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【にじいろWS 2024-02月】クラフト ドールハウス

2024年3月3日 日曜日投稿

『不思議の国のアリス』を出発点にはじまる、新たな物語を!

Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do・・・
アリスはお姉さんと土手に座りながら、なんだか退屈な気分。
するとそこに、服を着て懐中時計を手にひとりごとを言いながら
急いで走っていく白ウサギが現れます。
アリスは、とっさに白ウサギを追いかけました。
そして、白ウサギが飛び込んだ穴に、アリスも飛び込み・・・。

奇想天外なこの物語は、イギリスで出版されてから160年近く経った今でも、世界中の人々に愛されています。
原題を『Alice’s Adventures in Wonderland』―そう、邦題は『不思議の国のアリス』。
作者はイギリスの作家ルイス・キャロル(Lewis Carroll :1832-1898)/本名チャールズ・ラトウィッジ・ドドソン(Charles Lutwidge Dodgson)という数学者でもありました。
今日までに50か国以上の言語に翻訳され、本文を彩る挿絵は、初版(1865年当時)を担当したイラストレーターのジョン・テニエル(John Tenniel )をはじめ、200名以上の著名な画家が手がけています。
そのほかディズニーのアニメ映画『ふしぎの国のアリス』(1951年公開)などの映像化や舞台化などさまざまな分野に影響を与えています。

なぜ唐突にこのような話からはじめたのかと言えば、本年2月に行われた当園の「発表会」で、年長クラスの子どもたちが演じたお芝居がこの『不思議の国のアリス』だったこと。

そしてさらに、その演目を聞いた瞬間、にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生はある有名なアーチストの手がけた絵本を想い出したということで、この流れにつながるのです。
先生のいう絵本とは、〈紙の魔術師〉と言われるアメリカのロバート・サブダ(Robert Sabuda)が創作したポップアップブック(しかけ絵本)版『不思議の国のアリス』です。
彼は物語を立体的にとらえ、独創的な飛び出すしかけとして一冊の書物のなかにアリスの世界観を見事に表現しています。この書籍は、しかけ絵本を世に知らしめると共に彼の代表作ともなりました。

今期最後のにじいろワークショップのテーマ「クラフト ドールハウス」は、こうしたさまざまな重なりに触発された松澤先生がイメージをふくらませてたどり着いたものです。
それでは、『不思議の国のアリス』を出発点にはじまる、新たな物語〈ワークショップ〉をどうぞ。

しかけ絵本へと続く道のりにイメージした「クラフト ドールハウス」

先生はこの一年を振り返り、こう話します。
「『木を立てよう』『山をえがこう・山をつくろう』で行ったように、一枚の〝紙〟でも丸める、折る、などの行為を加えることで立体物になるということを子どもたちに指導してきました。
つまり〝紙〟という画材は、平面に絵を描くためだけのものではないということを体感して欲しかったということですね。
そこで、今期の締めでもう一度〝紙〟を使った集大成的なワークショップを模索していました」

そうした先生の思いと合致したのが、今回のワークショップです。
先に触れたポップアップブック(しかけ絵本)こそ〝紙〟を使った立体の造形物としては究極のかたちかもしれませんが、そこをゴールに定めるには現実問題として子どもたちにとって無理があります。
それでも、そのゴールへと続く道のりから逸れず、子どもたちが容易に取り組めるものとしてイメージしたのが「クラフト ドールハウス」でした。
限定されたハウス(=一冊の絵本)のなかに、一枚の〝紙〟を丸める、折る、貼るという作業を加えること(=しかけ)で物語を立体的に構築できるという点では、ある意味共通しているのではないでしょうか。

こうして先生は具体的な準備に入りました。
はじめにハウス(部屋)づくりですが、工作用の厚紙の二辺の縁を折り、折られて重なる部分の一辺に切り込みを入れ、それが壁として立ち上がるように重なった部分を貼り合わせました。
これが、ひとりひとりの物語の舞台になります。
次に、その部屋に置く道具(例えば家具や家電、じゅうたんやカーテンなどの装飾品に至る暮らしを彩るもの)として、色画用紙から切り出したさまざまな形状やサイズの素材、それから色・模様の異なる折り紙などをたくさん用意しました。また、棒状に切った発泡スチロールや紙コップなどちょっとした素材も加えました。これらを使って、思い思いのハウス(部屋)につくり上げていきます。
その際に子どもたち自身でこれらを切ったり、貼ったりできるようにハサミやのり、ボンド、セロテープなども作業机に置きました。そうそう、色付けをするための色鉛筆やサインペンも。

最後に、そのハウス(部屋)の住人である物語の主人公(ひと型)を、やはり1枚の〝紙〟から切り出しました。
ひと型はシルエットのみですから、男の子とも女の子とも言えませんし、スカート姿のひと型からアリスを模しているようにも見えますが、それも断定はしません。そのひと型に自分自身を投影しても、お友だちでも、またはまったく架空の誰かさんを想定してもよいのです。
いずれにしても、思い思いの顔や服装を描いて、自分だけの物語の主人公をつくり上げていきます。
そして、もうひとつ・・・そのひと型の裏面に先を1~2cmほど折り曲げたストローを貼り付けます。
ちょうど折り曲げた部分をひと型の裏面にセロテープなどで留め、長く伸びたストローの端を指でつまんでちょんちょんと動かせば、その揺れであやつり人形のようにひと型が動き出します。
立体感に動きも加わり、ますます物語はひろがりをみせるでしょう。
これですべての準備は整いましたので、いよいよワークショップ開始です。

より人間らしいひと型と、終わりのないハウス(部屋)づくり

最初にホールに集まったのは年中クラスの子どもたちですが、今期最後のワークショップとなります。
はじめて参加した頃はアート活動への関りに戸惑うことばかりでしたが、いまでは誰もがすっかり馴染んでいますし、それどころか毎回毎回積極的に関わっています。
絵を描くことはもちろんのこと、折る、切る、貼るなど基本的なことはお手のもの!といったところですから、一年間の成長というものがもっとも見られたのではないでしょうか。

先生は、いつものように冗談を言いながら子どもたちを和ませ、先日行われた「発表会」でのお芝居の話などをはじめました。年中クラスの演目は『不思議の国のアリス』ではありませんが、年長クラスに負けない演技力を存分に発揮した最高の舞台だったようです。
そんな話のタイミングで、先生はロバート・サブダが創作したポップアップブック(しかけ絵本)版『不思議の国のアリス』を子どもたちに見せました。
この絵本は園が所蔵するもので、1階のブックラウンジにありますが、さすがに取り扱いが難しいので職員と一緒に楽しむ絵本として保管されています。
なので、普段簡単に見ることができないせいか子どもたちは大喜びです。しかも、つい先日の「発表会」で年長クラスが演じた物語ですから、余計に興味がわいたのでしょう。

それから先生は今日のワークショップ「クラフト ドールハウス」について語り出しました。
先にも記したように、年中クラスとはいえ、さすがにもう細かく、くどくどと説明する必要はありません。
具体的な制作の手順や材料を紹介して自ら実演すると、手はじめにひと型の制作を行うように指示をしました。
子どもたちは黙々とその作業に取りかかると短時間で次々に完成させ、先生や保育士にストローを付けてもらいました。
どの子もストローを動かして、器用にひと型をあやつっています。
顔も服装もしっかり描かれたひと型は、なんだか生きた人間が人形を演じているかのようです。

先生は、全員がひと型をつくり終えるのを確認すると、仕上げにハウス(部屋)づくりの紹介とその実演を行いました。

「床に花柄のじゅうたんを敷きましょう」
「窓や扉を壁につくり、そこには明るいあお色のカーテンを付けたいなぁ」
「テーブルも、ベッドも置かないと」
「でっかいテレビだって欲しい」
子どもたちは、思いつくまま、ほんとうに自分だけのハウス(部屋)をつくっていきました。
そこに現れたハウス(部屋)は自分の理想でしょうか、それとも、そのなかで動き回るひと型の主人公にふさわしい空間なのでしょうか。
すでに子どもたちはそのハウス(部屋)のなかで、ふたつとない独自の物語を構築していました。

 

終わりの時間が近づき、先生は最後にそれぞれのハウス(部屋)をひとつの場所に集めました。
その光景は、まるで集合住宅のようです。見ているうちに、この社会に存在する実際の一軒一軒を俯瞰でのぞき見しているように思えました。
子どもたちは、友だちがつくった部屋に自分のひと型を遊びに行かせたりして、現実の日常と変わらないように笑ったり、おしゃべりしたりと楽しそうでした。

この「クラフト ドールハウス」は、完成というものがありません。ひと型を代えることでハウス(部屋)の様子も一変しますし、また逆もあります。
先生は子どもたちに、それぞれの作品を自分たちのクラスに持ち帰るように言いました。
担当の保育士が、続きを制作したいひとは、時間を見てつくり続けていいよ、と言ったので、子どもたちは先生へのあいさつを済ませると、それぞれの作品を大事に抱え、勇んでホールを出ていきました。

後日、主任保育士から聞いたのですが、その作品は年中クラスの棚に保管され、いまも自由遊びの時間に毎日続きを作っている子どももいるとのこと。果たしてどんな物語が展開しているのか、とても気になります。

さて、年長クラスの番です。今回もワークショップの進行過程は年中クラスと同じです。
でも大きく違うのは、今日このワークショップが年長クラスの子どもたちにとって最後になるということです。

先生はやはりロバート・サブダの『不思議の国のアリス』を子どもたちに見せました。
さすがに子どもたちの反応は上々で、すぐさま自分たちが「発表会」で演じた話しで盛り上がりました。

しばらくして先生は年中クラス同様にワークショップのテーマについて、その具体的な制作の手順や材料を紹介して自ら実演してみせました。
そしていつものように、年長クラスの力量に応じてハウス(部屋)自体への切り込みや装飾もより複雑なものにしてよいということを告げました。
子どもたちは、このワークショップで二年間培った経験を活かしきってやる!そんな意気込みをもっていたのか、それともいつものようにマイペースで臨んでいたのか、それは本人以外には知る由もありませんが、誰もが最後の瞬間まで真剣に、かつ最高の笑顔で完走しました。

年中クラス同様に、仕上がったハウス(部屋)をホールの一か所に集めて全員でそれぞれの作品を眺めました。
これまで幾度となく全員の作品を全員で鑑賞し、ひとりひとり自らの作品を紹介し、互いに感想を述べ合ってきました。それも、もうこれが最後です。
ワークショップ終わりに、子どもたちを代表して数人の児童から先生へ感謝の気持ちが送られました。
先生はそれに応え、子どもたちへメッセージを返しました。
「小学校へ行っても、絵を描くことを忘れないでね」
子どもたちは元気よくその言葉にうなずきました。

卒園と共に「にじいろワークショップ」からも卒業ですが、せめて先生の、この簡単だけれど普遍的な最後のメッセージはいつまでも胸に刻んでおいて欲しいと思います。

柔軟性のある柔らかな指導から信頼関係を築く、そして積極的な関りをもつこと

ワークショップを終えたばかりの松澤先生に話を聞きました。
「年長クラスの子どもたちはもちろん、年中クラスの子どもたちも舞台の上で物語を演じるという経験をした直後だったので、その感覚を忘れないうちに、文字で書かれた物語を立体的に表現(芝居)するのと同じく、自分の創作(想像)した物語を紙だけでいかに立体的に表現するか、ということにチャレンジして欲しいと思いました。
結果としても、良かったんじゃないですかね。もっともタイミングよく『不思議の国のアリス』という物語の力を借りることができたので、内容を説明する上ではそれが大いに助けになりました(笑)」
先生は半ばほっとしたようにも見えました。

ちょうどそこに園長も加わり、こんな話になりました。
「日頃、自分をアピールすることをしない子どもが、このワークショップの時間にかぎって自分を強く全面に押し出したりするんですね。きっと、この時間はそんな自分でいいんだ、っていう自分自身を肯定するなにかを感じているんじゃないのかな、と」
先生はそれについて、
「日常の指導はわりと決められた、そう誰でもできる〝レシピ〟のようなものがあるなら、どうしてもそれに頼ってすべて一律にしてしまいがちですよね。そうなると、それに合う子、合わない子というのが当然出てきます。でも私の場合は、どちらかといえば硬い方より柔軟性のある柔らかな方へ向かうので、その分、子どもたちも気を張らず、素を出しやすいのかもしれません」
そんなふうに答えました。そこで園長が、
「そうですね、私たちはどうしても決められたことに従っていくことが多いので、硬い方を選びます」
と苦笑いを浮かべて言いました。

