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【にじいろWS 2024-07月】色水のカーテン

2024年8月9日 金曜日投稿

カラーインクでつくる色水から、視覚のおもしろさとその感触を体感

最近ニュースや天気予報でよく耳目に触れるのが、「危険な暑さ」というアナウンス。
そうは言われてもその基準が曖昧なので、どう対処すればよいのか困りますよね。
また今年(2024年)4月から、熱中症警戒アラートの一段上の〈熱中症特別警戒アラート〉が新たに創設されました。
こうした暑さがまだまだ続くのかと思うとうんざりしますが、そんなおとなたちの日々の気持ちより、この先未来を生きる子どもたちのことを想像すれば、いま私たちおとなが成すべきことは何かと真剣に考えるときではないのでしょうか。
こんな筆者でさえ思うのですから、保護者のみなさんや園の関係者のみなさんはさぞご苦労なことかとお察しします。

さて、そんな「危険な暑さ」の続く7月、今期4回目のにじいろワークショップが行われました。
さすがに室内でのワークショップでしたが、驚いたことに自然の光も風も通り抜けていくようホールの窓を全開にして、屋内も屋外(ベランダ)もひとつの共有スペースとして使用できるようにセッティングされていました。
しかもこの空間だけは暑さを感じることなく、むしろ快適な温度が保たれていたのです。
それはもちろん当園の構造や冷房設備、保育士たちスタッフが協力してつくり上げているものですが、外部から見れば、この暑さのさなかにちょっと不思議な空間に映るはずです。

今回のワークショップはそんな特別に設営された環境を活かし、より涼し気な気分を満喫しながら色と光が放つ視覚のおもしろさ、そして柔らかでひんやりとした感触を体感できる「色水のカーテン」をつくります。
とはいえ、「色水?」そして「カーテン?」と言葉を聞いただけではどのようなモノ(作品)ができるのか、皆目見当もつかないと思います。
それはまあ、これから順を追ってじっくりご紹介します。
ところで、メインの素材となるのはカラーインクですが、実は2021年4月に「色いろあそびとクリームソーダ」というテーマで、同じくこのカラーインクを用いて〝色水あそび〟のワークショップを行っています。

ただ、このときは純粋に色水をつくり出して、視覚的な面白さに特化したものでした。
ですから今回は、いわばその進化形といえるかもしれません。

ペットボトルの透明な水がみるみる色水に変わり、さらにまた違う色水へと変化!?

2021年に行ったワークショップで〈色の三原色〉について紹介しました。
それはシアン(青緑色)、マゼンタ(赤紫色)、イエロー(黄色)の三つの色を指すということ、そしてこの三つの色を混ぜ合わせることでさまざまな色を生み出すことができるということでした。
今回もこの〈色の三原色〉を用いて、さまざまな色の「色水」をつくります。

はじめに準備したのは、空のペットボトル(500mlサイズ)に無色透明な水を入れたものを20本ほど。
それをホールの中央、ベランダとの境に並べて置きました。
それだけでも外光が差してキラキラ光って見えるので、ちょっとしたオブジェのようです。
それからカラーインクと小さな透明のプラスチックカップ数十個。
それに、仕上げに使う透明なビニールの傘袋(濡れた傘を入れておくための細長い袋)を子どもたち全員の分+予備で多めに用意しました。
なお、今回のワークショップは、内容だけでとらえたら年中・年長クラス共にほぼ同じです。
もちろん年齢と経験の差はところどころに表れますが、基本的に優劣なく、当園の子どもたちにとっては誰もが完成形まで到達できるものです。

では早速はじめましょう。
年中・年長クラス共に、先生のいつもの身振り手振りを交えたユーモアに満ちたお話しから。
子どもたちの笑い声がホールに響き渡ったところで、先生は用意したペットボトルを1本取り出し、目の前のテーブルに置きました。
次に青色のインクボトルを手にして、水の入ったペットボトルにそのインクを一滴注ぎました。
すると、その一滴のインクの青色が水のなかにゆっくり広がっていくのが見えます。
まるで生きものが水のなかで増殖していくような・・・。
子どもたちからは驚嘆の声が上がりました。
年中・年長クラス共に、こんな不思議な光景を見るのは初めてですからね。

 

先生はさらに同じインクを数滴加えました。すると、透明だったペットボトルの水がみるみる青色に染まっていきました。
「うわ~~!」「キレイ」「おもしろい」「スゲ~」
その瞬間、子どもたちからいろいろな声が飛び出しました。

そこで保育士たちは、子どもたちの座る各テーブルの上に水の入ったペットボトルを数本ずつ置いて回りました。
先生は端のテーブルから順番に、先ほどと同じように青色のインクボトルからペットボトルへ一滴ずつ注いでいきました。
そこに現れる青色インクの広がり方は、さっき見た光景と同じようですが、ペットボトルによってまったく異なる動きすることに気づきました。
それから先生は、ほかのペットボトルにも赤、黄色と次々に違う色のインクを注いで回りました。
やっぱりどれも同じように見えて、水の中に広がっていく動きがまったく違います。
どの子も、そんなペットボトルの中のインクの動きを呆然と見つめていました。
その後、すべてのペットボトルに同色のインクを数滴ずつ加えると、いつの間にかペットボトルの中身全体が青、赤、黄色に染まっていきました。
まるで魔法でも見るようなこの光景に、子どもたちはおおはしゃぎです。

先生は各テーブルに出来上がった色水のペットボトルを1本取り上げると、今度は小さな透明のプラスチックカップにその色水を移し入れました。
その色水を入れたカップを、先生は敢えて光の差すところに掲げてみせました。
ペットボトルから移した色水は、透明なカップのなかで光を浴びると、なにか違う色水に見えてきます。
ほかの色のペットボトルからもプラスチックカップに移して眺めると、それもまた違う色に見えました。

さらに先生は色の異なるペットボトルを2本取って、ひとつのカップのなかに半分ずつ別々の色水を入れました。
それをカップごと手早く揺らすと2つの色がグルグル回りながら混じり合って、それこそまったく別の色に変わりました。
「あ、みどりになった!」「こんどはむらさきだ」
と子どもたちは色の変化に次々と反応しました。
先生はそれらカップを、ベランダに沿って建てられた外壁の上部に並べて置きました。
陽射しを浴びたそれらカップの色水は、独特な美しさを放って見えました。

インクの量や色水を混ぜる配分によって、自分だけの予期せぬ色ができてくる

先生はしばらく外壁に並べたカップの色水を眺めて、
「さあ、それじゃあここまでをみんなにもやってもらうからね」
と子どもたちを促しました。
ここまでなら、年中・年長クラスの誰もが何の疑問もなくできることです。
子どもたちはそれぞれプラスチックカップを受け取ると、すぐさま同じようにペットボトルの色水をそれに移しはじめました。

そこで先生はこう言いました。
「青の色水と赤の色水を混ぜ合わせたのに、○○くんのカップの中の色と○○くんのカップの中の色は同じに見えないね?」
子どもたちは隣に座るお友だちのカップの中の色水と自分のカップの中の色水を見比べました。
「ほんとだ⁉」
「同じ色水を入れたのに?」
「半分ずついれたよ」
不思議そうにカップのなかをのぞき合いましたが、やっぱりみんな違う色です。
「それはね、もともとのペットボトルに注いだインクの量も違うし、カップに入れる2色の色水の分量によっても変わるんだよ。
青の色水をいっぱい入れたら青色が濃くなるし、赤の色水をいっぱい入れれば赤色が濃くなる」
先生はそう説明しました。
さらに「だから、誰ひとりとして同じ色はできないんだよ。
それに、同じひとが次に入れても、やっぱり違う色になっちゃう」と付け加えました。

そこで、たくさんのプラスチックカップを子どもたちに配り、先生は言いました。
「一個一個のカップに、自分の思う通り、好きなようにペットボトルの色水を入れてごらん。
カップの数だけたくさんの色水ができるから!」
子どもたちは色水が混ざり合うことで、いろいろな色ができることのおもしろさを知りました。
しかも、自分の手で自由に混ざり合わせることができるのですから、こんな楽しいあそびはありません。
テーブルの上にたくさん並んだ空のカップの中に、どんどんペットボトルの色水を移していきました。
いつの間にかどのテーブルの上にも、微妙に色の違う色水入りカップがたくさん、たくさん並びました。

ここでちょっと横道にそれますが、年長クラスの子どもたちには、ただカップに色水を移すほかに、こんなこともできるよ、という先生からのアドバイスがありました。
それは、色水を混ぜない、それでも一度に二色以上見せる方法です。
例えば、青の色水をカップに半分移して、もうひとつ別のカップに赤の色水を半分移し、その二つのカップをひとつになるように重ねます。すると、重なったカップに二の色が、混ざることなく二段に重なって見えます。
もうひと色を加えるなら、ひとつのカップに移す色水の分量を1/3ずつにして、三つのカップをひとつに重ねます。
どの色もほかの色と混ざることはなく、そのままの状態で眺めれば、2色、3色がサンドイッチのように重なって見えてくるというやり方でした。
年長クラスの子どもたちはこれにすっかり魅せられたのか、誰もがそれを真似しはじめました。

では話しを戻しましょう。
先生は、最初に見せたように、たくさんの色水の入ったカップを外壁の上部やベランダの床に並べてみよう、と言いました。
子どもたちは保育士にも手伝ってもらいながら、長くまっすぐに伸びた外壁の上部やベランダの床にきれいに並べて置きました。
太陽の光に照らされた色水入りカップが、外壁やベランダを装飾したようにキラキラと美しく整列しています。
いったい全部で何色の色水ができたのでしょうね、50色かな、100色くらいかな、いやそれ以上かも。
そうした光景を、子どもたちをはじめ、先生や保育士たちはしばらく眺めていました。

色水(液体)をつかむ、揺する、肌に押し当てる、初めての体感

ここまでは数年前に行ったワークショップの展開と同じです。
でも今回は、ここからが進化形と呼ぶにふさわしい内容に変わっています。
先生はあらかじめ用意していた透明なビニールの傘袋を取り出すと、色水のカップをひとつ手に取って、一気にその色水を傘袋の中に流し込みました。
子どもたちは、いきなり先生が何をしているのかわからずにびっくりするばかり。
先生はそんな子どもたちの目の前で、傘袋に入れた色水を揺らしたり、手でつかんだりして見せました。
傘袋の中の色水は、カップの中の色水ともまた違うように見えました。
先生は色水がこぼれ出ないように傘袋の端を持って、ぶるんぶるんと大きく揺らしました。傘袋の中の色水はその揺れに合わせて、自由に跳ねまわっているように見えます。
子どもたちの視線は、もうそれに釘付けです。

先生と保育士たちは子どもたちにその傘袋を配り、ひとりひとり順番に、子どもたちが選んだカップの色水を流し込んでいきました。
ひとつのカップの色水を入れたら、それがこぼれ出ないように傘袋の下方をひとつ結びます。そこにまた別の色水を流し込み、またそこで結びます。
これで傘袋の中はふたつの色を閉じ込めることができました。
年長クラスの子どもたちは、傘袋の中にもうひと結びして、三色の色水を流し込みました。

それから子どもたちも先生がしたように、傘袋の中の色水を手でつかんだり、つついたり、ゆっさゆっさと揺らしたり、また自分の首や手首に巻いたり、押し当てたり・・・まるで生きものと接するように色水と遊びはじめました。
カップの中の色水は眺めるだけでしたが、こんな風に色水(液体)と遊べるなんて、子どもたちにとっては不思議な、初めての体感です。

先生と保育士は一本のロープを右の柱から左の柱に渡し、そこに子どもたちがつくった傘袋の色水を吊るしてみました。
自然の風に揺れながら、太陽の光に輝くたくさんの傘袋の色水が、まるで〈カーテン〉のように吊り下がって見えました。
こんな猛暑のさなか、そこだけ涼やかな風が吹き抜けていくようで、思わず季節を忘れてしまいそうでした。

自然の風や光を感じながら、〝遊び〟のなかで自ら何かを得ていくことが大事

最終的にでき上がった子どもたちの作品は、当園の入り口から玄関までの通路の上に飾り付けることになり、先生と保育士が取り付け作業を行いました。
ここが一番、保護者のみなさんが送り迎えに我が子の作品を鑑賞していただける場所ではないでしょうか。

そこで、ふと気づいたのですが、毎回のことながらこうした作品の展示はもとより、スムーズにワークショップが行われるように準備やその手配に尽力してくれる中村主任保育士の存在を忘れがちなので、これを機に少しお話しを聞きました。

当初は当ワークショップの専任の保育士かと思っていましたが、日常の担当業務をこなしたうえでのサポート業務ということですから改めてそのご苦労を知りました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生との連絡役であることから、こうした準備段階からサポートをするようになったとのことです。
松澤先生いわく、「思いつきで言ってしまうようなことも、まじめに何度も聞き返し、何度も確認してくれるので、いまではすっかり頼れる存在ですよ」とのこと。
「準備に関しては、細かな説明を求めて連絡を取り合います。園のストックもありますが、新たなモノなどはその準備に時間がかかって大変なこともありますが、新しいモノを知ることでもあって、いまではそんな作業も楽しんでやっています。また松澤先生は身近な素材を使うことが多く、お金をかければいいという考えではないので園としても助かります」
中村主任保育士は、笑いながらそう話してくれました。
それでも本人は、アートという分野は昔から苦手意識があって、それは今も変わらないので、と言います。
「でもワークショップを通じて、視点を少し変えるだけでこんなに物事の見方や感じ方が変わるんだ、というようなことに気づかされることが多くあります。そんなとき、これに携わってきて良かったな、と思います」
そう言うと、あと片付けの作業に急いで戻っていきました。
目には見えない、まさに縁の下の仕事ばかりですが、ワークショップが円滑に、そして何よりも安全で楽しく行われるよう、これからもサポートをよろしくお願いします!

最後は松澤先生に締めていただきましょう。
「内容から言えば年中・年長という年齢差はもちろん、器用、不器用というような優劣もつかず、誰でも参加でき、どの子も一定の成果が得られるというものですから、遊び感覚で楽しめるワークショップだったと思います」と、まずは端的に語ってくれました。
さらに続けて、
「具体的な効果ということで言えば、ペットボトルから小さなカップに液体(色水)をこぼすことなく上手に移す、その動作を繰り返す、ということで手先の感覚が磨かれます。
それから、移す分量によって色が変化するということを覚える、そこで〝さじ加減〟を自分の意思でコントロールできるということを体感する、ということですね」
先生は日ごろから、子どもたちに〝学ばせる〟のではなく、〝遊び〟のなかで自ら体感したことを、自らの五感の中に残す、つまり自ら何かを得ていくということが幼児期には大事なことではないか、と話しています。

また先生は、
「ビニールの上からですが、液体(色水)を触ってみて、子どもたち自身がその感想として、もちもちしてる、ふにゃふにゃするなぁ、やわらかくて気持ちいい、って言ってたでしょ。そういう言葉は自然にその行為から誘発されて出てきたと思うんですね、誰かに強要された言葉ではなく。
ペットボトルやカップの中の液体(色水)だけをただ眺めていても、そんな感想は出てきませんからね」
とやや語気を強めて言いました。
「少なくとも今回のワークショップで、普通はペットボトルやカップにあるだけの液体(色水)でも、それをつかんだり、なでたり、つまんだりという感触を得ることができるんだ、ということを知ったことは大きいんじゃないかな、しかも傘袋1枚あればいいって」
先生は笑いながらそう話し、
「それと、今回のような解放感ある環境をつくってあげることも重要なことです。外からの風も、光も、要は自然をそのまま感じながらワークショップを行えるということは子どもたちにとって一番の体感です。
特に今回のようなテーマは、屋内で黙々と制作していても刺激的なものは受けませんからね。ただこの連日の猛暑日のなかでは完全に屋外で行うというのも・・・と思案していたところ、園のみなさんの協力でこうした環境を整えてくれたことに感謝ですね」
こんな言葉を残して、終わりました。

ドキュメンテーション

三原色の色水を混色して美しい色水をつくるのは、子どもたちが夢中になる遊びです。
瞬時に鮮やかな色になるさまは、まさに魔法のようです。
大量につくった色水をカップのまま飾ることは以前にもやって来ましたが、今回はつくった色を飾ってみます。
夏の光を透過した色の美しさを感じたり、さわったりして、視覚的にも触覚的にも楽しんでみたいと思います。

  • 🎨インク(シアン(青緑色)・マゼンタ(赤紫色)・イエロー(黄色)のプリント詰め替えインク
  • 🎨プラカップ 90ml 400個程度
  • 🎨空きペットボトル 500ml 15~20本
  • 🎨傘袋 (ポリ 厚め 透明なもの)
  • 🎨ごぼう袋など長い野菜を入れる袋 透明なもの
  • 🎨すずらんテープ 養生テープ

written by OSAMU TAKAYANAGI

【東京都】子供の交通事故防止対策について

2024年7月23日 火曜日投稿

東京都福祉局 子供・子育て支援部 保育支援課長

子供の交通事故防止対策について

 日頃より、東京都の保育行政の推進に御協力 いただきありがとうございます 。
 標記の件について、 警視庁より、夏休み期間中の子供の重大交通事故の発生抑制に向け、下記のことについて子供に対して指導いただくよう依頼がありました。

  • ●車道への飛び出しや、駐車車両の前後からの横断は絶対にしない。
  • ●青信号であっても、左右の安全を確認して、車が止まってから横断する。
  • ●車は歩いている自分に気がついていないかもしれないという危機感をもつ。
  • ●横断禁止場所横断や斜め横断は絶対にせず、横断歩道や歩道橋を利用する。
  • ●トラックなど大きい車両が右左折してくる時は、車両に絶対近づかない。
  • ●自転車利用時は、ヘルメットを必ずかぶり、一時停止標識等の交通ルールを守る。
  • ●キックスケーターやローラーブレードなどの遊具を道路で使用しない。

 つきましては、別添の交通安全情報等(子供用・保護者用)をご活用いただき、 貴職管内の保育所等への 周知をお願いいたします。

【担当】
東京都福祉局 子供・子育て支援部
保育支援課保育計画担当

【にじいろWS 2024-06月】たたみ染めで飾ろう~6月の風に染め物を干してみよう~

2024年6月14日 金曜日投稿

今期初めての屋外ワークショップは、伝統ある染色体験です

最近、公共放送で染色に関する番組を観ました。
「伝統の染色技術をヴァージョンアップさせた、新たなモノづくりを紹介」します、と番組の宣伝文句に惹かれたこともあり何気なく観たのですが、これがなかなか興味深かったのです。
特に現代風の木製食器やおしゃれな照明器具に藍染(あいぞめ)を施し、モダンななかにも和風の美しさや風格を備えた商品の数々にはすっかり魅了されました。
それらはいずれも基本ベースとして伝統的な染色方法を採用していますが、若い職人たちの斬新なアイデアが随所につまった画期的なものでした。
歴史と伝統に培われた染色の世界も、こうしていまという時代にしっかり息づいているのだな、と思ったらなんだかとてもわくわくしてきました。

さて、今回のにじいろワークショップは、そんな染色がテーマです。
ご記憶にあると思いますが、昨年の6月にも「紫陽花色のテキスタイル」と題して、染色のワークショップを行いました。
その日はめずらしく梅雨の晴れ間となり、園舎と隣接する送迎用の駐車場で行うことができました。
実は今回もいつものホールで行う予定でしたが、当園の田中園長が当日朝の天気を見て、室内に準備していた材料やテーブルなどといった道具一式を保育士らと急きょ駐車場内に移し換えたのです。
おかげで、二年続けて屋外での染色を行うことができました。
この梅雨時に、よくよく“あおぞら”に恵まれた子どもたちですね。

また当初は室内での実施を考慮し、和紙に染めるということでワークショップを進めていましたが、やはりこれも昨年同様に〈さらし(晒)〉を用いることになりました。
ただし、今回は子どもたちひとりひとりにいきわたるよう、あらかじめ手ぬぐいほどの長さに切り分け、人数分の枚数を用意しました。

こうしてはじまった今期初の屋外ワークショップ。
年中クラスの子どもたちにとって染色は初体験ですから、初ものづくしです。
そして年長クラスの子どもたちは二度目の染色ですが、今回はちょっと前回と勝手がちがうので、これもまた初めての体験となることでしょう。
いずれにしても、楽しみなワークショップになりそうです。

折りたたんだ〈さらし〉の角に染料をつける、いたってシンプルですが

日本における染色の歴史は古く、縄文時代の遺跡からすでに染色された織物が発掘されているといいます。
ただ当時の染色は草花や木の皮などを摺りつけて染めるという原始的なものだったようです。
その後、奈良時代に大陸から染色技術が伝えられると染色そのものが発展していきますが、庶民の間に文化として根付くのは、さらに時代が進み江戸時代に入ってからのことだそうです。
そして明治時代にイギリスなどから化学染料が輸入されると、急速に国内に広まり、以来日本独自のさまざまな染色技術が生まれていきました。
今回はそんな染色技術のなかから、「たたみ染め」の方法を用いた染色を行います。
では「たたみ染め」とは・・・おっと、これは子どもたちと一緒に先生が教えますので後ほど。

まずはいつものように年中クラスの子どもたちからはじめましょう。
初めての屋外ワークショップに、弾む気分はかくせないようです。
園舎の出入り口あたりから、すでに子どもたちのはしゃぐ声が駐車場へと響きわたってきました。
駐車場の中央にブルーシートが敷かれ、その上には長いテーブルが並んでいます。
その端には今日のために用意された染料、絵筆、ボール型の器、古新聞紙などたくさんの材料が置かれています。
子どもたちは駐車場に入ると、いつもと違う光景に一瞬たじろいだ様子。
そこで保育士は子どもたちにブルーシートの上へ裸足で上がるように指示し、室内同様に決められたテーブルの位置にきちんと座らせました。
脱いだ靴も、まるで子どもたちに倣ったように、きちんと列をつくって並べられているのがなんともほほ笑ましく見えます。

準備ができたところで、先生は手ぬぐい状に切った一枚の〈さらし(晒)〉を手に子どもたちの前にすわりました。
それに合わせて保育士たちが子どもたちひとりひとりに先生と同じ〈さらし(晒)〉を配りました。
柔らかくて軽いこの素材の触感に、子どもたちの気持ちもどことなくほっこりといやされていくようです。
先生はまず自分の手に持った〈さらし(晒)〉をほおかぶりしたり、首に巻いたりしておどけてみせました。
子どもたちも同じようにそれを真似てはおどけ、お友だち同士互いの姿を見合って笑っていました。
それから先生はそれを布団のように下に敷いて、「おやすみ」と言うと床に寝てしまいました。
子どもたちもまたまた一斉にそれを下に敷いて「おやすみなさい!」と。

先生は、ワークショップで使う素材は必ずその感触なり、匂いなりを子どもたち自身に徹底して馴染ませます。
頭や視覚でとらえることは必要ですが、そのものの本質を知るには肌で触れる、匂いを嗅ぐと言った五感をフル活用して確かめることが何よりです。
そんなふうにして子どもたちが〈さらし(晒)〉という素材に馴染んだ頃合いを見計らい、先生は「たたみ染め」の指導に入っていきました。

最初にそれぞれが手にしている一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折り、それを順次表、裏と繰り返して、いわゆる蛇腹折りに折りたたんでいきます。
そうして出来上がった細長い形のものを、さらに表、裏と繰り返して折りたたみ、手のなかに収まるくらい小さくなるまでたたみ込み、最後は厚みのある四角形のようなかたまりにします。
なんだか四角いおもちをいくつか重ねたような、見た目も分厚いかたまりになります。
そのかたまりが崩れないよう十字に輪ゴムでかけたら出来上がりです。
ただし、この輪ゴムかけはとても重要な作業なので、こればかりは先生と保育士が受け持ちました。

ここまで仕上がったら、次は染色です。
先生は染料を溶いたボール型の器を子どもたちひとりひとりに見せながら、
「これから、この染料で色をつけていきます」
と、簡単に説明をしました。

初めての体験ですから、当然それがどんなものか、どのようにするのかはわかりません。
ひと通りそれを見せると、先生は幾重にもたたみ込んだ四角いかたまりを手に取って掲げ、
「ここに四つの角ができているの、わかるかな?」
と、四角いかたまりのひとつひとつの角を指さしながら聞きました。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」
と子どもたちも自分のそれを同じように数えながら確認しました。
先生はそこで
「この角のひとつを、まず藍色の染料につけます」
といって、ひとつの角を藍色の染料の入ったボール型の器につけました。
「そしたら、ふたつめの角を今度は黄色の染料につけます」
といって、別の角を黄色の染料が入ったボール型の器につけました。
「それから、みっつめの角を水色の染料につけます」
残った角は「赤色の染料の入ったボール型の器に・・・」と、四つの角がよっつの色に染まりました。

先生はそれからそれを古新聞の間に挟み、上から力強くぎゅっぎゅと押さえて水分を古新聞に吸わせました。
「手のアイロンだよ、しっかり何度もぎゅっと押さえてね」
と子どもたちに念を押しました。
しばらくしてそのかたまりを取り出し、止めていた輪ゴムを外して折りたたんでいた〈さらし(晒)〉をゆっくりひろげました。
そこには、想像もしていなかった規則正しく並んだ連続性のある模様が、やはり思いもしなかった色彩に染まって描きだされていました。
子どもたちの目は一斉にその〈さらし(晒)〉に注がれ、誰ともなく感嘆の声が上がりました。

四つの角を順々に別の色の染料につけるだけという、やり方はいたってシンプルですが、ここが最も重要になるので焦らず慎重にやりましょう。ここでしっかり染料を染み込ませないと、仕上がりもそれなりに。
子どもたちは先生のお手本に倣って、同じ動作を丹念に繰り返していきました。

年長クラスは割りばし1本で、鮮やかなアンモナイト模様に挑戦

年長クラスの子どもたちは、というと染色は二回目ですから、年中クラスの子どもたちよりはやや難しいたたみ(折り)方に挑戦してもらいました。
先生は先ほど手本として染色した〈さらし(晒)〉の作品を掲げて見せました。
その瞬間子どもたちからは、「ワ~きれい」とか「スゲエ―ッ」という声が飛び出しました。
「今日はこれをつくります」と先生は言い、早速のその手順の説明をはじめました。

 

一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折るところまでは年中クラスと同じですが、ここから先生は1本の割りばしを〈さらし(晒)〉の中央に立て、そのままぐっと上から突き刺すようにきつく押さえました。
そして、片方の手で下にある〈さらし(晒)〉をねじるように時計回りに回転させていくと、〈さらし(晒)〉は中央に立てられた割りばしを中心にうずを巻くようにぐるぐると巻き込まれていきます。
全体が割りばしに巻き込まれたようになったところでその動作を止めました。
先生はその手で〈さらし(晒)〉が動かないように押さえると、中心に立つ割りばしをさっと抜き取り、その形が崩れる前に急いで2本の輪ゴムを交差させながらそれにかけました。
2本の輪ゴムを交差してかけることで、自然にそのものが4分割されました。

それをじっと見ていた年長クラスの子どもたちは、ふーっとため息をもらしました。
先生は難なくやり遂げましたが、今までそんな動作はしたことがないので不安だったのでしょう。
でも、いつものように何事も経験、チャレンジあるのみ!

いやいやどうして、器用に割りばしに巻き込んでいる子がたくさんいます。
なかには、なかなかうまくいかずに何度もやり直す子、できないことにちょっとイライラする子も。
それでも最後は全員が上手にできました。

仕上げに2本の輪ゴムをかけるのは、やはり先生と保育士が行いました。
全員がそれを手にすると、先生は本題である染色のやり方を見せました。
これも、年長クラスにはそのまま染料が入ったボール型の器につけるのではなく、絵筆にたっぷりと染料をつけて直接そのものに色を染み込ませる方法をとりました。
もちろん、全体を一色で染めるのではなく、やはり自然に4分割されたそれぞれの部分に年中クラス同様に順番に別々の色を染めていきます。
染色のポイントは、とにかくたっぷり絵筆で染料を染み込ませることです。

先生は染色を済ませると、さっきと同じようにそれを古新聞の間に挟み、今度は上から足の裏で力強く踏み込んで、余分な水分を古新聞に十分吸わせました。古新聞の表面にはみるみる水が浮き出てきました。
水気がなくなるのを確認したら、それを取り出して輪ゴムをほどき、ゆっくり〈さらし(晒)〉をひろげていきました。
そこに描かれたのは、鮮やかな色彩に染まった美しいアンモナイトのようなうず巻き模様でした。
しかも、ふたつに折り込んでいたので、それをさらにひろげると同じ模様がふたつ並んで見えました。
それを見た子どもたちの反応は言うまでもありませんが、先ほど同様に感嘆の声を上げました。

子どもたちはすぐさま先生を真似て、絵筆にたっぷり染料をつけながら、手にした〈さらし(晒)〉によっつの色を染み込ませていきました。
最後はそれを古新聞の間に挟み、足の裏で力強く踏み込んでいきます。
ところが、この動作に入るとどの子もはしゃぎはじめまて、なかなか止めようとしません。不思議がっていると、どうやら足裏の感触が気持ちよかったのか、踏みつけること自体が面白かったのか、あちらこちらでうどん作りのようにドンドンと、踊るようにバタバタと大騒ぎ。子どもって、思わぬところ(動作)に惹かれるのですね。

あそび感覚の染色でも、伝統的な染めの世界観を味わうことができます

年中・年長クラス共に、でき上った〈さらし(晒)〉は駐車場の端から端に張られた紐に並べてつるし、自然の光と風で乾かしました。
染色されたたくさんの〈さらし(晒)〉が、駐車場ではためくその光景にしばし眺め入ってしまいました。
まるで美術館の屋外展示場に飾られたアート作品のように輝いて見えました。

そんな光景を一緒に眺めていた田中園長は、
「子どもたちも屋外の空気を満喫していたし、何より自分でつくった作品を自分たちの手で干して乾かしたり、それを同じ場所で、全員で鑑賞することができましたからね。ここでできてよかったです、急な引っ越しでしたが(笑)」
と機転を利かせ、室内から慌ただしく場所を屋外へと移したことに、やっとほっとしたように話しました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「そうですね、はじまりから終わり(鑑賞)まで一連の流れで体感して欲しいというのはいつも思うことで、それができたことは本当に良かったです」
そんなふうに園長の英断を称えていました。

そこで、最初から最後まで全体を忙しなくサポートしていた田中園長に今回の感想を聞いてみました。
「折り方、染め方を同じようにしても、模様も色合いもこれほど個人によって変わって表れるというのは驚きでしたね、普段の生活のなかでは、同じようなことをすれば、だいたい同じような結果に収まりますから。
それと、年中さんは明るい色彩が多かったように感じましたが、年長さんはぐっと落ち着いた色彩が多かったようにも。少し前まではいまの年中さんと同じようだったと思うんですけどね、この差ってなんだろうか、なんて思いました」
そして、最後に笑いながらこう付け加えました。
「(紐につるされて並ぶ作品を眺めながら)これらを使って、子どもたちの浴衣をつくってあげたいなぁ、という気分になりましたよ。世界にたった一枚の色彩と模様を持つ生地ですからね」

ではいつものように、先生に今回のワークショップをふり返ってもらいましょう。
「染色自体は歴史のある伝統的なものです。この世界を極めようと思うと、それは大変なことです。
でもここのところ、幼児を対象としたあそび感覚の染色を行うのをよく見ます。
やり方はさまざまですが、この利点というのは、誰がやっても作品として成り立つこと、感動も達成感も得られますからね。それから出来上がりに優劣がつかないということなどだと思います。
今日のでき上りをみても、どれもが色彩豊かで、模様もさまざまに描かれていて、ほんとうにすべてが魅力的です。
こればかりは偶然の産物なので、うまくやろうとか思ってもできないし、むしろ不器用でも無心でやった子の作品が良かったりしますからね」

さらに続けて、
「実は今回室内で行う予定でしたから、素材に和紙を使うことを想定していました。
本来、たたみ染め(折り染め)は和紙でやるものなんですね。それなら仕上がった後もほぼ乾かすだけで済みますから。でも結果的に〈さらし(晒)〉を使うことで、より伝統的な染めの世界観を味わうことができたと思います。
また今後同テーマで行うなら、例えば「草木染め」のように植物や野菜など自然素材を使って染めるといった、つまり元となる染料から自分たちの手でつくるような取り組みは面白いかなと思っています。
与えられたものから生み出すのではなく、そのさらに元から生み出すということができたら、感動も倍になるんじゃないかな、特に好奇心旺盛な子どもたちにとっては」
笑顔でそう言って締めくくりました。
好奇心旺盛といえば、先生自身も負けず劣らずかなりのものだと思うのですが(あくまで私見です)。

 

後日、子どもたちの作品を一度洗うというお話しだったので、どうなったのかを尋ねたところ、
「洗う際に色止めをした方が良いということで、いま色止め剤が届くのを待っているところです」
との返答でした。園でそこまで仕上げてから、園児一人ひとり持ち帰る予定とのことでした。
伝統のあるものは、例えこのようなあそび的なものであっても、これほどまでに手間暇がかかるのだ、と実感しました。それだけに、手にしたときの感動や喜びが大きいのですね。

ドキュメンテーション

昨年の6月は紫陽花や雨のイメージから晒しを紫陽花色に染めるワークショップを行いました。

たたみ染めは、いわゆる着物や手ぬぐいなどに用いる伝統的な板はさみ染めとははじまりが違うもののようです。
それでも和風な出来上がりになるのも面白いものです。
染料の染み込みの加減で自分の手の中からどんな美しい模様が出てくるでしょう。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【定員満了】7/24 子どもの発達・ことば個別相談会

2024年6月11日 火曜日投稿

【定員満了のため受付を終了しました】

「ことばの遅れを指摘された」「吃音が出てきたみたい」「発音の間違いが気になる」など、お子さんのことばに係わる悩みや心配に、言語聴覚士がお子さんの様子を観察しながらお答えします。

実施日時
2024/7/24(水) 9:00~17:00 ※申込締切 7/16(火)
※相談時間は40分程度となります。
※相談にはお子さんと一緒にお越しください。
相談場所
発達支援Kiitos羽村 相談室
(羽村市五ノ神3-15-11 コスティール沖201)
相談員
中塚誠先生(言語聴覚士・発達支援Kiitos羽村アドバイザー)
言語聴覚士の養成校で常勤講師として働きながら、付属する「ことばの指導相談室」で11年間臨床を行う。現在はフリーとして保育園や幼稚園、特別支援学校を訪問し、支援者や保護者への支援や講演を行いながら自治体のことばの教室で臨床を行う。
料金
無料
社会福祉法人陽光福祉会の地域貢献事業として実施しているため、料金は一切かかりません。
申込方法
下記アドレスの申込みフォームからお申し込みください。
https://forms.gle/PzHR1LbHYeBM7RP29

【にじいろWS 2024-05月】ぐるぐるドローイング

2024年5月19日 日曜日投稿

あなたが生まれて初めて描いた「線」は、どんな線でしたか?

