【にじいろWS 2024-10月】線路をつないで、電車を走らせよう

2024年11月3日 日曜日投稿


イメージは青梅線?さて、どんな線路にどんな電車が走るのか~出発進行!

これまでに、地元羽村市を意識したテーマのワークショップをいくつか行ってきました。
たとえば園内から望む景色の彩りをモチーフに、室内ホールの空間いっぱいにインスタレーションとして表現したり、近隣の公園から拾い集めた落ち葉や多摩川沿いの河原の石を素材として創作したことなど。

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にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生はそのことについて、
「いま自分が置かれている環境のなかで感じたこと、体験したことが、モノづくりの発想や原動力の源になりますからね」
と話してくれました。また、さらにこう付け加えました。
「とくにこの羽村市周辺は豊かな自然にあふれていますから、子どもたちにはそのすばらしさに目を向けて、地元のよさを実感して欲しいと思います」
そういう先生ですが、自然環境とは別に、地元ならではの、もうひとつ気になるものがあると言います。
それは羽村市を貫く一本の鉄道です。
そう、東京都立川市の立川駅から西多摩郡奥多摩町の奥多摩駅を結ぶJR東日本(東日本旅客鉄道)の青梅線です。
過去のワークショップを振り返ると、子どもたちの作品にこれまで意図せずいく度も登場していました。
インスタレーションという表現技法を採り入れてつくり出した架空の街並みや大自然の世界などには、必ずと言うほど一本の鉄道(線路)が描かれ、その中央には「羽村駅」と書かれた駅舎がありました。
特定の誰かが、ということではなく、どの世代の子も同じように、ごく当たり前にそこに在るものとして描いていました。もちろん、それが青梅線であることを子どもたちは認識しています。

ここで余談ですが、青梅線は1894(明治27)年に立川駅―青梅駅間に開業された歴史ある路線で、その当時から地元羽村駅は、拝島・福生・青梅駅と並び誕生しています。
おととし2022年で日本の鉄道開業から150年を迎えたことを考えれば、今年130年を迎えた青梅線もほぼ日本の鉄道史に匹敵します。
その頃はいま以上に雄大な自然のなかを、重々しい機関車が黙々とひとや物を運んでいたことでしょう。

その青梅線あるいは羽村駅は園からも至近距離にあり、日常生活においても地元を象徴する存在として、子どもたちにとってはそこに在ることが自然なのかもしれません。
そんな実情を踏まえ、先生はいつかこの青梅線をモチーフしたいと考えていました。
そこで今回、この青梅線をイメージした「線路をつないで、電車を走らせよう」というテーマを打ち出し、室内ホールでのインスタレーションを行うことにしました。
それに応じて、線路を走る電車も子どもたちひとり一人の手によるオリジナルの電車も創作します。
さて、どんな線路ができるのか、どんな電車が走るのか、準備ができたら出発進行!

直線・曲線の紙片(パーツ)を線路に、自然素材の木片を電車にします

まずは先生と保育士で、ワークショップの素材づくりから。
今回の主役でもある線路は、四つ切サイズの画用紙から幅7cmほどの直線や曲線の紙片(パーツ)をたくさん切り出してつくりました。
1枚1枚の紙片の長さは短いものですが、それをどんどんつなげていくことが今回のテーマですから、先生と保育士はその紙片をたくさん切り出しました。
最初はいつものホールの床面いっぱいにつなげられるほどの枚数を想定しましたが、そのホールの床面から飛び越えてしまったときのことを考えて(そんなふうに広がっていったらいいなぁという思いも込めて)、想定以上に大量の紙片を用意しました。

線路に模したこの1枚1枚の紙片ですが、そこには敢えてレールも枕木も描きませんでした。それは、子どもたちそれぞれの頭のなかでレールも枕木も自由に好きなように思い描いて欲しいからです。
そこに見えない分、レールも枕木も子どもたちの数だけ存在するって、なんだかワクワクしませんか。
ただ、線路を模した紙片の色は、多少レールを意識してグレーにしました。
かといって、あまり単色なのもおもしろくないので、グレーのなかにところどころアクセントとしていくつかの色が混ざるよう色画用紙からも同じように幅7cmほどの直線や曲線を切り出して加えました。

次に、これも今回のもうひとつの主役である電車づくりの準備です。
今回電車とする素材は、縦約4cm×横役8.5cm×幅約1cmの、自然の大木から切り出した木片です。
ちょうど子どもたちの手のひらに包み込めるサイズで、自由にらくらく操ることができる重さです。
もともと大きな木材でしたが、外部に依頼してこのサイズに切り出してもらったそうです。
それを当園の田中園長が、子どもたちが安全に活用できるようにと自ら率先してひとつひとつ丁寧にヤスリをかけて仕上げました。
これはいままでもワークショップの素材として使用してきましたが、いずれも補助的なものでした。
先生はこの木片についても、いつかメインの素材としてワークショップに採り入れたいと考えていました。

先生は木片のひとつを手に取り、
「自然素材としての木は魅力的です。ひとが創り出した製品と違って化学物質など含まれていませんし、どんな子どもでも安全に操ることができて、自らいろいろな想像をそこに投影して遊べます。だからでしょうか、いま子どもの玩具ばかりか日常品なども天然の木の製品が注目されていますよね」
と、そんな説明をしてくれました。

ひと通り準備がすんだところに、年中クラスの子どもたちが集まってきました。
先生はまず線路に模した幅7cmほどの直線や曲線に切り出した紙片のいくつかをホールの床面に並べて見せました。
1枚1枚の紙片が線路のパーツであることを説明しながら、それらを思いつくままつなげて線路をつくりました。
ひとつひとつの紙片は短いものですが、つなげていくと長い線路になります。
それも直線や曲線をつなぎ合わせると、まっすぐ延びたと思ったら急カーブになったり、S字を描いたりと、紙片のかたちやつなげ方を変えていくだけで、まったく別の線路が生まれてきます。
目の前でどんどん変化していく紙片の線路に、子どもたちはもうじっと見ているだけではおさまらないといったようすです。

線路を敷いたら、最後は自分だけのオリジナル電車とすてきな街並みをつくりましょう

先生は子どもたちの〈早くやりたい!〉の思いに応え、
「それじゃ、みんなにもやってもらいますね。どんなふうにつなげても、どこにそれを置いていくかも自分で決めていいですよ、ただし、この紙片のつなぎ目は必ずのり付けして動かないようにしてください」
先生がそう指示すると、子どもたちはたたくさんの紙片のなかから自分の好きなものを数枚選び、それぞれの思う場所へ移動してすぐに線路づくりをはじめました。

子どもたちはどんどん貼り合わせてつなげていきました。
ひとりでつなげていく子もいれば、最初からお友だちと一緒につなげる子もいます。
しばらくして先生は
「どこまでもつなげていっていいけど、線路だから最後は全部つながるようにしてね」
と、目指す完成形への指示をあらためて出しました。

ある程度線路がホールに広がったところで、先生は子どもたちにいったんその作業を止めるように言い、ホールの端にみんなを集めました。
子どもたち全員でホールに広がる線路を眺めました。そうして眺めると、いまどんなふうに線路がつながっているのか、どこに線路が密集しているのか、いないのか、または途中で途切れている線路はないかなど全体が見えてきます。
先生は、それじゃあ、みんなでここにある線路をなぞるように実際に走ってみよう!と言い、子どもたち自らつくった線路にそって走ってみました。
まっすぐな線路もあれば、くねくねと曲がりくねった線路や途中で切れた線路もあって、どんな線路が走りやすいのか、走りづらいのかということも実感としてわかりました。
そこで、少し不都合な線路はここで修正を加えることにしました。

ここまでは年中・年長クラスとも同じ作業を行いました。
ただし年長クラスのこどもたちは、年中クラスがつくった線路をそのままに、そこへさらに線路をつなげて増やすことにしました。なので、ホールの床面にはいっぱいに線路が広がっていき、それでは足らずに子どもたちは廊下にまで線路を延ばしていきました。または平らな床面を離れ、園庭へ開く扉への上がり口にまで~その段差を気にすることなく~線路をつなげていきました。
年長の子どもたちによって、平面だった線路も複雑に絡み合って、若干の起伏が現れるようになりました。

線路を敷き終えたら、次に先生は電車づくりについて、年中・年長クラス共に同様の指導を行いました。
まず先生は一個の木片の片側に電車の色や窓、ドアなどをサインペンで描き入れました。それからその裏側にも、車両の模様や乗車している人の顔などを描き入れました。
木肌しかなかった木片の表面がみるみる電車のボディに変わっていきました。
それを見ていた子どもたちは、すぐさま次にやるべき作業を了解しました。
早速ひとり一人に木片が配られ、あちらこちらで電車づくりがはじまりました。

年中・年長クラス共に電車が仕上がった子どもから、自ら敷いた線路にその手づくり電車を走らせました。
どの子も電車を指先でしっかり握り、ガタガタン、ゴーゴーとうなり声を上げながら大はしゃぎです。
なにしろ真剣な表情で、自ら紙片の線路上を電車と共に走っている姿を見たときはただただびっくりしました。
そんな光景を目の当たりにして先生は
「ITやAIが発達したこの時代、子どもたちはそんな機能を搭載したおもちゃなどいくらでも簡単に手に入るだろうし、実際家庭でもそうしたおもちゃやゲームで遊んでいるはずだけれど・・・こんないたってアナログで、しかもリモコンで動くわけでもなく、自分の手の動かさなければ微動だにしない木片を、これほどまで夢中になって遊ぶとは!?」
と、想像もしていなかったことに驚いたようすでした。

 

どこの街にもいくつもの家やビルが建ち並んでいるように、最後に線路の周辺にすてきな街をつくりました。
今回、それも線路や電車に合わせてとてもシンプルなものにしました。
まずは画用紙を二つに折って、三角屋根の家を模した形に切り取りました。
二つに折ったことで、少しの角度をつけてひろげれば、1枚の画用紙でもしっかり立つことができます。
そこにそれぞれが好きな色や模様を描いて、自分だけの家に仕上げることにしました。
これもやはり数多く切り取って子どもたちに配りました。