先生はさらに、
「それは仕事上、仕方ないのかもしれません。でも、私のようにやっていると、逆に子どもたちから教えてもらうことや教科書などにはない新たな発見にも気づく、そんなことが多いです」
そう付け加えると、ふたたび話を続けました。
「習い事などによっては型にはめて指導することが必要になる場合があると思うんですね。むしろそうしなければ身に付かない、というような。
その点アート系はどうかといえば、一般的に自由度が高く、奇抜であればよい、というような風潮もありますが、〝自由〟という解釈は難しいもので、私がいくら柔軟性のある柔らかな方を選択する、と言っても、〝自由〟の意味をはき違えないように気をつけています。
また、子どもたちとの信頼関係があってこそ成り立つ〝自由〟の範囲があって、その範囲は絶対に超えないという意識を持たなければいけないと思っています。それがあるから、子どもたちもその範囲のなかで安心して、のびのびとワークショップに取り組めるんじゃないでしょうか。子どもたち自身も皮膚感覚のようなもので、その範囲内であればなにをしても許されるということがわかっていると思います」

そこで先生は少し間をおきながら、こう話しました。
「これは私見ですが、ワークショップに関わる保育士たちももっと積極的に関与して、それぞれが子どもたちと一緒に楽しんだり、はしゃいだり、一緒にアイデアをひねり出したり、現場でもっともっとおしみなく色々な面でサポートしていく、そんなふうであってもいいのかなぁ、と思います。そのなかで生まれる信頼関係って、日常のそれとはまた別なものになるかもしれません」
園長はすかさず、
「私も、本来そうあるべきかと思います。では、早速来期のワークショップからは、あらためて〝自ら参加する〟という意識をもって臨みます!」
と力強く答えました。

今期の「にじいろワークショップ」は、これですべて終了しました。
お世話になった職員のみなさん、そして松澤先生、お疲れ様でした。そして、来期もどうぞよろしくお願いいたします。

ドキュメンテーション

年長さんの今年の演劇は『不思議の国のアリス』。
そこで思い出したのが、ロバート・サブダの飛び出す絵本。
ポップアップの技法を使い、映像で見たアリスの世界の家やトランプが目の前に立体をして現れます。
紙を巧みに扱い、立体や空間までも表現してしまう紙の可能性をこれほど感じることはないでしょう。
今回ポップアップは少々幼児には難しい部分がありますので、紙の扱いや工夫に注目し、ごっこ遊びにつながるようなドールハウスを作り、自分だけの楽しいストーリーを展開させることを目指します。

written by OSAMU TAKAYANAGI

Education Design Magazineの皆さんが施設見学に来ました

2024年3月2日 土曜日投稿

ドバイに拠点を置くEducation Design Magazine(現代教育に関するオンラインB2Bプラットフォーム)の皆さんが、発達支援Kiitos羽村とあおぞら保育園の見学に来ました。
メンバーは、中東・北アフリカ地域の専門家や教育学者、建築家の方々だそうで、多岐にわたる質問をいただきました。

【一般】3/12 子どもの発達・ことば個別相談会

2024年2月7日 水曜日投稿

「ことばの遅れを指摘された」「吃音が出てきたみたい」「発音の間違いが気になる」など、お子さんのことばに係わる悩みや心配に、言語聴覚士がお子さんの様子を観察しながらお答えします。

実施日時
2024/3/12(火) 9:00~17:00 ※申込締切 3/5(月)
※相談時間は40分程度となります。
※相談にはお子さんと一緒にお越しください。
相談場所
発達支援Kiitos羽村 相談室
(羽村市五ノ神3-15-11 コスティール沖201)
相談員
中塚誠先生(言語聴覚士・発達支援Kiitos羽村アドバイザー)
言語聴覚士の養成校で常勤講師として働きながら、付属する「ことばの指導相談室」で11年間臨床を行う。現在はフリーとして保育園や幼稚園、特別支援学校を訪問し、支援者や保護者への支援や講演を行いながら自治体のことばの教室で臨床を行う。
料金
無料
社会福祉法人陽光福祉会の地域貢献事業として実施しているため、料金は一切かかりません。
申込方法
下記アドレスの申込みフォームからお申し込みください。
https://forms.gle/JzzydQXyojeJ7a2k6

【羽村市】ポットラックプロジェクト トーク&ワークショップ参加者募集!

2024年1月24日 水曜日投稿

S&Dスポーツパーク富士見子ども広場で日常を楽しむプロジェクトが始まります!
皆さんの身近にある公園を、自分の庭のようにもっと自由に使ってみませんか?
趣味や得意なこと、やってみたいことを持ち寄ると、
暮らしに合った過ごし方や新たな発見があるかもしれません。
新しく何かを始めたい人、公園を普段使っている人、
暮らす待ちにちょっと楽しい場所があるといいなと思う人など、
どなたでもご参加いただけます。
まずは一回だけでもぜひご参加ください。

1月28日(日):トーク、ワークショップ
2月10日(土):トーク、ワークショップ
2月18日(日):ワークショップ
3月2日(土):トーク
3月2日(土)、3日(日):各種イベント
※詳しい時間、内容については、添付ファイル(市公式サイト)をご覧ください
https://www.city.hamura.tokyo.jp/0000018350.html

【にじいろWS 2024-01月】自分だけの恐竜をデザインしよう

2024年1月18日 木曜日投稿

創作はいたってシンプル。でも、そのプロセスに意図があります

2024(令和6)年がはじまりました。
思い返せばこの数年、世界においても日本においても、笑うことより悲しむこと、怒ること、苦しむことの方が多くなったように思います。
それでも新しい年のはじまりは、どんなことにもめげず、夢や希望を持ち続けていきたいですね。
特に、子どもたちの笑顔が絶えることのないように。
この一年もまた、そんな気持ちで「にじいろワークショップ」に臨みますのでどうぞよろしくお願いします。

さて、2024年1月のワークショップですが、そのテーマは
「自分だけの恐竜をデザインしよう」です。

みなさんもご記憶にあるかと思いますが、昨年日本各地でにぎわったイベントの上位に〝恐竜〟関連のものが並びました。
実際、各地で開催された恐竜関連の展示会やリニューアルオープンした恐竜博物館などには連日小さなお子さまを連れた家族が押し寄せ、予想以上の盛り上がりを見せたといいます。
またアメリカ映画ですが、1993年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督作品『ジュラシック・パーク』のシリーズ6作目となる『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 』(スピルバーグは製作総指揮)が一昨年の2022年に公開されたことも恐竜人気への火付け役になったようです。
もっとも、恐竜という存在は人類の歴史より遥かむかしの2億3千万年ほど前に生息しはじめ、約6千6百年前に絶滅したといわれていますので、当然現代にその姿を見ることはできません。
それでも未だに子どもからおとなまで魅了するのですから、なんとも不思議な生き物です。

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、こうした恐竜人気に着目し、今回のワークショップのテーマに恐竜を採り上げました。
具体的な創作は、5つに分けた恐竜の部位(パーツ)を組み合わせて、自分だけの恐竜の姿を平面で構成し、それに色を付けて仕上げるという、いたってシンプルなものです。
でも、今回はその仕上がりより、完成に至るまでのプロセスに先生の意図があります。
では早速、本年初となるワークショップをはじめましょう。

5つの部位のパーツで恐竜をつくり、色付けは〝叩く〟!?

先生は、今回のワークショップについてこう話しました。
「結果(完成作品)はさておき、そこに至るまでのプロセスに意図することが二つあります。
ひとつは、恐竜を構成する5つのパーツを組み合わせながら、子どもたちそれぞれが独自のかたちをつくり上げること。
ふたつ目は、絵の具で色付けをする際に筆は使わず、塗るのではなく〝叩く〟ということで色彩を施していくという技法を習得することです」

ひとつめに示した5つのパーツとは、頭・首・胴体・足・尻尾という恐竜の姿を構成する部位のことです。
とはいえ、それぞれの部位はリアルなものではなく、フリーハンドで描かれた単純な曲線からつくられたかたちだけのものです。
なので、ひとつひとつの部位をじっくり眺めても、たとえば頭や胴体の部分などは見る向きによってはできそこないのジャガイモのようにも見えますし、手に取ると小さなバッグにも似ています。また首や足の部位などは背の高い煙突か、横長のベンチのようにも見えてきます。
ただし、各部位ごとに同一の大きさとかたちに揃えているので、どの子も同じパーツを必ず5枚使用することになります。
それらの部位(パーツ)は白色の厚紙から切り出し、パーツごとに色画用紙の上に分けて置くことにしました。
そしてその使い方ですが、あらかじめ以下の三つを提示しました。

  1. ➀どのような向きにしても、自分の思う位置に配置すればよい
  2. ②そのパーツにハサミを入れて口やキバ、またはトゲトゲを表現するなど多少の変化を加えてもよい
  3. ③基本パーツの5枚以上に、切り出した不要の厚紙などを利用してもよい

つまり、これだけのことを意識していれば、各パーツの使い方や発想次第でいく通りものかたちを表現できるということです。

ふたつめに示した色彩の方法ですが、従来絵の具は筆などを使って色を塗るという行為を基本にしてきました。でも今回は、スタンプを押すように〝叩く〟という行為で色を付けていきます。
これは乳児などでも遊べる「タンポ」というものです。
簡単にいえば、布を手ごろな四角形に切り、その真ん中に綿などを丸めて置き、それを布で包み込むようにして輪ゴムで止めたものです。
それを水分の多い絵の具に浸して、画用紙をポンポンと叩くようにしていくと色が付いていきます。
軽く叩いても、強く叩いても、またはこするだけでもさまざまな色彩の変化が得られて、まさに乳児などでも十分に楽しめるものです。

そこで今回は、子どもたちの力加減によって色彩の変化やかたちの面白さが明確に表れ、かつ使用頻度の高い丈夫なものを特別に作成しました。
まず凹凸の波がある段ボール紙を細長い長方形に切り、それをのり巻きのようにくるくると巻き込んで筒状にしたら輪ゴム止めます。仕上がりサイズとしては、子どもの手に握れるほどの大きさにします。そう、太巻き寿司のようなかたちを想像してみてください。
そして、その筒状にした頭部分の片側に、気泡緩衝材(プチプチのある梱包用ビニール)を小さく正方形に切ってかぶせます。
この部分に絵の具を付けて、対象とする画面に叩きながら色を付けていくのです。
ビニール素材は絵の具を弾くので、画面に対してその都度絵の具の乗り具合も変わりますし、その叩き方によってもさまざまな模様が浮き上がります。もちろんこすっても使えるので、表現における汎用性も高まります。

上記の二つが今回の意図するところであり、同時にワークショップを行うための準備となります。

パーツの配置を少し替えるだけでも、姿かたちが大きく変わります

今回もワークショップの進行過程は、年中・年長クラス共に同じです。
また、今回は両クラス共に、自分たちがいつも過ごしている教室内で行いました。

はじめに先生が『恐竜図鑑』を子どもたちに見せながら、恐竜についてお話をしました。
恐竜に詳しい子どもたちはページを繰るごとに「あ、テラノサウルスだ!」「トリケラトプスはないの?」「イグアノドンがいいな」などと大声で反応していました。
そんなイラスト図を見ながら、自ら恐竜の真似をする子もいました。
そうしていくつかのページを開いたあとに、先生は図鑑を閉じて子どもたちに言いました。
「今日は恐竜をつくりますが、いま見たようなものじゃない、自分だけの恐竜をつくってください!」
先生はさらに説明を続けました。
「誰も本物を見たことないし、ここに描かれた恐竜の絵だって、いろいろな人が研究したり調査したりして、
こんなだったかもなぁ、っていう想像でつくり上げたものです。
からだの色だって、本当にこうだったかなんて写真を見たわけじゃないものね。
だから、自分が思う恐竜をつくってください。むしろ図鑑にはない姿や色で、思いっきりヘンテコなものでも、かわいらしい恐竜だっていいんだよ」
先生は誰もが持っている恐竜のイメージにとらわれることなく、自由な発想で創作して欲しいということをしっかり伝えました。

 

それから先生は、子どもたちを一か所に集めて、これから行う創作の手順について説明しました。
あらかじめ用意した恐竜の5つの部位(パーツ)を一つずつ取り出して、
「これは頭、これが胴体、それから首と足・・・」
それらを床に並べながら一頭の恐竜の姿をつくって見せました。
子どもたちからは「すげえーっ」と歓声が上がりましたが、先生は自らつくった恐竜の頭の部位(パーツ)をつまみ上げると、先の位置とは逆さに置きなおしてみました。
さらに尻尾の部位(パーツ)も下向きから上向きに替え、首も斜め上から少し下向きに垂れるように並べ替えました。
先生が次々にそれぞれの部位(パーツ)の位置を動かしていくと、どんどん恐竜の姿が変化していくのがわかります。
こうして何度もそれぞれのパーツを動かしていき、最終的に自分の思う恐竜の姿が決まったら、各部位(パーツ)同士が繋がっている部分に工作用のボンドを付けて貼り合わせます。
これで、先生(自分)だけの恐竜の姿が完成しました。
子どもたちはいっせいに「おお~っ」という感嘆の声を上げました。
先生は子どもたちに、まずはここまでの創作を行うように指示しました。
子どもたちは色画用紙の上に置かれた各部位(パーツ)を取りに行き、いよいよ創作開始です。

仕上がりは平面なのに、立体のように動き出す恐竜たち

年中・年長クラス共に、それぞれ個性的な恐竜の姿をつくり上げました。

この時点でも子どもたちは自分だけの恐竜を満足気に持ち上げ、「ギャオーッ」と鳴きまねをしながら教室内を歩き回っていました。
ほぼ全員が完成したのを確認し、先生はまた子どもたちを集めて、最終仕上げである色彩についての説明を行いました。
ここでは前述のように「タンポ」の方法を教えました。

しかしどうしても絵の具は筆などで塗るという動作に慣れているせいか、なかなか〝叩く〟という動作で色彩を施していくことに戸惑いがあるようです。
特に年中クラスの子どもたちは、パーツを組み合わせた白地の恐竜にうまく色が乗らないことに不安なのか、叩くよりもこすりつけて色を伸ばしながらムラなく白地を埋めていくことに力を注ぐ子が多くいました。

年長クラスの子どもたちは、やりはじめは戸惑いをみせた子もいましたが、〝叩く〟ことに面白さを覚えていき、最終的には器用にこなしていました。
いずれにしても、両クラス共に、ひとつとして同じ姿、同じ色彩や模様を持つ恐竜はなく、それぞれ個性豊かな、それこそ自分だけの恐竜に仕上げることができました。

 

本来の流れではこれで終了ですが、実はこの後、予期せぬ子どもたちの行動に驚かされたのです。
それは年中・年長クラスそれぞれに起こったことです。
まず年中クラスの子どもたちですが、色付けまで終わり完成したと同時に、誰に言われるではなくひとり、またひとりと自分の恐竜を手にしてベランダへ飛び出して行きました。
すると、そこに置かれた草花や野菜の植わったプランターにそれぞれの恐竜の頭部を差し入れたのです。
また、床に垂れた水にやはり頭部を浸ける動作をはじめる子もいました。
何をしているの?と尋ねると、誰もがみな、「草を食べてるの!」「水を飲んでるんだよ」と答えました。
気づけば、全員がそうしてベランダに出て大さわぎです。

そのうち、教室内でも机の下に潜り込んで、友だちの恐竜とじゃれ合うなど、しばらくそんな状況が続いたのです。
また年長クラスでは、仕上がった恐竜を一か所に並べるように指示をしたのですが、恐竜をそこに置いたまま誰もがなかなかその場から離れようとしません。
そこで先生は何気なく茶色の色紙を小さくちぎって、
「○○くん、これは肉だから恐竜にあげてみたら?」
と言って渡したのですが、その子は嬉しそうにその茶色の色紙を自分の恐竜の口元に差し出して、
「おいしい!って言ってるから、もう1枚ちょうだい」と催促してきました。
先生は一瞬呆気にとられた様子でしたが、もう一枚ちぎって渡しました。
今度はそれを見ていたほかの子どもたちも、
「先生、ぼくにも」「わたしにも」と次々にそれを要求しはじめました。
そのうちに、「ぼくの恐竜は草食系だから、草がいい」と言い出し、先生は急いで緑色の色紙をやはり小さくちぎって渡すと、それにもほかの子どもたちが「わたしにちょうだい!」とまたまた催促しはじめました。

年中・年長共にこんな展開になるとは、さすがに先生も予期せぬこの出来事に驚いていました。
そればかりか、年長クラスの子どもたちは自分の恐竜に名前まで付けたのです。

最後は各教室に並べて飾るなどして、絵の具の乾くのを待つことにしました。

その後、1階にある〈ブックラウンジ〉に作品を飾りました、と担当の保育士からその写真と共に報告を受けました。こうして観ると、展示スペースを占領した恐竜たちが、今にも肉や草を求めて動き出しそうですね。

かたちは自らの意思で決める、タンポという技法、そして著名な絵本作家のおはなし

本年最初のワークショップについて、あらためて松澤先生に聞きました。
「今回の狙い(意図)は先にも話したように2点です。
まずはパーツの組み合わせですが、同じパーツを使っても個々人でどう配置していくか、どう組み合わせてい
くかでそこに表れる姿かたちがまるで違うものになるということを直接体験して欲しいということ。
動かせば動かすだけいろいろなかたちに出会える(見られる)というのは、ちょっと不思議でおもしろいでしょ。
しかも自らの意思で納得するか、しないかの選択を繰り返し、最終的なかたちを決めるのも自らの意思ですから、大変なことですがとても重要なことを学ぶことにもなります。
これってアートにおける創作活動そのものですよね、プロもアマチュアもいつだって描いては消し、消してはまた書き直す、その繰り返しで、最後は自ら決断で作品を仕上げていく。

それから、〝タンポ〟ですが、やはり絵の具を叩いて色付けをしていくのは難しい動作だったかもしれません。むしろ乳児ならば叩くことを無意識にできるのでしょうが、年中・年長ともなれば今まで塗ることで成立していた動作がからだや指先に染み込んでいますからね。これに抗うことになるので、戸惑うでしょう。
ただ、これをさらに発展させていくと、たとえば美術工芸などで用いる〝スタンピング(型押し)〟という技法にも繋がるので、この機会に塗ることばかりが正攻法ではなく、叩くということも有りだということを覚えておくことも必要かなと思って、敢えてこの技法を採り入れました」
先生はそんなふうに話すと、
「ちょっと残念だったのが、もう少しユーモアのある、本当にヘンテコな恐竜が表れるかと思ったのですが。
意外と固定観念にしばられている感じでしたね、多分この恐竜人気で、図鑑にあるようなお決まりの恐竜が露出しすぎているせいかもしれません。その辺りは難しいところです」
こんな感想ももらしましたが、それでも今回の意図するところは十分に汲み取られ、一定の成果が得られたのでは、と振り返りました。

