【にじいろWS 2024-11月】「お花紙のインスタレーション」カラフルな世界をつくろう

2024年11月23日 土曜日投稿

ちぎる・裂(さ)く・破(やぶ)る、それが今回の課題です

「芸術の秋」という常套句は、いつ頃から誰が言い始めたのだろう。
そんなどうでもいいことを、毎年秋が深まる季節になると考えるのですが、今年に限っていえば、11月半ばをすぎても夏のような天候が続き、台風が三つも四つも発生する始末。
こうなると果たして秋はいつ来るのやら、などと思いつつ今更ながら「芸術の秋」について調べてみました。
これが有力説だというのは、1918(大正7)年に発行された某雑誌の記事に「美術の秋」という言葉が登場したことがはじまりだとか。
その後、〝美術〟が広義でいうところの〝芸術〟という言葉に変化したのでしょう。
いずれにしても、およそ百年前の時代から、秋にはさまざまな展覧会が開かれていたということです。
さらにその理由を検索すると、〈夏は暑すぎて芸術などに没頭できないが、秋になり涼しくなってくると集中力が増し、気持ちも自然と芸術に向く〉というので「芸術の秋」が一般的に定着したらしいのですが、いまの状況からでは素直にうなずけませんね。
そういえば、今年は「芸術の秋」という言葉をあまり見聞きしないなぁ、と思ったりして。

そんな季節のなかですが、当園のにじいろワークショップは決して惑うことなく、季節に応じた、季節を感じる活動を、それにふさわしい環境のなかで行っています。
さて、今回は室内でのインスタレーションです。
秋から冬にかけて紅葉はもちろんですが、さまざまな季節特有の草花が放つ色とりどりの美しさにも魅了されます。
そこで、お花紙(おはながみ)という独特の素材を主体に、そうした草花をイメージしたカラフルなオブジェを創作します。
また、その創作過程において、〈ちぎる・裂(さ)く・破(やぶ)る〉といった、言葉で捉えると一見過剰な行為を想像してしまうようなことにも挑戦します。もちろん、想像する行為とは無縁ですが。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「お花紙は、美しく、手触りもよく、幼児が扱う素材としてはすばらしいものです。そこで、この素材を最適に活かせる方法をこの2~3年探ってきて、例えば引っ張ったり、水に浸したりとか・・・。
そのなかで、〈ちぎる・裂く・破る〉という行為に至り、この一年余り0歳児から2歳児を対象に他所で試行錯誤を繰り返してきたのですが、ようやく具体的なワークショップとしての展開を見い出せたので、今回はその試みを当園で実践してみようと思います」
そんなふうに、このテーマへの考えや意欲を簡単に話してくれました。

では早速、この季節の彩りや風のゆらぎ、そして自然の匂いを体感しながらのワークショップ、はじまりです。

お花紙の破片を集めて、舞い降りる花びらのシャワーを浴びよう

今回使用するお花紙は、あえて説明するまでもないと思いますが、その名の示す通り、紙で花を表現(つくる)ときに用いる定番の素材です。
一般的に見られるのは、運動会や発表会、入学式・卒業式といった学校行事のタイトルボードなどへの飾り付けで、幼稚園・保育園から小・中学校などには欠かせないアイテムといえます。
先にも触れましたが、薄くて柔らかな素材でできているので、幼児の手にもやさしい感触が残ります。
重ねて、丸めて、折りたたんで、と手のなかで自由に変化しますし、色数も豊富ですから、まさにさまざまな草花を表現するには最適な素材です。
これを主として使用しますが、いつものように、にじいろワークショップ独自の展開で進めていきます。

内容的には、今回もまた年中・年長クラス共に同じプログラムです。
もちろん年齢や経験の差が作品になんらかのかたちで表れてはくるでしょうが、結果に優劣を求めるものではないですし、あくまでも一人ひとり、またはその集団で何を感じ、何を得たか、または何を失ったかを体験として残してくれたらそれで十分です。

年中・年長クラス共に、先生はすぐさまお花紙についてのお話しをはじめました。
そして先生は1枚のお花紙を自身の顔に押し当て、そのままゆっくりと上を向きました。
それからそっとそのお花紙から手を離すと、それに向けて自分の息を吹きかけて宙に飛ばしてみせました。
子どもたちはその瞬間、ただ黙って見つめていました。誰もがそのまま落ちてくることを想定したのでしょう。
ところが、先生の吹きかけた息の勢いに乗って、落ちるどころかさらに上へと昇って行ったのです。
子どもたちは予想に反したお花紙の動きにびっくりです。
さらに先生はそれが落ちかけると、またその下から息を吹きかけて宙に飛ばしました。
「また、あがっていったぞ」と、子どもたちはますますびっくりです。

そうなると当然のごとく、子どもたちは早くそれを自分自身でやりたくてそわそわ落ち着きません。
先生は、そんな子どもたちの気持ちなどお見通し、とばかりに
「さあ、あそこ(お花紙が並ぶ場所)から好きな色を1枚だけ持って来て、みんなも同じようにやってみよう」
と促しました。
子どもたちは大喜びで好きな色のお花紙を選ぶと、ホールのあちらこちらで先生と同じようにお花紙を顔にかぶせて、自分の息で宙に飛ばしはじめました。

その一連の動作を繰り返し、どの子も上手に宙へ浮かせることができました。
その浮いたお花紙がひらひらとあちらこちらに流れて動くと、それを追いかけてホールの隅から隅まで走り回る子どもたち。
なかには、自分の顔にかぶせたその感触が気持ちよかったのか、じっとそのまま顔の上に乗せている子まで。
そのうちひとりの男の子が床に落ちたお花紙に向かって息を吹きかけたら、床を滑るように動いていくさまにハマったようで、なんと床面のお花紙にずっと息を吹きかけながらそれを追って自分も床の上を這いまわりはじめました。
とうとう、周りの子どもたちもそれにならって、みんなで床を這いながらお花紙に息を吹きかけました。

ひらひらと宙に舞うほど薄くて、顔にかぶせると気持ちいいほどやわらかで・・・どの子も、お花紙の素材を自らの皮膚感覚としてとらえることができました。

次に先生は、一旦子どもたちを集めて、1枚のお花紙を両手で持つと
「これからこのお花紙を手で破ります!」
そう言ってお花紙を破いて見せました。
それも何度も何度も細い帯状に、しかも造作なく破っていきました。

子どもたちは、またしても驚きです。
日ごろ、保育園では手で無造作に破るという行為を奨励していませんし、おそらく家庭内でもそのような行為を良しとはしないでしょう。
そんな子どもたちの目の前で、1枚のお花紙があっという間にいく枚かの細長い帯状の切れ端に変わりました。
先生の号令で、今度は子どもたちがそれを行うことになりました。
いままで吹いて飛ばしていたお花紙を、今度は破ることになったのです。
少し複雑な気持ちもあってか、周囲のお友だちの様子をうかがいながら、おそるおそる破きました。
しかしそれをはじめると、どの子も意外に楽しい気持ちが勝ったようで、どんどん破り出しました。

そこで、ひとつだけ先生は子どもたちに紙の破り方について教えました。
それは、紙には破れやすい方向と破れにくい方向があるということ。ご存知のことと思いますが、紙の製造過程でタテ目(=破れやすい)とヨコ目(=破れにくい)ができ、それによってそうしたことが起こります。
子どもたちを見ていると、偶然タテ目からたやすく破れても、ヨコ目から思うように破れないので「?」という表情をするときがありました。ということで、急きょ、先生がそんな話しをしたのです。
理屈はともかく、いつの日か、遠い昔に聞いたそんな話しを想い出してくれたらそれでいいかな。

ある程度破り終えると、先生はそれを束ねて、今度は一気に自分の頭上に宙高く放り投げました。
宙に飛び散ったお花紙の破片は、ゆっくり、ふわふわと、花びらのように舞いながら先生に降り注いで落ちていきました。

子どもたちは、またしてもそれを見た瞬間きゃっきゃと甲高い声を上げて大さわぎ。我先にと、どの子も自分の破いた破片を集めて、見様見真似で自分の頭上へと放り投げました。
同じように、それが舞いながら自分に降り注いで落ちていくと、誰もが歓喜の声を張り上げました。
そこで先生は、さらにお花紙を足して、もっとたくさん破いて、それを集めてもっと大きな花ふぶきのようにしよう、と提案しました。
子どもたちは一斉に、「今度は別の色のお花紙にしよう」、「もっと破いていいの?やったー!」などとお花紙の並ぶ場所に飛んでいきました。

先生は子どもたちの要望に応えて、何度もお花紙を追加していきました。
その都度子どもたちは大さわぎをしながら、お花紙を破き、次第にやさしく手で握ったり、丸めたり、そのうちに好きな形にちぎったり、それを裂いたりと、自由にお花紙を扱うようになりました。
今日は、いつものようにハサミなどという切る道具の力を借りることなく、両の手の指先1本1本の動かし方と、手のひらの握る力加減だけでこんなにもいろいろなことができるんだ、ということを覚えました。
床一面がいつのまにか子どもたちの破いた、ちぎった、裂いたたくさんのお花紙で埋まっていきました。
それをみんなでいくつかの大きな容器の中に集めて、みんなで一斉に宙高くに放り投げました。
また、床に子どもたちがあおむけに寝そべって、その上へ先生や保育士たちがすべての破片を放りました。
色とりどりの美しいお花紙の破片は、夏の日に浴びたシャワーのように子どもたちの頭上から降り注いできらきらと舞いながら降りていきました。

養生テープに飾り付けたら、最後はみんなで〝良いお家〟をつくろう

ここまでで、年中・年長クラス共に、お花紙という素材を知り、今まで保育園では敢えて行わなかったお花紙への〈破る〉ことから〈ちぎる〉や〈裂く〉といった行為を体験しました。
これだけであれば、先生がこの一年余り携わってきた0~2歳児の体験と変わりません。
そこで、先生はここまでの集大成として、お花紙のすべての破片を使って、ホールいっぱいのインスタレーションを展開させることを考えました。
それは、お花紙のごくごく一般的な使い方ではない、子どもたちが独自に手を加えた花々をホールの空間に咲かせて、新しい、どこにもない、不思議でカラフルな世界を構築しようという試みです。

まずは養生テープをいく本も壁から壁へとホールに張り巡らせて、そこへ子どもたちが先に破き、ちぎり、裂き、丸めたお花紙の破片を、それぞれ好きなところに、思いつくままに貼り付けることからはじめました。

ひとつひとつの破片は決して草花の形を模してはいませんが、それぞれが個性豊かに鮮やかな美しさを放っています。そんな破片が集まれば、もっと素敵に輝くはずです。
四方八方に張り巡らせた養生テープにたくさんの破片が付いて、その一本一本がカラフルな枝木に見えはじめたころ、先生と保育士たちで壁から離して、年中クラスはホールの天井に設置された金具にその一本一本をひとつに結びつけ、それぞれの養生テープの端を床面に伸ばして貼り付けました。
年長クラスのそれは、壁の一部にやはりひとつにまとめて改めて貼り付けると、その一本一本をまっすぐ床面に伸ばして貼り付けました。それから壁にも破片を貼り付けて模様を描きました。
どちらも三角柱のように、一点から裾野に広がるように養生テープが伸びて、大きな傘のような、クリスマスツリーのような、そんな形をつくりました。
その一本一本には子どもたちがお花紙でつくったオリジナルの、とてもこの世のものとは思えないようなカラフルな草花が咲き乱れていました。

それから子どもたちは飾りつけの少ない部分に付け足したり、新たに薄い布地を数枚その養生テープに貼り合わせたりして見栄えよく整えました。
すべての飾り付けが終わると、子どもたちはその下に入り込み、寝転んだり、談笑したり、自由に楽しんで、くつろぎはじめました。

そうそう、年中クラスの子どもたちにこんな一幕がありました。
クラスの中のひとりが、「ここって、いいおうち(良い、お家)だなぁ~」とつぶやきました。
するとその言葉に誰かが呼応して、「いい、おうち!」と言うと、いつのまにかほかの子どもたちもひとり、またひとりと「いい、おうち!」と連呼しはじめ、気づくと全員で、まるでそんな歌でもあるかのように節をつけて「いい、おうち!いい、おうち!いい、おうち!~♪」と大合唱になりました。
自然に湧きあがったこととはいえ、この感性のすばらしさ、またはクラス全員の協調性の高さに感動を覚えました。
最後は年中・年長クラス共に、そんな〝良いお家〟のなかで、みんな揃って写真に納まりました。

その後、また保育士らで、年中・年長クラスのつくった養生テープの飾り一本一本をエントランスにあるブックコーナに移して展示しました。
それを知った子どもたちは、好きな本を片手にその飾り付けの下に座り込んで読書を楽しんでいたようです。

子どもの目線で丁寧に考えることで、もっと幅のあるあそびにつながる

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、ご承知の通り多岐にわたる活動を行っています。
特に冒頭でも触れたように、この一年余り0~2歳児を対象に〈ちぎる・裂(さ)く・破(やぶ)る〉という行為に焦点を当ててさまざまな考察を行ってきました。
改めてそのあたりのことを聞きました。
「保育の現場では、裂いたり破いたりすることを推奨する場面はけっして多くはないと思います。それはただ言葉から受けるイメージの問題かもしれませんが。
ただ、実際アートの制作現場からいえば、現実的にもっと激しく破壊するくらいのエネルギーを持って作品づくりを行うことがあります。むしろそうして殻を破っていかないと次に進まないということもありますからね。
そう考えたとき、その原初的な行為として、〈ちぎる・裂く・破る〉ということがむしろ必然的な行為のように思えたのです。
そこでまず0歳児で、次に1歳、2歳児で実際にやってみると、面白い結果を得ることができました」

先生はそんなふうに話しはじめると、続けて
「0歳児は破いたお花紙であそぶことよりも、破く行為そのものに興味があって、素材にかかわる楽しさが増したようでした。1歳児は破く行為だけではなく、そのものの感触やイメージを一人一人が楽しむ様子から表現するおもしろさが伝わってきましたし、2歳児では素材にふれて、破いて、集めて、丸めて、とかかわり方がどんどん変化していきました」
こうしたいくつかの実践体験をもとに、
「破いた小さな破片は、子どもたちがときおり拾い上げる紙くずや小石、葉っぱなどに通じているようにも感じます。〈ちぎる・裂く・破る〉行為を、子どもの目線で丁寧に考えると、もっともっと幅のあるあそびにつながっていくんじゃないかと思います」
そう話し終えて、ワークショップを笑顔で締めました。

今回のワークショップは、こうした背景をベースに展開したものだということがよくわかります。ただ、これは先生にとっての通過点であって、決して到達点ではないということもわかりました。そして、今回の結果も踏まえて、これからのワークショップがさらに楽しみになったことも事実です。

なお、今回の記事は、株式会社Gakken発行の保育情報誌『あそびと環境012歳』に掲載された松澤先生の担当記事から一部参考にさせていただきました。
先生は、2019年から年に2回~4回、上記雑誌に自らの指導・実践レポートを掲載しています。
★ご興味のある方は、ぜひ下記ホームページでどうぞ。
保育士・幼稚園教諭のための学研 保育CAN

ドキュメンテーション

今回の空間あそびはお花紙を使って華やかで明るい空間をつくってみます。0/1/2歳の造形あそびの実践をするにあたり、「裂く。ちぎる」といった行為に着目したことが起点になっています。
お花紙の薄く軽やかで鮮やかな独特な感触と見た目は、とても魅力的なものです。
多くは「お花」になって楽しませてくれる存在ですが、もっとこの素材そのものを楽しめたらと何度と挑戦してきた素材です。ふと閃いて今年は付き合い方がイメージできた年でした。
ちぎる、裂くという行為は少々乱暴に思われます。しかしながら一方で、想像をするときには必然の行為でもあると気づきます。ちぎる、破る、裂く、切る、切り離す、撚る、紙から切り離された紙の一片が軽やかに舞い、集まって花咲くような空気を感じ、空間を感じてみます。

written by OSAMU TAKAYANAGI