【にじいろWS 2024-12月】冬の野鳥を感じて、つくってみよう

2025年1月6日 月曜日投稿

自然のなかに棲息するたくさんの鳥たちに、もっと目を向けて欲しい

2024年を締めくくる12月のにじいろワークショップ。
今回のテーマのポイントは冬の〈野鳥〉です。
当ワークショップを企画・指導する松澤先生は、これまでも自然、それに伴う環境等を念頭に置いたアート活動を行ってきました。
今回もその一環として、自然を意識したテーマを提示しました。

【にじいろWS 2023-8月】木を立てよう

先生はそのことに触れ、このように話しました。
「自然のなかにはさまざまな動物や昆虫はもちろん、樹木や草花なども含めると生命あるものがたくさん存在します。
それらは普段見過ごしてしまいがちですが、意識的に観察する、触れてみることで自身の生を感じることにも繋がります。
改めてワークショップをふり返ってみても、幾度となく扱ってきたテーマです。
ただ、テーマの対象はいずれも子どもたち自身が同じ目線で捉えることができるものでした。
気づいたのですが、意外と捉えづらいのは、鳥の姿なんですね。
声は聴こえても、目線を頭上に移す必要がありますし、木々の枝葉に隠れているのでその姿を捉えることは難しい。
例えば鳩やカラスといったものは日常でも観られますが、滅多に観ることのないもっと多くの野鳥をじっくり観察することはなかったように思います。
ちょうどいま冬になって木々の枝葉がすっかり落ちてしまったので、珍しい野鳥を肉眼でも捉えやすくなりました。
特にここ羽村市は自然豊かな土地ですから、子どもたちの散歩コースでも容易にたくさんの鳥たちと出会えるはずです。
このワークショップを通して子どもたちにそんな鳥たちの存在にもっと目を向けて欲しいなぁ、と思い、それをモチーフに何ができるだろうかと考えたわけです」

確かに、冬は鳥の姿を観察しやすい季節だと聞きます。
またこの季節は、越冬のために寒い国から鳥たちが日本へ渡って来ますし、山地から平地に移動するなど普段なかなか見られない種類の鳥たちにも身近な場所で出会える機会が多くなります。
そこで今回のワークショップは、先生の思いがそのままかたちになるよう〈野鳥をつくる〉という創作に結びつきました。
子どもたち自らが鳥を観て、感じて、それを自分自身の手でつくるのです。
作業は一見簡単ですが、そこはもちろん、子どもたちそれぞれの発想力とアート的な要素が存分に活かされた、オリジナリティーあふれる作品づくりを目指します。

プロジェクターによる屋内での野鳥観察(!?)から野鳥づくりへ

いつものことですが、まずはワークショップの準備です。
主要な素材は紙コップですが、今回はその底を切り抜く作業からかかりました。
切り抜くといっても、底をすべて取り除くということではありません。ほんのわずかですが、コップ本体と切り離さない部分を残します。これは後に鳥の顔の部分になります。
さらにその紙コップの側面に、飲み口部分から底に向かって両面テープを1本貼っていきます。
但しその貼る位置は、紙コップの底と本体とが繋がっている部分の上とします。
それは両面テープの位置が鳥の顔部分の上、つまり背中の部分に当たり、ここへ鳥の翼を付けるのです。

さすがにこの一連の作業を子どもたちにやらせるには時間と手間がかかりすぎるので、これは保育士さんたちにお任せです。
それから色画用紙(白・青・赤・緑・ピンクなど)を用意し、それを帯状の長方形として使用するため、通常サイズのものを横位置に3~4等分断裁。これは鳥の翼部分を作成する際の素材です。
そして今回はなんと、園長が天然素材の羽根(実際の鳥の羽根)を特別に用意してくれました。
それは、一般的に工作用や趣味の衣装、帽子、アクセサリーなどへの装飾用に使われている素材です。
天然の羽毛から選別され、高温処理が施されているので、さまざまな色に着色されていても人体への害はありません。
本物の羽根まで使用できるなんて、ちょっと贅沢な作品になりそうです。

それ以外にはクレヨン、ハサミ、接着剤としてのボンド(綿棒でつけます)。
そうそう、贅沢といえば、先生も特別に私物のクレパスを用意しました。子どもたちにとっては新しい画材体験となりますが、これはまた後ほど紹介します。
最後はプロジェクター機器一式の設置と動作確認です。
しかし今更ながらですが、松澤先生の指導書に基づいた準備作業を、毎回毎回細かな点もひとつとして漏らさず、怠ることなく、常にベストな環境づくりを遂行してきた園長をはじめ保育士らへの努力には敬服するばかり。
この一年、毎回無事に、楽しくワークショップを行えたのもこうした表には見えないサポートがあったからです。
唐突ながら、職員のみなさんに心から感謝ですね。

これで準備は整いましたので、早速本編へ入りましょう。
理想を言えば、屋外の木々のある場所で、実際に野鳥を観察してからはじめるのがベストですが、なかなかそうはいきません。
なので、ここは年中・年長クラス共にプロジェクターを使って、いまの季節に身近で観られる野鳥を画像で鑑賞、いえ〝観察〟することにしました。

冬に観られる鳥たちが次々にスクリーンに映し出されます。
ルリビタキ、ツグミ、シロハラ、カケス、ウソ・・・などなど、それらの写真と共に先生は簡単な解説を加えていきました。
子どもたちはその都度、「からだの色や模様がきれい!」「変な名前だなぁ~」「そんなの、ほんとに居るの?」「だるまみたいに丸くなってるよ」「くちばしが尖っていて、痛そう」と思い思いの発言をしました。
先生も子どもたちと一緒になって面白いことを言ったり、写真の鳥の姿を真似てみたりと、終始笑いの絶えない屋内ならではの野鳥観察となりました。
こうして子どもたちは、それぞれ自分だけの冬の野鳥のイメージを頭のなかに刻み込んでいきました。
さあ、ここからいよいよ野鳥づくりです。

年中クラスの子どもたちは、最初に園長が用意した天然素材の羽根を見せることにしました。
たったいま画像で見たばかりの鳥の羽根ですから、子どもたちが描いたそのイメージをより現実的で明確なものにしてくれるはずです。
経験の浅い年中クラスには、一段階ずつ確実にギアを上げながら指導していくのが最適な方法だからです。
子どもたちの反応は予想通りでした。
「あ、鳥の羽根だ!」とすぐさまそれを認識して、全員がその羽根から〈野鳥〉へのイメージや好奇心を高めていきました。
ましてや実際の羽根を見ることも、触ることもそうそうないことですからね。

次に先生はその羽根を手にすると立ち上がり、頭の上からそれらをまき散らしました。
宙にまかれたたくさんの羽根は、ふわふわとゆっくり舞い降りていきました。
子どもたちのいく人かは舞い降りるその羽根を手でつかもうと立ち上がりましたが、羽根はその子らの手をするりと抜けて落下していきました。
先生は何度かそれを繰り返し、子どもたちはその度に羽根を追っては大騒ぎです。

この行為によって、鳥の羽根がいかに軽く、柔らかくできているかを子どもたちは身をもって知ることができました。
それから先生はようやく今回の重要な素材となる紙コップの話しにうつりました。

これに対して年長クラスは、事前に先生が見本としてつくった〈野鳥〉の完成形を見せることからはじめました。

年長クラスの子どもたちは、完成へたどり着くまでの創作過程をある程度自分自身で想像できると思われたからです。少なくともこの2年弱という時間で、どの子にもそれ相応の経験が蓄積されているはずですから。
先生は、すぐさま紙コップを取り出して具体的な説明に入りました。