年中・年長クラス共に、子どもたちはさらにその家に窓や扉を切り抜いて、思い思いの家をつくりはじめました。
そして、出来上がった子から線路を中心に好きな場所に置きました。
ホールの床いっぱいに敷かれた線路と、その上を走るたくさんの電車、そしてその沿線に並ぶ個性豊かな家々。
見ているうちに、架空の街並みというより、どこか現実に存在する街の景色に見えてきました。
にぎやかな商店街や近くを走り抜ける色とりどりの電車の轟音、それにかぶさるように聞こえてくる子どもたちの明るい笑い声。
年中・年長クラス共に、ワークショップ終わりに全員で自分たちのつくり上げた線路のある風景を鑑賞しました。

 

 

年中・年長クラス共に、自分でつくった家と電車は子どもたちの希望で持ち帰ることにしました。
子どもたちがクラスに戻った後、先生や田中園長、中村主任保育士らがホールの床面に残された線路を見ながら、
「このまま捨てるのも忍びないので、中央に残った一部分をエントランスにあるブックコーナーの床に敷いてみませんか」ということで即決し、早速一部分をそのまま移動させました。
当日お迎えに来た保護者の方々がそれを見て、子どもたちからそのいきさつなどを聞いて感心したり、なかには子どもたちが帰り際にまた遊びはじめたりしていたようです。

アートの世界から子どもたちの遊びまで、鉄道が与えた多大なる影響

松澤先生は、ワークショップの直前にこう話していました。
「初めて試みるテーマに不安も期待もあるのですが、やはり一度は取り上げたいテーマだったので、これを手掛かりにまた新たなテーマのヒントが得られればいいかな、と思います。もっとも子どもたちがこのストレートなテーマにどんな反応を示すのか、それにもよるけれど…。
でも鉄道って夢がありますよね、特に子どもにとってはどこまでも走って行けるような、そんな無限大の夢が」

またしても話しは逸れますが、世界初の蒸気機関車は1804年に英国で試走され、1825年に実用化されたといいます。
これを機に、欧州では鉄道を描いた絵画が数多く生まれ、いまでも高い評価を得た作品が世界中に残されています。それまではまったく存在しなかった鉄道ですから、当然モチーフとしては時代の最先端というわけです。
つまり鉄道の誕生は、アートにも多大なる影響を与えたということです。当然、それは日本画壇でも然り、浮世絵にまで登場してきました。
またアートばかりか文学にもそれは表れます。例えば、夏目漱石の有名な小説『三四郎(1908・明治41年)』の冒頭は、ご存知のように汽車の中の描写からはじまります。

もう少し続けると、昭和の子どもたちは、
♪~運転手は君だ/車掌は僕だ/あとの四人が電車のお客~
と唄いながら「電車ごっこ(文部省唱歌:1932・昭和7年)」という遊びに夢中になったものです。
また、こんな歌もよく唄いました。
♪~線路は続くよ どこまでも/野を越え山越え 谷越えて(中略)/ 楽しい旅の夢 つないでる
一般的に知る『線路はつづくよ、どこまでも(NHKみんなのうた:1962・昭和37年)』ですが、これは実はアメリカ民謡で、原題は「 I’ve Been Working on the Railroad」という黒人労働者による堤防工事についての歌です。
いまはおそらく、「電車ごっこ」などはしない(知らない)でしょうし、『線路はつづくよ、どこまでも』を唄うことなどないのでしょう。
それでも先に記しましたが、子どもたちが木片の電車を手に、夢中で遊ぶ姿は、ある意味「電車ごっこ」に近い姿だったのかもしれません。

 

話しを戻しますが、松澤先生は、先にも述べたように木片についてもこだわりを持っていて、
「一枚の、なんの変哲もない木片ですが、この一枚には想像力を喚起する無限の力が備わっていると思うんです。ただ見るだけで、またそれを手に取って木のぬくもりを感じるだけで、ふいにあれもこれもと新しい想像が芽生えてくるんです。だから最新の、いわば流行のおもちゃと違って、普遍性があり、飽きるということがない。
でも、正直子どもたちの反応はどうかな?と心配もしていたのですが、結果はご覧の通りで、むしろこれほどまでに木片に対して愛着を持って、我を忘れて真剣に遊ぶとは思いもしませんでした。
そう思うと、子どもたちが本来持っている創造力の高さ、逞しさのようなものに圧倒されますし、ほんとうの遊びというものを子どもたち自身は知っているのかもしれませんね。
これには、今回ほんとうに驚きと感動さえ受けました。今回は子どもたちに脱帽です」
そんなふうに笑って、話しを終えました。

ドキュメンテーション

保育園の近くにある青梅線の線路、おそらく子どもたちも慣れ親しんだ景色だと思います。
線路の向こうに見える奥多摩の山々の稜線も冬に向けて美しく見えてきます。
今回は、その景色を感じながら、線路(道)に見立てた紙を繋げ、子どもの書き出す景色を広く展開させていくことに挑戦します。
線路(道)を繋げて、自分の持っている紙を繋げて、四角ではない、俯瞰された町が出来上がったら面白いと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI