【にじいろWS 2022-6月】「土粘土あそび」

2022年6月28日 火曜日投稿


土あそびの感覚で、立体表現としての〈アート〉を体験

今年は例年になく最短で梅雨が明けました。
ようやく思いっきり外あそびができると喜んでいた子どもたちでしたが、かつてないほどの猛暑日続きで、長時間におよぶ外あそびは難しいかもしれません。
それでも子どもたちは、雨の日同様に室内でたくさんのあそびを楽しんでいます。
今回のワークショップは、そんな子どもたちに、室内でのあそびの要素も取り入れた「土粘土(つちねんど)」による造形活動をおこないました。

園のなかでの粘土あそびは、なにも特別なことではありません。
子どもたちには両手でつかめるほどの粘土の塊と、B4~A3判ていどの大きさの粘土板(プラスチック製)がひとりひとりに与えられています。
それを各自がのばす、まるめる、ちぎるなど思い思いのやり方で、いろいろなかたちに変化させてあそびます。
通常保育園で使うのは、「あぶら粘土」です。
水分などを加える必要もなく、乾燥することがないので硬くなりにくく、簡単に何度でもかたちを変えられることができるので一般的な学校の教材としても用いられています。
ほかに、水や糊を原料とする粘土で、乾燥させると硬くなり、しかも軽量で着色もしやすいという「紙(かみ)粘土」も手軽に楽しめる粘土として幅広い層に人気があります。
今回教材として使用する粘土は「土(つち)粘土」といいます。
文字通り土を原料にした粘土で、乾燥すると硬くて重くなりますが、再度水分を与えるとまた柔らかくなるので、何度もかたちを変えることができます。
また、その感触も土あそびに近いものがあるので、自然と触れ合う感覚が得られます。
重量があるのでしっかりとした造形物として成り立つことから、立体表現としての〈アート〉活動にとても適した粘土でもあります。

まずは手のひらに、指先に、しっかりなじませることからはじめます

元気よく室内に入ってきたのは年中クラスの子どもたちです。
もちろん「土粘土」によるワークショップは初体験。
子どもたちは大きな声で先生にごあいさつをすませると、前回同様に先生と一緒に全身を動かしながら、からだとこころをほぐします。
でも、どうやら子どもたちは足もとに広がった透明なビニールシートと、その端に置いてある大きなたらいが気になるようです。
これらは今回のワークショップのもので、床などが汚れないよう床面いっぱいに敷いた養生シートと、水に浸して柔らかな状態にしている土粘土が入ったたらいです。

先生はさっそく子どもたちをその養生シートの上にあるたらいの周りに集めて、なかに入った土粘土のかたまりを見せました。
水に浸ったいくつもの四角い灰色の塊(土粘土)に、子どもたちの視線は釘付けです。
その塊の表面をそっと手のひらでなでたり、指で恐る恐る突いてみる子もいます。
先生はその塊をたらいの中からひとつ持ち上げると、それを持ったままシートの中央に座りました。
子どもたちもその周囲に座わり、先生が手にした塊をじっと見つめています。
そこで先生は、それが土粘土という特別な粘土であること、それからその扱い方とあそび(つくり)方を教えました。
さらに1本のタコ糸を出して、土粘土の塊にぐるりと巻き付けると、タコ糸の両端をゆっくり左右に引っ張りました。するとその土粘土の塊が、まるで包丁でお豆腐を切るように、なめらかにきれいに切り分けられました。
子どもたちはそれを見て、「わ~っ」と歓声を上げました。
これなら硬い粘土を力まかせに乱暴に千切らなくても、簡単にいくつにでも切ることができます。
ここまで覚えたら、あとは子どもたちの自主性に任せて創作開始です。

子どもたちはいくつかのグループに分かれ、そのグループ内で土粘土の塊を当分に分け合いました。
はじめは土粘土の感触を確かめるように手のひらで転がしたり握ったりしていましたが、それが徐々に指先にまでなじんでくると、もう一気に自分の思うように変形させていきました。
お団子のように丸い球状のようなものをいくつも並べる子。
1本の棒状にこねながら、ヘビのように、紐のようにどんどん長く細く伸ばす子。
お砂場であそぶように高い山のようなものをつくる子。
足でどかどかと土粘土の塊がたいらになるほど踏みつける子。
また、タコ糸の先に小さな土粘土の塊を下げてぶらぶらさせている子がいたので、「なにをしてるの?」と聞くと、「釣り!」と答えました。
きっと、家庭生活ではそういうあそびもしているのだな、なんて園以外の顔をのぞかせる子もいました。

先生はひと通り子どもたちがつくりあげた造形物を見て、次のあそび方を提案しました。
「それじゃあ、この土粘土にこんなモノ(道具)を加えてみようか」
先生はそう言うと、半分の長さに切ったストロー数本と、長さが約10cm×5㎝で厚み1cmほどの長方形の板の切れ端を取り出し、よくねりこんだ一握り程度の土粘土にそれらを加えて新しいかたちをつくりはじめました。

違う素材のモノを加えるだけで、想像力はさらに高まります

先生は土粘土にストローを刺しました。細い煙突のようでもあり、柱のようでもあり、数本並べて刺すと誕生日のケーキに立てたろうそくのようにも見えました。
また土粘土を土台にして長方形の板の切れ端を立てると、木製の塀ができ上りました。
その塀をまっすぐ並べて囲えば、小さな家になりました。
さまざまなかたちに変化した土粘土ですが、それに全く違う素材のものを加えることで予期せぬ効果(かたち)が表れますし、子どもたちの想像力はさらに高まります。