そこで話題を変えて、年中・年長クラス共に、終わりに見せた予期せぬ出来事について聞くと、
「あれには驚きましたね、まったく考えてもみなかった行動でした。それをただ幼いとか純粋などと言ってしまえばそれまでですが、それだけ子どもたちは自分のつくり上げた恐竜に愛着を持っていたということでしょ、創作者がもっとも自分の作品を愛するというのは当然のことですからね。
それは愛玩というか、まるでペットに接するような気持ちなのかもしれませんが、そうした思いが強ければ強いほど、自分のつくり上げた世界のなかに容易に入り込むことができるのだと思います。
しかも、男児、女児関わらずほぼ全員がそうでしたから、余計に驚きましたし、感動さえしました」
先生はそう言うと、嬉しそうに目を細めました。

話しの締めに、先生はこんなことを話してくれました。
「実は今回の恐竜制作には、世界的に有名なある絵本作家の描く世界を意識していたのです。あまり声高には言えませんが、アメリカの絵本作家エリック・カールの作品世界です。
彼の作品が持つ鮮やかな色彩と、作品に登場するユーモラスな姿かたちのものって、どれもがみな魅力的で、いつまでも印象に残りますよね。
ご存知のように、彼はさまざまな色や模様のついた色紙を切り抜いて、〝コラージュ(貼り絵)〟という技法で作品をつくり上げています。そうした部分だけでも、ほんの少し意識的に採り入れることができたらすばらしいかな、って」

そんな先生の話しを聞いて、今回のワークショップはどことなく彼の描く作品世界と通底しているようにも思えてきました。さらに先生は、
「でも本当に彼の技法なり創作をベースにしてワークショップを行うとしたら、そうとうな時間と手間をかけないと実現しないでしょうね。とうてい無理なことですが、せめてその周縁でも感じとれるワークショップができたらいいでしょうね」と笑いました。
先生は折に触れ、その理想とするところ、目指すところを冗談交じりに話しますが、そうしたポジティブな志向があるからこそ、毎回濃密なワークショップが行えるのだと思います。
あらためて今回の子どもたちの作品を見なおすと、いくつかの作品のなかに、エリック・カールが描く昆虫や爬虫類の絵を想起させるものがあったような・・・まあ、それを先生に言えば、一笑に付されて終わりでしょうけど。

ドキュメンテーション

太古の昔に生きた恐竜について考えてみます。

図鑑や博物館でみる恐竜は迫力があって、こどもたちは大好きです。
しかし、その色や肌については詳しいことは解明されてはいません。
そこで、頭、手、足、首、胴体のパーツを組み合わせながら自分の恐竜を作り上げてみます。
肉食?草食?空を飛ぶ?海にいる?もちろん色も自由に楽しむこと、ヘンテコなことを考えることもアートには不可欠です。
誰とも違うオリジナルを考えます。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【にじいろWS 2023-12月】「小麦」のおはなしと小麦ねんどでつくるオーナメント

2023年12月27日 水曜日投稿

一年を締めくくる12月のワークショップは、「小麦」を知る・つくる・飾る

2023(令和5)年も年の瀬を迎えました。
今回のにじいろワークショップも本年最後となります。
この数年、一年を締めくくる12月のワークショップは、日々子どもたちの栄養バランスを考え、安全でおいしい給食づくりに取り組んでいる当園の栄養士および調理師との共同企画で、〈食〉と〈アート〉のコラボレーションを行ってきました。
昨年の12月は、画家・アルチンボルドへのオマージュとして、実際の野菜や果物を素材にした肖像画の制作を行いました。

そこで今回も〈食〉をテーマにし、誰もが知っている、そして誰もが食している「小麦」という食材にスポットを当てたワークショップとしました。

ご存知のように、小麦はパンをはじめ、うどん、ラーメン、パスタといった麺類から餃子の皮やタコ焼き、お好み焼き、またはお菓子の類など、多種多様な食品に使用されています。
それらは子どもたちも口にする大好きな食品ばかりですが、意外とその元となる「小麦」について知ることはほとんどないと思います。

今回のワークショップは、最初にそんな「小麦」についてのお話を栄養士から聞き、それからそれを使った小麦ねんどを子どもたちと一緒につくり、最後はその小麦ねんどでクリスマスなどのオーナメント(飾り・装飾品)づくりを行います。
ただし残念なことに今回は完成品を食べることはできません。
それでも当然食べることが可能な素材と実際の調理を想定した工程を踏みますので、実践的な疑似体験としても子どもたちには想い出深いワークショップになると思います。

食物アレルギーへの対応について
[小麦]によるアレルギー反応を起こすお子さまもおりますので、にじいろワークショップを実施するにあたり当園の規定に準じた安全な対応を取らせていただきました。

栄養士の「小麦」のおはなしから、小麦ねんどができるまで

まずはいつものようにワークショップのための準備です。
先生は子どもたちへの見本として、小麦粉を用いたねんどづくりをはじめました。
調理用ボールの器に小麦粉を入れ、水と油と塩を加えて手指で混ぜあわせながらなんどもこねます。
感触がモチモチになった時点で、小麦ねんどはできあがります。
あとは色付けの黒・緑・青・赤・黄色の食用色素と、ねんど板代わりに牛乳パックやトレーシングペーパーを人数分用意して完了です。

では、これよりワークショップ開始です。
今回は年中クラス・年長クラス共に、先生がまずあいさつをして、それを受けるように当園の関塚郁美栄養士が子どもたちに「小麦」のお話をしはじめます。
関塚栄養士はいく枚かの写真パネルを用意し、収穫された種子が製粉され、小麦粉として誕生し、それがその後にパンや麺、お菓子などの食材に変化するという一連の流れを順序だててていねいにわかりやすく説明しました。
子どもたちは初めて知る内容になんども写真を眺め、関塚栄養士のお話にも興味深く耳を傾けていました。

お話がひと通り終わると再び先生が子どもたちの前に立ち、いつものワークショップがはじまりました。
先生は事前に準備しておいた小麦ねんどのかたまりを、薄く伸ばして牛乳パックに貼り付けた状態のまま子どもたちの前に差し出しました。
しかし子どもたちはそれほどの反応を示しません。一見すると、いつもの工作用ねんどと変わらないからです。
でも先生がその小麦ねんどの端を指で引っ張ると、途中で切れることなく、おもちのように長く伸びていきました。それを見た子どもたちは、予想に反したものだったので「え~~~!?」と声をあげました。

先生は、これが先に関塚郁美栄養士がお話した「小麦(粉)」でつくったねんどであることを伝え、子どもたちにそれを少しずつ渡して、小麦ねんどの持つ感触を確かめてもらいました。
そのもちもち、ぷにゅぷにゅしたなんともいえない感触に、誰もが思わず笑顔になりました。

そこで先生は、
「今日のワークショップは、まずその小麦ねんどをみんなにつくってもらいます!」と言いました。

小麦ねんどをつくる工程は、年中クラス・年長クラス共に同じです。
数人のグループに分かれてテーブルに座り、そのテーブルに調理用ボールの器(※以下ボールに省略)をグループにひとつずつ置いていきます。
それからそのボール一つ一つに、小麦粉を適量入れます。
そこで先生は
「このさらさらした粉状のものが小麦粉だよ、じゃあ、それもそっと指で触ってみようか」と言いました。
子どもたちは待ってましたとばかりに、いっせいに指を差し込みました。
「ああ、さらさらだ」
「ふわふわしてる」
「気持ちいいね」
と初めて触った小麦粉の感触について、それぞれがさまざまな感想を口にしました。
「これがこの先にパンになったり、麺になったり、お菓子になるんだから不思議でしょ」
先生は笑いながらそう話しました。

 

それから先生は「いまは真っ白だから、これに色を付けます」と言いながら、保育士と手分けをしてボール1個につき1色ずつ食用色素を垂らし込みました。
「先生、これ何色?」と子どもたちから声があがりました。
そう、それだけでは全体に色が表れません。
「これから魔法の水をかけるからね、そしたら色が浮き出るよ」
先生はそう言うと、また保育士と手分けしてそれぞれのボールに水を注ぎました。
子どもたちは「ウソだ~魔法の水なんてないよ」と笑って応えました。
水は一気に注がずに、少しずつ数回に分けて加えていきます。
またサラダ油と塩もこの段階で少量加えます。

小麦粉と水がほどよくボールのなかで混ざり合ったころ
「また指で触ってごらん、今度はやわらかなおもちみたいだよ」
先生はまた感触を確かめるように言い、
「じゃあ、そのなかを今度はよーくこねて」と付け加えました。
するとどこからか、
「あれ?色が変わった!赤色だ」
「ほんとだ、こっちは黄色」
と次々に色の変化に気づいた子どもたちの声が響きわたりました。
子どもたちがこねたことで、色の変化が起こったのです。
こねればこねるほどそれぞれのボールによってさまざまな色が染み込んで広がっていきます。
先生が子どもたちの驚く声に
「だから言ったでしょ、魔法の水だって」と返しました。
子どもたちは半信半疑ながら、ひとつのボールのなかを競うようにこねました。
そのたびに色がどんどん深まり、こねればこねるほどやわらかさが増していきました。
子どもたちはそのことにただただ夢中ですが、きっと、この鮮やかな色彩と指の感触は記憶と五感に残るでしょう。

でき上った小麦ねんどは、まさにおもちのようにボールにべったりと貼りついているので、それを取り出してひとつのかたまりにまとめます。
その作業は先生と保育士、栄養士が手分けして行うことにしました。
そこで先生は次の作業に移る前に、1本1本の指に付着した小麦ねんどをすべて落としてから一度手洗いをするように言いました。
子どもたちは両手の指を何度もこすり合わせながら、付着した小麦ねんどをきれいにボールのなかに落としていきました。

と、そのとき偶発的に起こったエピソードがあったので~本稿の趣旨とは逸れますが~記しておきます。
それは、指に付いた小麦ねんどを落としているさなかのこと、年中クラスのある子がこんな歌を唄いだしたのです。
♪~おやゆび おやゆび / こちょこちょ こちょこちょ
あらって あらって / くりくりしましょ (*一部省略)
この歌のメロディは、手遊び歌の『カレーライスのうた』(作詞:ともろぎゆきお 作曲:峯陽)ですが、それを看護師が「てあらいのうた」という替え歌にして子どもたちに手を洗うことの大切さを教えたものです。

その子と一緒にいたグループの子どもたちも、示し合わせたように大きな声でこの歌を唄いだしました。
それは日常唄う場面とはまったく無関係な場所で、ほんとうに突然唄いだしたことに何事かと驚きました。
でも、そのうちその光景が微笑ましく、またとてもすばらしいことように感じてきました。
おそらくその子らにとって、そのときの動作と指から伝わる感触が瞬時にその手遊び歌を呼び起こしたのでしょう。結果、なんら意図することもなく、歌唱という行為でその状況を表現したにすぎないのです。
あることに触発された瞬間、自らの発想や想像がまったく予期せぬ世界にジャンプしていくことがあります。
特に芸術の分野ではそれが往々にしてあり、そんな瞬間を待ちわびることさえあります。
だから、そうした子どもたちの感性や表現~たとえ、その場の物事とは異なっていても~を見過ごすしたり、止めたりせず、むしろそうした行為を寛容に認めてあげることが重要ではないかと思ったのです。
そして、それがもっともできる場は、このにじいろワークショップのような気がしました。
長々と横道に逸れましたが、本稿に戻します。

オーブンで仕上げたオーナメントは、食べたくなるほど香ばしい匂いが

子どもたちが実際に手指を洗いに行っている間、先生と保育士たちででき上った小麦ねんどのかたまりを回収し、それらを小さく切り分けて子どもたちのテーブルに戻しました。
手洗いを済ませた子どもたちが順々にテーブルに戻ると、自分たちがつくり上げた小麦ねんどのかたまりが、いつしかいくつもの小さなあめ玉のようなものになってテーブルの上にあったのでびっくりしたようです。
「なんだ、これ?」
「さっきのねんどか?」
子どもたちは確認するかのように、指でつまんだり、つついたり。
なんとなくざわつきながらも全員がテーブルに戻ると、先生はいったん自分の周りに子どもたちを集めました。

先生は小さく切り分けた小麦ねんどをいくつか持って、牛乳パックでつくったねんど板の上に並べました。
「これはさっきみんながつくってくれた小麦ねんどです。みんなが使いやすいように切り分けました。
で、これを使っていまからクリスマスツリーや壁などに飾ることのできる作品づくりをします」
先生はそう言うと、小さな小麦ねんどのひとつを手のひらに乗せ、くるくると丸いかたちに整えました。
それを牛乳パックのねんど板の上にひらたくつぶして置き、また別の小麦ねんどを取り、こんども形を整えたら先に置いた小麦ねんどに貼り合わせるように置きました。
それを何度か繰り返すと、牛乳パックのねんど板の上にかわいらしい動物の顔が現われました。

そんな先生のお手本を見定めると、子どもたちは自分のテーブルに戻って、早速作品づくりにかかりました。
年中・年長に関わらず、どの子も素材は違えどねんど細工は慣れたものです。器用に丸めて、貼り合わせて、さまざまな色合いとかたちで作品をつくっていきました。

そうそう、先生はいつものように年長クラスの子どもたちには作品づくりの上でひとつだけねじり合わせる手法を教えました。
ひも状に太く長く伸ばした色の違うねんどを2本用意して、それをねじりながらクルクルと交互に絡ませて巻いていく方法です。2色の違う色が絡み合うそれは、なんとも不思議で美しいものです。
ある女の子は、でき上ったものを自分の腕にブレスレットのように巻き付けて嬉しそうに眺めていました。

「仕上げるときはなるべく薄く、たいらにしてね」
先生は完成が近づいた子どもたちに、仕上げに関しての留意点を伝えました。
仕上げた作品に厚みを持たせないのは、装飾品としての完成形を考慮したことと、最後にオーブンで焼き上げるのですが、その際に厚みのあるものは焼き時間の設定が難しく、場合によっては作品がこげてしまうこともあるからです。
先生はオーブンで焼く前にあらゆる仕上がり状態を想定して、栄養士や調理師と入念な準備を行いました。

こうして子どもたちはオリジナル・オーナメント(飾り・装飾品)の最終仕上げとして、オーブン用の天板に自分の作品を乗せていきました。
特に年長クラスの子どもたちは、自らの作品を天板に乗せるという作業にも積極的に参加しました。
天板の上に並べられた作品をみんなで囲み、いつものように自分自身の、そしてお友だちの作品を鑑賞しながら感想やら自慢やら、楽しいおしゃべりを交わしていました。

栄養士と調理師は手際よく仕上がった作品を天板の上に乗せ、目の前にあるキッチンへと運んでいきました。
しばらくして、最初にオーブンに入れた年中クラスの作品の一部が焼きあがってきました。
どうやら、焼きこげることもなく上手にでき上ったようです。
近くに鼻を寄せるとクッキーやパンが焼き上ったときの香ばしい匂いがして、ちょっとつまみ食いをしたくなるようでした。
関塚栄養士の話しでは
「オーブンの設定として基本は160~170度で10分ほどですが、いろいろ試したところ150度で15分くらいじっくり、ゆっくり焼くのがよさそうです」とのこと。

その後、担当の保育士から聞くところによれば、午後にはすべてが焼き上がり、どれもきれいに仕上がったそうです。あとは作品ひとつひとつにニスを塗って仕上げ、それを園内に飾るとのことです。

もはやアートといえる職人の〈手仕事〉を、子どもたちが疑似体験

栄養士による「小麦」のお話、そして小麦ねんどづくりからオーナメントとしての作品の創作、さらにオーブンでの仕上げと、今年を締めくくるのにふさわしい盛りだくさんの内容だったと思います。
もちろん、年中クラス・年長クラス共に子どもたちはあわただしくもよくやり遂げました。

では、最後はやはりにじいろワークショップを企画・指導する松澤先生に締めてもらいましょう。
「昨年同様に〈食〉をテーマにしましたが、敢えて言うまでもないですが〝食べもの〟は人間にとって最も重要なものであり、最も身近に存在するものだということを再認識する意味でも、こうして一年に一度でもワークショップとして採り上げることは子どもたちにとって重要かと思います。
特に〈食〉と〈アート〉のコラボレーションは魅力的な題材です。
昨年のアルチンボルドもそうですし、今回も一般的に見れば自然から生まれた単なる食物ですが、それがちょっと見方を変え、工夫を施すと、飾ったり眺めたりできる鑑賞用の美術品に変化するというのがおもしろいところです」
先生は、そうした〈食〉から〈アート〉への変化や展開がおもしろいのだと強調していました。
確かに本来ならばすべて食べられるものですから、〝食べもの〟が〝観るもの(装飾品)〟に変わる?と考えたら不思議な気持ちになります。

先生はさらにこう続けました。
「例えば、日本でいえば和菓子職人、西洋でいえばパティシエかな、それぞれに文化や嗜好は違っても目指すところはより〝おいしく〟、そしてより〝美しく〟だと思うんですね。
それで〝おいしく〟は好みにもよりますが、〝美しく〟は万国共通の認識ですから、誰の感性にも訴えることができる〈アート〉と同義ととらえたら、あきらかに和菓子も洋菓子も芸術の領域です。
しかもその両者共に、AIが先端をいくいまという時代に、未だすべて手仕事の技でつくりあげるのですからすごいじゃないですか。
そういうことでいえば、今回子どもたちが行った創作行為もすべてにおいて職人の手仕事そのものを疑似体験したようなものです。
ですから、そこから得た知識や体感が必ずひとりひとりのなかに残っているはずです。
職人はその指先に残った食物の感触やそのときの経験が、そのものを食するたびに自然によみがえってくるそうですから、子どもたちにも同様のことがあるかもしれませんね。
これからは毎日の給食もただ漠然と食べるということから、もっとその素材に思いを寄せるというか、興味を持ちながら戴くというか、気持ちの在りようが変わってくるんじゃないかな、そういう点でも〈食〉をテーマにするこの企画の意義があると思います」

そんな先生の話しに大いに納得したところで、2023(令和5)年ももうすぐ終わりを告げます。
一年間、松澤先生、保育士のみなさん、そして子どもたち、ほんとうにお疲れ様でした。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

ドキュメンテーション

written by OSAMU TAKAYANAGI