【にじいろWS 2022-4月】紙コップのインスタレーション

2022年4月25日 月曜日投稿


今年度も、子どもたちの五感に残るワークショップを目指します

すべてのものが新鮮に映り、彩りもゆたかになる4月です。
新しく入園した子どもたち、ひとつおにいさんやおねえさんになった子どもたちも、みんな輝いて見えます。
そして、「にじいろワークショップ」も、そんな子どもたちと一緒に新年度を迎えました。
もちろん、新型コロナの影響でまだまだ自由にのびのびと生活を楽しむことはできませんが、今年度も「にじいろワークショップ」はアートを通じて子どもたちのこころとからだを解放し、子どもたちの五感にたくさんの想い出を残したいと思っています。

さて新年度の第一回目は、『紙コップのインスタレーション』です。
紙コップは一般に市販されている、あの紙製の使い捨てコップです。
では、〈インスタレーション〉とは?
今年度の年長クラスの子どもたちは、昨年10月にこのワークショップでおこなった『蜘蛛(クモ)の巣・インスタレーション』で一度体験しているので、なんとなく記憶があるかと思います。
ただ、はじめてこの言葉を耳にする子どもたちとご父兄の方もいらっしゃるので、あらためてご説明しておきます。
〈インスタレーション( Installation )〉とは、端的に言えば、アートを展示する空間そのものをひとつの作品としてとらえることです。
つまり、その空間にある壁や床、天井まで含め、どこを見てもそこに存在する全てのものが鑑賞の対象となり、その空間に身を置くことで、全身でアートを体感するということです。
これは特に「現代美術」における表現方法として定着した言葉です。

https://www.estherstocker.net/

ですから今回のワークショップは、子どもたち一人ひとりが紙コップという素材を使って、お部屋全体にアートな表現を施しながらそれを全身で体感するというものです。
ただし、この〈インスタレーション〉という言葉やその意味について、子どもたちには一切教えません。
このワークショップでは、学ぶというより、あそびながら体感することに重きを置くからです。
遠い先のいつの日か、子どもたち自らがこの体験を思い出すことがあれば、それで十分だと考えています。

紙コップを重ねると、まったく別のものに見えてくるから不思議です

まずは年中クラスの子どもたちです。
そう、今回が初めての「にじいろワークショップ」です。
みんな緊張しているのかな、と思ったら、いやいやどの子も目をキラキラさせて、期待感たっぷりのようす。
そんな子どもたちが声をそろえて、「よろしくおねがいします!」と元気のいいごあいさつ。
その声がお部屋いっぱいに響きわたると、先生も笑顔でごあいさつのお返しです。

では、と先生は、子どもたちの前に四角柱の細長い(紙コップが入った)パッケージを差し出しました。
「これ、な~んだ?」と先生は聞きます。
パッケージの中には紙コップが100個重ねて入っていますが、表からではわかりません。
なので、子どもたちはきょとんとしています。
そこで先生はそのパッケージのふたを開け、中から紙コップを取り出しました。
ひとつ、ふたっつ、みっつ、よっつ・・・と一個ずつ取り出してはそれを並べ、積み上げ、三角の小さな山のような形をつくってみせました。
子どもたちは、さすがに紙コップはわかったものの、それが積み上った状態を目の当たりにして、これからなにがはじまるの?と興味津々です。
さらに先生はパッケージの中に入っている残りの紙コップを一気に全部引き抜くと、それを床に立てました。
何十個も重なった紙コップは、まるで空に伸びた背の高い煙突のようです。
子どもたちは「???」とばかりに目をきょろきょろ。

次に先生は、それを揺すってみせました。
すると、くねくねと曲がって、まるで煙突が踊っているように見えました。
子どもたちはそれを見て、こんどは声を上げて大笑いです。

ひとつひとつはどこにでもある、子どもたちもよく知っている紙コップですが、こんなふうにたくさん重ねると、まったく別のものに見えてくるから不思議です。

年長クラスの子どもたちにも、先生はおなじように紙コップをパッケージから取り出して見せました。
でも、去年からこのワークショップを受けている子どもたちは慣れたもので、これくらいでは動じません。
先生だって、当然それは承知です。
そこで、年長クラスの子どもたちにはすぐさま紙コップを一人ひとりに渡し、
「これを床に一列に並べて、その上にどんどん積み重ねていってね」と言いました。
子どもたちはこのいきなりの指示に戸惑いながらも、順番に紙コップを並べていきました。
床にまっすぐ並べるまでは順調にいきましたが、その一列を土台にして上に一段、二段、三段と積み上げるようになると、子どもたちも真剣です。
崩さないように、崩れないように、とだんだん慎重な動きになります。
それでも、そこは年長クラスの子どもたち、じょうずに積み上げることができました。

こうして年中クラスの子どもたちも、年長クラスの子どもたちも、紙コップという素材に直接触れて、いろいろな角度から眺めることで、新しい発見やおもしろさ、その不思議さなどを感じとったようです。
さあ、それではここからが本題です。

紙コップで創り上げた、子どもたちの“未来の世界”

先生は、年長クラスの子どもたちとはじめたように、紙コップを床に並べました。
こんどは長めに一列並べると、その上に一段、もう一段と紙コップを積み上げ、子どもたちの背丈の半分くらいまでの高さまで積み上げてみせました。
それはもう三角の小さな山ではなく、大きくて、高くて、広がりをもった壁のようでした。

子どもたちはそれをお手本にして、はじめは三角型の山を部屋のあちらこちらにつくりました。
それができあがると、それを土台にしてもっと大きく、広がりのある壁をつくりはじめました。
壁はまっすぐなものばかりではありません。丸みをおびたものであったり、角度のあるものであったり。
それも積み上げながら上手に調整することを覚えました。

年中クラスの子どもたちは、先生や保育士の手を借りながらたくさん積み上げていきました。
年長クラスの子どもたちは、三段が四段になり、さらに五段が六段にと、ひたすら上に積み上げて、気がつくと自分の背丈と同じくらいになりました。それでも止めることなく、背伸びをして手が届く高さまで積み上げていきました。
お友だちと協力して、自分たちがすっかり隠れるほどの大きな壁を積み上げた子どもたちもいます。
コツコツとひとりで、自分自身を囲むように紙コップの壁をつくった子もいます。
途中までできあがった紙コップの壁が崩れてしまって泣き出す子もいましたが、何度崩れてもまたつくりなおし、また積み上げてと、それを繰り返すうちに、もう無我夢中で泣いたことなど忘れたようです。

年中クラスのなかには、崩れて紙コップが豪快に飛び散るさまに興味をそそられたのか、積み上げた紙コップの壁をわざわざ思いっきり押し倒す子もいました。
そんなお友だちの姿がとっても楽しそうに見えたのでしょうか、別の子どもたちまでもせっかく積み上げた紙コップの壁を自ら思いっきり倒して嬉しそうに飛び跳ねていました。
まるで自分が怪獣にでもなって、街中の建物を壊しているような妄想にかられたのでしょうね。

崩れては積み上げ、倒しては積み上げて、部屋いっぱいにたくさんの紙コップの壁ができあがりました。
そんな壁を下から眺め、上から眺め、紙コップの隙間から眺めている子どもたちの目には、きっとおとなには見えない景色が見えていたにちがいありません。

また年長クラスの子どもたちは、部屋いっぱいにできあがったいくつもの紙コップの壁と壁を、紙コップを並べた道で四方八方につなげていき、ひとつの巨大な都市空間を想起させてくれました。
それはまた、これから子どもたちが創り上げるであろう、 “未来の世界”のようにも見えました。

さて、楽しかったワークショップも、いよいよ終わりに近づきました。
年中クラスのこどもたちはたくさんの紙コップを重ねてなが~く、なが~く一本につなげ、それを大蛇のように床に這わせると、その端から端まで両足で大蛇をまたぐように駆け抜けていきました。

年長クラスの子どもたちは、やはり紙コップをたくさん重ねて一本のロープ状にすると、その端と端をつないで輪をつくり、そっとそのまま床に置きました。
そのロープ状になった紙コップの輪を囲むように子どもたちは等間隔に並んで座り、各自の目の前にあるロープ状になった部分をやさしくつかみました。
先生は子どもたちに「そおっとね、やさしく、ゆっくりね」と声をかけます。
子どもたちは、やや緊張気味なのか、無言で静かにうなずきます。
先生はそれを確認すると、「さあ、上げるよ」と再び声をかけ、それに合わせてみんな同時にゆっくりその輪を持ち上げました。
先生と子どもたちの手によって、そのロープ状になった紙コップの輪は、そのままの形を保ちながら少しずつ床から離れていきます。
それからじっとして、1秒、2秒、5秒・・・紙コップでつくったロープ状の輪は、確かに宙に留まっています。
まだ大丈夫、10秒、20秒、25秒・・・次の瞬間、どこからともなくつなぎ目が外れて、紙コップはバラバラに床へ落下していきました。
それでも、子どもたちも、先生も、息をひそめてそれを見守っていた保育士たちも、一斉に大歓声と拍手でそのことを讃え合いました。

大いにあそび、はしゃぎ、笑い合えることが何より大事!

これで、今回のワークショップは終了です。
ひとつひとつは小さな使い捨ての紙コップですが、子どもたちにとって、今では夢を創造(=想像)する大切な素材になりました。
そして、初めてワークショップを体験した年中クラスの子どもたちも、2年目の年長クラスの子どもたちも、共に時間ぎりぎりまで大いにあそび、大いにはしゃぎ、大いに笑い合いました。
なによりも、それが一番大事ですし、それがあってこそ、しっかり五感にその感覚を残せるのだと考えています。

今回のワークショップのおわりに、こんな言葉を記しておきます。
「子どもたちにすべての解答をあたえないこと、
底の底までさらけ出さないことです。
そうすれば子どもたちは自分なりの創造性へ向けて、
一押しされることになります。」
これは、おそらく一度は読んだことがあると思いますが、『あおくんときいろちゃん』、『フレデリック』や『スイミー』といった世界的に有名な絵本を描いたレオ・レオニ(Leo Lionni)さんの言葉です。
(*松岡希代子著『レオ・レオーニ 希望の絵本をつくる人』2013年・株式会社美術出版社より)
一見簡単そうなことですが、とても重要なことを指摘しているように思います。
では、この一年、どうぞよろしくお願いいたします。

ドキュメンテーション

「紙コップのインスタレーション」

今回は紙コップ一つから始まります。
一つの小さなものでも、それが大量に集まると、大きく景色や空間を変えることが出来るのです。
紙コップが積み上がる、高くなる…しかし、 一瞬に して崩れる緊 張感も伴います。

「構築から破壊へ」破壊があるからまた新しく生まれるそんな隠れたメッセージも内包しているインスタレーションです。

written by OSAMU TAKAYANAGI