こんな質問をされたら、あなたはどう答えますか。
「曲線、いや直線か?それともぐるぐるとうずまく円だったか・・・」
あまりにも遠い記憶のこと、ほとんどの人が「覚えてない」と回答するでしょう。
誰にしても、初めて描いた「線」なんて記憶に残らないほど幼いころのことです。
言い方を変えれば、それほど幼いころから人は「線」を描いてきたということです。

0歳~1歳児でもペンを握らせれば、そこからなにかを描き出します。
もちろんそれは画面を打ち付けるようなただの点々やなりゆきまかせの不規則な線で、お世辞にも「きれいに描けたね」などとは言い難いものでしょう。
それでも描くという行為は、どんなに幼くても自らの視覚を刺激し、指先に特別な感触を与え、明らかに身体になにかを残すものです。
その後は成長に応じて無自覚ながら丸、三角、四角といった輪郭線からジグザクや波のような連続性のある線などを描くようになり、4~5歳ともなれば意識的に視覚からとらえたものを線で描くようになります。
ちょうど当園でワークショップを体験する子どもたちがこの4~5歳ですね。

そこで今回のにじいろワークショップは、こうした「線」を描くということをテーマに、子どもたちにとっては原点回帰にも似た行為からアートとしての『ドローイング』を学びます。
傑作であろうと、愚作であろうと、ただの落がきやなぐりがきであっても、すべては一本の線からはじまるように、今回のワークショップも一本の線を描くところからはじまります。

『ドローイング(DRAWING)』とは美術用語で簡単にいえば、「線画」のことを意味します。単色の鉛筆やペンなどを用いて、線を引くように描かれた絵画などを指すときにも使われる用語です。

いろいろな筆のお話しと、自らの肌で感じた筆先の感触

まずは今回で2回目の参加となる年中クラス。
さすがに前回ほどの緊張はみられないものの、ホールに並べられたテーブル、片隅に置かれたたくさんの筆や絵の具と黄色い筆洗器、そして真白な紙の束などをチラチラ見ながら、今日はなにをするのかな、と落ち着かないようす。
早速子どもたちはそれぞれのテーブルに座りましたが、ソワソワ、きょろきょろ、やっぱりどこか不慣れなようす。
そんな子どもたちの前に、先生は筆のたくさん入った大きなケース持って座りました。

ケースのなかには、さまざまな種類の筆がぎっしり入っています。
短くて細い筆、長くて太い筆、そのまん中くらいの筆、筆先も丸いもの、やや四角いもの、柔らかそうなもの、硬そうなものなどなど。
先生はそんなたくさんの筆の中から大小さまざまなものを数本抜き出すと、
「この一番大きい筆は父ちゃん筆かな、その次の細身で小さいのは母ちゃん、そしてこれは兄ちゃん筆・・・」
そう言いながら子どもたちに1本1本種類の違う筆を見せていきました。
子どもたちは「父ちゃん筆だって~」と、先生が1本1本に名づけて掲げる筆を見て大笑いです。

「それじゃ、みんなにも筆を配ります」
そう言って、先生は保育士たちと筆を子どもたちに配りました。
全員に配り終えると、次に先生は1本の筆を取って、その筆先をおもむろに自分の顔に近づけるとサッサッと頬や鼻の頭、おでこなどをなで回しました。
子どもたちは一瞬その様にびっくりするも、すぐさまどの子も笑い転げてしまいました。
そして、子どもたちも先生の真似をして顔に筆を押し当てました。
「柔らかいなぁ、こりゃ硬い、ちょっとチクチクした、くすぐったいよ」など、子どもたちはさまざま感想を口にしました。
筆先から伝わるその感触は、筆の大きさや太さ、その種類によって変わります。
でも筆先の感触なんて、こうして自らの手や肌で触れながら感じとる以外にはわかりませんからね。

そこで先生は子どもたちにクイズを出しました。
「この筆先の毛は動物の毛からできているけど、その動物ってなーんだ?」
子どもたちは考える前に、知っている動物の名前を次々に出しました。
イヌ、ネコ、サル・・・何番目かに、「馬!」と声が上がると、なぜか確信を突いたと思ったのか多くの子どもたちが「馬!」と連呼しはじめました。
「そう、正解は馬です」その答えを聞いた瞬間、またまた子どもたちは大さわぎです。
ちなみに、タヌキ、イタチ、鹿、山羊などの毛も用途に応じて用いられます。なかでも馬の毛はたてがみ、胴毛(おなかの毛)、尻尾などほぼ全身の毛が筆先になるそうです。

何気なく使っている筆にもたくさんの種類があって、個性があって、感触もそれぞれ異なるということを自ら体感した子どもたちでした。
筆についてのお話しを聞いたら、次はその筆を使っての実践です。

ここ一番の真剣モードで、一本の線を黙々と描く子どもたち

先生はホールの端に用意した別の小さなテーブルに子どもたちを集めました。
テーブルの上には真っ白な用紙が一枚乗っています。
そして小さなパレットに絞り出されたブルーの絵の具と1本の筆。
先生はブルーの絵の具に筆を浸して、真っ白な紙の上部に一本の直線を端から端まで描きました。
そのまたすぐ下に、先に描いた線と平行になるように一本の直線を、これもまた端から端まで描きました。
さらにまたまたそのすぐ下にももう一本。
線と線の間はなるべく狭く、その間隔を保つように、ゆっくり、そしてどんどん描き足していきました。
真っ白だった用紙にみるみるブルーの直線が横に十数本並びました。
それはボーダーシャツのように、ブルーと紙の白とがきれいに並んだシマシマ模様です。
先生は黙って(集中して)線を描いていましたが、子どもたちもそれを静かに見つめていました。

「さあ、これをみんなにも描いてもらいますよ」と先生が言うと、さすがにこれは難しいぞ、という困った顔ばかり。
それでも子どもたちは各自のテーブルに戻ると、配られた真っ白な用紙にブルーの絵の具を浸した筆をしっかり握り、どの子も臆することなく一本の直線を描きはじめました。
ところがなかなか筆が進みません。
一本の直線を描くというのがこれほど大変なことは思わなかったのでしょう。
描いていくうちに線が太くなったり、細くなったり、だんだん曲がっていったり、いく本かの線が重なって色のかたまりになったり、均等に同じような直線をただただ画面に描くということに誰もが悪戦苦闘です。
先生はそんな子どもたちのテーブルを回り、筆の持ち方、扱い方を子どもたちにていねいに教えました。
筆でまっすぐな直線を何本も描くには、どうしても基本的な筆使いを学ばなければできません。特に年中クラスの子どもたちはワークショップで筆を使うのははじめてですから。
誰もが先生の言葉をしっかり受け止め、その動作を習得しようと一生懸命に取り組んでいました。

その様子を見ていた年中クラスを受け持つ柏木保育士は
「基本的な筆使いをこうして最初の段階で習うのはとても良いことですね。これからの二年間の基礎づくりのよういも思いますし、私も勉強になりました」
とにこやかな表情で話していました。

それにしても、今日はいつものにぎやかなワークショップと違い、子どもたちはここ一番の真剣モードで、一本の線を黙々と描いています。

少し横道にそれますが、今回単色をブルー(青色)にしたのにはワケがあります。
ワークショップの準備をしていた先生が、今回の色について
「ブルーという色合いは人の心を落ち着かせる効果があるんですよ。だから、動作が散漫にならず、なにごとにも心静かに臨めるということかな」
そう言いながらブルーのチューブから小さなパレットひとつひとつに絵の具を絞り出していました。
どうやら子どもたちのこの真剣モードは、そうした効果も手伝ってのことかもしれません。

そのうちに少しずつ先生が描いたお手本のように、真っ白な用紙に鮮やかなブルーの直線が何本も並ぶようになりました。
どの子もある程度一本の線を描きこめるようになったところで、先生はまた子どもたちをホールの端にある小さなテーブルに集めました。
先生はさっきと同じように筆を持つと、今度は真っ白な用紙の中央に小さな円を描きました。
最後は円を描くようです。確かにこれも一本の線からはじまります。
一本の線がゆっくり弧を描き、出発点と終点を結びます。
小さな円を描き終えると、すぐに小さな円の外側に最小限の間隔を保ちながら、次の円を描き足しました。
それからその円を包み込むように、またその外側に円を描いていきました。
こうして次々に円を描き足していき、真っ白な用紙の端のぎりぎりのところまで円を描き終えると、画面いっぱいに十数本の円がきれいに重なって表れました。

これもまた難しい課題ですが、本日のワークショップの総仕上げです。
子どもたちはそれぞれのテーブルに戻り、先ほどのような真剣なまなざしで目の前の真っ白な用紙に筆を下ろしていきました。
どの子も時間いっぱいまで、失敗を繰り返しながらも自分だけの円を何度も描き続けていました。

もはや1枚1枚が、幻想的な風景に誘う『ドローイング』の〈アート〉作品です

さて、年長クラスの子どもたちです。
はじまりは、やはり年中クラスと同様に筆の話しからです。
でも、年長クラスの子どもたちとはこんなやり取りから進みました。
先生は数本の筆を手の中に握り、目の前の子どもに好きな筆を1本選ばせました。
「当たりがでるかな?」
「当たりがあるの?」
そんなユーモラスな会話が交わされ、迷いながらも先生が握った筆の束から1本を引き抜くと、
「すごい、それは大吉だ!」
唐突にそう言われたことにきょとんとしながら
「先生、ダ・イ・キ・チって、な~に?」
これには先生も返答に窮していました。