総仕上げは天然素材の羽根と、初めて体験する「パステル」画材で

創作の手順や素材選びなど具体的な内容については、年中・年長クラス共に同じです。
先生はあらかじめ準備した紙コップを手に取ると、すかさず飲み口の部分から自らの手を差し込みました。
子どもたちは何気なくその様子を見ていましたが、その差し込んだ手の先が突然紙コップの底を突き抜けて飛び出してきたのには誰もが驚きました。
でもすぐさま子どもたちは笑いながら「なんだそれ?」「どうなってんの?」と口々に騒ぎはじめました。
先生はそのままの状態で手首を上下左右に動かしました。するとごくごく普通の紙コップが、まるで何かの生き物のようにごそごそと動き回っているように見えました。
もうそれだけで子どもたちは興味津々です。
そこで子どもたちにも同じ紙コップを渡しました。当然のことながら、子どもたち誰もが早速手を差し込んで先生の真似をしてはしゃいでいました。

それから先生は、一部分が本体と繋がっている紙コップの底の丸い部分を指して、
「この丸い部分が、鳥さんの顔です。いまから顔をつくりますね」と言うとその部分に目を二つ描き入れました。
次に先生は色画用紙の切れ端を取り出して、
「こんどは鳥さんの口ばし部分をつくります」と言いながらハサミで小さな二等辺三角形の形を切り取りました。
その切り取ったた二等辺三角形を、目を描き込んだ紙コップの底の、本体から切り離された部分の中央あたりにボンドで貼り合わせます。口ばしの位置としては、紙コップの側面に貼られた両面テープと反対の位置(真下)にくるようにします。
「これで鳥さんの顔と口ばしができたので、(紙コップの側面を指して)ここにも色や模様をつけようか?」と先生は言い、クレヨンで模様を描き出しました。
みるみる鳥の顔と胴体の部分が出来上がりました。
子どもたちは、それを見習ってここまでの創作をはじめました。

そして仕上げは、そう、もっとも鳥を象徴する翼づくりです。
この翼づくりこそ、それぞれの個性が際立って見える部分でもあります。
先生は、先に準備した帯状の長方形に断裁した色画用紙を1枚テーブルに置き、それをぴったり二つに合わさるよう折りました。
二等分に折ったままの色画用紙の下部に、まずはハサミでギザギザに切り込みを入れました。それから上部は、翼の形をイメージして滑らかな曲線を描くように切りました。
それを折る前のように広げると、左右対称に切り込みが入り、見事な翼の形が出来上がりました。
さらにその翼にも模様を描き込み、先生オリジナルの翼が完成しました。
子どもたちもすぐに自分のイメージする鳥の翼にふさわしい色の色画用紙を選び、先生の指示通りそれを二等分に折って、各々好きな形にハサミを入れていきました。
それが出来上がると、どの子も自分の翼に模様や色付けを描きはじめました。
そのとき、先生は別のテーブルに二つのものを用意しました。

ひとつは、園長先生が特別に用意した天然素材の羽根です。
これは同じものがないので、各自で好きな色や大きさのものを自由に3本だけ選び、自分のつくった鳥に取り付けてよいということにしました。
そしてもうひとつは、先生が日頃使用している「パステル」です。今日のために持参したもので、もちろん子どもたちはこれまで使うことのなかった画材です。
「パステル」という画材は、乾燥した顔料(粉末)を粘着剤で固めたもので、一般的にはクレヨンのように筆などを使わずに直接画用紙などに描き込みます。
とくに柔らかなタッチを表現したい場合やグラデーション効果を望むときなどは、指やコットン素材のもので塗り込んだり、こすったりすることで優しい雰囲気を描けるという特徴があります。

今回どの子も、天然素材の羽根と初めての「パステル」で総仕上げを行いました。
羽根は付ける場所によって随分完成のイメージが変わるので、子どもたちはその場所に頭を悩ませていましたが、それもまた作品づくりの楽しい悩みです。
「パステル」は、やはりうまく使いこなせない子が多かったのですが、その手に残った描き具合や指先で塗り込んでいくという感触はとても良い経験になったはずです。
最後は紙コップの側面に付けた両面テープの剥離紙をはがして、そこへ翼を貼り付けます。翼づくりの際に二等分にした折り線をそのまま両面テープになぞるように付着させればバランスよく、きれいに貼れるでしょう。
これで、すべての創作は完了です。

ワークショップ終わりには子どもたち全員で野鳥の胴体に手を入れ、ゆっくりまたは小刻みにそれを一斉に動かしました。
その動きに合わせて、どの子の翼もまるで意志をもったかのようにパタパタと羽ばたき出しました。
いつの間にか、子どもたちの感嘆の声があちらこちらで上がり、同時に終わりのご挨拶をしてそれぞれのかわいい野鳥たちが宙を舞いながら退室していきました。

未来をつくる子どもたちに、自然破壊のないより良い世界を

当園のある羽村市には、約120種類の野鳥が棲息している、と市のホームページにありました。
さらに、この中から保護鳥で、しかも貴重な鳥である「アオバズク」を羽村市の鳥に指定しています、と。
当園の田中園長にそのことを尋ねると、
「多摩川周辺へ行けば、本当にたくさんの野鳥がみられますよ。でも川の流れも昔と違って変わってしまって、年々自然環境も変化していくので、これからはどうですかね」
となにやら心配そうな返答が。松澤先生もそんな話しを聞いて、
「最近スズメが減少してるでしょ?身近に当たり前に居た野鳥がいなくなるって、とても怖いことですよね。ある地域では、逆に今まで棲息していなかった外来種の野鳥が急激に増えているし」
としばらく野鳥談義が続きましたが、これから先の世界をつくり上げていく子どもたちにはやはりもっと自然やそこに棲息する生き物にも目を向けて、大気汚染や地球温暖化など自然破壊のない、より良い未来の姿を築いてもらいたいです、という話しになりました。

では、今年最後も「にじいろワークショップ」を企画・指導する松澤先生の話しで締めくくりましょう。
「まず、行った創作(工作)については特に難しいことはありません。ただ、鳥の胴体に見立てた〝紙コップ〟という素材は本当にさまざまなことに活用できるんですね。これまでのワークショップでもどれほど活用してきたかということを考えればわかってもらえると思います。
今回もそのバリエーションのひとつです。つまり、そういう日常ありふれた、どこにでもあるものでもアイデアひとつでたくさんの使い道があるということ、子どもたちがそれに気づいてくれたら嬉しいですね。
それから、やはり園長の用意してくれた羽根の存在は良かったですね。
鳥の画像だけではなにかリアルさが足りなかったですから…まあ、すでに加工されているので実際の羽根の色とは異なりますが、イメージを具象化しやすかったと思います。飾りとして活用するのは難しかったようですが。
それとパステルですが、これもどこかのタイミングで子どもたちには触れてみてもいい画材かな、と考えていたので良かったです。通常はクレヨン、色鉛筆、サインペン、絵の具が主流で、パステルとなると微妙な色合いを表現する画材なので幼児はなかなか使用する機会はありません。でも、世の中にはもっともっと自分の表現したいものに近づくための画材がたくさんあるので、そんなことも知ってもらえたら、と思います」
先生はここまで一気に話をすると、ほっとしたように笑みを浮かべて、年内最後のワークショップを終えました。

ドキュメンテーション

冬が近づき、空が澄み渡ると、鳥の姿が良く見えるような気がします。
枝葉が落ちて鳥の姿が見やすくなるのかもしれませんが、鮮やかな色の冬の渡り鳥が飛来してくるのかもしれません。
公園や畑、住宅地でも、注意深く見てみると意外とすぐそばに冬の野鳥が餌をついばむ姿を見ることができます。
今回は、私が好きな工作の一つ紙コップでつくる「パタパタとり」をバージョンアップして鳥を感じ、みんなで鳥を連れて羽ばたきたいと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI