【にじいろWS 2024-09月】ボディペイントまたはフィンガーペイント

2024年9月22日 日曜日投稿


この夏最後は、日常では味わえない、いま、ここでしか体験できないこと

今年の夏は、列島各地で40度を超える暑さに見舞われました。
年々この暑さも厳しさを増し、おとなはもちろんですが、子どもたちも心身共に疲弊することが多くなりました。
テレビ・ラジオ等で〈危険な暑さ〉と報じられれば、不要不急の外出を控えるしかありません。
いつもなら子どもたちのにぎやかな笑い声につつまれる近所の公園でさえ、早朝から夕方までひっそりと静まりかえり、公園内の遊具も微動だにせず、強い日差しにじっと耐えているように見えました。
考えてみれば、コロナからはじまってこの数年、小さな子どもたちが当たり前に体験してきたことができなくなり、あれもこれもと我慢ばかりを強いられてきたように思います。

にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、こうした現状を、常に子どもたちの目線で捉え、この数年ずっと胸を痛めてきました。
「この夏最後のワークショップは、あまり難しく考えず、子どもたちが無我夢中になって、思いっ切りこころもからだも解放できるものにしましょう。理屈ぬきで純粋に、それでいて日常では味わえない、いま、ここでしか体験できないこと」
先生はそんなことを思いました。
そこで過去の事例をふり返ってみたら、ちょうど昨年も一昨年もこの季節に行っていて、もっとも子どもたちが大はしゃぎをしたテーマがありました。
それが、今回の「ボディペイトまたはフィンガーペイント」です。
昨年は「ボディペイントを起点に、新たな〈アート〉体験を(※2023年7月)」、一昨年は「フィンガーペイント・大きなにじ(※2023年7月)」というテーマで行いました。
いずれも日常でこんな体験はできませんし、ましてやおとなになってからなどもってのほか。
そして、なによりも、このにじいろワークショップでしかできないことでもあります。

年長クラスの子どもたちは二度目の体験ですが、年中クラスの子どもたちは初めての体験です。
とはいえ毎回趣向を凝らす先生のこと、二度目であろうと初めてであろうと、つまるところ今回も、今回限りの「ボディペイントまたはフィンガーペイント」となることは間違いありません。
さて、先生の思うようなこの夏最後のワークショップとなったのでしょうか。

フィンガー(指)からボディ(全身)へ、絵の具まみれの最高の想い出

昨年は、やはり猛暑続きだったために、本来なら屋外で行いたいワークショップでしたが、やむを得ずいつものホールにブルーシートを敷き詰めて実施しました。
一昨年は、2階のバルコニーにサンシェードを張り、その下で行いました。
今回は悩んだ末、やはり屋外で行うことを選択して、一昨年同様2階のバルコニーで行うことにしました。
保育士たちは朝早くからその準備におおわらわです。
まずは強烈な日差しを遮るため、2階バルコニーにサンシェードを張りつける作業を。

次に子どもたちが室内から裸足でサンシェードの下に入り込める動線を確保し、それからワークショップ終了後に暑さで火照ったからだを一気に水で冷やせるようシャワーの準備も整えました。
またこのシャワーは、全身が汚れることを想定して、その汚れを洗い流すことにも使います。
そして仕上げは、サンシェードの影になるバルコニーの床面にブルーシートを貼る作業です。
このブルーシートの上が年中・年長クラス共に子どもたちの作業エリアになります。
これで、ちょっとしたに〈じいろワークショップ屋外教室〉の完成です。

最初にサンシェードの下に集まったのは年中クラスの子どもたち。
その足元のブルーシートの中央には、端から端までロール状のクラフト紙が長い一本の道のように貼り付けてあります。これはあらかじめ先生と保育士が準備したものです。
これが、今回の年中クラスの子どもたちが描く、大きくて長いキャンバスということです。
手づくり感たっぷりの屋外教室や、この長く延びた1枚のクラフト紙を目の当たりにした子どもたちは、少々落ち着かない面持ちで立ちすくんでいましたが、先生はすかさず
「このクラフト紙を挟むように、人数を半分に分けて両側に座りましょう」と声をかけました。
子どもたちは保育士の指示のもと、クラフト紙を挟んで両側に向かい合うように座っていきました。

先生は、先に用意しておいた黄色の絵の具の入った溶き皿を手にして、大きめな筆先をそれにたっぷり浸し、子どもたちの前にあるクラフト紙の端へその黄色の絵の具を一滴垂らしました。一滴といっても、とても大きなかたまりです。
それを、子どもたちの人数分、子どもたちの目の前に一滴ずつ等間隔に垂らしていきました。
もちろんそれはクラフト紙を挟んだ両側の子どもたちの目の前にですから、垂らし終わるとクラフト紙には黄色くてやや大きな点の線がまっすぐに二列出来ました。

子どもたちは目の前に垂らされた黄色い大きな点のかたまりをじっと見ていましたが、これからどうなっていくのかさっぱりわからないままです。
先生はそんな子どもたちと一緒に座り、まずは自分の人差し指を一本掲げると、
「おかあさん指、こうやって1本出してみよう」
そう言って、子どもたちにも人差し指を1本掲げるように促しました。
上手に人差し指を出せない子には、
「あれれ、おかあさん指がいなくなっちゃったかな?それならおにいさん指(中指)でもいいよ」
と言って、先生は両手の二本の指を掲げ、
「はい、それじゃあ、みんなでお指の体操開始!」
先生は自分の指を揺らしたり、折り曲げたり、最後は全部の指を握って、伸ばして・・・。
子どもたちもそれを真似て、忙しく両手の指を動かしました。
子どもたちは、いつのまにか笑い顔に変わり、気持ちも和んでいきました。
初めて体験することには、それについてくどくど話しをするより、まずは楽しんでワークショップに臨むことが大事、そんな先生の言葉通りにさっきまでの不安なようすがいまは見られません。

先生はそのままの流れで、
「では、おかあさん指でも、おにいさん指でもいいので、それを目の前にある黄色の絵の具のかたまりに差し入れて、その指でグルグルグルって混ぜてみようか」
そう言って、まずは見本を示しました。
最初は少し戸惑っていた子どもたちでしたが、誰もがそっと指を差し入れ、同じように指でグルグルと円を描くように混ぜていきました。
はじめる前は、「ほんとに指でさわっていいの?」という気持ちがそれぞれの表情に出ていましたが、いざはじめてみると、それはどんどんエスカレートして、おかあさん指どころか両手の全部の指が黄色に染まる子もいました。

さらに先生は、
「その黄色の絵の具のかたまりから、今度はおとなりのお友だちの前にある黄色の絵の具のかたまりへ指でつなげてみるよ」
そういうと、黄色に染まった指先をクラフト紙から離れないように横へ滑らせて、となりのお友だちの黄色の絵の具のかたまりに指を差し入れました。
すると、ふたつの黄色のかたまりが線でつながって見えました。
もちろんその線は、いま指でクラフト紙の上を滑らせながら描いたものです。
子どもたちはここまで来たら躊躇(ちゅうちょ)しません。
みんなが一斉に指の絵筆で、黄色の絵の具のかたまり同士を結んでいきました。
最初は点在していた黄色の絵の具のかたまりが、あっという間に一本の線になりました。
それもその線は太くなったり、細くなったり、まっすぐなものからジグザグなものまで、その子の指のかたちや大きさ、クラフト紙への滑らせ方など、ひとりの力では絶対に描けないおもしろい一本の長い線になりました。

子どもたち全員がその時点ですでに裸足の足、両手のひら、あるいは顔の一部にまで黄色の絵の具に染まっていました。そればかりか、今日は汚れても良い服装に着替えています、ということで臨んでいるとはいえ、どうしてそこまで衣服が黄色く汚れるの?と思わず笑ってしまうような子どもたちばかりでした。
そして当然のごとく、誰もがほんとうに満足そうでした。
もっとも、普段の生活でこんなことをしたら、絶対に叱られますからね。
でも、ここまでやっても、子どもたちの表情やしぐさから「これで終わりなの?」という無言のメッセージを強烈に感じました。
そんなことを思って見ていたら、先生はなんと
「今度は自分の手のひらや足を使って、いろいろな色の絵の具をもっとたくさんここ(クラフト紙)に塗っていこうか」
そう言って緑・紫・赤・青色の絵の具をどんどん加えていきました。
子どもたちは「待ってました!」とばかりに、足や両手で加えられた色も混ぜ合わせてクラフト紙の上に模様を描いていきました。

