気象庁より羽村市に対して、大雨警報・洪水警報・土砂災害警戒情報が出されました。
現時点で羽村市からの発令はありませんので、明日は通常通り開園する予定ですが、明日の朝7時以前に、大雨により警戒レベル3以上の発令が羽村市から出された場合、保育園は休園となります。また、明日の保育中に大雨警報が発令が出された場合は、お迎えのご依頼をさせていただきます。
詳細につきましては、下記ページをご確認ください。
https://aozora.sunshine.ed.jp/fusui/
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今年5月、アメリカの現代美術を代表する巨匠が亡くなりました。
フランク・ステラ(Frank Stella:1936~2024)、享年87でした。
1950年代にミニマルアートの先駆者として頭角を現すと、1980年代以降は物体の破片や湾曲した平面、または立体物を大画面に貼り付けてそのまま壁面や床に置くなど、絵画と構造物を融合させた3次元的な作品をつくり続けてきました。
絵画という形態におけるさまざまな課題に取り組み、表現者としてアートの可能性を最後まで追及した作家です。
まだまだ第一線での活躍が期待されていただけに、画家ステラとその作品を敬愛する世界中の愛好家、そして多くのアーチストらが彼の死を心から悼みました。
かく言う「にじいろワークショップ」を企画・指導する松澤先生も、彼の死を悼んだそのひとりです。
それが契機になって今回のテーマを選定したということではないのですが、あらためてフランク・ステラの作品(功績)をふり返ると、ワークショップに活かせるヒントがたくさん詰まっているのではないか、と先生は言います。
いっそのこと、ワークショップでフランク・ステラの作品を子どもたちに紹介しよう、という試みにも発展。
ですが、そこまでいくと、彼の作品はいわゆる〈現代美術〉と称する分野。おとなでも敬遠しがちなのに4~5歳の子どもたちにどう紹介するのか、普通であれば懸念するところです。
ところがフタを開けて見れば、なんと、年中・年長クラス共に子どもたちはフランク・ステラの作品にどっぷり浸かって、おおはしゃぎという展開に!?
さて、実際いかなる反応を示したのか、今回の「にじいろワークショップ」にもご注目ください。
※オマージュ:芸術などの創作分野において、影響を受けた作家や作品に対する敬意や尊敬という意味。
年中・年長クラス共に、はじまりはプロジェクターを用いたフランク・ステラの作品鑑賞から。
「今日は、まずみんなに、先生の大好きなアメリカの画家フランク・ステラの作品を見てもらいます」
先生はこういうと、あらかじめ設置された大型スクリーンに、まずは作品の前に立つ彼の写真を投影しました。
年中・年長クラス共に子どもたちは「どのこのおじいさん?」という顔を見せましたが、先生の説明を黙って聞きながらスクリーンに見入っていました。
次に彼の作品を投影しはじめました。
そこに映し出された作品は〈現代美術〉ですから、静物や風景、人物などといった一目でわかる一般的な絵画と違い、なにがそこに描かれているのかさえわからない、いわばとらえどころのない作品ばかりです。
ところが驚いたことに、年中・年長クラス共に子どもたちはそうした作品に一瞬でハマったようで、
「なんだ、それ?」「わかんな~い」「ヘンだよ」といっせいに口走りながら、なんとクラス中が大爆笑。
そのうち、ある子どもがスクリーンに近づき「ここに鳥の羽根が見える」というと、ほかの子どもたちも
「これはおおきな布団」「カッパの足じゃない?ここだよ、ここ」「牛がいるよ、ほらね」「これはダチョーの足かな?」と騒ぎはじめました。
先生はそんな子どもたちの反応に戸惑いながらも、
「え、なにに見えるの?」と聞くと、なんと全員がこれまたいっせいにそれぞれ思いついたことを発言しはじめました。先生はあわてて、
「待って待って、じゃあ順番に手をあげて発言してもらおうか」と言うと、またまた全員がいっせいに「ハイ、ハイ、ハイ!」と手を上げました。
子どもたちは順番に前に出てスクリーンを直接差しながら答えていきました。
これは年中・年長クラス共に同じで、作品のある部分がチーズ、チョコ、マシュマロといった食べ物に見えたり、オレンジ色や緑色のヘビから恐竜といった生きものだったり、年長の子どもでは風の流れや海の大波といった自然界の動きに見えたりと、多種多様なものに見えていました。
つまり、子どもたちは全体というより作品を構成するさまざまな要素(部分)のカタチや色に反応しているのが分かります。
それも、子どもによってとらえる要素(部分)も、見えてくるモノもまるで違うことにびっくりです。
指摘されれば、「なるほどな」と思うこともあれば、その子の感性に追いつけないことも。
子どもたちにとっては、作品(絵画)がどんな意味を持つのかということより、たとえひとつの構成要素(部分)であっても純粋に見たまま、感じたままにとらえることにおもしろさを見出したのでしょう。
おとなは理屈から物事をとらえがちですから作家の意図することを賢明に探ろうとしますが、こうした見方もあながち間違いではないのかもしれません。こと〈現代美術〉と称するような、一見入口が狭き門のように見えるものを鑑賞するには。
さて、ここから創作活動に入ります。
まずは子どもたちをホールの端に置いた小さなテーブルに集め、先生はその中央に、子どもたちはその周りに座りました。
そこで先生は、あらかじめ用意した厚紙で作成したフランク・ステラ風「枠組み」を取り出しました。
これが今回の創作には欠かせないキャンバス(支持体:画布や紙、板など)になります。
先生はこの「枠組み」について
「フランク・ステラへのオマージュということですから、少しでも彼の作品世界に近づけるよう、彼の作品を意識した枠組みをつくってみました。さすがに子どもたちがここからつくるのは無理でしょう」
笑いながらそう話してくれました。
その「枠組み」は、B4判ほどの厚紙をベースにしたもので、全体の形を成す四辺から内側に向かって5~7cmほどの余白を残し、真ん中の部分をおもしろい形や直線・曲線などで切り抜いたものです。
なので、厚紙の真ん中には奇妙なカタチだけが残されていて、テーブルに置くと、その模様のすき間にテーブルの木目が見えます。
「枠組み」は子どもたちの人数分用意されていますが、真ん中の切り抜き模様は3種類。
どれを選ぶかで、最終の完成形が微妙に変わりますが、それよりも子どもによって創作過程がおのおの異なるので、どれ一つとして同じものはできませんが。
先生はその「枠組み」を子どもたちに見せながら、これ、何に見える?と聞きました。
子どもたちは、「お面!」、「顔みたい」と答え、先生は自分の顔にそれを当てて、「こんなかな?」とおどけて見せました。子どもたちはその姿を見てまたも大笑い。
先生は続けて、
「今日は、これ(「枠組み」を指して)を使って、さっき見たフランク・ステラのような作品をみんなにつくってもらいます」
子どもたちは「え~~~!?」と言いながらも、先ほどのスライドと、これから創作することの内容が同じ線上にあるのかないのか、なんとも微妙な反応です。
でも、それでいいのです。さっきスライドで見たどこかのおじいさん(=F.ステラ)、そのひとが描いた(創った)であろう変な作品の数々、それらが記憶のどこかに残像として有れば、きっとこの「枠組み」とどこかで結びつくはずです。
それから先生は、両面カラー(表裏色違い)の工作用紙、そして工作ボンドに今回初めて使用するたくさんのホチキスをテーブルに並べました。
そして先生は、テーブルに置いた「枠組み」に話しを戻し、
「これ、真っ白だから色や模様をつけちゃおうか」と言って、クレヨンでその枠組みの白い部分に模様を描き込みました。
「青い線がいいかな?」と先生。
「じゃあ、波線がいいよ」と子どもたち。
そんなやり取りをしながら、次々に白い部分に模様を描き入れていきました。
それがひと通り済むと、
「そうそう、ここに両面カラーの工作用紙があるから、これをなにかのカタチに切り取って、貼り付けようか?」
と、工作用紙を適当なカタチにハサミで切り取ると、それを枠組みに貼り付けていきました。
最初はボンドで貼り付けましたが、先生はホチキスを手に取り
「これ(ホチキス)はなんだかわかるかな?」そう言って、まずは切り取った工作用紙と「枠組み」をホチキスで留めてみました。
日常生活のなかでどれほどホチキスを使用するのか、それは個々に置かれた状況によっても異なります。
ただ、園での生活においては、子どもたちにホチキスを使わせたことはないとのこと。
それはそうですね、ホチキスは便利な道具ですが、指先などケガをする危険性も高いですから。
でも、使い方をしっかり習得できれば便利な道具であることは間違いありません。
そこで先生は、せっかくの機会なので、保育士が子どもたちとマンツーマンで対応しながらホチキスを使ってみましょう、と提案しました。
ホチキスを使用することで、ワークショップにおいても活用範囲が広がります。また、子どもたちにとっても大きな体験となるでしょう。
先生はホチキスを使用し、お手製の「枠組み」とさまざまなカタチに切られた工作用紙を思いつくままにいくつも留めていきました。
それもただ平面で留めるのではなく、工作用紙を丸めたり、折り込んだりして、立体物として「枠組み」にホチキスで留めていきました。
すると、留められた工作用紙が土台である「枠組み」をはみ出して、四方八方に向かって飛び出していくように見えました。
そして、パッチン、パッチンというホチキスの小気味よい音が、子どもたちの創作意欲を駆り立てていくように聞こえました。
いよいよ子どもたちの実践です。
年中・年長クラス共に子どもたちは先生お手製の「枠組み」を三種類のなかから選びました。
ほかに準備した表裏色違いの工作用紙、そして段ボールの小さな切れ端なども素材として選びました。
急ぎテーブルに戻ると、子どもたちは迷わず「枠組み」にクレヨンで模様や色をつけ出しました。
それと同時に工作用紙にハサミを入れて、自由に好きなカタチに切り出し、それにも模様を描き込みました。
しばらくしてその作業が済むと、「枠組み」と素材を貼り合わせる準備に取りかかりました
貼り合わせするためにいつものボンドも用紙しましたが、年中・年長クラス共に子どもたちが選択したのは、もちろんホチキスです。
子どもたちは初めて使うので、まずは先生や保育士たちが一緒になって安全かつ確実に使いこなせるよう、しっかり指導していきました。
初めての道具を使いこなすにも性格や個性が表れます。
一度で使いこなす子、何度も失敗を重ねる子、ものごとを慎重に取り組む子、不安が先に立ちなかなか手に馴染まない子・・・でも、人間のつくり出した道具って、入口の在り方は違っても、最初の一歩を踏み出せば、誰もが入っていけるものです。一度コツさえからだが覚えてしまえば勝手に指先だけで使いこなせます。
などと言っているうちに、子どもたち誰もが当たり前のようにホチキスを使いこなすようになりました。
さて肝心な創作物ですが、年中クラスの子どもたちは躊躇(ちゅうちょ)なくホチキスを多用し、それぞれの感覚や感情の赴くままに個性豊かで、バラエティに富んだ作品を仕上げました。
年長クラスの子どもたちは、一歳年上ですし、ワークショップの創作経験も一年経てきているので、さすがにどの子も器用にホチキスを使いこなして作業を進めていきました。
ですが、年中クラスの子どもたちのような〝感覚や感情〟による表現がちょっと見られない気がします。
それはおそらく、アート的な完成形というか、自分なりに目指した仕上がりを崩したくない、崩すのが怖い、という思いの表れではないかと思います。
そうしたこともあり、先生は年長クラスの子どもたちに
「ある程度作品ができ上ったら、絵の具を用意したので、最後の仕上げに好きなように色をつけていいですよ」と言いました。
子どもたちは自分が手にしている作品がすでに完成形だと思っていたのですが、先生に促されて別のテーブルに用意された絵の具を見渡して好きな色を選びはじめました。
そのうち、どの子も絵筆にたっぷりと絵の具をつけて、手早く筆を動かしていきました。
先生の狙い通り、最後に作品に塗り込めた絵の具が功を奏したのか、年長クラスの子どもたちの作品がより質の高い、個性的な彩りをまといました。
ワークショップ終わりは年中・年長クラス共に、いつものようにホールの壁に、床に並べてみんなで鑑賞しました。
それにしても、最初にスライドで見た作品の印象が残っていたのでしょうか、どの作品もF.ステラばりの仕上がりです。まさにこれこそ、〈フランク・ステラへのオマージュ〉にふさわしいワークショップとなりました。
子どもたちの作品は、最終的にエントランスにある図書スペース前に展示されました。
こうして眺めると、ちょっとした現代美術館に入り込んだようです。もし当園に訪れる機会があれば、じっくりご鑑賞いただきたいと思います。
では、今回も最後に「にじいろワークショップ」を企画・指導する松澤先生に話しを聞きましょう。
「フランク・ステラという作家に端を発した企画ではありましたが、これほどまでに子どもたちにウケるとは思いませんでした(笑)。でも、かえって自由な空気が流れ出してくれたので、その後の創作作業がやりやすくなったかもしれませんね」
そんな先生に、確かにあれほど盛り上がるとは・・・と返すと、
「ひとつ感心したのは、どの子の意見に対しても、誰ひとりとして反対したり否定したりしないということ。互いに互いを認め合っているのか、それとももともとひとはひと、私は私ということなのか、いずれにしてもおとなにはできないことですよね」
先生はそんなことを呟きました。
ところで、今回のワークショップの意味合いはなんでしょうか?そんな素朴な質問に対して、先生は即座にこう答えてくれました。
「なによりF.ステラの作品に触れて、それに触発されることで、何かに縛られない、自由な発想と行為を体感して欲しかったということですね。
具体的に言えば、決められた形や色に従って切ったり、貼ったりするのではなく、思いつくまま自由にハサミを入れて、偶発的に素材と素材を貼り合わせるという、一見単純な行為ですが、そこには第三者の意図するものはなく、あくまでも自分の意志と自然な成り行きだけですべてを行うということで、それによって〈偶然〉でき上がったものの素晴らしさ、予想もしなかった付加価値に気づいてくれたらという思いですかね」
それは、今回でき上った作品を見れば、自ずと先生の思いは伝わったように感じます。
また、そのことに重ねて先生は、
「そうそう、それと、すべてが平面である一枚の紙であっても、つくり込んでいくうちに立体的な構造物に変貌するという、この不思議な創作体験も記憶のどこかに残しておいてくれたら嬉しいですね」
そう付け加えました。
話題を変えて、ホチキスを初めて創作に使用したことに触れると、
「ホチキスという道具を使うことで、どんなに素材を折ったり、曲げたり、丸めても簡単に素材同士を貼り合わせることができるでしょ。それによって、新たな表現方法を習得できるということです。
ボンドなどでは乾くまで押えている必要もあったし、セロテープでもせっかく付けてもはがれてしまってイライラするという光景をよく目にしましたが、ホチキスはしっかり留めればそうそう剥がれず、しかも瞬時に留めることができるから、無駄なストレスがかからないということもあるかな」
そんなふうにホチキスの効用について話し、さらに続けて、こう話しを締めました。
「またF.ステラに戻りますが、彼の全盛期の仕事は、そのほとんどがアナログの時代でした。つまり、すべてが手仕事なんですね。だから想定外の失敗も多かったと思うのですが、失敗もそれはそれでアートとして成立させていくというか、それも楽しんでいたように思います。
今回の子どもたちも、彼へのオマージュということもありますが、結局は切って、貼って、描いて、塗ってとすべてアナログの手仕事を自然に体験したことになります。
おそらく最終的に子どもたちも想定外の失敗がたくさんあったでしょうけれど、それも楽しんで作品として完成させました。そのことが一番、大事なことだと思います」
当初は、テーマの難解さと創作の内容がうまく想像できなかったのですが、順を追って進むうちに、先生の思い、子どもたちの反応が徐々に交錯していき、最後は見事にひとつの作品として完結していくという、このワークショップの深さに敬服しました。
アメリカ現代美術の巨匠、フランク・ステラが今年(2024)5月に亡くなりました。
ミニマルアートの先駆者であり、不規則な構造物が入った三次元的な作為品群は日本でも人気があります。
50年代、インターネットもデジタルAIもない時代に、いかにも手作業で、重い素材を切り出し、構成して貼り付け、汗を垂らしながら制作したであろう表現活動は現代においては、どこか懐かしいささえ感じられる気がします。
無骨でもセンスが良く、迫力のあるその表現に私もなんども圧倒されました。
今回は、子どもたちとフランク・ステラの作品を鑑賞しながら、枠から飛び出す、のびやかな、形へ挑戦します。
written by OSAMU TAKAYANAGI
今日(8/16)は通常通り開園します。
登園の際には雨・風にくれぐれもお気をつけください。
なお、保育中に警戒レベル3以上の発令が羽村市から出された場合、一斉メールにてお迎えのご依頼をさせていただきます。
詳細につきましては、下記ページをご確認ください。
https://aozora.sunshine.ed.jp/fusui/
最近ニュースや天気予報でよく耳目に触れるのが、「危険な暑さ」というアナウンス。
そうは言われてもその基準が曖昧なので、どう対処すればよいのか困りますよね。
また今年(2024年)4月から、熱中症警戒アラートの一段上の〈熱中症特別警戒アラート〉が新たに創設されました。
こうした暑さがまだまだ続くのかと思うとうんざりしますが、そんなおとなたちの日々の気持ちより、この先未来を生きる子どもたちのことを想像すれば、いま私たちおとなが成すべきことは何かと真剣に考えるときではないのでしょうか。
こんな筆者でさえ思うのですから、保護者のみなさんや園の関係者のみなさんはさぞご苦労なことかとお察しします。
さて、そんな「危険な暑さ」の続く7月、今期4回目のにじいろワークショップが行われました。
さすがに室内でのワークショップでしたが、驚いたことに自然の光も風も通り抜けていくようホールの窓を全開にして、屋内も屋外(ベランダ)もひとつの共有スペースとして使用できるようにセッティングされていました。
しかもこの空間だけは暑さを感じることなく、むしろ快適な温度が保たれていたのです。
それはもちろん当園の構造や冷房設備、保育士たちスタッフが協力してつくり上げているものですが、外部から見れば、この暑さのさなかにちょっと不思議な空間に映るはずです。
