます。
子どもたちはそのさまを不思議そうに、また面白そうに見つめています。
ワークショップ開始からわずかな時間で、子どもたちは今回のテーマ(本題)にすんなり入っていきました。
さて年長クラスの子どもたちはというと、今回は2度目ということもあり、先生はすぐさま紙コップを一人ひとりに渡して
「みんな覚えているかな、去年もやったよね?」
と問いかけました。
もちろんその返答は
「おぼえてる!」
「やったよ」
とホールに響きわたる大きな声。
どの子も紙コップを目の前にして、瞬時に昨年の記憶がよみがえったようです。
先生は「さすがに年長さん!」と言いながら、子どもたちに紙コップを配りはじめました。
こうして、年中・年長クラスの子どもたちはテーマ(本題)の創作活動に入っていきました。
おとなの感性などはるかに超えた、子どもたちが創造する世界
より高く、より大きく、より広く。
ときには保育士の手を借りながら、年中・年長クラス共に子どもたちは紙コップを上手に積み重ねていきます。
ひとりで黙々と積み上げる子もいれば、お友だちとふたりで積み上げる子、もっと大勢の仲間で力を合わせてつくりあげる子どもたちもいて、ホール中がちょっとした工事現場のように見えてきます。
でもしばらくすると、紙コップが崩れ落ちる音があちらこちらで聞こえてきます。
それに合わせるように大きなため息や悲鳴にちかい声も聞こえてきます。
それでもまた子どもたちはつくりはじめます。
そのたびに次々と新しいかたちが生まれていきます。
時間が経つにつれて、崩れる音やため息や悲鳴の回数が増えてきますが、それが徐々に笑い声や、元気のいいかけ声に代わっていきました。
ひとつひとつは紙コップという小さな素材ですが、時間をかけて積み重ねていくうちに、それは長く続く壁になったり、自分の背たけをはるかに超えるタワーになったり、そこに座れば自分だけの小部屋にもなり、それらをいくつかつなげて巨大なお城になったりとさまざまなかたちになって現れていきます。
そればかりか、真っ白な紙コップであるのに、出来上がったそれらはそれぞれに色とりどりの色彩や模様まで見えてきます。
強いていえば、ホールに差し込む太陽の光がそれらに陰影を与えてはいますが、つくられた壁にはレンガ色が施され、タワーには鋼鉄の銀色が光輝き、小部屋にはカラフルな水玉模様の色彩が映り、お城には重厚な土壁さえ存在するかのようです。
筆者のような者でもそう感じさせるのですから、おそらく子どもたちの目にはもっと豊かな色彩や美しいデザインが見えているに違いありません。
いや、それどころか、そういうおとなの鈍い感性などをはるかに超えた、まったく別の世界を構築した感覚を体感しているように思えます。
いつもの素材への新たな気づきと、白であるがゆえに視えてくる色彩やデザイン
この真っ白で、ごく普通にある紙コップを素材としている理由を先生に尋ねました。
「もっともシンプルなかたちであり、日常のどこにでもあるものだけど、それがふたつ、みっつと増えていくとまったく新しい景色に見えてくる、かたちになる、そういうことに気づかせてくれる素材としては最適です」
という答えが返ってきました。そして
「コップは水を飲むものという、誰もが理解している当たり前の概念も、ちょっと視る角度や考え方を変えるとこんなことにもなるんだ、という驚きや発見にもつながるでしょ」
先生はこの小さな紙コップひとつから得るものは、想像以上に大きいといいます。
また、真っ白であることの必然性を
「これに色や柄があったら、それに引っ張られてイメージが固定されてしまう。青なら空や海、緑と茶色なら
森や山、ピンクや赤ならきっと女の子しか選ばない・・・それって、つまらない。
だから、そんな概念にとらわれない真っ白こそ、そこに個人個人でさまざまな色彩やかたちを想像することができる、ってことです」
そう話してくれました。
ワークショップも終了に近づくと、年中クラスのなかには、崩れて紙コップが豪快に飛び散るさまに興味を抱いたのか、わざわざ積み上げて完成させた紙コップの山を思いっきり押し倒して大喜びする子どもたちの姿も見えました。
また、最初に紙コップ(100個)を入れていた細長い空箱を何本も集めてきて、それを電車や車に見立てて遊ぶ子どもたちも。
それはそれで、きっと、その子どもたちにしか見えない世界があきらかにそこに存在していて、そのなかを自由に飛びまわっているのでしょう。