そして筆の話しのあとは同じく実践に入りましたが、年長クラスの子どもたちは、年中クラスが最後に描いた円から描くことになりました。
ワークショップも二年目に入り、年中クラスの子どもたちと違って筆で描くことにも慣れているからです。
とはいえ、さすがに先生の描いたお手本のようにはいきません。
直線や好き勝手な線を描くならまだしも、同じ調子でいく重にも重ねて描く円となると、どの子も筆の運びに四苦八苦です。
それでも、年中クラスの子どもたちと同様に、真剣に、黙々と筆を走らせていました。

年長クラス担当の曽保育士は、前回の楽しくにぎやかな様子と一転して終始静かな雰囲気に少し戸惑いながらも、
「子どもたちが集中しているのがよくわかります。この課題は先生のお話をしっかり聞かないとできませんし、真剣に学ぶっていうのはすばらしいことです」
と全体の雰囲気を壊さないように小声で話してくれました。

しばらくすると、どの子も一本の線から生まれた円を、真っ白な用紙いっぱいにぐるぐると描くことができるようになりました。
次はいよいよ年長クラスの総仕上げです。
先生はまた子どもたちを集めてお手本をみせました。
最後の課題はふたつです。
ひとつ目は、同じ一本の線でも鋭角をもつギザギザの線です。筆1本で山、谷を繰り返しながら用紙の端から端まで描いていきます。
ふたつ目は、緩やかな波線で、これも同じく端から端まで描いていきます。
しかもこれらをひとつの画面のなかにできるだけ交互に、数多く収めていくというものです。
同じ形のギザギザや波線を何本も描いていくには一定のリズムで筆を運ぶことが大切で、これにはかなりの集中力が必要です。

時間をかけても慎重に、ちょっとの曲がりやはみだしは良しとしましょう、落ち着いて、ゆっくりと・・・どの子もそんなふうに自分に言い聞かせるように描き込んでいきました。
そして、ひとり、またひとりと最初のギザギザを描き終えました。
ほっと、ため息をもらす子も、満足そうな笑みを浮かべる子も、思うようにいかなかったのか残念そうに筆をおく子もいます。
それでも描き進んでいくうちに慣れて来たのか、ギザギザも波線も上手になり、一本の線を描く時間も短くなっていきました。

先生が当初思っていたよりどの子も早く課題をクリアしたので、さらにこんな提案をしました。
「みんな頑張って課題に合格したから(笑)、最後は三人一組で一枚の長い紙に好きな絵を線描きで描いて終わりにしましょう」
そう言うと、子どもたちは緊張の糸が解けたように、いつもの笑い顔に戻りました。
先生は障子紙を三人分(三枚分)の長さに切り分けて、それぞれのテーブルに配りました。
今度はどの子も迷うことなく、一斉に好きな絵を描きはじめました。
先生と保育士たちはその間、年中・年長クラスの今日描き上げた子どもたちの線画をホール床面の端にまとめて並べていきました。これだけの作品がひとつに集まると、ちょっとした美術館でのインスタレーションを模したようです。

最初に目に飛び込んでくるのは、あざやかな絵の具のブルーと紙の白さです。
そしてなにより、イキイキとした子どもたちの線画が躍動し、浮き立つように見えてきます。
どこまでもまっすぐに伸びていく直線の束。
ホールを吹き抜ける風にくるくると回りだす、いく重にも重なった円のうず。
そこに割って入るのがギザギザにとがった山並みと、海の真ん中でここちよく漂う波の動き。
黙って見ていると、そんな幻想的な風景の中に引き込まれそうになります。

これほどの作品に仕上がれば、もはや一枚一枚が『ドローイング』と称する範疇ですし、こうして作品がひとつにまとまれば、立派な大きな〈アート〉作品です。
最後に先生とこどもたち、そして保育士らみんなでそんな作品たちを鑑賞して終わりました。

今回で2回目の体験となった年中クラスのクラスリーダー三浦保育士は、
「同じ色と筆を使っているのに、1枚1枚の作品が個性的で、同じ作品がひとつもないのにびっくりです」
とただただ感心しきりでした。
そうです、このワークショップでは、10人の子どもがいれば10通りの作品が生まれるのです。
また年長クラスでクラスリーダーを務める松原保育士は、
「もともと絵を描くのが好きな子どもたちですが、普段はクレヨンやカラーペンなどを使っているので、こういう機会に絵の具や筆のことを知ったり、こうした基本的なことを実践できるのは子どもたちが一番望んでいることかもしれません」
作品を眺めながら、こう満足そうに話しました。

一本の「線」を描くことの大切さ、難しさ、その意味の重さを体感して欲しかった

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、今回のテーマについてこう話しました。
「ここのところにぎやかさ、楽しさを主体にしたイベント的内容が続いたので、あらためて〈描く〉ということ
にこだわってみました。
〈描く〉とはどういうことか、これはいたってシンプルな問いですが、その答えはとても難しいものです。
そこで、基本的なこととして、美術用語である『ドローイング』という言葉から一本の線を描くことをテーマにしました。
どんなに有名な絵画であっても、世界的に天才と呼ばれた芸術家であっても、すべては一本の線から描きはじめていきますからね。でもその一本の線がとても大切で、難しくもあり、重い意味をもつことになります。
なので、今回のワークショップは、そのことを教えるというより、まず自ら体感して欲しいと思いました」

はじめに筆について触れたのはなぜですか、と逆に質問をすると
「〈描く〉ということでいえば、筆は重要な道具のひとつですからね、これからあらゆる場面で必要になることでもあるので、あらためて基本的なこととして。
でもこれは知識として教えるというのではなく、筆1本にもいろいろな種類やつくりがあって、それによってどんな手触りをしているのかなど、こういう機会でもないと筆先を肌で感じることはないでしょうから。
あとは実践で使ってみて、扱い方次第で自分の思うように動かせることなどを手指に覚えさせればいい」
そんなふうに答えてくれました。それにしても筆1本の話しだけであれほど子どもたちに興味を抱かせるのですから、予想以上に記憶に刻まれたと思います。

先生はさらに続けて、
「描くという行為自体は0歳~1歳などからはじまりますが、その年齢の子が描くものは無意識に動かすからだの痕跡のようなものだと言われています。確かにそこに描かれるのは、意図的な絵画とはほど遠いものです。
そうしたことから一般的に、“視覚からものを的確にとらえることが、絵を描くことのはじまりだ”、とよくいわれますが、個人的には0歳~1,2歳児が無意識に描くからだの痕跡のような線などから、すでに描くことがはじまっているのではないかと思っています。
ただ周りが、年を追うごとにもの(カタチ)をとらえることに重きを置いていくようになります。
ですから、的確に対象物の輪郭を描いた作品はどうしても評価が高くなります。仕上がった作品を見て、少しずつ絵らしく見えていく方がその子の成長もわかりやすいですからね。
でもそういうことではなく、幼児期に見られたような、無意識にからだの動きから生じて描かれた痕跡を大切にしていくことも、本来そのもの(カタチ)が持つ線の美しさにつながるのではないでしょうか」

ここまで一気に話すと、先生は少し間をおき、
「当園の子どもたちは描くことに慣れています。それは当園が日ごろから絵を描く環境づくりにとても積極的で、かつ熱心に取り組んできた証しです。
そこでさらに子どもたちをどう指導していくかを考えたとき、もの(カタチ)をしっかりとらえて描くことも大事だけれど、敢えて自分の内なる動き、衝動というものに素直に従って一本の線を描いていくことも忘れずにいて欲しいと思います。
今回はそういう意味でも、単純な一本の線をいかに〈描く〉か、ということに終始しました。
単純な線を描くのは難しいものです。変に意図的にとらえて描くと“生きた線”にはなりません。
むしろ一本一本の線を無心に紡いで描いていく方が、いわゆる“生きた線”になるものです。
今回子どもたちが無心に描いたたくさんの線は、きっと今までのなかでもっとも個性的で、美しい線だったかもしれませんね」
そんなふうに笑顔で言いながら、今回のワークショップを締めくくりました。

ドキュメンテーション

絵を描くというと、ごくシンプルで簡単なことのように思いますが、実は結構複雑なことだと思います。
線がたくさん繋がって形や面が構成されます。
線の魅力に、描くという行為そのものに面白さを持ってくれたらと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI

【羽村市】はむら家族プロジェクト「家族写真撮影会」参加者募集

2024年5月9日 木曜日投稿

子育て家族をモデルに、プロのフォトグラファーによる写真撮影会を行います!
市内の思い出の場所や、家族でよく訪れる人気スポットで、一生の思い出に残る素敵な家族写真を撮影しませんか。
また、撮影だけでなく、参加者同士が情報交換等をできる交流会を予定しています。
ぜひ、応募してください!

家族写真1 家族写真2 家族写真3

参加費

無料

対象

羽村市在住で10歳までの子どもを育てているご家族

(注意) 撮影した写真は、写真展や市公式サイトへの掲載など、さまざまな市のPRに活用させていただきます。

定員

15組:家族単位での申込

(注意) 申し込み多数の場合は、過去に参加したことがない方を優先に抽選を行います。

当選者への説明会&交流会

日時 令和6年6月30日(日)午後1時30分から

会場 プリモホールゆとろぎ 地下レセプションホール

(注意) 当選者は必ず出席していただきます。

撮影会

日にち 令和6年7月21日(日)、9月7日(土)、10月20日(日)のいずれか

(注意) 撮影会の時間は、応募当選者にお知らせします。
(注意) 撮影会当日の天候によっては、延期する場合があります。
(注意) 撮影日時は当選決定後に調整しますが、ご希望に添えない場合があります。

プレゼント

  • 🎁フォトデータ
  • 🎁フォトパネル

撮影担当

📷 タマイロ寫眞店(市内写真店)

注意事項

  • ●応募は1家族につき1回とします。
  • ●当選の権利は、申し込んだ家族に限り有効です。
  • ●撮影日時は当選決定後に調整し、ご家族の代表者へ連絡します。
  • ●抽選結果に関するお問い合わせにはお答えしません。
  • ●同じ家族が重複して申し込むことはできません。

申込方法

申込みはこちら(応募フォーム)(別ウインドウで開く)

(注意) 迷惑メール対策をしている方は、必ず応募前に、s102020@city.hamura.tokyo.jpからのメールを受信できるように設定しておいてください。

(注意) 当落の結果は、申込み締め切り後2週間以内にメールをお送りします。

申込期日

令和6年6月10日(月)午後5時まで

過去に撮影した家族写真

はむらの子育て家族(令和5年度撮影)のページをご覧ください。

個人情報の取扱いについて

応募に際し、応募フォームからご提供いただいた個人情報は、本プロジェクトの受付や問合わせ、抽選の結果通知、その他本プロジェクトの業務に利用するとともに、羽村市のシティプロモーション事業で利用します。法令の規定に基づく場合を除き、ご本人の承諾なしに、それ以外の目的で個人情報を利用または第三者に提供することはありません。

企画・運営

企画部 秘書広報課 広報・シティプロモーション係
電話:042-555-1111 内線 336 339
メール:s102020@city.hamura.tokyo.jp

【東京都】ベランダ等からの子供の転落事故防止について

2024年4月26日 金曜日投稿

 子供が保護者の目の届かないところでベランダに出て、エアコン室外機などを足掛かりに手すりを乗り越え、転落する事故が発生しています。例年、自宅の窓を開ける機会が増える春先や初秋に、事故が発生する傾向があります。
 ご自宅で過ごす時間が多くなる連休中も、お子様たちが元気に安全に過ごせるよう、ベランダや窓のそばに子供の足場になるようなものが置かれていないか、子供の遊び場になっていないか、この機会に改めてご確認をお願いいたします。

【参考】
〇「子供のベランダからの転落事故に注意!」(平成30年3月・東京都生活文化局)


https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/kyougikai/h29/documents/29_leaflet_balcony.pdf

〇東京都公式動画チャンネル「東京動画」~STOP! 子供の転落事故~
子供がベランダの手すりの高さまで素早くよじのぼっていく実験映像や、転落事故を防ぐポイントを紹介しています。ぜひご覧ください!!

【にじいろWS 2024-04月】紙コップのインスタレーション

2024年4月25日 木曜日投稿

個性と感性を全開にして、きらっきらの体験をたくさんしましょう

2024(令和6)年4月、新しい一年のはじまりです。
そして「にじいろワークショップ」も、新たな年中・年長クラスを迎えて、今年度最初の一歩を踏み出しました。
はじめましての子どもたちも、今年もよろしくの子どもたちも、この一年個性と感性を全開にして、きらっきらの体験をたくさんしましょう。

さて、今年度第1回の「にじいろワークショップ」は、今回で3回目となる『紙コップのインスタレーション』です。
内容はご存知のようにいたってシンプル。
日常で誰もが手にしたことのある使い捨ての白い紙コップを数百個用意し、それを一個一個根気よくていねいに積み上げ、本来の用途とはまったく違う大きなオブジェ(物体としての作品)をつくります。
ただし、それは表層的なことで、実はこの積み上げるという単純な作業のなかにその子の持つ本質が見えてきます。
具体的に言えば、日常の生活では見せることのない言動から心情といった内面的な部分までもです。
そうした面を見る(知る)ことで、それまでにない関係性が築けることがありますし、多角的にその子をとらえることができるというのは保育指導においてもよりプラスの作用があると思います。
こう考えれば、一年のはじまりにこの紙コップを用いたワークショップを行う意味合いも、きっとおわかりいただけると思います。

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、過去二回とやや異なった内容を試みるようで、準備に取り掛かりながらこんな話をしていました。
「年中クラスの子どもたちにとっては初めての体験になるので、今までのようにまず自分たちの思う通りに紙コップを積み上げてもらいますが、年長クラスの子どもたちは2度目ということもあるので、その積み上げ方にひとつ制約をつけてみます。
そしていずれのクラスも、最後にある演出を施してみようかと考えています」

こうしてはじまったワークショップ。
果たしてどんな作品が生まれ、子どもたちはどんな体験をするのでしょうか。

インスタレーション( Installation )とは?
アートを展示する空間そのものをひとつの作品としてとらえることで、壁・床・天井まで含め、その空間に存在する全てのものが鑑賞の対象となるということを指した言葉です。

紙コップも活用の仕方で、世界にひとつだけの〈アート〉に変わります

まずは年中クラスですが、初めてのワークショップに少し緊張気味の子どもたち。
でも先生のいつもの話術でその場の空気が一瞬にして和らぎ、いつしか全員笑顔いっぱいに。

そうして先生はお話しを進めながら、高さ8~90cmほどの1本の筒状もしくは円柱に見える白いかたまりを子どもたちの前に差し出して立てました。
それを先生は指先で軽く揺らしてみせると、簡単にクネクネと曲がります。
子どもたちはへんてこなそのかたまりに見入っていました。
先生は、そのへんてこなかたまりの上部からひょいっと紙コップをひとつ取り出して見せました。
そう、そのへんてこなかたまりは、紙コップを100個、隙間なく重ねた状態にしたものでした。
その正体が紙コップの集まったものだとわかると、子どもたちは「な~んだと」と言わんばかりに大笑い。

次に先生は紙コップを数十個ずつ重ねた、やはり筒状のものをいくつもつくり、それらをランダムに床面に立てていきました。
どれもが3~40cmほどの高さの紙コップでできたものですが、床面に並べると、その光景はまるで苗木をいく本も大地に植えたように見えます。

先生は子どもたちに
「このたくさん並んだ紙コップのあいだを走ってみようか」と言い放ちます。
その言葉を受けるやいなや子どもたちは勢いよく飛び出し、ぐるぐる走り回って大はしゃぎ。

しばらくして先生は走るのを止めて、それぞれの近くに立っている紙コップの前に座るように言いました。
そして紙コップが重なってできた1本のかたまりから、紙コップをひとつずつゆっくりバラしていきました。
すると、床面が少しずつ白い紙コップで敷きつめられていきました。
「みんなもこうやって重なり合った紙コップをひとつずつもとに戻して」
先生がそう指示をすると、子どもたちもいっせいにその作業を始めました。

そのうち何人かの子どもたちがその上をごろごろと寝転んだり、その紙コップを投げたりと悪ふざけをはじめました。それを見ていた先生はすぐさま
「ダメでしょ、そんなふうに乱暴に扱わないでください、ひとつひとつ大切にできないならワークショップは終わりにします!」と注意をしました。
あわてて起き上がり、潰れた紙コップを元の形に戻す子、投げた紙コップを拾い集めてきちんと並べ直す子・・・それぞれが反省の態度を示しました。
初めてのワークショップとはいえ、もの(素材)を大切にすることは何においても基本です。
でもね、萎縮することはありません。みんなのおにいさんもおねえさんも、先生に注意を受けながら、自らものを大切にできるようになっていったのですから。

さあ、ここからが本番です、気を引き締めてやりましょう。
先生は床一面に広がった紙コップをひとつ、ふたつと拾い上げ、それらを逆さまにしながら床に置き、その上へ、またその上へと紙コップを積み重ねていきました。
「みんなもできるかな?」
先生の様子を見ていた子どもたちに問いかけました。
もちろん子どもたちはすぐにそれを真似て、目の前の紙コップを同じようにひとつずつ積み上げていきました。
あっという間に、あちらこちらにいくつもの三角山ができました。
子どもたちは紙コップが崩れないよう真剣なまなざしで、ひとつ、またひとつと積み上げる作業を繰り返していきました。

 

自分の背たけを超えても、背伸びをしながら積み上げる子、
何度やっても崩れてしまい、そのたびに悔しがる子、
ひとりで黙々と積み上げては、それを壊し、また一から積みはじめる子、
お友だちと協力し合って、どんどん高く、そして大きく広げていく子どもたち。
単純な動作のなかにも、それぞれの個性がしっかり表れます。

続いて年長クラスの子どもたちですが、2度目ということもあり、先生は紙コップについての説明などは省き、ウォーミングアップ代わりにこんな遊びから始めました。
まずはすべての紙コップを重ねて、長く一本のロープのように伸ばし、それをホールの床面の端から端へとまっすぐに置きました。
それから先生は年長クラスの子どもたちを同人数で二つのチームに分け、長く伸びたロープのような紙コップの向こうとこちらの両端へそれぞれを向かわせました。
遊びのルールは簡単です。
先生の「よーい、スタート!」の号令と共に、両端からひとりずつそのロープのように伸びた紙コップの重なりをまたぎながら中央へ進みます。
そしてそれぞれが出会ったところで、またいだまま両者でジャンケンをします。
負けた子はその場で外へ出て、勝った子はそのまま相手方に進みます。そこで、負けた方はその次に待機している子がまた中央へ向かって進みます。またまたそれぞれが出会ったところでジャンケンをします。
その繰り返しで、どちらかの端に早くたどり着いたチームが優勝です。
両者の白熱したゲームに、周囲で見守るおとなたちも拍手と声援を送りました。

ここちよいウォーミングアップが終わり、年長クラスの子どもたちもここからが本番です。
先生が先にも話していた通り、2度目ということもあり、今回はただ好きなように紙コップを積み上げるのではなく、ひとつ制約をつけることにしました。
それは、ホールを囲う真っ白な壁面に沿って、紙コップを積み上げていくというものです。
言い方を変えれば、壁面が白い大きなキャンヴァスで、そこに紙コップという素材を用いて一枚の絵を描く(つくる)というようなことです。
ひとりであっても、お友だちと協力しあってでも、ひとつの決められた場所(壁面)に紙コップを積み上げていけば、いずれはひとつに繋がり、それが最後は大きな一枚の〈アート〉作品になります。
もちろん子どもたちには事前にそのような意図は伝えませんし、その必要もないでしょう。結果に対して、子どもたちがなにかを感じてくれたら、それで今回のワークショップは十分な成果を得たことになります。

子どもたちは前回と若干違った積み上げ方法に戸惑いながらも、ホールの大きな壁面に向かって紙コップをピタッと壁に押し付けるようにひとつひとつ積み上げていきました。
意外にその作業は難しく、紙コップの一部分が崩れただけでも隣り合わせに積み上げた紙コップまで連鎖的に、例えばドミノ倒しのように一気に崩れ落ちてしまうこともしばしば起こります。
最初はそんな現象にがっかりしたり、文句を言ったりしていましたが、徐々にその壁面に予期せぬかたちが見えてくると、子どもたちそれぞれが積極的に、かつ慎重に紙コップを積み上げていきました。
使用している素材は、ごくごく普通の紙コップですが、活用の仕方で世界にたったひとつだけの〈アート〉に変わることがあるのです。おそらく子どもたちには、感覚としてそれがわかりかけていたのかもしれません。

最後は、灯りがもたらす光と影の美しいオブジェを鑑賞します

ここでもう一度、冒頭で先生が話していた「最後にある演出を施してみようか」という一言に戻りましょう。
その演出とは、ライトによる光と影でした。
ワークショップ開始前、先生は事前に何度も電灯による演出効果を試していました。
電球色、白色、それらに色付きのセロハンを取り付けたものなど、または照らす角度や位置などさまざまなライティング効果を試していました。
ホール内も外光をなるべく遮断できるようにガラス面のブラインドをすべて降ろして、部屋の灯りを消した場合、付けた場合など入念にチェックしていました。

年中・年長クラス共に子どもたちは紙コップを上手に積み上げました。
年中クラスの子どもたちは、最後に全体が見渡せ場所に集まって、ホール内にいくつもでき上った作品を鑑賞することにしました。
そこで先生は当初の計画通り、でき上った作品ひとつひとつにライトを当てていきました。
灯りに照らされて浮かび上がったものは、先ほどまで自分たちでつくり上げた紙コップのオブジェです。
でも、色とりどりの灯りと、そこから映る影の効果でまったく別のものに見えてきました。
白い紙コップが赤、青、緑、黄色に変わっていきます。そこからもたらされた影にも独特な陰影が生まれます。
そんなふうにさまざまな灯りに照らされるたび、子どもたちから歓声が上がりました。

年長クラスの子どもたちは、仕上がりが見え始めたころからライトを当て始めました。
まだ制作途中なので、当然紙コップを積み上げている子どもたちにもライトは当たります。自分たちまで白い壁面にその影が映ると、そうした灯りの効果に驚きながらも、自分自身が作品の一部になったようで少し誇らし気な、あるいは自慢気な表情になりました。
その後子どもたち自身でもライトを作品に当てたり、動かしたり、その光と影を思う存分に楽しんでいました。
子どもたちにとって、真っ白だったいつもの壁面もただの紙コップも予期せぬ色彩を帯びて、いまはもうそのものの存在さえ別のものに変わってしまったようです。
その感覚を忘れないようにしてください、それが〈アート〉です。

 

こうして年中・年長クラス共に、終わりの時間が近づくとすべての紙コップをバラバラに崩して、あらためて散乱したそれらを1本の長いロープ状のようにきれいに重ねて終了しました。

4名の新たな保育士が、新年度のワークショップに思うこと

新年度に新たなはじまりを迎えたのは、子どもたちばかりではありません。年中・年長クラス共に、新しく専任された保育士たちも同じです。そこでこの一年子どもたちと一緒にワークショップに参加する4名の保育士から、第1回に参加した感想を聞きました。
まず年中クラスでクラスリーダーを務める三浦保育士です。
「私自身は体育系なので、最初に〈アート〉と聞いて少し不安な気持ちでした。でも体験してみると、〈アート〉って頭で難しく考えることではなく、素直に目の前のものと向き合いながら全身で感じて楽しむものなんですね」
屈託のないその笑顔は、子どもたちと同じように輝いていました。

年長クラスでクラスリーダーを務める松原保育士も、ワークショップへの参加経験があります。
「今までもそうでしたが、子どもたちの別の面に気ずかされること、発見できることのある場なので、ここで感じたことや得たこと、体験したことをできるだけ普段の保育の現場にも活かせたらと思います」
やわらかな口調のなかにも、頼もしく感じる言葉でした。

新たな試みを含めて、今回のワークショップがこの一年の足がかりになったらいい

最後に松澤先生に今回のワークショップを振り返ってもらいました。
「前回もお話ししましたが、何度でも〝壊してはつくりなおす〟その作業を時間の許す限り繰り返すところにこのワークショップの意味があるんですね。
〈アート〉の現場においては、この破壊と再生の行為こそが最も重要なことで、なにかものを生み出す、つくり出すということはそこが基本になりますから。ある意味、このワークショップはそのための基礎訓練のようなものかもしれません」
先生は、このことを今回も強調していました。

 

それを踏まえて、今回過去二回と異なる試みを行っていることについて尋ねました。
まず、先生は年長クラスの子どもたちには壁面に沿って積み上げていくよう指示をしましたが。
「こうした制約をつけることで、作業は立体的なものを目指しているのに、行っているのは壁という平面での作業という一見矛盾したことに感じます。でもこれは平面構成でありながら凹凸効果も図れるという、表現上どちらの要素も活かせるので視覚的にはとてもおもしろい作品に仕上がります。
ただし、子どもたちにはこんな説明はしません。前回は自由にただ積み上げる作業をしていますから、同じような作業でもこの制約を受けることでなにか違和感を察してくれたらそれで十分」
そう答えてくれました。
続けて、最後のライトアップについては、こう話しました。
「これまで仕上がった作品はホールに差し込む自然光によって鑑賞してきましたが、今回は敢えて自然光を遮り、美術館等で実際に行うような人工的なライトによる効果を狙った演出を用いました。いわば、簡単な〈アート〉的手法です」
今回ライトに映し出された自分たちの作品を見たときの反応は、過去二回のものとは明らかに違って見えました。子どもたちにとって、これはとても有意義な体験だったことでしょう。
そして先生は、こんな言葉で締めました。
「新たに試みたことも含めて、今回のワークショップがこの一年の確かな足がかりとなってくれたらいいですね」

ドキュメンテーション

紙コップのインスタレーション
今回は紙コップ一つから始まります。
一つの小さなものでも、それが大量に集まると、大きく景色や空間を変えることが出来るのです。
紙コップが積み上がる、高くなる、しかし一瞬にして崩れる緊張感も伴います。

構築から破壊へ
破壊があるからまた新しく生まれる
そんな隠れたメッセージも内包しているインスタレーションです。

written by OSAMU TAKAYANAGI