【にじいろWS 2024-07月】色水のカーテン

2024年8月9日 金曜日投稿


カラーインクでつくる色水から、視覚のおもしろさとその感触を体感

最近ニュースや天気予報でよく耳目に触れるのが、「危険な暑さ」というアナウンス。
そうは言われてもその基準が曖昧なので、どう対処すればよいのか困りますよね。
また今年(2024年)4月から、熱中症警戒アラートの一段上の〈熱中症特別警戒アラート〉が新たに創設されました。
こうした暑さがまだまだ続くのかと思うとうんざりしますが、そんなおとなたちの日々の気持ちより、この先未来を生きる子どもたちのことを想像すれば、いま私たちおとなが成すべきことは何かと真剣に考えるときではないのでしょうか。
こんな筆者でさえ思うのですから、保護者のみなさんや園の関係者のみなさんはさぞご苦労なことかとお察しします。

さて、そんな「危険な暑さ」の続く7月、今期4回目のにじいろワークショップが行われました。
さすがに室内でのワークショップでしたが、驚いたことに自然の光も風も通り抜けていくようホールの窓を全開にして、屋内も屋外(ベランダ)もひとつの共有スペースとして使用できるようにセッティングされていました。
しかもこの空間だけは暑さを感じることなく、むしろ快適な温度が保たれていたのです。
それはもちろん当園の構造や冷房設備、保育士たちスタッフが協力してつくり上げているものですが、外部から見れば、この暑さのさなかにちょっと不思議な空間に映るはずです。

今回のワークショップはそんな特別に設営された環境を活かし、より涼し気な気分を満喫しながら色と光が放つ視覚のおもしろさ、そして柔らかでひんやりとした感触を体感できる「色水のカーテン」をつくります。
とはいえ、「色水?」そして「カーテン?」と言葉を聞いただけではどのようなモノ(作品)ができるのか、皆目見当もつかないと思います。
それはまあ、これから順を追ってじっくりご紹介します。
ところで、メインの素材となるのはカラーインクですが、実は2021年4月に「色いろあそびとクリームソーダ」というテーマで、同じくこのカラーインクを用いて〝色水あそび〟のワークショップを行っています。

ただ、このときは純粋に色水をつくり出して、視覚的な面白さに特化したものでした。
ですから今回は、いわばその進化形といえるかもしれません。

ペットボトルの透明な水がみるみる色水に変わり、さらにまた違う色水へと変化!?

2021年に行ったワークショップで〈色の三原色〉について紹介しました。
それはシアン(青緑色)、マゼンタ(赤紫色)、イエロー(黄色)の三つの色を指すということ、そしてこの三つの色を混ぜ合わせることでさまざまな色を生み出すことができるということでした。
今回もこの〈色の三原色〉を用いて、さまざまな色の「色水」をつくります。

はじめに準備したのは、空のペットボトル(500mlサイズ)に無色透明な水を入れたものを20本ほど。
それをホールの中央、ベランダとの境に並べて置きました。
それだけでも外光が差してキラキラ光って見えるので、ちょっとしたオブジェのようです。
それからカラーインクと小さな透明のプラスチックカップ数十個。
それに、仕上げに使う透明なビニールの傘袋(濡れた傘を入れておくための細長い袋)を子どもたち全員の分+予備で多めに用意しました。
なお、今回のワークショップは、内容だけでとらえたら年中・年長クラス共にほぼ同じです。
もちろん年齢と経験の差はところどころに表れますが、基本的に優劣なく、当園の子どもたちにとっては誰もが完成形まで到達できるものです。

では早速はじめましょう。
年中・年長クラス共に、先生のいつもの身振り手振りを交えたユーモアに満ちたお話しから。
子どもたちの笑い声がホールに響き渡ったところで、先生は用意したペットボトルを1本取り出し、目の前のテーブルに置きました。
次に青色のインクボトルを手にして、水の入ったペットボトルにそのインクを一滴注ぎました。
すると、その一滴のインクの青色が水のなかにゆっくり広がっていくのが見えます。
まるで生きものが水のなかで増殖していくような・・・。
子どもたちからは驚嘆の声が上がりました。
年中・年長クラス共に、こんな不思議な光景を見るのは初めてですからね。

 

先生はさらに同じインクを数滴加えました。すると、透明だったペットボトルの水がみるみる青色に染まっていきました。
「うわ~~!」「キレイ」「おもしろい」「スゲ~」
その瞬間、子どもたちからいろいろな声が飛び出しました。

そこで保育士たちは、子どもたちの座る各テーブルの上に水の入ったペットボトルを数本ずつ置いて回りました。
先生は端のテーブルから順番に、先ほどと同じように青色のインクボトルからペットボトルへ一滴ずつ注いでいきました。
そこに現れる青色インクの広がり方は、さっき見た光景と同じようですが、ペットボトルによってまったく異なる動きすることに気づきました。
それから先生は、ほかのペットボトルにも赤、黄色と次々に違う色のインクを注いで回りました。
やっぱりどれも同じように見えて、水の中に広がっていく動きがまったく違います。
どの子も、そんなペットボトルの中のインクの動きを呆然と見つめていました。
その後、すべてのペットボトルに同色のインクを数滴ずつ加えると、いつの間にかペットボトルの中身全体が青、赤、黄色に染まっていきました。
まるで魔法でも見るようなこの光景に、子どもたちはおおはしゃぎです。

先生は各テーブルに出来上がった色水のペットボトルを1本取り上げると、今度は小さな透明のプラスチックカップにその色水を移し入れました。
その色水を入れたカップを、先生は敢えて光の差すところに掲げてみせました。
ペットボトルから移した色水は、透明なカップのなかで光を浴びると、なにか違う色水に見えてきます。
ほかの色のペットボトルからもプラスチックカップに移して眺めると、それもまた違う色に見えました。

さらに先生は色の異なるペットボトルを2本取って、ひとつのカップのなかに半分ずつ別々の色水を入れました。
それをカップごと手早く揺らすと2つの色がグルグル回りながら混じり合って、それこそまったく別の色に変わりました。
「あ、みどりになった!」「こんどはむらさきだ」
と子どもたちは色の変化に次々と反応しました。
先生はそれらカップを、ベランダに沿って建てられた外壁の上部に並べて置きました。
陽射しを浴びたそれらカップの色水は、独特な美しさを放って見えました。

インクの量や色水を混ぜる配分によって、自分だけの予期せぬ色ができてくる

先生はしばらく外壁に並べたカップの色水を眺めて、
「さあ、それじゃあここまでをみんなにもやってもらうからね」
と子どもたちを促しました。
ここまでなら、年中・年長クラスの誰もが何の疑問もなくできることです。
子どもたちはそれぞれプラスチックカップを受け取ると、すぐさま同じようにペットボトルの色水をそれに移しはじめました。

そこで先生はこう言いました。
「青の色水と赤の色水を混ぜ合わせたのに、○○くんのカップの中の色と○○くんのカップの中の色は同じに見えないね?」
子どもたちは隣に座るお友だちのカップの中の色水と自分のカップの中の色水を見比べました。
「ほんとだ⁉」
「同じ色水を入れたのに?」
「半分ずついれたよ」
不思議そうにカップのなかをのぞき合いましたが、やっぱりみんな違う色です。
「それはね、もともとのペットボトルに注いだインクの量も違うし、カップに入れる2色の色水の分量によっても変わるんだよ。
青の色水をいっぱい入れたら青色が濃くなるし、赤の色水をいっぱい入れれば赤色が濃くなる」
先生はそう説明しました。
さらに「だから、誰ひとりとして同じ色はできないんだよ。
それに、同じひとが次に入れても、やっぱり違う色になっちゃう」と付け加えました。

そこで、たくさんのプラスチックカップを子どもたちに配り、先生は言いました。
「一個一個のカップに、自分の思う通り、好きなようにペットボトルの色水を入れてごらん。
カップの数だけたくさんの色水ができるから!」
子どもたちは色水が混ざり合うことで、いろいろな色ができることのおもしろさを知りました。
しかも、自分の手で自由に混ざり合わせることができるのですから、こんな楽しいあそびはありません。
テーブルの上にたくさん並んだ空のカップの中に、どんどんペットボトルの色水を移していきました。
いつの間にかどのテーブルの上にも、微妙に色の違う色水入りカップがたくさん、たくさん並びました。

ここでちょっと横道にそれますが、年長クラスの子どもたちには、ただカップに色水を移すほかに、こんなこともできるよ、という先生からのアドバイスがありました。
それは、色水を混ぜない、それでも一度に二色以上見せる方法です。
例えば、青の色水をカップに半分移して、もうひとつ別のカップに赤の色水を半分移し、その二つのカップをひとつになるように重ねます。すると、重なったカップに二の色が、混ざることなく二段に重なって見えます。
もうひと色を加えるなら、ひとつのカップに移す色水の分量を1/3ずつにして、三つのカップをひとつに重ねます。
どの色もほかの色と混ざることはなく、そのままの状態で眺めれば、2色、3色がサンドイッチのように重なって見えてくるというやり方でした。
年長クラスの子どもたちはこれにすっかり魅せられたのか、誰もがそれを真似しはじめました。

では話しを戻しましょう。
先生は、最初に見せたように、たくさんの色水の入ったカップを外壁の上部やベランダの床に並べてみよう、と言いました。
子どもたちは保育士にも手伝ってもらいながら、長くまっすぐに伸びた外壁の上部やベランダの床にきれいに並べて置きました。
太陽の光に照らされた色水入りカップが、外壁やベランダを装飾したようにキラキラと美しく整列しています。
いったい全部で何色の色水ができたのでしょうね、50色かな、100色くらいかな、いやそれ以上かも。
そうした光景を、子どもたちをはじめ、先生や保育士たちはしばらく眺めていました。

色水(液体)をつかむ、揺する、肌に押し当てる、初めての体感

ここまでは数年前に行ったワークショップの展開と同じです。
でも今回は、ここからが進化形と呼ぶにふさわしい内容に変わっています。
先生はあらかじめ用意していた透明なビニールの傘袋を取り出すと、色水のカップをひとつ手に取って、一気にその色水を傘袋の中に流し込みました。
子どもたちは、いきなり先生が何をしているのかわからずにびっくりするばかり。
先生はそんな子どもたちの目の前で、傘袋に入れた色水を揺らしたり、手でつかんだりして見せました。
傘袋の中の色水は、カップの中の色水ともまた違うように見えました。
先生は色水がこぼれ出ないように傘袋の端を持って、ぶるんぶるんと大きく揺らしました。傘袋の中の色水はその揺れに合わせて、自由に跳ねまわっているように見えます。
子どもたちの視線は、もうそれに釘付けです。

先生と保育士たちは子どもたちにその傘袋を配り、ひとりひとり順番に、子どもたちが選んだカップの色水を流し込んでいきました。
ひとつのカップの色水を入れたら、それがこぼれ出ないように傘袋の下方をひとつ結びます。そこにまた別の色水を流し込み、またそこで結びます。
これで傘袋の中はふたつの色を閉じ込めることができました。
年長クラスの子どもたちは、傘袋の中にもうひと結びして、三色の色水を流し込みました。

それから子どもたちも先生がしたように、傘袋の中の色水を手でつかんだり、つついたり、ゆっさゆっさと揺らしたり、また自分の首や手首に巻いたり、押し当てたり・・・まるで生きものと接するように色水と遊びはじめました。
カップの中の色水は眺めるだけでしたが、こんな風に色水(液体)と遊べるなんて、子どもたちにとっては不思議な、初めての体感です。

先生と保育士は一本のロープを右の柱から左の柱に渡し、そこに子どもたちがつくった傘袋の色水を吊るしてみました。
自然の風に揺れながら、太陽の光に輝くたくさんの傘袋の色水が、まるで〈カーテン〉のように吊り下がって見えました。
こんな猛暑のさなか、そこだけ涼やかな風が吹き抜けていくようで、思わず季節を忘れてしまいそうでした。

自然の風や光を感じながら、〝遊び〟のなかで自ら何かを得ていくことが大事

最終的にでき上がった子どもたちの作品は、当園の入り口から玄関までの通路の上に飾り付けることになり、先生と保育士が取り付け作業を行いました。
ここが一番、保護者のみなさんが送り迎えに我が子の作品を鑑賞していただける場所ではないでしょうか。

そこで、ふと気づいたのですが、毎回のことながらこうした作品の展示はもとより、スムーズにワークショップが行われるように準備やその手配に尽力してくれる中村主任保育士の存在を忘れがちなので、これを機に少しお話しを聞きました。

