【にじいろWS 2024-06月】たたみ染めで飾ろう~6月の風に染め物を干してみよう~

2024年6月14日 金曜日投稿


今期初めての屋外ワークショップは、伝統ある染色体験です

最近、公共放送で染色に関する番組を観ました。
「伝統の染色技術をヴァージョンアップさせた、新たなモノづくりを紹介」します、と番組の宣伝文句に惹かれたこともあり何気なく観たのですが、これがなかなか興味深かったのです。
特に現代風の木製食器やおしゃれな照明器具に藍染(あいぞめ)を施し、モダンななかにも和風の美しさや風格を備えた商品の数々にはすっかり魅了されました。
それらはいずれも基本ベースとして伝統的な染色方法を採用していますが、若い職人たちの斬新なアイデアが随所につまった画期的なものでした。
歴史と伝統に培われた染色の世界も、こうしていまという時代にしっかり息づいているのだな、と思ったらなんだかとてもわくわくしてきました。

さて、今回のにじいろワークショップは、そんな染色がテーマです。
ご記憶にあると思いますが、昨年の6月にも「紫陽花色のテキスタイル」と題して、染色のワークショップを行いました。
その日はめずらしく梅雨の晴れ間となり、園舎と隣接する送迎用の駐車場で行うことができました。
実は今回もいつものホールで行う予定でしたが、当園の田中園長が当日朝の天気を見て、室内に準備していた材料やテーブルなどといった道具一式を保育士らと急きょ駐車場内に移し換えたのです。
おかげで、二年続けて屋外での染色を行うことができました。
この梅雨時に、よくよく“あおぞら”に恵まれた子どもたちですね。

また当初は室内での実施を考慮し、和紙に染めるということでワークショップを進めていましたが、やはりこれも昨年同様に〈さらし(晒)〉を用いることになりました。
ただし、今回は子どもたちひとりひとりにいきわたるよう、あらかじめ手ぬぐいほどの長さに切り分け、人数分の枚数を用意しました。

こうしてはじまった今期初の屋外ワークショップ。
年中クラスの子どもたちにとって染色は初体験ですから、初ものづくしです。
そして年長クラスの子どもたちは二度目の染色ですが、今回はちょっと前回と勝手がちがうので、これもまた初めての体験となることでしょう。
いずれにしても、楽しみなワークショップになりそうです。

折りたたんだ〈さらし〉の角に染料をつける、いたってシンプルですが

日本における染色の歴史は古く、縄文時代の遺跡からすでに染色された織物が発掘されているといいます。
ただ当時の染色は草花や木の皮などを摺りつけて染めるという原始的なものだったようです。
その後、奈良時代に大陸から染色技術が伝えられると染色そのものが発展していきますが、庶民の間に文化として根付くのは、さらに時代が進み江戸時代に入ってからのことだそうです。
そして明治時代にイギリスなどから化学染料が輸入されると、急速に国内に広まり、以来日本独自のさまざまな染色技術が生まれていきました。
今回はそんな染色技術のなかから、「たたみ染め」の方法を用いた染色を行います。
では「たたみ染め」とは・・・おっと、これは子どもたちと一緒に先生が教えますので後ほど。

まずはいつものように年中クラスの子どもたちからはじめましょう。
初めての屋外ワークショップに、弾む気分はかくせないようです。
園舎の出入り口あたりから、すでに子どもたちのはしゃぐ声が駐車場へと響きわたってきました。
駐車場の中央にブルーシートが敷かれ、その上には長いテーブルが並んでいます。
その端には今日のために用意された染料、絵筆、ボール型の器、古新聞紙などたくさんの材料が置かれています。
子どもたちは駐車場に入ると、いつもと違う光景に一瞬たじろいだ様子。
そこで保育士は子どもたちにブルーシートの上へ裸足で上がるように指示し、室内同様に決められたテーブルの位置にきちんと座らせました。
脱いだ靴も、まるで子どもたちに倣ったように、きちんと列をつくって並べられているのがなんともほほ笑ましく見えます。

準備ができたところで、先生は手ぬぐい状に切った一枚の〈さらし(晒)〉を手に子どもたちの前にすわりました。
それに合わせて保育士たちが子どもたちひとりひとりに先生と同じ〈さらし(晒)〉を配りました。
柔らかくて軽いこの素材の触感に、子どもたちの気持ちもどことなくほっこりといやされていくようです。
先生はまず自分の手に持った〈さらし(晒)〉をほおかぶりしたり、首に巻いたりしておどけてみせました。
子どもたちも同じようにそれを真似てはおどけ、お友だち同士互いの姿を見合って笑っていました。
それから先生はそれを布団のように下に敷いて、「おやすみ」と言うと床に寝てしまいました。
子どもたちもまたまた一斉にそれを下に敷いて「おやすみなさい!」と。

先生は、ワークショップで使う素材は必ずその感触なり、匂いなりを子どもたち自身に徹底して馴染ませます。
頭や視覚でとらえることは必要ですが、そのものの本質を知るには肌で触れる、匂いを嗅ぐと言った五感をフル活用して確かめることが何よりです。
そんなふうにして子どもたちが〈さらし(晒)〉という素材に馴染んだ頃合いを見計らい、先生は「たたみ染め」の指導に入っていきました。

最初にそれぞれが手にしている一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折り、それを順次表、裏と繰り返して、いわゆる蛇腹折りに折りたたんでいきます。
そうして出来上がった細長い形のものを、さらに表、裏と繰り返して折りたたみ、手のなかに収まるくらい小さくなるまでたたみ込み、最後は厚みのある四角形のようなかたまりにします。
なんだか四角いおもちをいくつか重ねたような、見た目も分厚いかたまりになります。
そのかたまりが崩れないよう十字に輪ゴムでかけたら出来上がりです。
ただし、この輪ゴムかけはとても重要な作業なので、こればかりは先生と保育士が受け持ちました。

ここまで仕上がったら、次は染色です。
先生は染料を溶いたボール型の器を子どもたちひとりひとりに見せながら、
「これから、この染料で色をつけていきます」
と、簡単に説明をしました。

初めての体験ですから、当然それがどんなものか、どのようにするのかはわかりません。
ひと通りそれを見せると、先生は幾重にもたたみ込んだ四角いかたまりを手に取って掲げ、
「ここに四つの角ができているの、わかるかな?」
と、四角いかたまりのひとつひとつの角を指さしながら聞きました。
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ」
と子どもたちも自分のそれを同じように数えながら確認しました。
先生はそこで
「この角のひとつを、まず藍色の染料につけます」
といって、ひとつの角を藍色の染料の入ったボール型の器につけました。
「そしたら、ふたつめの角を今度は黄色の染料につけます」
といって、別の角を黄色の染料が入ったボール型の器につけました。
「それから、みっつめの角を水色の染料につけます」
残った角は「赤色の染料の入ったボール型の器に・・・」と、四つの角がよっつの色に染まりました。

先生はそれからそれを古新聞の間に挟み、上から力強くぎゅっぎゅと押さえて水分を古新聞に吸わせました。
「手のアイロンだよ、しっかり何度もぎゅっと押さえてね」
と子どもたちに念を押しました。
しばらくしてそのかたまりを取り出し、止めていた輪ゴムを外して折りたたんでいた〈さらし(晒)〉をゆっくりひろげました。
そこには、想像もしていなかった規則正しく並んだ連続性のある模様が、やはり思いもしなかった色彩に染まって描きだされていました。
子どもたちの目は一斉にその〈さらし(晒)〉に注がれ、誰ともなく感嘆の声が上がりました。

四つの角を順々に別の色の染料につけるだけという、やり方はいたってシンプルですが、ここが最も重要になるので焦らず慎重にやりましょう。ここでしっかり染料を染み込ませないと、仕上がりもそれなりに。
子どもたちは先生のお手本に倣って、同じ動作を丹念に繰り返していきました。

年長クラスは割りばし1本で、鮮やかなアンモナイト模様に挑戦

年長クラスの子どもたちは、というと染色は二回目ですから、年中クラスの子どもたちよりはやや難しいたたみ(折り)方に挑戦してもらいました。
先生は先ほど手本として染色した〈さらし(晒)〉の作品を掲げて見せました。
その瞬間子どもたちからは、「ワ~きれい」とか「スゲエ―ッ」という声が飛び出しました。
「今日はこれをつくります」と先生は言い、早速のその手順の説明をはじめました。

 

一枚の〈さらし(晒)〉を二等分に折るところまでは年中クラスと同じですが、ここから先生は1本の割りばしを〈さらし(晒)〉の中央に立て、そのままぐっと上から突き刺すようにきつく押さえました。
そして、片方の手で下にある〈さらし(晒)〉をねじるように時計回りに回転させていくと、〈さらし(晒)〉は中央に立てられた割りばしを中心にうずを巻くようにぐるぐると巻き込まれていきます。
全体が割りばしに巻き込まれたようになったところでその動作を止めました。
先生はその手で〈さらし(晒)〉が動かないように押さえると、中心に立つ割りばしをさっと抜き取り、その形が崩れる前に急いで2本の輪ゴムを交差させながらそれにかけました。
2本の輪ゴムを交差してかけることで、自然にそのものが4分割されました。

それをじっと見ていた年長クラスの子どもたちは、ふーっとため息をもらしました。
先生は難なくやり遂げましたが、今までそんな動作はしたことがないので不安だったのでしょう。
でも、いつものように何事も経験、チャレンジあるのみ!

いやいやどうして、器用に割りばしに巻き込んでいる子がたくさんいます。
なかには、なかなかうまくいかずに何度もやり直す子、できないことにちょっとイライラする子も。
それでも最後は全員が上手にできました。

仕上げに2本の輪ゴムをかけるのは、やはり先生と保育士が行いました。
全員がそれを手にすると、先生は本題である染色のやり方を見せました。
これも、年長クラスにはそのまま染料が入ったボール型の器につけるのではなく、絵筆にたっぷりと染料をつけて直接そのものに色を染み込ませる方法をとりました。
もちろん、全体を一色で染めるのではなく、やはり自然に4分割されたそれぞれの部分に年中クラス同様に順番に別々の色を染めていきます。
染色のポイントは、とにかくたっぷり絵筆で染料を染み込ませることです。

先生は染色を済ませると、さっきと同じようにそれを古新聞の間に挟み、今度は上から足の裏で力強く踏み込んで、余分な水分を古新聞に十分吸わせました。古新聞の表面にはみるみる水が浮き出てきました。
水気がなくなるのを確認したら、それを取り出して輪ゴムをほどき、ゆっくり〈さらし(晒)〉をひろげていきました。
そこに描かれたのは、鮮やかな色彩に染まった美しいアンモナイトのようなうず巻き模様でした。
しかも、ふたつに折り込んでいたので、それをさらにひろげると同じ模様がふたつ並んで見えました。
それを見た子どもたちの反応は言うまでもありませんが、先ほど同様に感嘆の声を上げました。

子どもたちはすぐさま先生を真似て、絵筆にたっぷり染料をつけながら、手にした〈さらし(晒)〉によっつの色を染み込ませていきました。
最後はそれを古新聞の間に挟み、足の裏で力強く踏み込んでいきます。
ところが、この動作に入るとどの子もはしゃぎはじめまて、なかなか止めようとしません。不思議がっていると、どうやら足裏の感触が気持ちよかったのか、踏みつけること自体が面白かったのか、あちらこちらでうどん作りのようにドンドンと、踊るようにバタバタと大騒ぎ。子どもって、思わぬところ(動作)に惹かれるのですね。

あそび感覚の染色でも、伝統的な染めの世界観を味わうことができます

年中・年長クラス共に、でき上った〈さらし(晒)〉は駐車場の端から端に張られた紐に並べてつるし、自然の光と風で乾かしました。
染色されたたくさんの〈さらし(晒)〉が、駐車場ではためくその光景にしばし眺め入ってしまいました。
まるで美術館の屋外展示場に飾られたアート作品のように輝いて見えました。

そんな光景を一緒に眺めていた田中園長は、
「子どもたちも屋外の空気を満喫していたし、何より自分でつくった作品を自分たちの手で干して乾かしたり、それを同じ場所で、全員で鑑賞することができましたからね。ここでできてよかったです、急な引っ越しでしたが(笑)」
と機転を利かせ、室内から慌ただしく場所を屋外へと移したことに、やっとほっとしたように話しました。
にじいろワークショップを企画・指導する松澤先生は、
「そうですね、はじまりから終わり(鑑賞)まで一連の流れで体感して欲しいというのはいつも思うことで、それができたことは本当に良かったです」
そんなふうに園長の英断を称えていました。

そこで、最初から最後まで全体を忙しなくサポートしていた田中園長に今回の感想を聞いてみました。
「折り方、染め方を同じようにしても、模様も色合いもこれほど個人によって変わって表れるというのは驚きでしたね、普段の生活のなかでは、同じようなことをすれば、だいたい同じような結果に収まりますから。
それと、年中さんは明るい色彩が多かったように感じましたが、年長さんはぐっと落ち着いた色彩が多かったようにも。少し前まではいまの年中さんと同じようだったと思うんですけどね、この差ってなんだろうか、なんて思いました」
そして、最後に笑いながらこう付け加えました。
「(紐につるされて並ぶ作品を眺めながら)これらを使って、子どもたちの浴衣をつくってあげたいなぁ、という気分になりましたよ。世界にたった一枚の色彩と模様を持つ生地ですからね」

ではいつものように、先生に今回のワークショップをふり返ってもらいましょう。
「染色自体は歴史のある伝統的なものです。この世界を極めようと思うと、それは大変なことです。
でもここのところ、幼児を対象としたあそび感覚の染色を行うのをよく見ます。
やり方はさまざまですが、この利点というのは、誰がやっても作品として成り立つこと、感動も達成感も得られますからね。それから出来上がりに優劣がつかないということなどだと思います。
今日のでき上りをみても、どれもが色彩豊かで、模様もさまざまに描かれていて、ほんとうにすべてが魅力的です。
こればかりは偶然の産物なので、うまくやろうとか思ってもできないし、むしろ不器用でも無心でやった子の作品が良かったりしますからね」

さらに続けて、
「実は今回室内で行う予定でしたから、素材に和紙を使うことを想定していました。
本来、たたみ染め(折り染め)は和紙でやるものなんですね。それなら仕上がった後もほぼ乾かすだけで済みますから。でも結果的に〈さらし(晒)〉を使うことで、より伝統的な染めの世界観を味わうことができたと思います。
また今後同テーマで行うなら、例えば「草木染め」のように植物や野菜など自然素材を使って染めるといった、つまり元となる染料から自分たちの手でつくるような取り組みは面白いかなと思っています。
与えられたものから生み出すのではなく、そのさらに元から生み出すということができたら、感動も倍になるんじゃないかな、特に好奇心旺盛な子どもたちにとっては」
笑顔でそう言って締めくくりました。
好奇心旺盛といえば、先生自身も負けず劣らずかなりのものだと思うのですが(あくまで私見です)。

 

後日、子どもたちの作品を一度洗うというお話しだったので、どうなったのかを尋ねたところ、
「洗う際に色止めをした方が良いということで、いま色止め剤が届くのを待っているところです」
との返答でした。園でそこまで仕上げてから、園児一人ひとり持ち帰る予定とのことでした。
伝統のあるものは、例えこのようなあそび的なものであっても、これほどまでに手間暇がかかるのだ、と実感しました。それだけに、手にしたときの感動や喜びが大きいのですね。

ドキュメンテーション

昨年の6月は紫陽花や雨のイメージから晒しを紫陽花色に染めるワークショップを行いました。

たたみ染めは、いわゆる着物や手ぬぐいなどに用いる伝統的な板はさみ染めとははじまりが違うもののようです。
それでも和風な出来上がりになるのも面白いものです。
染料の染み込みの加減で自分の手の中からどんな美しい模様が出てくるでしょう。

written by OSAMU TAKAYANAGI