今回のワークショップはそんな特別に設営された環境を活かし、より涼し気な気分を満喫しながら色と光が放つ視覚のおもしろさ、そして柔らかでひんやりとした感触を体感できる「色水のカーテン」をつくります。
とはいえ、「色水?」そして「カーテン?」と言葉を聞いただけではどのようなモノ(作品)ができるのか、皆目見当もつかないと思います。
それはまあ、これから順を追ってじっくりご紹介します。
ところで、メインの素材となるのはカラーインクですが、実は2021年4月に「色いろあそびとクリームソーダ」というテーマで、同じくこのカラーインクを用いて〝色水あそび〟のワークショップを行っています。
ただ、このときは純粋に色水をつくり出して、視覚的な面白さに特化したものでした。
ですから今回は、いわばその進化形といえるかもしれません。
2021年に行ったワークショップで〈色の三原色〉について紹介しました。
それはシアン(青緑色)、マゼンタ(赤紫色)、イエロー(黄色)の三つの色を指すということ、そしてこの三つの色を混ぜ合わせることでさまざまな色を生み出すことができるということでした。
今回もこの〈色の三原色〉を用いて、さまざまな色の「色水」をつくります。
はじめに準備したのは、空のペットボトル(500mlサイズ)に無色透明な水を入れたものを20本ほど。
それをホールの中央、ベランダとの境に並べて置きました。
それだけでも外光が差してキラキラ光って見えるので、ちょっとしたオブジェのようです。
それからカラーインクと小さな透明のプラスチックカップ数十個。
それに、仕上げに使う透明なビニールの傘袋(濡れた傘を入れておくための細長い袋)を子どもたち全員の分+予備で多めに用意しました。
なお、今回のワークショップは、内容だけでとらえたら年中・年長クラス共にほぼ同じです。
もちろん年齢と経験の差はところどころに表れますが、基本的に優劣なく、当園の子どもたちにとっては誰もが完成形まで到達できるものです。
では早速はじめましょう。
年中・年長クラス共に、先生のいつもの身振り手振りを交えたユーモアに満ちたお話しから。
子どもたちの笑い声がホールに響き渡ったところで、先生は用意したペットボトルを1本取り出し、目の前のテーブルに置きました。
次に青色のインクボトルを手にして、水の入ったペットボトルにそのインクを一滴注ぎました。
すると、その一滴のインクの青色が水のなかにゆっくり広がっていくのが見えます。
まるで生きものが水のなかで増殖していくような・・・。
子どもたちからは驚嘆の声が上がりました。
年中・年長クラス共に、こんな不思議な光景を見るのは初めてですからね。
先生はさらに同じインクを数滴加えました。すると、透明だったペットボトルの水がみるみる青色に染まっていきました。
「うわ~~!」「キレイ」「おもしろい」「スゲ~」
その瞬間、子どもたちからいろいろな声が飛び出しました。
そこで保育士たちは、子どもたちの座る各テーブルの上に水の入ったペットボトルを数本ずつ置いて回りました。
先生は端のテーブルから順番に、先ほどと同じように青色のインクボトルからペットボトルへ一滴ずつ注いでいきました。
そこに現れる青色インクの広がり方は、さっき見た光景と同じようですが、ペットボトルによってまったく異なる動きすることに気づきました。
それから先生は、ほかのペットボトルにも赤、黄色と次々に違う色のインクを注いで回りました。
やっぱりどれも同じように見えて、水の中に広がっていく動きがまったく違います。
どの子も、そんなペットボトルの中のインクの動きを呆然と見つめていました。
その後、すべてのペットボトルに同色のインクを数滴ずつ加えると、いつの間にかペットボトルの中身全体が青、赤、黄色に染まっていきました。
まるで魔法でも見るようなこの光景に、子どもたちはおおはしゃぎです。
先生は各テーブルに出来上がった色水のペットボトルを1本取り上げると、今度は小さな透明のプラスチックカップにその色水を移し入れました。
その色水を入れたカップを、先生は敢えて光の差すところに掲げてみせました。
ペットボトルから移した色水は、透明なカップのなかで光を浴びると、なにか違う色水に見えてきます。
ほかの色のペットボトルからもプラスチックカップに移して眺めると、それもまた違う色に見えました。
さらに先生は色の異なるペットボトルを2本取って、ひとつのカップのなかに半分ずつ別々の色水を入れました。
それをカップごと手早く揺らすと2つの色がグルグル回りながら混じり合って、それこそまったく別の色に変わりました。
「あ、みどりになった!」「こんどはむらさきだ」
と子どもたちは色の変化に次々と反応しました。
先生はそれらカップを、ベランダに沿って建てられた外壁の上部に並べて置きました。
陽射しを浴びたそれらカップの色水は、独特な美しさを放って見えました。
先生はしばらく外壁に並べたカップの色水を眺めて、
「さあ、それじゃあここまでをみんなにもやってもらうからね」
と子どもたちを促しました。
ここまでなら、年中・年長クラスの誰もが何の疑問もなくできることです。
子どもたちはそれぞれプラスチックカップを受け取ると、すぐさま同じようにペットボトルの色水をそれに移しはじめました。
そこで先生はこう言いました。
「青の色水と赤の色水を混ぜ合わせたのに、○○くんのカップの中の色と○○くんのカップの中の色は同じに見えないね?」
子どもたちは隣に座るお友だちのカップの中の色水と自分のカップの中の色水を見比べました。
「ほんとだ⁉」
「同じ色水を入れたのに?」
「半分ずついれたよ」
不思議そうにカップのなかをのぞき合いましたが、やっぱりみんな違う色です。
「それはね、もともとのペットボトルに注いだインクの量も違うし、カップに入れる2色の色水の分量によっても変わるんだよ。
青の色水をいっぱい入れたら青色が濃くなるし、赤の色水をいっぱい入れれば赤色が濃くなる」
先生はそう説明しました。
さらに「だから、誰ひとりとして同じ色はできないんだよ。
それに、同じひとが次に入れても、やっぱり違う色になっちゃう」と付け加えました。
そこで、たくさんのプラスチックカップを子どもたちに配り、先生は言いました。
「一個一個のカップに、自分の思う通り、好きなようにペットボトルの色水を入れてごらん。
カップの数だけたくさんの色水ができるから!」
子どもたちは色水が混ざり合うことで、いろいろな色ができることのおもしろさを知りました。
しかも、自分の手で自由に混ざり合わせることができるのですから、こんな楽しいあそびはありません。
テーブルの上にたくさん並んだ空のカップの中に、どんどんペットボトルの色水を移していきました。
いつの間にかどのテーブルの上にも、微妙に色の違う色水入りカップがたくさん、たくさん並びました。
ここでちょっと横道にそれますが、年長クラスの子どもたちには、ただカップに色水を移すほかに、こんなこともできるよ、という先生からのアドバイスがありました。
それは、色水を混ぜない、それでも一度に二色以上見せる方法です。
例えば、青の色水をカップに半分移して、もうひとつ別のカップに赤の色水を半分移し、その二つのカップをひとつになるように重ねます。すると、重なったカップに二の色が、混ざることなく二段に重なって見えます。
もうひと色を加えるなら、ひとつのカップに移す色水の分量を1/3ずつにして、三つのカップをひとつに重ねます。
どの色もほかの色と混ざることはなく、そのままの状態で眺めれば、2色、3色がサンドイッチのように重なって見えてくるというやり方でした。
年長クラスの子どもたちはこれにすっかり魅せられたのか、誰もがそれを真似しはじめました。
では話しを戻しましょう。
先生は、最初に見せたように、たくさんの色水の入ったカップを外壁の上部やベランダの床に並べてみよう、と言いました。
子どもたちは保育士にも手伝ってもらいながら、長くまっすぐに伸びた外壁の上部やベランダの床にきれいに並べて置きました。
太陽の光に照らされた色水入りカップが、外壁やベランダを装飾したようにキラキラと美しく整列しています。
いったい全部で何色の色水ができたのでしょうね、50色かな、100色くらいかな、いやそれ以上かも。
そうした光景を、子どもたちをはじめ、先生や保育士たちはしばらく眺めていました。
ここまでは数年前に行ったワークショップの展開と同じです。
でも今回は、ここからが進化形と呼ぶにふさわしい内容に変わっています。
先生はあらかじめ用意していた透明なビニールの傘袋を取り出すと、色水のカップをひとつ手に取って、一気にその色水を傘袋の中に流し込みました。
子どもたちは、いきなり先生が何をしているのかわからずにびっくりするばかり。
先生はそんな子どもたちの目の前で、傘袋に入れた色水を揺らしたり、手でつかんだりして見せました。
傘袋の中の色水は、カップの中の色水ともまた違うように見えました。
先生は色水がこぼれ出ないように傘袋の端を持って、ぶるんぶるんと大きく揺らしました。傘袋の中の色水はその揺れに合わせて、自由に跳ねまわっているように見えます。
子どもたちの視線は、もうそれに釘付けです。
先生と保育士たちは子どもたちにその傘袋を配り、ひとりひとり順番に、子どもたちが選んだカップの色水を流し込んでいきました。
ひとつのカップの色水を入れたら、それがこぼれ出ないように傘袋の下方をひとつ結びます。そこにまた別の色水を流し込み、またそこで結びます。
これで傘袋の中はふたつの色を閉じ込めることができました。
年長クラスの子どもたちは、傘袋の中にもうひと結びして、三色の色水を流し込みました。
それから子どもたちも先生がしたように、傘袋の中の色水を手でつかんだり、つついたり、ゆっさゆっさと揺らしたり、また自分の首や手首に巻いたり、押し当てたり・・・まるで生きものと接するように色水と遊びはじめました。
カップの中の色水は眺めるだけでしたが、こんな風に色水(液体)と遊べるなんて、子どもたちにとっては不思議な、初めての体感です。
先生と保育士は一本のロープを右の柱から左の柱に渡し、そこに子どもたちがつくった傘袋の色水を吊るしてみました。
自然の風に揺れながら、太陽の光に輝くたくさんの傘袋の色水が、まるで〈カーテン〉のように吊り下がって見えました。
こんな猛暑のさなか、そこだけ涼やかな風が吹き抜けていくようで、思わず季節を忘れてしまいそうでした。
最終的にでき上がった子どもたちの作品は、当園の入り口から玄関までの通路の上に飾り付けることになり、先生と保育士が取り付け作業を行いました。
ここが一番、保護者のみなさんが送り迎えに我が子の作品を鑑賞していただける場所ではないでしょうか。
そこで、ふと気づいたのですが、毎回のことながらこうした作品の展示はもとより、スムーズにワークショップが行われるように準備やその手配に尽力してくれる中村主任保育士の存在を忘れがちなので、これを機に少しお話しを聞きました。
当初は当ワークショップの専任の保育士かと思っていましたが、日常の担当業務をこなしたうえでのサポート業務ということですから改めてそのご苦労を知りました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生との連絡役であることから、こうした準備段階からサポートをするようになったとのことです。
松澤先生いわく、「思いつきで言ってしまうようなことも、まじめに何度も聞き返し、何度も確認してくれるので、いまではすっかり頼れる存在ですよ」とのこと。
「準備に関しては、細かな説明を求めて連絡を取り合います。園のストックもありますが、新たなモノなどはその準備に時間がかかって大変なこともありますが、新しいモノを知ることでもあって、いまではそんな作業も楽しんでやっています。また松澤先生は身近な素材を使うことが多く、お金をかければいいという考えではないので園としても助かります」
中村主任保育士は、笑いながらそう話してくれました。
それでも本人は、アートという分野は昔から苦手意識があって、それは今も変わらないので、と言います。
「でもワークショップを通じて、視点を少し変えるだけでこんなに物事の見方や感じ方が変わるんだ、というようなことに気づかされることが多くあります。そんなとき、これに携わってきて良かったな、と思います」
そう言うと、あと片付けの作業に急いで戻っていきました。
目には見えない、まさに縁の下の仕事ばかりですが、ワークショップが円滑に、そして何よりも安全で楽しく行われるよう、これからもサポートをよろしくお願いします!
最後は松澤先生に締めていただきましょう。
「内容から言えば年中・年長という年齢差はもちろん、器用、不器用というような優劣もつかず、誰でも参加でき、どの子も一定の成果が得られるというものですから、遊び感覚で楽しめるワークショップだったと思います」と、まずは端的に語ってくれました。
さらに続けて、
「具体的な効果ということで言えば、ペットボトルから小さなカップに液体(色水)をこぼすことなく上手に移す、その動作を繰り返す、ということで手先の感覚が磨かれます。
それから、移す分量によって色が変化するということを覚える、そこで〝さじ加減〟を自分の意思でコントロールできるということを体感する、ということですね」
先生は日ごろから、子どもたちに〝学ばせる〟のではなく、〝遊び〟のなかで自ら体感したことを、自らの五感の中に残す、つまり自ら何かを得ていくということが幼児期には大事なことではないか、と話しています。
また先生は、
「ビニールの上からですが、液体(色水)を触ってみて、子どもたち自身がその感想として、もちもちしてる、ふにゃふにゃするなぁ、やわらかくて気持ちいい、って言ってたでしょ。そういう言葉は自然にその行為から誘発されて出てきたと思うんですね、誰かに強要された言葉ではなく。
ペットボトルやカップの中の液体(色水)だけをただ眺めていても、そんな感想は出てきませんからね」
とやや語気を強めて言いました。
「少なくとも今回のワークショップで、普通はペットボトルやカップにあるだけの液体(色水)でも、それをつかんだり、なでたり、つまんだりという感触を得ることができるんだ、ということを知ったことは大きいんじゃないかな、しかも傘袋1枚あればいいって」
先生は笑いながらそう話し、
「それと、今回のような解放感ある環境をつくってあげることも重要なことです。外からの風も、光も、要は自然をそのまま感じながらワークショップを行えるということは子どもたちにとって一番の体感です。
特に今回のようなテーマは、屋内で黙々と制作していても刺激的なものは受けませんからね。ただこの連日の猛暑日のなかでは完全に屋外で行うというのも・・・と思案していたところ、園のみなさんの協力でこうした環境を整えてくれたことに感謝ですね」
こんな言葉を残して、終わりました。
三原色の色水を混色して美しい色水をつくるのは、子どもたちが夢中になる遊びです。
瞬時に鮮やかな色になるさまは、まさに魔法のようです。
大量につくった色水をカップのまま飾ることは以前にもやって来ましたが、今回はつくった色を飾ってみます。
夏の光を透過した色の美しさを感じたり、さわったりして、視覚的にも触覚的にも楽しんでみたいと思います。
written by OSAMU TAKAYANAGI
東京都福祉局 子供・子育て支援部 保育支援課長
子供の交通事故防止対策について
日頃より、東京都の保育行政の推進に御協力 いただきありがとうございます 。
標記の件について、 警視庁より、夏休み期間中の子供の重大交通事故の発生抑制に向け、下記のことについて子供に対して指導いただくよう依頼がありました。
つきましては、別添の交通安全情報等(子供用・保護者用)をご活用いただき、 貴職管内の保育所等への 周知をお願いいたします。
【担当】
東京都福祉局 子供・子育て支援部
保育支援課保育計画担当
最近、公共放送で染色に関する番組を観ました。
「伝統の染色技術をヴァージョンアップさせた、新たなモノづくりを紹介」します、と番組の宣伝文句に惹かれたこともあり何気なく観たのですが、これがなかなか興味深かったのです。
特に現代風の木製食器やおしゃれな照明器具に藍染(あいぞめ)を施し、モダンななかにも和風の美しさや風格を備えた商品の数々にはすっかり魅了されました。
それらはいずれも基本ベースとして伝統的な染色方法を採用していますが、若い職人たちの斬新なアイデアが随所につまった画期的なものでした。
歴史と伝統に培われた染色の世界も、こうしていまという時代にしっかり息づいているのだな、と思ったらなんだかとてもわくわくしてきました。
さて、今回のにじいろワークショップは、そんな染色がテーマです。
ご記憶にあると思いますが、昨年の6月にも「紫陽花色のテキスタイル」と題して、染色のワークショップを行いました。
その日はめずらしく梅雨の晴れ間となり、園舎と隣接する送迎用の駐車場で行うことができました。
実は今回もいつものホールで行う予定でしたが、当園の田中園長が当日朝の天気を見て、室内に準備していた材料やテーブルなどといった道具一式を保育士らと急きょ駐車場内に移し換えたのです。
おかげで、二年続けて屋外での染色を行うことができました。
この梅雨時に、よくよく“あおぞら”に恵まれた子どもたちですね。
また当初は室内での実施を考慮し、和紙に染めるということでワークショップを進めていましたが、やはりこれも昨年同様に〈さらし(晒)〉を用いることになりました。
ただし、今回は子どもたちひとりひとりにいきわたるよう、あらかじめ手ぬぐいほどの長さに切り分け、人数分の枚数を用意しました。
こうしてはじまった今期初の屋外ワークショップ。
年中クラスの子どもたちにとって染色は初体験ですから、初ものづくしです。
そして年長クラスの子どもたちは二度目の染色ですが、今回はちょっと前回と勝手がちがうので、これもまた初めての体験となることでしょう。
いずれにしても、楽しみなワークショップになりそうです。
日本における染色の歴史は古く、縄文時代の遺跡からすでに染色された織物が発掘されているといいます。
ただ当時の染色は草花や木の皮などを摺りつけて染めるという原始的なものだったようです。
その後、奈良時代に大陸から染色技術が伝えられると染色そのものが発展していきますが、庶民の間に文化として根付くのは、さらに時代が進み江戸時代に入ってからのことだそうです。
そして明治時代にイギリスなどから化学染料が輸入されると、急速に国内に広まり、以来日本独自のさまざまな染色技術が生まれていきました。
今回はそんな染色技術のなかから、「たたみ染め」の方法を用いた染色を行います。
では「たたみ染め」とは・・・おっと、これは子どもたちと一緒に先生が教えますので後ほど。
まずはいつものように年中クラスの子どもたちからはじめましょう。
初めての屋外ワークショップに、弾む気分はかくせないようです。
園舎の出入り口あたりから、すでに子どもたちのはしゃぐ声が駐車場へと響きわたってきました。
駐車場の中央にブルーシートが敷かれ、その上には長いテーブルが並んでいます。
その端には今日のために用意された染料、絵筆、ボール型の器、古新聞紙などたくさんの材料が置かれています。
子どもたちは駐車場に入ると、いつもと違う光景に一瞬たじろいだ様子。
そこで保育士は子どもたちにブルーシートの上へ裸足で上がるように指示し、室内同様に決められたテーブルの位置にきちんと座らせました。
脱いだ靴も、まるで子どもたちに倣ったように、きちんと列をつくって並べられているのがなんともほほ笑ましく見えます。
準備ができたところで、先生は手ぬぐい状に切った一枚の〈さらし(晒)〉を手に子どもたちの前にすわりました。
それに合わせて保育士たちが子どもたちひとりひとりに先生と同じ〈さらし(晒)〉を配りました。
柔らかくて軽いこの素材の触感に、子どもたちの気持ちもどことなくほっこりといやされていくようです。
先生はまず自分の手に持った〈さらし(晒)〉をほおかぶりしたり、首に巻いたりしておどけてみせました。
子どもたちも同じようにそれを真似てはおどけ、お友だち同士互いの姿を見合って笑っていました。
それから先生はそれを布団のように下に敷いて、「おやすみ」と言うと床に寝てしまいました。
子どもたちもまたまた一斉にそれを下に敷いて「おやすみなさい!」と。
先生は、ワークショップで使う素材は必ずその感触なり、匂いなりを子どもたち自身に徹底して馴染ませます。
頭や視覚でとらえることは必要ですが、そのものの本質を知るには肌で触れる、匂いを嗅ぐと言った五感をフル活用して確かめることが何よりです。
そんなふうにして子どもたちが〈さらし(晒)〉という素材に馴染んだ頃合いを見計らい、先生は「たたみ染め」の指導に入っていきました。
最初にそれぞれが手にしている一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折り、それを順次表、裏と繰り返して、いわゆる蛇腹折りに折りたたんでいきます。
そうして出来上がった細長い形のものを、さらに表、裏と繰り返して折りたたみ、手のなかに収まるくらい小さくなるまでたたみ込み、最後は厚みのある四角形のようなかたまりにします。
なんだか四角いおもちをいくつか重ねたような、見た目も分厚いかたまりになります。
そのかたまりが崩れないよう十字に輪ゴムでかけたら出来上がりです。
ただし、この輪ゴムかけはとても重要な作業なので、こればかりは先生と保育士が受け持ちました。
ここまで仕上がったら、次は染色です。
先生は染料を溶いたボール型の器を子どもたちひとりひとりに見せながら、
「これから、この染料で色をつけていきます」
と、簡単に説明をしました。
初めての体験ですから、当然それがどんなものか、どのようにするのかはわかりません。
ひと通りそれを見せると、先生は幾重にもたたみ込んだ四角いかたまりを手に取って掲げ、
「ここに四つの角ができているの、わかるかな?」
と、四角いかたまりのひとつひとつの角を指さしながら聞きました。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」
と子どもたちも自分のそれを同じように数えながら確認しました。
先生はそこで
「この角のひとつを、まず藍色の染料につけます」
といって、ひとつの角を藍色の染料の入ったボール型の器につけました。
「そしたら、ふたつめの角を今度は黄色の染料につけます」
といって、別の角を黄色の染料が入ったボール型の器につけました。
「それから、みっつめの角を水色の染料につけます」
残った角は「赤色の染料の入ったボール型の器に・・・」と、四つの角がよっつの色に染まりました。
先生はそれからそれを古新聞の間に挟み、上から力強くぎゅっぎゅと押さえて水分を古新聞に吸わせました。
「手のアイロンだよ、しっかり何度もぎゅっと押さえてね」
と子どもたちに念を押しました。
しばらくしてそのかたまりを取り出し、止めていた輪ゴムを外して折りたたんでいた〈さらし(晒)〉をゆっくりひろげました。
そこには、想像もしていなかった規則正しく並んだ連続性のある模様が、やはり思いもしなかった色彩に染まって描きだされていました。
子どもたちの目は一斉にその〈さらし(晒)〉に注がれ、誰ともなく感嘆の声が上がりました。
四つの角を順々に別の色の染料につけるだけという、やり方はいたってシンプルですが、ここが最も重要になるので焦らず慎重にやりましょう。ここでしっかり染料を染み込ませないと、仕上がりもそれなりに。
子どもたちは先生のお手本に倣って、同じ動作を丹念に繰り返していきました。
年長クラスの子どもたちは、というと染色は二回目ですから、年中クラスの子どもたちよりはやや難しいたたみ(折り)方に挑戦してもらいました。
先生は先ほど手本として染色した〈さらし(晒)〉の作品を掲げて見せました。
その瞬間子どもたちからは、「ワ~きれい」とか「スゲエ―ッ」という声が飛び出しました。
「今日はこれをつくります」と先生は言い、早速のその手順の説明をはじめました。
一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折るところまでは年中クラスと同じですが、ここから先生は1本の割りばしを〈さらし(晒)〉の中央に立て、そのままぐっと上から突き刺すようにきつく押さえました。
そして、片方の手で下にある〈さらし(晒)〉をねじるように時計回りに回転させていくと、〈さらし(晒)〉は中央に立てられた割りばしを中心にうずを巻くようにぐるぐると巻き込まれていきます。
全体が割りばしに巻き込まれたようになったところでその動作を止めました。
先生はその手で〈さらし(晒)〉が動かないように押さえると、中心に立つ割りばしをさっと抜き取り、その形が崩れる前に急いで2本の輪ゴムを交差させながらそれにかけました。
2本の輪ゴムを交差してかけることで、自然にそのものが4分割されました。
それをじっと見ていた年長クラスの子どもたちは、ふーっとため息をもらしました。
先生は難なくやり遂げましたが、今までそんな動作はしたことがないので不安だったのでしょう。
でも、いつものように何事も経験、チャレンジあるのみ!
いやいやどうして、器用に割りばしに巻き込んでいる子がたくさんいます。
なかには、なかなかうまくいかずに何度もやり直す子、できないことにちょっとイライラする子も。
それでも最後は全員が上手にできました。
仕上げに2本の輪ゴムをかけるのは、やはり先生と保育士が行いました。
全員がそれを手にすると、先生は本題である染色のやり方を見せました。
これも、年長クラスにはそのまま染料が入ったボール型の器につけるのではなく、絵筆にたっぷりと染料をつけて直接そのものに色を染み込ませる方法をとりました。
もちろん、全体を一色で染めるのではなく、やはり自然に4分割されたそれぞれの部分に年中クラス同様に順番に別々の色を染めていきます。
染色のポイントは、とにかくたっぷり絵筆で染料を染み込ませることです。
先生は染色を済ませると、さっきと同じようにそれを古新聞の間に挟み、今度は上から足の裏で力強く踏み込んで、余分な水分を古新聞に十分吸わせました。古新聞の表面にはみるみる水が浮き出てきました。
水気がなくなるのを確認したら、それを取り出して輪ゴムをほどき、ゆっくり〈さらし(晒)〉をひろげていきました。
そこに描かれたのは、鮮やかな色彩に染まった美しいアンモナイトのようなうず巻き模様でした。
しかも、ふたつに折り込んでいたので、それをさらにひろげると同じ模様がふたつ並んで見えました。
それを見た子どもたちの反応は言うまでもありませんが、先ほど同様に感嘆の声を上げました。
子どもたちはすぐさま先生を真似て、絵筆にたっぷり染料をつけながら、手にした〈さらし(晒)〉によっつの色を染み込ませていきました。
最後はそれを古新聞の間に挟み、足の裏で力強く踏み込んでいきます。
ところが、この動作に入るとどの子もはしゃぎはじめまて、なかなか止めようとしません。不思議がっていると、どうやら足裏の感触が気持ちよかったのか、踏みつけること自体が面白かったのか、あちらこちらでうどん作りのようにドンドンと、踊るようにバタバタと大騒ぎ。子どもって、思わぬところ(動作)に惹かれるのですね。
年中・年長クラス共に、でき上った〈さらし(晒)〉は駐車場の端から端に張られた紐に並べてつるし、自然の光と風で乾かしました。
染色されたたくさんの〈さらし(晒)〉が、駐車場ではためくその光景にしばし眺め入ってしまいました。
まるで美術館の屋外展示場に飾られたアート作品のように輝いて見えました。
そんな光景を一緒に眺めていた田中園長は、
「子どもたちも屋外の空気を満喫していたし、何より自分でつくった作品を自分たちの手で干して乾かしたり、それを同じ場所で、全員で鑑賞することができましたからね。ここでできてよかったです、急な引っ越しでしたが(笑)」
と機転を利かせ、室内から慌ただしく場所を屋外へと移したことに、やっとほっとしたように話しました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「そうですね、はじまりから終わり(鑑賞)まで一連の流れで体感して欲しいというのはいつも思うことで、それができたことは本当に良かったです」
そんなふうに園長の英断を称えていました。
そこで、最初から最後まで全体を忙しなくサポートしていた田中園長に今回の感想を聞いてみました。
「折り方、染め方を同じようにしても、模様も色合いもこれほど個人によって変わって表れるというのは驚きでしたね、普段の生活のなかでは、同じようなことをすれば、だいたい同じような結果に収まりますから。
それと、年中さんは明るい色彩が多かったように感じましたが、年長さんはぐっと落ち着いた色彩が多かったようにも。少し前まではいまの年中さんと同じようだったと思うんですけどね、この差ってなんだろうか、なんて思いました」
そして、最後に笑いながらこう付け加えました。
「(紐につるされて並ぶ作品を眺めながら)これらを使って、子どもたちの浴衣をつくってあげたいなぁ、という気分になりましたよ。世界にたった一枚の色彩と模様を持つ生地ですからね」
ではいつものように、先生に今回のワークショップをふり返ってもらいましょう。
「染色自体は歴史のある伝統的なものです。この世界を極めようと思うと、それは大変なことです。
でもここのところ、幼児を対象としたあそび感覚の染色を行うのをよく見ます。
やり方はさまざまですが、この利点というのは、誰がやっても作品として成り立つこと、感動も達成感も得られますからね。それから出来上がりに優劣がつかないということなどだと思います。
今日のでき上りをみても、どれもが色彩豊かで、模様もさまざまに描かれていて、ほんとうにすべてが魅力的です。
こればかりは偶然の産物なので、うまくやろうとか思ってもできないし、むしろ不器用でも無心でやった子の作品が良かったりしますからね」
さらに続けて、
「実は今回室内で行う予定でしたから、素材に和紙を使うことを想定していました。
本来、たたみ染め(折り染め)は和紙でやるものなんですね。それなら仕上がった後もほぼ乾かすだけで済みますから。でも結果的に〈さらし(晒)〉を使うことで、より伝統的な染めの世界観を味わうことができたと思います。
また今後同テーマで行うなら、例えば「草木染め」のように植物や野菜など自然素材を使って染めるといった、つまり元となる染料から自分たちの手でつくるような取り組みは面白いかなと思っています。
与えられたものから生み出すのではなく、そのさらに元から生み出すということができたら、感動も倍になるんじゃないかな、特に好奇心旺盛な子どもたちにとっては」
笑顔でそう言って締めくくりました。
好奇心旺盛といえば、先生自身も負けず劣らずかなりのものだと思うのですが(あくまで私見です)。
後日、子どもたちの作品を一度洗うというお話しだったので、どうなったのかを尋ねたところ、
「洗う際に色止めをした方が良いということで、いま色止め剤が届くのを待っているところです」
との返答でした。園でそこまで仕上げてから、園児一人ひとり持ち帰る予定とのことでした。
伝統のあるものは、例えこのようなあそび的なものであっても、これほどまでに手間暇がかかるのだ、と実感しました。それだけに、手にしたときの感動や喜びが大きいのですね。
たたみ染めは、いわゆる着物や手ぬぐいなどに用いる伝統的な板はさみ染めとははじまりが違うもののようです。
それでも和風な出来上がりになるのも面白いものです。
染料の染み込みの加減で自分の手の中からどんな美しい模様が出てくるでしょう。
written by OSAMU TAKAYANAGI
「ことばの遅れを指摘された」「吃音が出てきたみたい」「発音の間違いが気になる」など、お子さんのことばに係わる悩みや心配に、言語聴覚士がお子さんの様子を観察しながらお答えします。