最後は、クラフト紙の上に両手、両足を投げ出して、ついには寝ころぶ始末。
先生も子どもたちをあおるように
「次は足でいくよ、今度は両手で」
と号令をかけながら自らの足や手でバタバタ、すりすりとして絵の具まみれになっていました。
とうとう太目の絵筆まで持ち込み、子どもたちは自分の足や手に絵の具を塗り込んで、それをクラフト紙に押し付けるなど、なにからなにまで絵の具まみれの状態です。
周囲で見守っていたはずの保育士も、なぜかあちらこちらが絵の具で染まっています。
ただただこの光景に圧倒されながらも、なぜか小気味よいものを感じました。

ワークショップ終わりは、子どもたち全員のとびきりの笑顔を保育士が写真に収めました。
年中クラスの子どもたちにとっては、冒頭で触れた先生の「夏の最後は・・・思いっ切りこころもからだも解放できる」ものになったようですし、きっとこの先、こんな経験は二度とないでしょうから、最高の想い出になったに違いありません。

最初は特殊加工の天板をキャンバスに、最後は自らのからだがキャンバスに!?

年長クラスは二度目のテーマになりますが、やはり前回とは異なるかたちではじまりました。
まず、サンシェードの下、ブルーシート内に当園の机を4脚持ち込み、それらを等間隔に並べました。
年長クラスの子どもたちが今回キャンバスにするのは、この机の天板部分です。
天板には熱や水分、油汚れなどに強いとされる特殊加工が施されているので、クラフト紙のように絵の具を吸収しない分、そのはじかれ方や混ざり方によって得られる特別な体験も今回の狙いにあります。

年長クラスの子どもたちは、机1脚につき4~5人が使えるように分けられました。
状況は昨年とは違いますが、「ボディペイトまたはフィンガーペイント」のテーマに一人ひとりの記憶がよみがえってきたようです。

クラフト紙は使用しませんが、はじまりは年中クラスと同じです。
先生は黄色の絵の具の入った溶き皿を手にして、一つの天板に5~6滴のかたまりを垂らしながら4脚分の机をまわります。

すでに経験のある年長クラスの子どもたちは、それを指先や手のひらで広げていくことは承知しています。
ただし、今回は年中クラスだった時とは違い、むやみやたらと指先や手のひらで絵の具を混ぜ合わせることはせずに、ひとつのルールをつくりました。
それは、自分の目の前にある黄色の絵の具のかたまりと、その対角線上にあるかたまりとを線で結んでいくこととしました。それは絵の具の色が変わっても同じルールです。

去年は先ほどの年中クラスの子どもたちのように、勝手に思うままグルグルと混ぜ合わせればよかったのが、今回は一度頭のなかで同じ天板のどこにあるかたまりと結んでいくかを考えなければなりません。
別の色の絵の具が加わるたびに複雑な線が天板の上を走りまわります。それもできるかぎり意味なく混ざり合うことを避けるようにしていきます。
こうして4脚すべての天板の上に出来上がった絵柄をきれいに並べて、みんなで眺めてみることにしました。
どの机の天板に描かれた絵柄もとても鮮やかな色彩で構成され、子どもたちの工夫の跡が見てとれました。
もちろん、これに関しても〝完成形〟などありませんので、これはこれで一旦終了としました。

子どもたちはホッとするのと同時に、やはり何か物足りなさを感じているように見えました。
すると、またまた先生はそんな気持ちはお見通し、とばかりに
「よく頑張って仕上げました!なので、ここからはお待ちかねの、机の上の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜていいですよ」と大きな声で促しました。
子どもたちはその声にすぐさま反応して、全員目の前の天板の絵柄を両手で、文字通りぐちゃぐちゃにかき混ぜました。
さっきまでの鮮やかな絵柄は一瞬にして消え去り、どの机の天板も何色だったのかさえわからないほどくすんだ濃いグレーとも黒ともいえない色彩になりました。
それにクラフト紙と違い、天板の上はツルツルに滑るので、手の動きもなめらかで、感触も気持ちよさそうです。

しばらくして、先生はまた一旦それを止めて
「このぐちゃぐちゃになった天板の上に、指先で好きな模様を線で描いてごらん」と言いました。
今度は好きな絵が描けると喜んで、どの子も指先を器用に使って線画を描きはじめました。

それが出来上がったら、その線画の上に真っ白な画用紙を1枚かぶせて上から軽くこすると、グレーがかった色彩を背景にした線画がくっきりと写し取れていました。子どもたちはその予期せぬ作品づくりに驚きました。
それからは自分の線画を急いで仕上げ、どの子もその作品づくりに励みました。

気づけば、年中クラスの子どもたち同様に、いつの間にか両手はもちろんのこと、ぐちゃぐちゃにかき混ぜた際に飛び散った絵の具に衣服や足までもが汚れに汚れていました。
先生は、ワークショップの終わり時間を見計らい、
「年長さんも、本当はこれが一番やりたかったんだよね、さあ、最後は絵の具を自分のからだがキャンバスだと思って好きなだけ塗っていいよ」と先生が発すると、子どもたちは一斉に歓声を挙げながら自らのからだに絵の具を塗り出しました。
もうどの子も全身絵の具まみれです。そして年中クラス同様に、最後は保育士の写真撮影に、全員そろって笑顔の「ハイ、ポーズ!」で締めくくりました。

年中・年長共にワークショップ終了と共に、どの子も汚れた衣服を脱ぎ、シャワーを浴び、気持ちよさそうにさっぱりときれいな服装に着替えて教室に戻りました。

非日常を体験できるという、子どもたちにとってほんとうに素敵な環境

そんな子どもたちを見送っていた松澤先生に、今回もお話しを聞きました。
「今期もこれまでに多くの体験を通して、子どもたちは遊びながらでも知らず知らずのうちにたくさんのことを学び、身につけてきました。
そのために、時には難しいテーマにも挑戦してもらったので、今回はワークショップの後半に向けての小休止という意味合いもこめて、子どもたちがただただ終始はしゃいで、遊んで、めちゃくちゃになって、誰もが純粋に〝楽しかった!おもしろかった!〟って言えるようなものにしたかったので・・・」
こう切り出すと、さらに続けて
「今回年中クラスの子どもたちは初めての体験だったから、最初はほんとに指で触ってもいいの?という、多分叱られるんじゃないか、っていう気持ちがあったんだと思うけど、やりはじめたら止まらない勢いでしたね、もう今日はこれだけやらせて~って感じで。
年長クラスにはちょっとルール付けをして、色と色を工夫しながら結んでいって、そこに出来る色彩やカタチの面白さなどを体感してもらえたらいいかな、と思ってやりましたが、結局年長さんたちも最後はアレがしたいんですよね(笑)。だから、終わり間際にはどの子も手放しで大騒ぎしてましたからね」
先生は笑いながら、そう話しました。

それから、
「普通の生活のなかではこんなことはできないことですからね、いわば非日常を体験したと言っても過言じゃないです。この先、こんな経験をさせてくれる場も機会もほぼないのが現実ですから、本当に子どもたちにとっては貴重な時間だったと思います。
それに絵の具って、学校の授業で今後も使うことはあっても、意外にその感触までは知らないひとがほとんどでしょ。これだけ指先や全身でその感触を体感できるって、ここ以外ではあり得ないことなんです。
そうそうできないという理由は簡単で、第一に手間暇かかる、準備もですが、絵の具まみれになった後始末が大変だから。
それが、ここでは園長をはじめ保育士たちがみんな子どもたちと一緒になって、このことに真剣に取り組んでいるし、協力的だし、また愉しんでもくれていますからね。それって、なによりも大事なことだし、子どもたちにとってもほんとうに素敵な環境だと思います」
最後に指導経験が豊富な先生ならではの意見も聞くことができました。

こうしてこの夏最後のワークショップは無事に終了しました。きっと、どの子にとっても、もうこれから先にそうそう体験できない素敵な夏の想い出として、いつまでもこころに残ってくれるような気がします。

ドキュメンテーション

絵筆で思い切り汚れて遊ぶ経験はこの先どれくらいあるだろう。
汚れてしまう、そんな少しの罪悪感でも感じてしまう子がいるかもしれませんが、解放して様々な感覚を手にいれよう。

【用意】

  • 絵の具(黄色、青、紫、緑、白など)
  • ボディソープ(泡でも泡でなくても)
  • 絵の具を入れる容器
  • 筆・筆洗器
  • 汚れてもよい服装
  • 養生シート
  • ブルーシート
  • 厚口のクラフト紙ロールなど

written by OSAMU TAKAYANAGI