アバター画像

HP担当陽光福祉会 の紹介

ホームページの管理者です。

【にじいろWS 2024-06月】たたみ染めで飾ろう~6月の風に染め物を干してみよう~

2024年6月14日 金曜日投稿

今期初めての屋外ワークショップは、伝統ある染色体験です

最近、公共放送で染色に関する番組を観ました。
「伝統の染色技術をヴァージョンアップさせた、新たなモノづくりを紹介」します、と番組の宣伝文句に惹かれたこともあり何気なく観たのですが、これがなかなか興味深かったのです。
特に現代風の木製食器やおしゃれな照明器具に藍染(あいぞめ)を施し、モダンななかにも和風の美しさや風格を備えた商品の数々にはすっかり魅了されました。
それらはいずれも基本ベースとして伝統的な染色方法を採用していますが、若い職人たちの斬新なアイデアが随所につまった画期的なものでした。
歴史と伝統に培われた染色の世界も、こうしていまという時代にしっかり息づいているのだな、と思ったらなんだかとてもわくわくしてきました。

さて、今回のにじいろワークショップは、そんな染色がテーマです。
ご記憶にあると思いますが、昨年の6月にも「紫陽花色のテキスタイル」と題して、染色のワークショップを行いました。
その日はめずらしく梅雨の晴れ間となり、園舎と隣接する送迎用の駐車場で行うことができました。
実は今回もいつものホールで行う予定でしたが、当園の田中園長が当日朝の天気を見て、室内に準備していた材料やテーブルなどといった道具一式を保育士らと急きょ駐車場内に移し換えたのです。
おかげで、二年続けて屋外での染色を行うことができました。
この梅雨時に、よくよく“あおぞら”に恵まれた子どもたちですね。

また当初は室内での実施を考慮し、和紙に染めるということでワークショップを進めていましたが、やはりこれも昨年同様に〈さらし(晒)〉を用いることになりました。
ただし、今回は子どもたちひとりひとりにいきわたるよう、あらかじめ手ぬぐいほどの長さに切り分け、人数分の枚数を用意しました。

こうしてはじまった今期初の屋外ワークショップ。
年中クラスの子どもたちにとって染色は初体験ですから、初ものづくしです。
そして年長クラスの子どもたちは二度目の染色ですが、今回はちょっと前回と勝手がちがうので、これもまた初めての体験となることでしょう。
いずれにしても、楽しみなワークショップになりそうです。

折りたたんだ〈さらし〉の角に染料をつける、いたってシンプルですが

日本における染色の歴史は古く、縄文時代の遺跡からすでに染色された織物が発掘されているといいます。
ただ当時の染色は草花や木の皮などを摺りつけて染めるという原始的なものだったようです。
その後、奈良時代に大陸から染色技術が伝えられると染色そのものが発展していきますが、庶民の間に文化として根付くのは、さらに時代が進み江戸時代に入ってからのことだそうです。
そして明治時代にイギリスなどから化学染料が輸入されると、急速に国内に広まり、以来日本独自のさまざまな染色技術が生まれていきました。
今回はそんな染色技術のなかから、「たたみ染め」の方法を用いた染色を行います。
では「たたみ染め」とは・・・おっと、これは子どもたちと一緒に先生が教えますので後ほど。

まずはいつものように年中クラスの子どもたちからはじめましょう。
初めての屋外ワークショップに、弾む気分はかくせないようです。
園舎の出入り口あたりから、すでに子どもたちのはしゃぐ声が駐車場へと響きわたってきました。
駐車場の中央にブルーシートが敷かれ、その上には長いテーブルが並んでいます。
その端には今日のために用意された染料、絵筆、ボール型の器、古新聞紙などたくさんの材料が置かれています。
子どもたちは駐車場に入ると、いつもと違う光景に一瞬たじろいだ様子。
そこで保育士は子どもたちにブルーシートの上へ裸足で上がるように指示し、室内同様に決められたテーブルの位置にきちんと座らせました。
脱いだ靴も、まるで子どもたちに倣ったように、きちんと列をつくって並べられているのがなんともほほ笑ましく見えます。

準備ができたところで、先生は手ぬぐい状に切った一枚の〈さらし(晒)〉を手に子どもたちの前にすわりました。
それに合わせて保育士たちが子どもたちひとりひとりに先生と同じ〈さらし(晒)〉を配りました。
柔らかくて軽いこの素材の触感に、子どもたちの気持ちもどことなくほっこりといやされていくようです。
先生はまず自分の手に持った〈さらし(晒)〉をほおかぶりしたり、首に巻いたりしておどけてみせました。
子どもたちも同じようにそれを真似てはおどけ、お友だち同士互いの姿を見合って笑っていました。
それから先生はそれを布団のように下に敷いて、「おやすみ」と言うと床に寝てしまいました。
子どもたちもまたまた一斉にそれを下に敷いて「おやすみなさい!」と。

先生は、ワークショップで使う素材は必ずその感触なり、匂いなりを子どもたち自身に徹底して馴染ませます。
頭や視覚でとらえることは必要ですが、そのものの本質を知るには肌で触れる、匂いを嗅ぐと言った五感をフル活用して確かめることが何よりです。
そんなふうにして子どもたちが〈さらし(晒)〉という素材に馴染んだ頃合いを見計らい、先生は「たたみ染め」の指導に入っていきました。

最初にそれぞれが手にしている一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折り、それを順次表、裏と繰り返して、いわゆる蛇腹折りに折りたたんでいきます。
そうして出来上がった細長い形のものを、さらに表、裏と繰り返して折りたたみ、手のなかに収まるくらい小さくなるまでたたみ込み、最後は厚みのある四角形のようなかたまりにします。
なんだか四角いおもちをいくつか重ねたような、見た目も分厚いかたまりになります。
そのかたまりが崩れないよう十字に輪ゴムでかけたら出来上がりです。
ただし、この輪ゴムかけはとても重要な作業なので、こればかりは先生と保育士が受け持ちました。

ここまで仕上がったら、次は染色です。
先生は染料を溶いたボール型の器を子どもたちひとりひとりに見せながら、
「これから、この染料で色をつけていきます」
と、簡単に説明をしました。

初めての体験ですから、当然それがどんなものか、どのようにするのかはわかりません。
ひと通りそれを見せると、先生は幾重にもたたみ込んだ四角いかたまりを手に取って掲げ、
「ここに四つの角ができているの、わかるかな?」
と、四角いかたまりのひとつひとつの角を指さしながら聞きました。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」
と子どもたちも自分のそれを同じように数えながら確認しました。
先生はそこで
「この角のひとつを、まず藍色の染料につけます」
といって、ひとつの角を藍色の染料の入ったボール型の器につけました。
「そしたら、ふたつめの角を今度は黄色の染料につけます」
といって、別の角を黄色の染料が入ったボール型の器につけました。
「それから、みっつめの角を水色の染料につけます」
残った角は「赤色の染料の入ったボール型の器に・・・」と、四つの角がよっつの色に染まりました。

先生はそれからそれを古新聞の間に挟み、上から力強くぎゅっぎゅと押さえて水分を古新聞に吸わせました。
「手のアイロンだよ、しっかり何度もぎゅっと押さえてね」
と子どもたちに念を押しました。
しばらくしてそのかたまりを取り出し、止めていた輪ゴムを外して折りたたんでいた〈さらし(晒)〉をゆっくりひろげました。
そこには、想像もしていなかった規則正しく並んだ連続性のある模様が、やはり思いもしなかった色彩に染まって描きだされていました。
子どもたちの目は一斉にその〈さらし(晒)〉に注がれ、誰ともなく感嘆の声が上がりました。

四つの角を順々に別の色の染料につけるだけという、やり方はいたってシンプルですが、ここが最も重要になるので焦らず慎重にやりましょう。ここでしっかり染料を染み込ませないと、仕上がりもそれなりに。
子どもたちは先生のお手本に倣って、同じ動作を丹念に繰り返していきました。

年長クラスは割りばし1本で、鮮やかなアンモナイト模様に挑戦

年長クラスの子どもたちは、というと染色は二回目ですから、年中クラスの子どもたちよりはやや難しいたたみ(折り)方に挑戦してもらいました。
先生は先ほど手本として染色した〈さらし(晒)〉の作品を掲げて見せました。
その瞬間子どもたちからは、「ワ~きれい」とか「スゲエ―ッ」という声が飛び出しました。
「今日はこれをつくります」と先生は言い、早速のその手順の説明をはじめました。

 

一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折るところまでは年中クラスと同じですが、ここから先生は1本の割りばしを〈さらし(晒)〉の中央に立て、そのままぐっと上から突き刺すようにきつく押さえました。
そして、片方の手で下にある〈さらし(晒)〉をねじるように時計回りに回転させていくと、〈さらし(晒)〉は中央に立てられた割りばしを中心にうずを巻くようにぐるぐると巻き込まれていきます。
全体が割りばしに巻き込まれたようになったところでその動作を止めました。
先生はその手で〈さらし(晒)〉が動かないように押さえると、中心に立つ割りばしをさっと抜き取り、その形が崩れる前に急いで2本の輪ゴムを交差させながらそれにかけました。
2本の輪ゴムを交差してかけることで、自然にそのものが4分割されました。

それをじっと見ていた年長クラスの子どもたちは、ふーっとため息をもらしました。
先生は難なくやり遂げましたが、今までそんな動作はしたことがないので不安だったのでしょう。
でも、いつものように何事も経験、チャレンジあるのみ!

いやいやどうして、器用に割りばしに巻き込んでいる子がたくさんいます。
なかには、なかなかうまくいかずに何度もやり直す子、できないことにちょっとイライラする子も。
それでも最後は全員が上手にできました。

仕上げに2本の輪ゴムをかけるのは、やはり先生と保育士が行いました。
全員がそれを手にすると、先生は本題である染色のやり方を見せました。
これも、年長クラスにはそのまま染料が入ったボール型の器につけるのではなく、絵筆にたっぷりと染料をつけて直接そのものに色を染み込ませる方法をとりました。
もちろん、全体を一色で染めるのではなく、やはり自然に4分割されたそれぞれの部分に年中クラス同様に順番に別々の色を染めていきます。
染色のポイントは、とにかくたっぷり絵筆で染料を染み込ませることです。

先生は染色を済ませると、さっきと同じようにそれを古新聞の間に挟み、今度は上から足の裏で力強く踏み込んで、余分な水分を古新聞に十分吸わせました。古新聞の表面にはみるみる水が浮き出てきました。
水気がなくなるのを確認したら、それを取り出して輪ゴムをほどき、ゆっくり〈さらし(晒)〉をひろげていきました。
そこに描かれたのは、鮮やかな色彩に染まった美しいアンモナイトのようなうず巻き模様でした。
しかも、ふたつに折り込んでいたので、それをさらにひろげると同じ模様がふたつ並んで見えました。
それを見た子どもたちの反応は言うまでもありませんが、先ほど同様に感嘆の声を上げました。

子どもたちはすぐさま先生を真似て、絵筆にたっぷり染料をつけながら、手にした〈さらし(晒)〉によっつの色を染み込ませていきました。
最後はそれを古新聞の間に挟み、足の裏で力強く踏み込んでいきます。
ところが、この動作に入るとどの子もはしゃぎはじめまて、なかなか止めようとしません。不思議がっていると、どうやら足裏の感触が気持ちよかったのか、踏みつけること自体が面白かったのか、あちらこちらでうどん作りのようにドンドンと、踊るようにバタバタと大騒ぎ。子どもって、思わぬところ(動作)に惹かれるのですね。

あそび感覚の染色でも、伝統的な染めの世界観を味わうことができます

年中・年長クラス共に、でき上った〈さらし(晒)〉は駐車場の端から端に張られた紐に並べてつるし、自然の光と風で乾かしました。
染色されたたくさんの〈さらし(晒)〉が、駐車場ではためくその光景にしばし眺め入ってしまいました。
まるで美術館の屋外展示場に飾られたアート作品のように輝いて見えました。

そんな光景を一緒に眺めていた田中園長は、
「子どもたちも屋外の空気を満喫していたし、何より自分でつくった作品を自分たちの手で干して乾かしたり、それを同じ場所で、全員で鑑賞することができましたからね。ここでできてよかったです、急な引っ越しでしたが(笑)」
と機転を利かせ、室内から慌ただしく場所を屋外へと移したことに、やっとほっとしたように話しました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「そうですね、はじまりから終わり(鑑賞)まで一連の流れで体感して欲しいというのはいつも思うことで、それができたことは本当に良かったです」
そんなふうに園長の英断を称えていました。

そこで、最初から最後まで全体を忙しなくサポートしていた田中園長に今回の感想を聞いてみました。
「折り方、染め方を同じようにしても、模様も色合いもこれほど個人によって変わって表れるというのは驚きでしたね、普段の生活のなかでは、同じようなことをすれば、だいたい同じような結果に収まりますから。
それと、年中さんは明るい色彩が多かったように感じましたが、年長さんはぐっと落ち着いた色彩が多かったようにも。少し前まではいまの年中さんと同じようだったと思うんですけどね、この差ってなんだろうか、なんて思いました」
そして、最後に笑いながらこう付け加えました。
「(紐につるされて並ぶ作品を眺めながら)これらを使って、子どもたちの浴衣をつくってあげたいなぁ、という気分になりましたよ。世界にたった一枚の色彩と模様を持つ生地ですからね」

ではいつものように、先生に今回のワークショップをふり返ってもらいましょう。
「染色自体は歴史のある伝統的なものです。この世界を極めようと思うと、それは大変なことです。
でもここのところ、幼児を対象としたあそび感覚の染色を行うのをよく見ます。
やり方はさまざまですが、この利点というのは、誰がやっても作品として成り立つこと、感動も達成感も得られますからね。それから出来上がりに優劣がつかないということなどだと思います。
今日のでき上りをみても、どれもが色彩豊かで、模様もさまざまに描かれていて、ほんとうにすべてが魅力的です。
こればかりは偶然の産物なので、うまくやろうとか思ってもできないし、むしろ不器用でも無心でやった子の作品が良かったりしますからね」

さらに続けて、
「実は今回室内で行う予定でしたから、素材に和紙を使うことを想定していました。
本来、たたみ染め(折り染め)は和紙でやるものなんですね。それなら仕上がった後もほぼ乾かすだけで済みますから。でも結果的に〈さらし(晒)〉を使うことで、より伝統的な染めの世界観を味わうことができたと思います。
また今後同テーマで行うなら、例えば「草木染め」のように植物や野菜など自然素材を使って染めるといった、つまり元となる染料から自分たちの手でつくるような取り組みは面白いかなと思っています。
与えられたものから生み出すのではなく、そのさらに元から生み出すということができたら、感動も倍になるんじゃないかな、特に好奇心旺盛な子どもたちにとっては」
笑顔でそう言って締めくくりました。
好奇心旺盛といえば、先生自身も負けず劣らずかなりのものだと思うのですが(あくまで私見です)。

 

後日、子どもたちの作品を一度洗うというお話しだったので、どうなったのかを尋ねたところ、
「洗う際に色止めをした方が良いということで、いま色止め剤が届くのを待っているところです」
との返答でした。園でそこまで仕上げてから、園児一人ひとり持ち帰る予定とのことでした。
伝統のあるものは、例えこのようなあそび的なものであっても、これほどまでに手間暇がかかるのだ、と実感しました。それだけに、手にしたときの感動や喜びが大きいのですね。

ドキュメンテーション

昨年の6月は紫陽花や雨のイメージから晒しを紫陽花色に染めるワークショップを行いました。

たたみ染めは、いわゆる着物や手ぬぐいなどに用いる伝統的な板はさみ染めとははじまりが違うもののようです。
それでも和風な出来上がりになるのも面白いものです。
染料の染み込みの加減で自分の手の中からどんな美しい模様が出てくるでしょう。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【定員満了】7/24 子どもの発達・ことば個別相談会

2024年6月11日 火曜日投稿

【定員満了のため受付を終了しました】

「ことばの遅れを指摘された」「吃音が出てきたみたい」「発音の間違いが気になる」など、お子さんのことばに係わる悩みや心配に、言語聴覚士がお子さんの様子を観察しながらお答えします。

実施日時
2024/7/24(水) 9:00~17:00 ※申込締切 7/16(火)
※相談時間は40分程度となります。
※相談にはお子さんと一緒にお越しください。
相談場所
発達支援Kiitos羽村 相談室
(羽村市五ノ神3-15-11 コスティール沖201)
相談員
中塚誠先生(言語聴覚士・発達支援Kiitos羽村アドバイザー)
言語聴覚士の養成校で常勤講師として働きながら、付属する「ことばの指導相談室」で11年間臨床を行う。現在はフリーとして保育園や幼稚園、特別支援学校を訪問し、支援者や保護者への支援や講演を行いながら自治体のことばの教室で臨床を行う。
料金
無料
社会福祉法人陽光福祉会の地域貢献事業として実施しているため、料金は一切かかりません。
申込方法
下記アドレスの申込みフォームからお申し込みください。
https://forms.gle/PzHR1LbHYeBM7RP29

【にじいろWS 2024-05月】ぐるぐるドローイング

2024年5月19日 日曜日投稿

あなたが生まれて初めて描いた「線」は、どんな線でしたか?

こんな質問をされたら、あなたはどう答えますか。
「曲線、いや直線か?それともぐるぐるとうずまく円だったか・・・」
あまりにも遠い記憶のこと、ほとんどの人が「覚えてない」と回答するでしょう。
誰にしても、初めて描いた「線」なんて記憶に残らないほど幼いころのことです。
言い方を変えれば、それほど幼いころから人は「線」を描いてきたということです。

0歳~1歳児でもペンを握らせれば、そこからなにかを描き出します。
もちろんそれは画面を打ち付けるようなただの点々やなりゆきまかせの不規則な線で、お世辞にも「きれいに描けたね」などとは言い難いものでしょう。
それでも描くという行為は、どんなに幼くても自らの視覚を刺激し、指先に特別な感触を与え、明らかに身体になにかを残すものです。
その後は成長に応じて無自覚ながら丸、三角、四角といった輪郭線からジグザクや波のような連続性のある線などを描くようになり、4~5歳ともなれば意識的に視覚からとらえたものを線で描くようになります。
ちょうど当園でワークショップを体験する子どもたちがこの4~5歳ですね。

そこで今回のにじいろワークショップは、こうした「線」を描くということをテーマに、子どもたちにとっては原点回帰にも似た行為からアートとしての『ドローイング』を学びます。
傑作であろうと、愚作であろうと、ただの落がきやなぐりがきであっても、すべては一本の線からはじまるように、今回のワークショップも一本の線を描くところからはじまります。

『ドローイング(DRAWING)』とは美術用語で簡単にいえば、「線画」のことを意味します。単色の鉛筆やペンなどを用いて、線を引くように描かれた絵画などを指すときにも使われる用語です。

いろいろな筆のお話しと、自らの肌で感じた筆先の感触

まずは今回で2回目の参加となる年中クラス。
さすがに前回ほどの緊張はみられないものの、ホールに並べられたテーブル、片隅に置かれたたくさんの筆や絵の具と黄色い筆洗器、そして真白な紙の束などをチラチラ見ながら、今日はなにをするのかな、と落ち着かないようす。
早速子どもたちはそれぞれのテーブルに座りましたが、ソワソワ、きょろきょろ、やっぱりどこか不慣れなようす。
そんな子どもたちの前に、先生は筆のたくさん入った大きなケース持って座りました。

ケースのなかには、さまざまな種類の筆がぎっしり入っています。
短くて細い筆、長くて太い筆、そのまん中くらいの筆、筆先も丸いもの、やや四角いもの、柔らかそうなもの、硬そうなものなどなど。
先生はそんなたくさんの筆の中から大小さまざまなものを数本抜き出すと、
「この一番大きい筆は父ちゃん筆かな、その次の細身で小さいのは母ちゃん、そしてこれは兄ちゃん筆・・・」
そう言いながら子どもたちに1本1本種類の違う筆を見せていきました。
子どもたちは「父ちゃん筆だって~」と、先生が1本1本に名づけて掲げる筆を見て大笑いです。

「それじゃ、みんなにも筆を配ります」
そう言って、先生は保育士たちと筆を子どもたちに配りました。
全員に配り終えると、次に先生は1本の筆を取って、その筆先をおもむろに自分の顔に近づけるとサッサッと頬や鼻の頭、おでこなどをなで回しました。
子どもたちは一瞬その様にびっくりするも、すぐさまどの子も笑い転げてしまいました。
そして、子どもたちも先生の真似をして顔に筆を押し当てました。
「柔らかいなぁ、こりゃ硬い、ちょっとチクチクした、くすぐったいよ」など、子どもたちはさまざま感想を口にしました。
筆先から伝わるその感触は、筆の大きさや太さ、その種類によって変わります。
でも筆先の感触なんて、こうして自らの手や肌で触れながら感じとる以外にはわかりませんからね。

そこで先生は子どもたちにクイズを出しました。
「この筆先の毛は動物の毛からできているけど、その動物ってなーんだ?」
子どもたちは考える前に、知っている動物の名前を次々に出しました。
イヌ、ネコ、サル・・・何番目かに、「馬!」と声が上がると、なぜか確信を突いたと思ったのか多くの子どもたちが「馬!」と連呼しはじめました。
「そう、正解は馬です」その答えを聞いた瞬間、またまた子どもたちは大さわぎです。
ちなみに、タヌキ、イタチ、鹿、山羊などの毛も用途に応じて用いられます。なかでも馬の毛はたてがみ、胴毛(おなかの毛)、尻尾などほぼ全身の毛が筆先になるそうです。

何気なく使っている筆にもたくさんの種類があって、個性があって、感触もそれぞれ異なるということを自ら体感した子どもたちでした。
筆についてのお話しを聞いたら、次はその筆を使っての実践です。

ここ一番の真剣モードで、一本の線を黙々と描く子どもたち

先生はホールの端に用意した別の小さなテーブルに子どもたちを集めました。
テーブルの上には真っ白な用紙が一枚乗っています。
そして小さなパレットに絞り出されたブルーの絵の具と1本の筆。
先生はブルーの絵の具に筆を浸して、真っ白な紙の上部に一本の直線を端から端まで描きました。
そのまたすぐ下に、先に描いた線と平行になるように一本の直線を、これもまた端から端まで描きました。
さらにまたまたそのすぐ下にももう一本。
線と線の間はなるべく狭く、その間隔を保つように、ゆっくり、そしてどんどん描き足していきました。
真っ白だった用紙にみるみるブルーの直線が横に十数本並びました。
それはボーダーシャツのように、ブルーと紙の白とがきれいに並んだシマシマ模様です。
先生は黙って(集中して)線を描いていましたが、子どもたちもそれを静かに見つめていました。

「さあ、これをみんなにも描いてもらいますよ」と先生が言うと、さすがにこれは難しいぞ、という困った顔ばかり。
それでも子どもたちは各自のテーブルに戻ると、配られた真っ白な用紙にブルーの絵の具を浸した筆をしっかり握り、どの子も臆することなく一本の直線を描きはじめました。
ところがなかなか筆が進みません。
一本の直線を描くというのがこれほど大変なことは思わなかったのでしょう。
描いていくうちに線が太くなったり、細くなったり、だんだん曲がっていったり、いく本かの線が重なって色のかたまりになったり、均等に同じような直線をただただ画面に描くということに誰もが悪戦苦闘です。
先生はそんな子どもたちのテーブルを回り、筆の持ち方、扱い方を子どもたちにていねいに教えました。
筆でまっすぐな直線を何本も描くには、どうしても基本的な筆使いを学ばなければできません。特に年中クラスの子どもたちはワークショップで筆を使うのははじめてですから。
誰もが先生の言葉をしっかり受け止め、その動作を習得しようと一生懸命に取り組んでいました。

その様子を見ていた年中クラスを受け持つ柏木保育士は
「基本的な筆使いをこうして最初の段階で習うのはとても良いことですね。これからの二年間の基礎づくりのよういも思いますし、私も勉強になりました」
とにこやかな表情で話していました。

それにしても、今日はいつものにぎやかなワークショップと違い、子どもたちはここ一番の真剣モードで、一本の線を黙々と描いています。

少し横道にそれますが、今回単色をブルー(青色)にしたのにはワケがあります。
ワークショップの準備をしていた先生が、今回の色について
「ブルーという色合いは人の心を落ち着かせる効果があるんですよ。だから、動作が散漫にならず、なにごとにも心静かに臨めるということかな」
そう言いながらブルーのチューブから小さなパレットひとつひとつに絵の具を絞り出していました。
どうやら子どもたちのこの真剣モードは、そうした効果も手伝ってのことかもしれません。

そのうちに少しずつ先生が描いたお手本のように、真っ白な用紙に鮮やかなブルーの直線が何本も並ぶようになりました。
どの子もある程度一本の線を描きこめるようになったところで、先生はまた子どもたちをホールの端にある小さなテーブルに集めました。
先生はさっきと同じように筆を持つと、今度は真っ白な用紙の中央に小さな円を描きました。
最後は円を描くようです。確かにこれも一本の線からはじまります。
一本の線がゆっくり弧を描き、出発点と終点を結びます。
小さな円を描き終えると、すぐに小さな円の外側に最小限の間隔を保ちながら、次の円を描き足しました。
それからその円を包み込むように、またその外側に円を描いていきました。
こうして次々に円を描き足していき、真っ白な用紙の端のぎりぎりのところまで円を描き終えると、画面いっぱいに十数本の円がきれいに重なって表れました。

これもまた難しい課題ですが、本日のワークショップの総仕上げです。
子どもたちはそれぞれのテーブルに戻り、先ほどのような真剣なまなざしで目の前の真っ白な用紙に筆を下ろしていきました。
どの子も時間いっぱいまで、失敗を繰り返しながらも自分だけの円を何度も描き続けていました。

もはや1枚1枚が、幻想的な風景に誘う『ドローイング』の〈アート〉作品です

さて、年長クラスの子どもたちです。
はじまりは、やはり年中クラスと同様に筆の話しからです。
でも、年長クラスの子どもたちとはこんなやり取りから進みました。
先生は数本の筆を手の中に握り、目の前の子どもに好きな筆を1本選ばせました。
「当たりがでるかな?」
「当たりがあるの?」
そんなユーモラスな会話が交わされ、迷いながらも先生が握った筆の束から1本を引き抜くと、
「すごい、それは大吉だ!」
唐突にそう言われたことにきょとんとしながら
「先生、ダ・イ・キ・チって、な~に?」
これには先生も返答に窮していました。

そして筆の話しのあとは同じく実践に入りましたが、年長クラスの子どもたちは、年中クラスが最後に描いた円から描くことになりました。
ワークショップも二年目に入り、年中クラスの子どもたちと違って筆で描くことにも慣れているからです。
とはいえ、さすがに先生の描いたお手本のようにはいきません。
直線や好き勝手な線を描くならまだしも、同じ調子でいく重にも重ねて描く円となると、どの子も筆の運びに四苦八苦です。
それでも、年中クラスの子どもたちと同様に、真剣に、黙々と筆を走らせていました。

年長クラス担当の曽保育士は、前回の楽しくにぎやかな様子と一転して終始静かな雰囲気に少し戸惑いながらも、
「子どもたちが集中しているのがよくわかります。この課題は先生のお話をしっかり聞かないとできませんし、真剣に学ぶっていうのはすばらしいことです」
と全体の雰囲気を壊さないように小声で話してくれました。

しばらくすると、どの子も一本の線から生まれた円を、真っ白な用紙いっぱいにぐるぐると描くことができるようになりました。
次はいよいよ年長クラスの総仕上げです。
先生はまた子どもたちを集めてお手本をみせました。
最後の課題はふたつです。
ひとつ目は、同じ一本の線でも鋭角をもつギザギザの線です。筆1本で山、谷を繰り返しながら用紙の端から端まで描いていきます。
ふたつ目は、緩やかな波線で、これも同じく端から端まで描いていきます。
しかもこれらをひとつの画面のなかにできるだけ交互に、数多く収めていくというものです。
同じ形のギザギザや波線を何本も描いていくには一定のリズムで筆を運ぶことが大切で、これにはかなりの集中力が必要です。

時間をかけても慎重に、ちょっとの曲がりやはみだしは良しとしましょう、落ち着いて、ゆっくりと・・・どの子もそんなふうに自分に言い聞かせるように描き込んでいきました。
そして、ひとり、またひとりと最初のギザギザを描き終えました。
ほっと、ため息をもらす子も、満足そうな笑みを浮かべる子も、思うようにいかなかったのか残念そうに筆をおく子もいます。
それでも描き進んでいくうちに慣れて来たのか、ギザギザも波線も上手になり、一本の線を描く時間も短くなっていきました。

先生が当初思っていたよりどの子も早く課題をクリアしたので、さらにこんな提案をしました。
「みんな頑張って課題に合格したから(笑)、最後は三人一組で一枚の長い紙に好きな絵を線描きで描いて終わりにしましょう」
そう言うと、子どもたちは緊張の糸が解けたように、いつもの笑い顔に戻りました。
先生は障子紙を三人分(三枚分)の長さに切り分けて、それぞれのテーブルに配りました。
今度はどの子も迷うことなく、一斉に好きな絵を描きはじめました。
先生と保育士たちはその間、年中・年長クラスの今日描き上げた子どもたちの線画をホール床面の端にまとめて並べていきました。これだけの作品がひとつに集まると、ちょっとした美術館でのインスタレーションを模したようです。

最初に目に飛び込んでくるのは、あざやかな絵の具のブルーと紙の白さです。
そしてなにより、イキイキとした子どもたちの線画が躍動し、浮き立つように見えてきます。
どこまでもまっすぐに伸びていく直線の束。
ホールを吹き抜ける風にくるくると回りだす、いく重にも重なった円のうず。
そこに割って入るのがギザギザにとがった山並みと、海の真ん中でここちよく漂う波の動き。
黙って見ていると、そんな幻想的な風景の中に引き込まれそうになります。

これほどの作品に仕上がれば、もはや一枚一枚が『ドローイング』と称する範疇ですし、こうして作品がひとつにまとまれば、立派な大きな〈アート〉作品です。
最後に先生とこどもたち、そして保育士らみんなでそんな作品たちを鑑賞して終わりました。

今回で2回目の体験となった年中クラスのクラスリーダー三浦保育士は、
「同じ色と筆を使っているのに、1枚1枚の作品が個性的で、同じ作品がひとつもないのにびっくりです」
とただただ感心しきりでした。
そうです、このワークショップでは、10人の子どもがいれば10通りの作品が生まれるのです。
また年長クラスでクラスリーダーを務める松原保育士は、
「もともと絵を描くのが好きな子どもたちですが、普段はクレヨンやカラーペンなどを使っているので、こういう機会に絵の具や筆のことを知ったり、こうした基本的なことを実践できるのは子どもたちが一番望んでいることかもしれません」
作品を眺めながら、こう満足そうに話しました。

一本の「線」を描くことの大切さ、難しさ、その意味の重さを体感して欲しかった

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、今回のテーマについてこう話しました。
「ここのところにぎやかさ、楽しさを主体にしたイベント的内容が続いたので、あらためて〈描く〉ということ
にこだわってみました。
〈描く〉とはどういうことか、これはいたってシンプルな問いですが、その答えはとても難しいものです。
そこで、基本的なこととして、美術用語である『ドローイング』という言葉から一本の線を描くことをテーマにしました。
どんなに有名な絵画であっても、世界的に天才と呼ばれた芸術家であっても、すべては一本の線から描きはじめていきますからね。でもその一本の線がとても大切で、難しくもあり、重い意味をもつことになります。
なので、今回のワークショップは、そのことを教えるというより、まず自ら体感して欲しいと思いました」

はじめに筆について触れたのはなぜですか、と逆に質問をすると
「〈描く〉ということでいえば、筆は重要な道具のひとつですからね、これからあらゆる場面で必要になることでもあるので、あらためて基本的なこととして。
でもこれは知識として教えるというのではなく、筆1本にもいろいろな種類やつくりがあって、それによってどんな手触りをしているのかなど、こういう機会でもないと筆先を肌で感じることはないでしょうから。
あとは実践で使ってみて、扱い方次第で自分の思うように動かせることなどを手指に覚えさせればいい」
そんなふうに答えてくれました。それにしても筆1本の話しだけであれほど子どもたちに興味を抱かせるのですから、予想以上に記憶に刻まれたと思います。

先生はさらに続けて、
「描くという行為自体は0歳~1歳などからはじまりますが、その年齢の子が描くものは無意識に動かすからだの痕跡のようなものだと言われています。確かにそこに描かれるのは、意図的な絵画とはほど遠いものです。
そうしたことから一般的に、“視覚からものを的確にとらえることが、絵を描くことのはじまりだ”、とよくいわれますが、個人的には0歳~1,2歳児が無意識に描くからだの痕跡のような線などから、すでに描くことがはじまっているのではないかと思っています。
ただ周りが、年を追うごとにもの(カタチ)をとらえることに重きを置いていくようになります。
ですから、的確に対象物の輪郭を描いた作品はどうしても評価が高くなります。仕上がった作品を見て、少しずつ絵らしく見えていく方がその子の成長もわかりやすいですからね。
でもそういうことではなく、幼児期に見られたような、無意識にからだの動きから生じて描かれた痕跡を大切にしていくことも、本来そのもの(カタチ)が持つ線の美しさにつながるのではないでしょうか」

ここまで一気に話すと、先生は少し間をおき、
「当園の子どもたちは描くことに慣れています。それは当園が日ごろから絵を描く環境づくりにとても積極的で、かつ熱心に取り組んできた証しです。
そこでさらに子どもたちをどう指導していくかを考えたとき、もの(カタチ)をしっかりとらえて描くことも大事だけれど、敢えて自分の内なる動き、衝動というものに素直に従って一本の線を描いていくことも忘れずにいて欲しいと思います。
今回はそういう意味でも、単純な一本の線をいかに〈描く〉か、ということに終始しました。
単純な線を描くのは難しいものです。変に意図的にとらえて描くと“生きた線”にはなりません。
むしろ一本一本の線を無心に紡いで描いていく方が、いわゆる“生きた線”になるものです。
今回子どもたちが無心に描いたたくさんの線は、きっと今までのなかでもっとも個性的で、美しい線だったかもしれませんね」
そんなふうに笑顔で言いながら、今回のワークショップを締めくくりました。

ドキュメンテーション

絵を描くというと、ごくシンプルで簡単なことのように思いますが、実は結構複雑なことだと思います。
線がたくさん繋がって形や面が構成されます。
線の魅力に、描くという行為そのものに面白さを持ってくれたらと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【羽村市】はむら家族プロジェクト「家族写真撮影会」参加者募集

2024年5月9日 木曜日投稿

子育て家族をモデルに、プロのフォトグラファーによる写真撮影会を行います!
市内の思い出の場所や、家族でよく訪れる人気スポットで、一生の思い出に残る素敵な家族写真を撮影しませんか。
また、撮影だけでなく、参加者同士が情報交換等をできる交流会を予定しています。
ぜひ、応募してください!

家族写真1 家族写真2 家族写真3

参加費

無料

対象

羽村市在住で10歳までの子どもを育てているご家族

(注意) 撮影した写真は、写真展や市公式サイトへの掲載など、さまざまな市のPRに活用させていただきます。

定員

15組:家族単位での申込

(注意) 申し込み多数の場合は、過去に参加したことがない方を優先に抽選を行います。

当選者への説明会&交流会

日時 令和6年6月30日(日)午後1時30分から

会場 プリモホールゆとろぎ 地下レセプションホール

(注意) 当選者は必ず出席していただきます。

撮影会

日にち 令和6年7月21日(日)、9月7日(土)、10月20日(日)のいずれか

(注意) 撮影会の時間は、応募当選者にお知らせします。
(注意) 撮影会当日の天候によっては、延期する場合があります。
(注意) 撮影日時は当選決定後に調整しますが、ご希望に添えない場合があります。

プレゼント

  • 🎁フォトデータ
  • 🎁フォトパネル

撮影担当

📷 タマイロ寫眞店(市内写真店)

注意事項

  • ●応募は1家族につき1回とします。
  • ●当選の権利は、申し込んだ家族に限り有効です。
  • ●撮影日時は当選決定後に調整し、ご家族の代表者へ連絡します。
  • ●抽選結果に関するお問い合わせにはお答えしません。
  • ●同じ家族が重複して申し込むことはできません。

申込方法

申込みはこちら(応募フォーム)(別ウインドウで開く)

(注意) 迷惑メール対策をしている方は、必ず応募前に、s102020@city.hamura.tokyo.jpからのメールを受信できるように設定しておいてください。

(注意) 当落の結果は、申込み締め切り後2週間以内にメールをお送りします。

申込期日

令和6年6月10日(月)午後5時まで

過去に撮影した家族写真

はむらの子育て家族(令和5年度撮影)のページをご覧ください。

個人情報の取扱いについて

応募に際し、応募フォームからご提供いただいた個人情報は、本プロジェクトの受付や問合わせ、抽選の結果通知、その他本プロジェクトの業務に利用するとともに、羽村市のシティプロモーション事業で利用します。法令の規定に基づく場合を除き、ご本人の承諾なしに、それ以外の目的で個人情報を利用または第三者に提供することはありません。

企画・運営

企画部 秘書広報課 広報・シティプロモーション係
電話:042-555-1111 内線 336 339
メール:s102020@city.hamura.tokyo.jp

【東京都】ベランダ等からの子供の転落事故防止について

2024年4月26日 金曜日投稿

 子供が保護者の目の届かないところでベランダに出て、エアコン室外機などを足掛かりに手すりを乗り越え、転落する事故が発生しています。例年、自宅の窓を開ける機会が増える春先や初秋に、事故が発生する傾向があります。
 ご自宅で過ごす時間が多くなる連休中も、お子様たちが元気に安全に過ごせるよう、ベランダや窓のそばに子供の足場になるようなものが置かれていないか、子供の遊び場になっていないか、この機会に改めてご確認をお願いいたします。

【参考】
〇「子供のベランダからの転落事故に注意!」(平成30年3月・東京都生活文化局)


https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/kyougikai/h29/documents/29_leaflet_balcony.pdf

〇東京都公式動画チャンネル「東京動画」~STOP! 子供の転落事故~
子供がベランダの手すりの高さまで素早くよじのぼっていく実験映像や、転落事故を防ぐポイントを紹介しています。ぜひご覧ください!!

【にじいろWS 2024-04月】紙コップのインスタレーション

2024年4月25日 木曜日投稿

個性と感性を全開にして、きらっきらの体験をたくさんしましょう

2024(令和6)年4月、新しい一年のはじまりです。
そして「にじいろワークショップ」も、新たな年中・年長クラスを迎えて、今年度最初の一歩を踏み出しました。
はじめましての子どもたちも、今年もよろしくの子どもたちも、この一年個性と感性を全開にして、きらっきらの体験をたくさんしましょう。

さて、今年度第1回の「にじいろワークショップ」は、今回で3回目となる『紙コップのインスタレーション』です。
内容はご存知のようにいたってシンプル。
日常で誰もが手にしたことのある使い捨ての白い紙コップを数百個用意し、それを一個一個根気よくていねいに積み上げ、本来の用途とはまったく違う大きなオブジェ(物体としての作品)をつくります。
ただし、それは表層的なことで、実はこの積み上げるという単純な作業のなかにその子の持つ本質が見えてきます。
具体的に言えば、日常の生活では見せることのない言動から心情といった内面的な部分までもです。
そうした面を見る(知る)ことで、それまでにない関係性が築けることがありますし、多角的にその子をとらえることができるというのは保育指導においてもよりプラスの作用があると思います。
こう考えれば、一年のはじまりにこの紙コップを用いたワークショップを行う意味合いも、きっとおわかりいただけると思います。

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、過去二回とやや異なった内容を試みるようで、準備に取り掛かりながらこんな話をしていました。
「年中クラスの子どもたちにとっては初めての体験になるので、今までのようにまず自分たちの思う通りに紙コップを積み上げてもらいますが、年長クラスの子どもたちは2度目ということもあるので、その積み上げ方にひとつ制約をつけてみます。
そしていずれのクラスも、最後にある演出を施してみようかと考えています」

こうしてはじまったワークショップ。
果たしてどんな作品が生まれ、子どもたちはどんな体験をするのでしょうか。

インスタレーション( Installation )とは?
アートを展示する空間そのものをひとつの作品としてとらえることで、壁・床・天井まで含め、その空間に存在する全てのものが鑑賞の対象となるということを指した言葉です。

紙コップも活用の仕方で、世界にひとつだけの〈アート〉に変わります

まずは年中クラスですが、初めてのワークショップに少し緊張気味の子どもたち。
でも先生のいつもの話術でその場の空気が一瞬にして和らぎ、いつしか全員笑顔いっぱいに。

そうして先生はお話しを進めながら、高さ8~90cmほどの1本の筒状もしくは円柱に見える白いかたまりを子どもたちの前に差し出して立てました。
それを先生は指先で軽く揺らしてみせると、簡単にクネクネと曲がります。
子どもたちはへんてこなそのかたまりに見入っていました。
先生は、そのへんてこなかたまりの上部からひょいっと紙コップをひとつ取り出して見せました。
そう、そのへんてこなかたまりは、紙コップを100個、隙間なく重ねた状態にしたものでした。
その正体が紙コップの集まったものだとわかると、子どもたちは「な~んだと」と言わんばかりに大笑い。

次に先生は紙コップを数十個ずつ重ねた、やはり筒状のものをいくつもつくり、それらをランダムに床面に立てていきました。
どれもが3~40cmほどの高さの紙コップでできたものですが、床面に並べると、その光景はまるで苗木をいく本も大地に植えたように見えます。

先生は子どもたちに
「このたくさん並んだ紙コップのあいだを走ってみようか」と言い放ちます。
その言葉を受けるやいなや子どもたちは勢いよく飛び出し、ぐるぐる走り回って大はしゃぎ。

しばらくして先生は走るのを止めて、それぞれの近くに立っている紙コップの前に座るように言いました。
そして紙コップが重なってできた1本のかたまりから、紙コップをひとつずつゆっくりバラしていきました。
すると、床面が少しずつ白い紙コップで敷きつめられていきました。
「みんなもこうやって重なり合った紙コップをひとつずつもとに戻して」
先生がそう指示をすると、子どもたちもいっせいにその作業を始めました。

そのうち何人かの子どもたちがその上をごろごろと寝転んだり、その紙コップを投げたりと悪ふざけをはじめました。それを見ていた先生はすぐさま
「ダメでしょ、そんなふうに乱暴に扱わないでください、ひとつひとつ大切にできないならワークショップは終わりにします!」と注意をしました。
あわてて起き上がり、潰れた紙コップを元の形に戻す子、投げた紙コップを拾い集めてきちんと並べ直す子・・・それぞれが反省の態度を示しました。
初めてのワークショップとはいえ、もの(素材)を大切にすることは何においても基本です。
でもね、萎縮することはありません。みんなのおにいさんもおねえさんも、先生に注意を受けながら、自らものを大切にできるようになっていったのですから。

さあ、ここからが本番です、気を引き締めてやりましょう。
先生は床一面に広がった紙コップをひとつ、ふたつと拾い上げ、それらを逆さまにしながら床に置き、その上へ、またその上へと紙コップを積み重ねていきました。
「みんなもできるかな?」
先生の様子を見ていた子どもたちに問いかけました。
もちろん子どもたちはすぐにそれを真似て、目の前の紙コップを同じようにひとつずつ積み上げていきました。
あっという間に、あちらこちらにいくつもの三角山ができました。
子どもたちは紙コップが崩れないよう真剣なまなざしで、ひとつ、またひとつと積み上げる作業を繰り返していきました。

 

自分の背たけを超えても、背伸びをしながら積み上げる子、
何度やっても崩れてしまい、そのたびに悔しがる子、
ひとりで黙々と積み上げては、それを壊し、また一から積みはじめる子、
お友だちと協力し合って、どんどん高く、そして大きく広げていく子どもたち。
単純な動作のなかにも、それぞれの個性がしっかり表れます。

続いて年長クラスの子どもたちですが、2度目ということもあり、先生は紙コップについての説明などは省き、ウォーミングアップ代わりにこんな遊びから始めました。
まずはすべての紙コップを重ねて、長く一本のロープのように伸ばし、それをホールの床面の端から端へとまっすぐに置きました。
それから先生は年長クラスの子どもたちを同人数で二つのチームに分け、長く伸びたロープのような紙コップの向こうとこちらの両端へそれぞれを向かわせました。
遊びのルールは簡単です。
先生の「よーい、スタート!」の号令と共に、両端からひとりずつそのロープのように伸びた紙コップの重なりをまたぎながら中央へ進みます。
そしてそれぞれが出会ったところで、またいだまま両者でジャンケンをします。
負けた子はその場で外へ出て、勝った子はそのまま相手方に進みます。そこで、負けた方はその次に待機している子がまた中央へ向かって進みます。またまたそれぞれが出会ったところでジャンケンをします。
その繰り返しで、どちらかの端に早くたどり着いたチームが優勝です。
両者の白熱したゲームに、周囲で見守るおとなたちも拍手と声援を送りました。

ここちよいウォーミングアップが終わり、年長クラスの子どもたちもここからが本番です。
先生が先にも話していた通り、2度目ということもあり、今回はただ好きなように紙コップを積み上げるのではなく、ひとつ制約をつけることにしました。
それは、ホールを囲う真っ白な壁面に沿って、紙コップを積み上げていくというものです。
言い方を変えれば、壁面が白い大きなキャンヴァスで、そこに紙コップという素材を用いて一枚の絵を描く(つくる)というようなことです。
ひとりであっても、お友だちと協力しあってでも、ひとつの決められた場所(壁面)に紙コップを積み上げていけば、いずれはひとつに繋がり、それが最後は大きな一枚の〈アート〉作品になります。
もちろん子どもたちには事前にそのような意図は伝えませんし、その必要もないでしょう。結果に対して、子どもたちがなにかを感じてくれたら、それで今回のワークショップは十分な成果を得たことになります。

子どもたちは前回と若干違った積み上げ方法に戸惑いながらも、ホールの大きな壁面に向かって紙コップをピタッと壁に押し付けるようにひとつひとつ積み上げていきました。
意外にその作業は難しく、紙コップの一部分が崩れただけでも隣り合わせに積み上げた紙コップまで連鎖的に、例えばドミノ倒しのように一気に崩れ落ちてしまうこともしばしば起こります。
最初はそんな現象にがっかりしたり、文句を言ったりしていましたが、徐々にその壁面に予期せぬかたちが見えてくると、子どもたちそれぞれが積極的に、かつ慎重に紙コップを積み上げていきました。
使用している素材は、ごくごく普通の紙コップですが、活用の仕方で世界にたったひとつだけの〈アート〉に変わることがあるのです。おそらく子どもたちには、感覚としてそれがわかりかけていたのかもしれません。

最後は、灯りがもたらす光と影の美しいオブジェを鑑賞します

ここでもう一度、冒頭で先生が話していた「最後にある演出を施してみようか」という一言に戻りましょう。
その演出とは、ライトによる光と影でした。
ワークショップ開始前、先生は事前に何度も電灯による演出効果を試していました。
電球色、白色、それらに色付きのセロハンを取り付けたものなど、または照らす角度や位置などさまざまなライティング効果を試していました。
ホール内も外光をなるべく遮断できるようにガラス面のブラインドをすべて降ろして、部屋の灯りを消した場合、付けた場合など入念にチェックしていました。

年中・年長クラス共に子どもたちは紙コップを上手に積み上げました。
年中クラスの子どもたちは、最後に全体が見渡せ場所に集まって、ホール内にいくつもでき上った作品を鑑賞することにしました。
そこで先生は当初の計画通り、でき上った作品ひとつひとつにライトを当てていきました。
灯りに照らされて浮かび上がったものは、先ほどまで自分たちでつくり上げた紙コップのオブジェです。
でも、色とりどりの灯りと、そこから映る影の効果でまったく別のものに見えてきました。
白い紙コップが赤、青、緑、黄色に変わっていきます。そこからもたらされた影にも独特な陰影が生まれます。
そんなふうにさまざまな灯りに照らされるたび、子どもたちから歓声が上がりました。

年長クラスの子どもたちは、仕上がりが見え始めたころからライトを当て始めました。
まだ制作途中なので、当然紙コップを積み上げている子どもたちにもライトは当たります。自分たちまで白い壁面にその影が映ると、そうした灯りの効果に驚きながらも、自分自身が作品の一部になったようで少し誇らし気な、あるいは自慢気な表情になりました。
その後子どもたち自身でもライトを作品に当てたり、動かしたり、その光と影を思う存分に楽しんでいました。
子どもたちにとって、真っ白だったいつもの壁面もただの紙コップも予期せぬ色彩を帯びて、いまはもうそのものの存在さえ別のものに変わってしまったようです。
その感覚を忘れないようにしてください、それが〈アート〉です。

 

こうして年中・年長クラス共に、終わりの時間が近づくとすべての紙コップをバラバラに崩して、あらためて散乱したそれらを1本の長いロープ状のようにきれいに重ねて終了しました。

4名の新たな保育士が、新年度のワークショップに思うこと

新年度に新たなはじまりを迎えたのは、子どもたちばかりではありません。年中・年長クラス共に、新しく専任された保育士たちも同じです。そこでこの一年子どもたちと一緒にワークショップに参加する4名の保育士から、第1回に参加した感想を聞きました。
まず年中クラスでクラスリーダーを務める三浦保育士です。
「私自身は体育系なので、最初に〈アート〉と聞いて少し不安な気持ちでした。でも体験してみると、〈アート〉って頭で難しく考えることではなく、素直に目の前のものと向き合いながら全身で感じて楽しむものなんですね」
屈託のないその笑顔は、子どもたちと同じように輝いていました。

年長クラスでクラスリーダーを務める松原保育士も、ワークショップへの参加経験があります。
「今までもそうでしたが、子どもたちの別の面に気ずかされること、発見できることのある場なので、ここで感じたことや得たこと、体験したことをできるだけ普段の保育の現場にも活かせたらと思います」
やわらかな口調のなかにも、頼もしく感じる言葉でした。

新たな試みを含めて、今回のワークショップがこの一年の足がかりになったらいい

最後に松澤先生に今回のワークショップを振り返ってもらいました。
「前回もお話ししましたが、何度でも〝壊してはつくりなおす〟その作業を時間の許す限り繰り返すところにこのワークショップの意味があるんですね。
〈アート〉の現場においては、この破壊と再生の行為こそが最も重要なことで、なにかものを生み出す、つくり出すということはそこが基本になりますから。ある意味、このワークショップはそのための基礎訓練のようなものかもしれません」
先生は、このことを今回も強調していました。

 

それを踏まえて、今回過去二回と異なる試みを行っていることについて尋ねました。
まず、先生は年長クラスの子どもたちには壁面に沿って積み上げていくよう指示をしましたが。
「こうした制約をつけることで、作業は立体的なものを目指しているのに、行っているのは壁という平面での作業という一見矛盾したことに感じます。でもこれは平面構成でありながら凹凸効果も図れるという、表現上どちらの要素も活かせるので視覚的にはとてもおもしろい作品に仕上がります。
ただし、子どもたちにはこんな説明はしません。前回は自由にただ積み上げる作業をしていますから、同じような作業でもこの制約を受けることでなにか違和感を察してくれたらそれで十分」
そう答えてくれました。
続けて、最後のライトアップについては、こう話しました。
「これまで仕上がった作品はホールに差し込む自然光によって鑑賞してきましたが、今回は敢えて自然光を遮り、美術館等で実際に行うような人工的なライトによる効果を狙った演出を用いました。いわば、簡単な〈アート〉的手法です」
今回ライトに映し出された自分たちの作品を見たときの反応は、過去二回のものとは明らかに違って見えました。子どもたちにとって、これはとても有意義な体験だったことでしょう。
そして先生は、こんな言葉で締めました。
「新たに試みたことも含めて、今回のワークショップがこの一年の確かな足がかりとなってくれたらいいですね」

ドキュメンテーション

紙コップのインスタレーション
今回は紙コップ一つから始まります。
一つの小さなものでも、それが大量に集まると、大きく景色や空間を変えることが出来るのです。
紙コップが積み上がる、高くなる、しかし一瞬にして崩れる緊張感も伴います。

構築から破壊へ
破壊があるからまた新しく生まれる
そんな隠れたメッセージも内包しているインスタレーションです。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【にじいろWS 2024-02月】クラフト ドールハウス

2024年3月3日 日曜日投稿

『不思議の国のアリス』を出発点にはじまる、新たな物語を!

Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do・・・
アリスはお姉さんと土手に座りながら、なんだか退屈な気分。
するとそこに、服を着て懐中時計を手にひとりごとを言いながら
急いで走っていく白ウサギが現れます。
アリスは、とっさに白ウサギを追いかけました。
そして、白ウサギが飛び込んだ穴に、アリスも飛び込み・・・。

奇想天外なこの物語は、イギリスで出版されてから160年近く経った今でも、世界中の人々に愛されています。
原題を『Alice’s Adventures in Wonderland』―そう、邦題は『不思議の国のアリス』。
作者はイギリスの作家ルイス・キャロル(Lewis Carroll :1832-1898)/本名チャールズ・ラトウィッジ・ドドソン(Charles Lutwidge Dodgson)という数学者でもありました。
今日までに50か国以上の言語に翻訳され、本文を彩る挿絵は、初版(1865年当時)を担当したイラストレーターのジョン・テニエル(John Tenniel )をはじめ、200名以上の著名な画家が手がけています。
そのほかディズニーのアニメ映画『ふしぎの国のアリス』(1951年公開)などの映像化や舞台化などさまざまな分野に影響を与えています。

なぜ唐突にこのような話からはじめたのかと言えば、本年2月に行われた当園の「発表会」で、年長クラスの子どもたちが演じたお芝居がこの『不思議の国のアリス』だったこと。

そしてさらに、その演目を聞いた瞬間、にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生はある有名なアーチストの手がけた絵本を想い出したということで、この流れにつながるのです。
先生のいう絵本とは、〈紙の魔術師〉と言われるアメリカのロバート・サブダ(Robert Sabuda)が創作したポップアップブック(しかけ絵本)版『不思議の国のアリス』です。
彼は物語を立体的にとらえ、独創的な飛び出すしかけとして一冊の書物のなかにアリスの世界観を見事に表現しています。この書籍は、しかけ絵本を世に知らしめると共に彼の代表作ともなりました。

今期最後のにじいろワークショップのテーマ「クラフト ドールハウス」は、こうしたさまざまな重なりに触発された松澤先生がイメージをふくらませてたどり着いたものです。
それでは、『不思議の国のアリス』を出発点にはじまる、新たな物語〈ワークショップ〉をどうぞ。

しかけ絵本へと続く道のりにイメージした「クラフト ドールハウス」

先生はこの一年を振り返り、こう話します。
「『木を立てよう』『山をえがこう・山をつくろう』で行ったように、一枚の〝紙〟でも丸める、折る、などの行為を加えることで立体物になるということを子どもたちに指導してきました。
つまり〝紙〟という画材は、平面に絵を描くためだけのものではないということを体感して欲しかったということですね。
そこで、今期の締めでもう一度〝紙〟を使った集大成的なワークショップを模索していました」

そうした先生の思いと合致したのが、今回のワークショップです。
先に触れたポップアップブック(しかけ絵本)こそ〝紙〟を使った立体の造形物としては究極のかたちかもしれませんが、そこをゴールに定めるには現実問題として子どもたちにとって無理があります。
それでも、そのゴールへと続く道のりから逸れず、子どもたちが容易に取り組めるものとしてイメージしたのが「クラフト ドールハウス」でした。
限定されたハウス(=一冊の絵本)のなかに、一枚の〝紙〟を丸める、折る、貼るという作業を加えること(=しかけ)で物語を立体的に構築できるという点では、ある意味共通しているのではないでしょうか。

こうして先生は具体的な準備に入りました。
はじめにハウス(部屋)づくりですが、工作用の厚紙の二辺の縁を折り、折られて重なる部分の一辺に切り込みを入れ、それが壁として立ち上がるように重なった部分を貼り合わせました。
これが、ひとりひとりの物語の舞台になります。
次に、その部屋に置く道具(例えば家具や家電、じゅうたんやカーテンなどの装飾品に至る暮らしを彩るもの)として、色画用紙から切り出したさまざまな形状やサイズの素材、それから色・模様の異なる折り紙などをたくさん用意しました。また、棒状に切った発泡スチロールや紙コップなどちょっとした素材も加えました。これらを使って、思い思いのハウス(部屋)につくり上げていきます。
その際に子どもたち自身でこれらを切ったり、貼ったりできるようにハサミやのり、ボンド、セロテープなども作業机に置きました。そうそう、色付けをするための色鉛筆やサインペンも。

最後に、そのハウス(部屋)の住人である物語の主人公(ひと型)を、やはり1枚の〝紙〟から切り出しました。
ひと型はシルエットのみですから、男の子とも女の子とも言えませんし、スカート姿のひと型からアリスを模しているようにも見えますが、それも断定はしません。そのひと型に自分自身を投影しても、お友だちでも、またはまったく架空の誰かさんを想定してもよいのです。
いずれにしても、思い思いの顔や服装を描いて、自分だけの物語の主人公をつくり上げていきます。
そして、もうひとつ・・・そのひと型の裏面に先を1~2cmほど折り曲げたストローを貼り付けます。
ちょうど折り曲げた部分をひと型の裏面にセロテープなどで留め、長く伸びたストローの端を指でつまんでちょんちょんと動かせば、その揺れであやつり人形のようにひと型が動き出します。
立体感に動きも加わり、ますます物語はひろがりをみせるでしょう。
これですべての準備は整いましたので、いよいよワークショップ開始です。

より人間らしいひと型と、終わりのないハウス(部屋)づくり

最初にホールに集まったのは年中クラスの子どもたちですが、今期最後のワークショップとなります。
はじめて参加した頃はアート活動への関りに戸惑うことばかりでしたが、いまでは誰もがすっかり馴染んでいますし、それどころか毎回毎回積極的に関わっています。
絵を描くことはもちろんのこと、折る、切る、貼るなど基本的なことはお手のもの!といったところですから、一年間の成長というものがもっとも見られたのではないでしょうか。

先生は、いつものように冗談を言いながら子どもたちを和ませ、先日行われた「発表会」でのお芝居の話などをはじめました。年中クラスの演目は『不思議の国のアリス』ではありませんが、年長クラスに負けない演技力を存分に発揮した最高の舞台だったようです。
そんな話のタイミングで、先生はロバート・サブダが創作したポップアップブック(しかけ絵本)版『不思議の国のアリス』を子どもたちに見せました。
この絵本は園が所蔵するもので、1階のブックラウンジにありますが、さすがに取り扱いが難しいので職員と一緒に楽しむ絵本として保管されています。
なので、普段簡単に見ることができないせいか子どもたちは大喜びです。しかも、つい先日の「発表会」で年長クラスが演じた物語ですから、余計に興味がわいたのでしょう。

それから先生は今日のワークショップ「クラフト ドールハウス」について語り出しました。
先にも記したように、年中クラスとはいえ、さすがにもう細かく、くどくどと説明する必要はありません。
具体的な制作の手順や材料を紹介して自ら実演すると、手はじめにひと型の制作を行うように指示をしました。
子どもたちは黙々とその作業に取りかかると短時間で次々に完成させ、先生や保育士にストローを付けてもらいました。
どの子もストローを動かして、器用にひと型をあやつっています。
顔も服装もしっかり描かれたひと型は、なんだか生きた人間が人形を演じているかのようです。

先生は、全員がひと型をつくり終えるのを確認すると、仕上げにハウス(部屋)づくりの紹介とその実演を行いました。

「床に花柄のじゅうたんを敷きましょう」
「窓や扉を壁につくり、そこには明るいあお色のカーテンを付けたいなぁ」
「テーブルも、ベッドも置かないと」
「でっかいテレビだって欲しい」
子どもたちは、思いつくまま、ほんとうに自分だけのハウス(部屋)をつくっていきました。
そこに現れたハウス(部屋)は自分の理想でしょうか、それとも、そのなかで動き回るひと型の主人公にふさわしい空間なのでしょうか。
すでに子どもたちはそのハウス(部屋)のなかで、ふたつとない独自の物語を構築していました。

 

終わりの時間が近づき、先生は最後にそれぞれのハウス(部屋)をひとつの場所に集めました。
その光景は、まるで集合住宅のようです。見ているうちに、この社会に存在する実際の一軒一軒を俯瞰でのぞき見しているように思えました。
子どもたちは、友だちがつくった部屋に自分のひと型を遊びに行かせたりして、現実の日常と変わらないように笑ったり、おしゃべりしたりと楽しそうでした。

この「クラフト ドールハウス」は、完成というものがありません。ひと型を代えることでハウス(部屋)の様子も一変しますし、また逆もあります。
先生は子どもたちに、それぞれの作品を自分たちのクラスに持ち帰るように言いました。
担当の保育士が、続きを制作したいひとは、時間を見てつくり続けていいよ、と言ったので、子どもたちは先生へのあいさつを済ませると、それぞれの作品を大事に抱え、勇んでホールを出ていきました。

後日、主任保育士から聞いたのですが、その作品は年中クラスの棚に保管され、いまも自由遊びの時間に毎日続きを作っている子どももいるとのこと。果たしてどんな物語が展開しているのか、とても気になります。

さて、年長クラスの番です。今回もワークショップの進行過程は年中クラスと同じです。
でも大きく違うのは、今日このワークショップが年長クラスの子どもたちにとって最後になるということです。

先生はやはりロバート・サブダの『不思議の国のアリス』を子どもたちに見せました。
さすがに子どもたちの反応は上々で、すぐさま自分たちが「発表会」で演じた話しで盛り上がりました。

しばらくして先生は年中クラス同様にワークショップのテーマについて、その具体的な制作の手順や材料を紹介して自ら実演してみせました。
そしていつものように、年長クラスの力量に応じてハウス(部屋)自体への切り込みや装飾もより複雑なものにしてよいということを告げました。
子どもたちは、このワークショップで二年間培った経験を活かしきってやる!そんな意気込みをもっていたのか、それともいつものようにマイペースで臨んでいたのか、それは本人以外には知る由もありませんが、誰もが最後の瞬間まで真剣に、かつ最高の笑顔で完走しました。

年中クラス同様に、仕上がったハウス(部屋)をホールの一か所に集めて全員でそれぞれの作品を眺めました。
これまで幾度となく全員の作品を全員で鑑賞し、ひとりひとり自らの作品を紹介し、互いに感想を述べ合ってきました。それも、もうこれが最後です。
ワークショップ終わりに、子どもたちを代表して数人の児童から先生へ感謝の気持ちが送られました。
先生はそれに応え、子どもたちへメッセージを返しました。
「小学校へ行っても、絵を描くことを忘れないでね」
子どもたちは元気よくその言葉にうなずきました。

卒園と共に「にじいろワークショップ」からも卒業ですが、せめて先生の、この簡単だけれど普遍的な最後のメッセージはいつまでも胸に刻んでおいて欲しいと思います。

柔軟性のある柔らかな指導から信頼関係を築く、そして積極的な関りをもつこと

ワークショップを終えたばかりの松澤先生に話を聞きました。
「年長クラスの子どもたちはもちろん、年中クラスの子どもたちも舞台の上で物語を演じるという経験をした直後だったので、その感覚を忘れないうちに、文字で書かれた物語を立体的に表現(芝居)するのと同じく、自分の創作(想像)した物語を紙だけでいかに立体的に表現するか、ということにチャレンジして欲しいと思いました。
結果としても、良かったんじゃないですかね。もっともタイミングよく『不思議の国のアリス』という物語の力を借りることができたので、内容を説明する上ではそれが大いに助けになりました(笑)」
先生は半ばほっとしたようにも見えました。

ちょうどそこに園長も加わり、こんな話になりました。
「日頃、自分をアピールすることをしない子どもが、このワークショップの時間にかぎって自分を強く全面に押し出したりするんですね。きっと、この時間はそんな自分でいいんだ、っていう自分自身を肯定するなにかを感じているんじゃないのかな、と」
先生はそれについて、
「日常の指導はわりと決められた、そう誰でもできる〝レシピ〟のようなものがあるなら、どうしてもそれに頼ってすべて一律にしてしまいがちですよね。そうなると、それに合う子、合わない子というのが当然出てきます。でも私の場合は、どちらかといえば硬い方より柔軟性のある柔らかな方へ向かうので、その分、子どもたちも気を張らず、素を出しやすいのかもしれません」
そんなふうに答えました。そこで園長が、
「そうですね、私たちはどうしても決められたことに従っていくことが多いので、硬い方を選びます」
と苦笑いを浮かべて言いました。

先生はさらに、
「それは仕事上、仕方ないのかもしれません。でも、私のようにやっていると、逆に子どもたちから教えてもらうことや教科書などにはない新たな発見にも気づく、そんなことが多いです」
そう付け加えると、ふたたび話を続けました。
「習い事などによっては型にはめて指導することが必要になる場合があると思うんですね。むしろそうしなければ身に付かない、というような。
その点アート系はどうかといえば、一般的に自由度が高く、奇抜であればよい、というような風潮もありますが、〝自由〟という解釈は難しいもので、私がいくら柔軟性のある柔らかな方を選択する、と言っても、〝自由〟の意味をはき違えないように気をつけています。
また、子どもたちとの信頼関係があってこそ成り立つ〝自由〟の範囲があって、その範囲は絶対に超えないという意識を持たなければいけないと思っています。それがあるから、子どもたちもその範囲のなかで安心して、のびのびとワークショップに取り組めるんじゃないでしょうか。子どもたち自身も皮膚感覚のようなもので、その範囲内であればなにをしても許されるということがわかっていると思います」

そこで先生は少し間をおきながら、こう話しました。
「これは私見ですが、ワークショップに関わる保育士たちももっと積極的に関与して、それぞれが子どもたちと一緒に楽しんだり、はしゃいだり、一緒にアイデアをひねり出したり、現場でもっともっとおしみなく色々な面でサポートしていく、そんなふうであってもいいのかなぁ、と思います。そのなかで生まれる信頼関係って、日常のそれとはまた別なものになるかもしれません」
園長はすかさず、
「私も、本来そうあるべきかと思います。では、早速来期のワークショップからは、あらためて〝自ら参加する〟という意識をもって臨みます!」
と力強く答えました。

今期の「にじいろワークショップ」は、これですべて終了しました。
お世話になった職員のみなさん、そして松澤先生、お疲れ様でした。そして、来期もどうぞよろしくお願いいたします。

ドキュメンテーション

年長さんの今年の演劇は『不思議の国のアリス』。
そこで思い出したのが、ロバート・サブダの飛び出す絵本。
ポップアップの技法を使い、映像で見たアリスの世界の家やトランプが目の前に立体をして現れます。
紙を巧みに扱い、立体や空間までも表現してしまう紙の可能性をこれほど感じることはないでしょう。
今回ポップアップは少々幼児には難しい部分がありますので、紙の扱いや工夫に注目し、ごっこ遊びにつながるようなドールハウスを作り、自分だけの楽しいストーリーを展開させることを目指します。

written by OSAMU TAKAYANAGI

Education Design Magazineの皆さんが施設見学に来ました

2024年3月2日 土曜日投稿

ドバイに拠点を置くEducation Design Magazine(現代教育に関するオンラインB2Bプラットフォーム)の皆さんが、発達支援Kiitos羽村とあおぞら保育園の見学に来ました。
メンバーは、中東・北アフリカ地域の専門家や教育学者、建築家の方々だそうで、多岐にわたる質問をいただきました。