年長クラスの子どもたちは、最期に昨年の年長クラスでも行ったように、たくさんの紙コップを重ねて一本のロープ状にして、その端と端をつないで大きな輪をつくります。
そして、そのロープ状になった紙コップの輪を囲むように子どもたち、保育士、それから先生も交えて等間隔に並んで座り、各自の目の前にあるロープ状になった部分をやさしくつかみます。
先生は子どもたちに「そおっと、やさしく手にもったら、ゆっくり、ゆっくり持ち上げるからね」と声をかけます。
子どもたちの無言のまなざしと、緊張した空気が伝わってきます。
先生はそれを確かめるように見回すと「さあ、上げるよ!」と号令をかけました。
それに合わせてみんながいっせいにゆっくりとその輪を持ち上げました。
先生と子どもたちの手によって、そのロープ状になった紙コップの輪は、そのままのかたちを保ちながら少しずつ床から離れていきます。
どこも接着などしていない、ただ重ねただけの紙コップでつくったロープ状の輪は、確かにその数秒間、宙に留まっていました。
その後、どこからともなくつなぎ目が外れて、紙コップはガラガラガラ~と大きな音を立てながらばらばらになって床へ落下していきました。
その瞬間、子どもたちはもちろん、先生も保育士たちも一斉に歓声と拍手でそれを讃え合いました。
これで、今年度最初の「にじいろワークショップ」は、さわやかな余韻を残したまま終了しました。
破壊と再生の繰り返し…それはつねに未来へ向かうこと
松澤先生は、今回のワークショップを振り返り
「紙コップはそこに重ねて置くだけなので、当然のことながらほんの少し触れただけでも、すぐにかたちは壊れてしまいます。
どれほど高く積み上げても、またはどれほどたくさん並べても、そのことに変わりはありません。
だから、完成を目指すには、何度でも〝壊れてはつくりなおす〟、時間の許す限りそれを繰り返すしかないんですね。
でも、この繰り返す行為こそが、このテーマでもっとも重要なことなんです」と話しました。
つまり、実は完成することが真の目的ではないということです。
先生は続けて
「たとえば、壊すことに抵抗のある子は、慎重になりすぎてなかなか作業が進まないんです。
また、繰り返す行為でも、壊れてしまうと元のかたちに戻す作業をはじめる子もいます。
いずれの子も、慎重さやまじめさにおいてはほめてあげたいし、それは必要なことですから否定はしません。
ただ、そういう子は、ほとんどはじめたときのままのかたちで止まっています。
〈アート〉系のワークショップにおいて、それはあまりほめられる行為とは言い難いんです。
止まっていることは、新しいことに向かっていこうという思いまで止めてしまいます。
それでは、チャレンジ精神みたいなものは育ってこない。
〈アート〉も生きものと同じで日々変化しているのですから、それに順応していくことが必要で、それは裏を返せば、自らも変化していくことが求められているということです。
まさに生きていくことと同じです」
さらに言葉を重ねて
「いわば、壊せないとか、壊れるのが怖いということは、その先へ進むことができないということ。
壊れるまたは壊すことにためらわず、何度でもトライする。
そのたびに新しい発想や技量の獲得ができ、まったく違う新しい景色が見えてくるはずです」
先生は、そういう体験こそがいまの子どもたちには重要なことだと説きます。
そして最後に先生は
「いまという時代は、つねに破壊と再生の繰り返しの上に未来を築いているようなもの。
だからこのワークショップは、〈アート〉を通じてそういうことも学ぶ場であって欲しいんです。
それは理屈ではなく、体感として」
そこまで言うと、笑顔でこう締めくくりました。
「だって、日々変化していくこれからの未来を、ほんとうに築いていくのはこの子たちだから!」
ドキュメンテーション
紙コップのインスタレーション
今回は紙コップ一つから始まります。
一つの小さなものでも、それが大量に集まると、大きく景色や空間を変えることが出来るのです。
紙コップが積み上がる、高くなる
しかし、一瞬にして崩れる緊張感も伴います。
構築から破壊へ
破壊があるからまた新しく生まれる
そんな隠れたメッセージも内包しているインスタレーションです。
written by OSAMU TAKAYANAGI