年中クラスの子どもたちはそれを見るなり、その新たなモノ(道具)を手に持って、それぞれがつくっていた土粘土の造形物にどんどん加えていきました。
四方八方へ競い合うように、5本、10本とストローを刺していく子どもたち。
板の切れ端も同様で、何枚も重ねたり並べてみたりと、新たなモノ(道具)が加わったことで今までにないアイデアが次々に湧き出てくるようです。

先生は最後にもうひとつだけ子どもたちに提案しました。
それは、ひとりひとりが個人的に造形物をつくって楽しむこともいいけれど、その造形物を集めてこのビニールシートの上に「みんなの町」をつくろう、というものでした。
偶然、数人の子どもたちが長く伸ばした土粘土を線路のように床面に貼り付けて、その線路の上にストローを目印にした駅舎をいくつか置き、その駅舎の間を板の切れ端を電車に見立てて走らせていたのです。
そこで、この線路を床面いっぱいにもっと長くつなげて、たくさんの駅舎やビルや山までもつくっちゃおう!というのです。

ところが、その途中で誰かがその線路に沿って歩きはじめました。
それを真似て、いつのまにか全員で、その床につくったさまざまな線路の上をなぞるように歩き出してしまいました。きゃっきゃと大声で騒ぎ、子どもたち自身の足で力強く踏みながら、それこそ電車のように何周も何周も。
子どもたちの想像の世界は、ほんとうに自由奔放で豊かです。
そんな光景を見ていた先生や保育士たち周囲のおとなたちも、思わず子どもたちと一緒に笑い出してしました。

年長クラスの子どもたちは昨年に次いで二度目の土粘土あそびです。
それでも一年経てば、子どもたちは成長し、その分想像力もたくましく育っていますから、ほぼ新しい体験と言ってもいいでしょう。

ワークショップの内容は年中クラスと同じですが、進め方やあそび方はレベルを上げて指導します。
当然レベルアップしたものに十分応える子どもたちですし、日頃からつくること、想像することに長けたクラスで、なによりもそういうことが大好きな子どもたちです。
まさに“好きこそ物の上手なれ”でしょうか。

そんな年長クラスの子どもたちは、土粘土以外のモノ(道具)をプラスすることで、より複雑な構造物をつくり出しました。
そして最終的に、年中クラスの子どもたちが到達できなかった「みんなの町」づくりは、年中クラスの子どもたちから引き継ぐかたちで見事に達成することができました。

「はむら」と土粘土で文字をつくった駅名の表示板もあります。
線路も途中途切れることなく、ビニールシートいっぱいに繋がり、大きな駅舎もたくさんできました。
線路の沿線にはエイやサメ、カミツキガメまでいる水族館や板の切れ端に乗ったお寿司がいくつも並んでいるお寿司屋さんも見えます。
線路脇の道を走るのは未来の乗り物でしょうか?不思議なスタイルの車もあります。
またユニークな顔のオブジェも線路脇に建っていて、バラエティ豊かな景色がつくられました。
年長クラスの子どもたちは全員でそんな「みんなの町」のパノラマをゆっくり一周し、そこに出現したさまざまな創造物を鑑賞しました。

ただひたすら粘土をこねることで、生まれ出てくるもの

今回のワークショップは、美術学校でいえば「彫塑」という専門課程に属するものです。
子どもたちが扱ったように、柔らかな粘土で何度でもやり直しながら最終的な形を作成していきます。
よく「彫刻」と同類に考える方がいますが、あきらかに似て非なるものです。
「彫刻」は、簡単に言えば石や木など硬質の素材から、ノミなどを使い彫り刻みながら形をつくっていくので、これはある意味やり直しができないことから、かなり高度な技術力が必要になってきます。
そう考えると、今回のワークショップは、高校や大学で学ぶ専門課程と同じことを4~5歳の子どもたちが体験したということでしょうか。
それはちょっと言いすぎかもしれませんが、〈アート〉とはなんとも不思議でおかしな世界に思えてきます。

さて最後になりましたが、「にじいろワークショップ」を企画・指導する松澤先生は、
今回のワークショップをこう振り返りました。
「まず、粘土をこねること。
何の意図も結果も求めず、ただひたすらこねる。
そこから手の感触や自由にかたちを変えていく粘土と向き合いながら
自分の思いやかたちを考えていく。
つまり自分のなかから湧き出るものではなく、
粘土という自分の外側から受ける刺激によって生まれるもの(こと)。
そういうことを今日のワークショップから感じとって欲しい。

それから、粘土だけではなく、そこに新たなモノ(道具)・・・
今回でいえばストローや板の切れ端などをプラスすることで、
粘土以外のモノ(道具)に触発されて、さらに想像力が膨らみ
まったく予想もしなかった自分の思いやかたちへ発展するという
そんな面白い体験にもなったと思う。
これから何かをつくるときに、無意識にでも
そういう発想の仕方が生きてくるはずです」

粘土あそびは、その多くが個人での単独な遊びになってしまうのが実情です。
松澤先生のワークショップは、それを最終的に全員がひとつのもの(形)を目指して作り上げていくという・・・
そんな通常にある個の粘土あそびから全の粘土あそびへと昇華させる新たな試みがひとつの特徴です。

ドキュメンテーション

「土粘土あそび」

土にふれ、その特性を感じながらダイナミックに心のままに土粘土でのあそびを行います。
粘土は力の加減によって、さまざまな状態に姿を変えます。それを楽しみ、あそびに展開できるような時間にしたいと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI