冬の光を集めて、体感したことのない美しい世界を創出
冬の陽射しは穏やかで、とてもやわらかな温もりをあたえてくれます。
透き通った外気にゆらぐ淡い光の煌めきさえ、どこか愛おしい。
そんな冬の太陽からそそがれる光の束を集めて、今までに体感したことのない美しい世界をつくります。
今回は年中クラス・年長クラス共に同じ創作工程を経て、子どもたちの両手のひらに収まるほどの小さな箱をつくります。
でも、箱のなかには宝石のような輝きを放つ光がぎっしり詰まっています。
しかもそれは、つくり上げたその子だけの唯一無二の「光の箱」です。
新しい年を迎えて初めてのにじいろワークショップは、この「光の箱」を創出します。
※なお、今回参考にさせていただいたのは、大学准教授であり美術作家でもある松村泰三氏が考案した「光の箱」です。
もちろん、当園の子どもたちに応じた内容に監修し、通常のにじいろワークショップとして指導しています。
従って、ここで使用する材料や大きさなどは、一般的に流布されているテキストや指導要領とは異なります。
つくり方は簡単!でも、丁寧に、順番通りに組み立てましょう
年中クラス・年長クラス共に同じ工程を経て、この「光の箱」づくりを進めます。
そこで、今回はまず創作工程を示しておきましょう。
①工作用の厚紙を幅7cm、長さ40cm+のりしろ(1.5cmほど)の帯状にしたものを、児童ひとり1枚用意します。
帯状の片面には10cm間隔に4本のたに折りを示す線を施します。
②たに折り線のないもう片面にそれぞれが好きな模様をカラーペンで描きます。
③模様を描いた面を外側にして、内側をたに折り線に沿って折りたたんでいきます。
④四角形の箱型ができたら、のりしろを両面テープでしっかり貼り付け、正四角形の形に整えます。
⑤帯状の面にある縁(ふち)に工作用のボンドを塗ります。ボンドは綿棒を使って丁寧に塗ります。
⑥各辺10m以上の正方形に切ったトレーシングペーパーを1枚用意し、箱にふたをかぶせるように貼り付けます。
⑦トレーシングペーパーを底面にして箱を置き、しっかり付着するまで押さえます。
⑧それが乾くまでの間、アルミホイルなど鏡面加工されているペーパーを7cm幅の帯状に切ったものを数多く用意。
⑨それを円筒のようにまるめてボンドで貼り付けます。直径は自由なので、大小さまざま円筒をいくつもつくります。これが基本の形となります。
また円筒だけではなく、四角柱でも、三角柱でも、星型やハートの形でも、円筒のようになればよいです。
⑩それができたら、たくさんつくった円筒状のものを箱のなかに詰めていきます。
⑪箱のなかがぎゅうぎゅう詰めになったら、それが外に出ないようまたふたをします。今度は、カラーセロハンでふたをしますが、トレーシングペーパーのように1枚で被せるのではなく、赤・黄・青・紫などいくつかの色のセロハンをそれぞれ2~3cm幅に切ったものをランダムに、縦横かまわず箱のふたになるよう貼り付けます。色の並べ方は自由ですが、いくつもの色が重なるように貼ります。
⑫最後に、箱の縁から外にはみ出したトレーシングペーパーやカラーセロハンの余計な部分は箱の形に沿って切り落とせば完成です。
完成した「光の箱」の見方は、カラーセロハン側を太陽の光に向け、トレーシングペーパー側から箱のなかを覗くように見ます。
創作過程で、使用する材料の用途や素材の特色も学びます
今回のワークショップはいつものホールでの創作ではなく、年中クラス・年長クラス共にそれぞれのお部屋で行いました。
なので、臨む気持ちに少し変化があったかもしれません。環境って、すごく大事ですから、とくにアートに取り組むときって、なおのこと。
それを考えると、今回のようにいくつかの決められた単調な作業を繰り返し、じっくりと創作に打ち込んで完成させるような作品づくりは、日頃慣れているお部屋でよかったかもしれません。
いつもに増して、周囲に気を取られず、そのものに集中することができたように思います。
はじめる前に、先生はまず自身でつくった「光の箱」を子どもたちに見せました。
机に座る子どもたちに間近で、順番に見せて歩きました。
でも先生の手のなかにただ収まっている箱は、中身もろくに見えませんし、一見どうということのない正四角形の箱です。
子どもたちはそれがどんな意味を持つ箱なのかは誰も知りません。
先生はその箱をもって、お部屋のベランダ側にあるガラスサッシへゆっくり行くと、そのガラスに箱を押し当てました。
するとその瞬間、箱のなかにさまざまな色の模様が、きらきらと輝きながら浮かびあがって見えました。
子どもたちはいっせいに大きな歓声をあげました。
「うわ~なんだ!?」
「光ってるぞ」
さっき自分たちが見たふつうの箱のなかが、太陽の光にかざしただけで一瞬にして魔法のように輝き出したのですから、それはびっくりです。
先生はさらにガラス越しに押し当てた箱を上下左右に動かしたり、揺らしたりしました。
なんと、そのたびに箱のなかの模様も、まるで生きているように次々に輝きを変えて見えてきます。
「動いた、また変わった!」
「なにが入ってるの?」
子どもたちはその小さな箱のなかが目まぐるしく変わるたびに興奮して立ったり、座ったり。
「今日は、これをみんなにつくってもらいます」
先生はそう言うと、創作工程を順番に子どもたちに伝えながら進めていきました。
創作工程を順番に指示しながら、先生はいつものユーモアを交えて、トレーシングペーパーやカラーセロハンの使い方やその素材の特色について説明をしました。
「トレーシングペーパーは、目の前にかざして見ても普通の紙のようにその向こうは見通せないよね。でもそれを直接胸につけている名札に押し当てたら、ほら、ちゃんと名前が透けて見えてくるよ」
先生はひとりの子どもの胸の名札にそれ押し当てて見せました。
さっきまで何も見えなかった紙が、そうして見ればちゃんと名札の名前が読み取れます。
「ほんとだ!」と子どもたちは自分の名札にそれを押し当ててみました。
ある子が自分の着ている服に押し当てて
「あ、わたしの服の模様が見えたよ」と言い出しました。
その声に反応して、ほかの子どもたちも自分の洋服に描かれたプリント柄や刺繍にそれを押し当ててみました。
「見えた、見えた」とあっちこっちで連呼していました。
またカラーセロハンも目の前にかざすと、お部屋全体がそのセロハンの色に変わります。
青いセロハンをかざせば青色に、赤色をかざせば赤色に。
またまたある子が、左右の目に別々の色のセロハンをかざして見ています。
「わ~~っ、なんだこの色!?」とおおはしゃぎ。
はて、それは何色に見えたのでしょう・・・。
いずれにしても難しい説明より、こうして実際に体験して学ぶ方が、その使い方も素材感も身につくようです。
そして先生はワークショップの締めくくりに、年中クラス・年長クラス共にそれぞれ完成した「光の箱」をベランダに集めてひとつの大きなオブジェのように積み上げました。
積み上げ方次第で、まっすぐ天に向かって建つ一本の光の柱のようにも、また横につなげて美しく輝く壁のようにもなります。
「光の箱」は、まるで生きもののように、つねに流動的にうごめいていきます。
太陽からの光の恩恵は、玩具から建築まで無限大です
太陽からふりそそぐ光を利用して楽しむ玩具といえば、万華鏡を想い出します。
これはみなさんご存知かと思いますが、一般的なのは円筒のなかにガラス板が三枚、三角に組まれ、そこに小さなガラス片や色紙などが入っているもので、円筒自体を手でくるくる回しながら小さな覗き穴から見るとなかのガラス片や色紙がさまざまな模様に変化するというもの。
これも、覗き穴の反対側から入る光によって、予想できない独特な美しさを見せてくれます。
また、教会の窓などにはめ込まれたステンドグラスも、太陽の光によってさまざまな表情を魅せてくれます。
さらにいえば、こうした太陽の光を採り入れたり、それを活かした建築も世界中にたくさんあります。
今回のワークショップでは、ひとつの小さな箱づくりにすぎませんが、ここから広がる世界はかぎりなく存在するということです。
それこそ、子どもたちの未来を象徴するかのように。
では、最後ににじいろワークショップを企画・指導する松澤先生からのコメントを紹介します。
「季節的に屋外での作業は無理ですが、室内での作業でありながら屋外で太陽の陽射しや透き通った外気を感じることができるワークショップとして初めて採用した内容でした。
誰もが一連の工作工程を経ることで完成するという、ごく一般的なものですが、完成した形こそみんな同じでもそこに浮かび上がる(見える)世界はまったくのオリジナルな世界になるというのが、この『光の箱』の最大の特徴です。
特に当園の子どもたちですから、これまでの経験を活かし、一人ひとりが丁寧に取り組んでいくことでより独創性を発揮できるという点で、とても有意義な工作になったと思います。
また工作の過程で子どもたちは切ること、折ること、貼ることなど細かな作業を繰り返すので、かなり指先の訓練や素材に慣れるという点で有効な作業だったといえます。
もっとも、当園のワークショップでそれはかなり鍛えられてきているので、案外たやすくこなしていたかもしれませんね。
それより、完成した直後に子どもたちがベランダに飛び出して、太陽の光に向かって自分の『光の箱』を競い合うように高く、高く差し出している姿には胸を打たれました。
誰に促されたものでもない、自然に感情として表れたものなので、そういう内側から湧き出る思いに駆られることこそ本物ですから。
そして、それぞれの『光の箱』に映る予想もできない輝きや揺れ動く模様に歓声を上げていたことが、実は最もこのワークショップで得た純粋な体験だったのではないか、と思います」
ドキュメンテーション
光の箱
空気が澄み切って光が綺麗に見える季節です。
光の工作は昨年も行いましたが、今回は光のボックスを作ります。
比較的簡単で、よくある工作ではありますが、誰が作っても達成感のある素敵な箱が出来上がります。
窓際に置いて太陽の光が差し込む様子を楽しみます。
今回は保育室に積んで灯りを照らしてみたいと思います。
written by OSAMU TAKAYANAGI