当初は当ワークショップの専任の保育士かと思っていましたが、日常の担当業務をこなしたうえでのサポート業務ということですから改めてそのご苦労を知りました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生との連絡役であることから、こうした準備段階からサポートをするようになったとのことです。
松澤先生いわく、「思いつきで言ってしまうようなことも、まじめに何度も聞き返し、何度も確認してくれるので、いまではすっかり頼れる存在ですよ」とのこと。
「準備に関しては、細かな説明を求めて連絡を取り合います。園のストックもありますが、新たなモノなどはその準備に時間がかかって大変なこともありますが、新しいモノを知ることでもあって、いまではそんな作業も楽しんでやっています。また松澤先生は身近な素材を使うことが多く、お金をかければいいという考えではないので園としても助かります」
中村主任保育士は、笑いながらそう話してくれました。
それでも本人は、アートという分野は昔から苦手意識があって、それは今も変わらないので、と言います。
「でもワークショップを通じて、視点を少し変えるだけでこんなに物事の見方や感じ方が変わるんだ、というようなことに気づかされることが多くあります。そんなとき、これに携わってきて良かったな、と思います」
そう言うと、あと片付けの作業に急いで戻っていきました。
目には見えない、まさに縁の下の仕事ばかりですが、ワークショップが円滑に、そして何よりも安全で楽しく行われるよう、これからもサポートをよろしくお願いします!

最後は松澤先生に締めていただきましょう。
「内容から言えば年中・年長という年齢差はもちろん、器用、不器用というような優劣もつかず、誰でも参加でき、どの子も一定の成果が得られるというものですから、遊び感覚で楽しめるワークショップだったと思います」と、まずは端的に語ってくれました。
さらに続けて、
「具体的な効果ということで言えば、ペットボトルから小さなカップに液体(色水)をこぼすことなく上手に移す、その動作を繰り返す、ということで手先の感覚が磨かれます。
それから、移す分量によって色が変化するということを覚える、そこで〝さじ加減〟を自分の意思でコントロールできるということを体感する、ということですね」
先生は日ごろから、子どもたちに〝学ばせる〟のではなく、〝遊び〟のなかで自ら体感したことを、自らの五感の中に残す、つまり自ら何かを得ていくということが幼児期には大事なことではないか、と話しています。

また先生は、
「ビニールの上からですが、液体(色水)を触ってみて、子どもたち自身がその感想として、もちもちしてる、ふにゃふにゃするなぁ、やわらかくて気持ちいい、って言ってたでしょ。そういう言葉は自然にその行為から誘発されて出てきたと思うんですね、誰かに強要された言葉ではなく。
ペットボトルやカップの中の液体(色水)だけをただ眺めていても、そんな感想は出てきませんからね」
とやや語気を強めて言いました。
「少なくとも今回のワークショップで、普通はペットボトルやカップにあるだけの液体(色水)でも、それをつかんだり、なでたり、つまんだりという感触を得ることができるんだ、ということを知ったことは大きいんじゃないかな、しかも傘袋1枚あればいいって」
先生は笑いながらそう話し、
「それと、今回のような解放感ある環境をつくってあげることも重要なことです。外からの風も、光も、要は自然をそのまま感じながらワークショップを行えるということは子どもたちにとって一番の体感です。
特に今回のようなテーマは、屋内で黙々と制作していても刺激的なものは受けませんからね。ただこの連日の猛暑日のなかでは完全に屋外で行うというのも・・・と思案していたところ、園のみなさんの協力でこうした環境を整えてくれたことに感謝ですね」
こんな言葉を残して、終わりました。

ドキュメンテーション

三原色の色水を混色して美しい色水をつくるのは、子どもたちが夢中になる遊びです。
瞬時に鮮やかな色になるさまは、まさに魔法のようです。
大量につくった色水をカップのまま飾ることは以前にもやって来ましたが、今回はつくった色を飾ってみます。
夏の光を透過した色の美しさを感じたり、さわったりして、視覚的にも触覚的にも楽しんでみたいと思います。

  • 🎨インク(シアン(青緑色)・マゼンタ(赤紫色)・イエロー(黄色)のプリント詰め替えインク
  • 🎨プラカップ 90ml 400個程度
  • 🎨空きペットボトル 500ml 15~20本
  • 🎨傘袋 (ポリ 厚め 透明なもの)
  • 🎨ごぼう袋など長い野菜を入れる袋 透明なもの
  • 🎨すずらんテープ 養生テープ

written by OSAMU TAKAYANAGI