【にじいろWS 2022-11月】サファリパークに行こう~ライオンキングのサバンナをイメージしながら~

2022年11月25日 金曜日投稿


〈ごっこあそび〉は想像力と創造力、そしてからだ全体で

毎年10月末日、ハロウィンになると首都圏にあるテーマパークや東京・渋谷の街は仮装をした若者たちでにぎわいます。
コロナ禍では一時、それがままならない状況でしたが、今年は久しぶりにそのにぎわいが各所に戻ったようです。
近年では特にハロウィン特有の仮装ではなく、映画やアニメの主人公であったり、動物であったり、その時に話題になったものにふん装したりと自由な仮装が多くなりました。
それらの大半は自分でつくり、いろいろな小道具などと組み合わせていると聞きます。
それぞれに趣向を凝らした仮装で全身を包み、いつもの私ではない、特別な私になりきって楽しんでいるのがわかります。
私はそんな様子をニュースなどで見るたびに、自身がまだ子どもだったころ、ひとりで、または友だちと一緒に〈ごっこあそび〉をしたことを想い出します。
当時のテレビやマンガのなかの主人公、はたまた巨大恐竜や人気の怪獣などになりきって、近所のあそび場を飛び回っていました。
そのころは身にまとう衣装など無かったですが、日常生活にあったものを上手に使い(模して)、時間が経つのも忘れてあそんでいたものです。
もちろん、ハロウィンで仮装をするのとはだいぶ意味がちがいますが、現代の若者たちを見ていると、誰もが小さかったころに経験したであろう〈ごっこあそび〉を、いま再び体現しているように思えてなりません。

今回のワークショップは造形(つまり簡単にいえば、形のあるものをつくりだす行為)ですが、そこから上述した〈ごっこあそび〉へと発展させていきます。
〝あそび〟とはいえ、それを十分に楽しむためには想像力と創造力が必要です。
さらに、からだ全体を使ったパフォーマンス能力も不可欠です。
テーマは「サファリパークに行こう」ということで、子どもたちには動物になりきってもらいました。
最後はみんなで、あおぞら保育園内に誕生したサファリパークへ出かけます。
さて、どんな動物たちに出会えるでしょうか。

まずは、〝なりきり〟の小道具づくりからはじめます

今回のテーマであるサファリパークにいる動物たちは、その大半が広大なアフリカの大地で育ちました。
そこで子どもたちには、あらかじめ用意したプロジェクターを使って、部屋の白い壁にアフリカの風景のなかにたたずむ動物たちの写真を大きく映し出し、これから造形する動物の容姿を観察してもらうことにしました。

年中クラスの子どもたち、それから年長クラスの子どもたちも、プロジェクターで映し出された大きな写真に最初は少し戸惑ったようでした。
ライオンやトラ、キリンにサイにゾウなど、動物園では見慣れた動物たちですが、広大なアフリカの大地に放たれた野生のそれらを見るのはおそらくはじめてでしょう。
でも、次々に映し出される動物たちの迫力ある姿に、子どもたちは徐々に惹きつけられていきました。

それから先生は子どもたちの前に立ち、おもむろに首から下げたふたつの筒状になったものを目に当てて子どもたちを見わたすしぐさをしました。
「あ、見える見える、ライオンかな?ゾウかな?遠くまで見えるよ」
先生が下げていたのは、底を抜いた紙コップ二つを貼り合わせてつくった双眼鏡を模したものでした。

ここからが造形(ものづくり)のはじまりです。
先生が首から下げていたものと同じものを子どもたちひとりひとりに配りました。
真っ白な紙コップに、先生とおなじように首から下げられるようにスズランテープが取り付けてあります。
子どもたちは自分の双眼鏡を手に取ると、先生を真似て遠くを覗くしぐさや、壁に映し出されている動物の写真を、まさにアフリカの大地で覗き見ているようにその望遠鏡で眺めたりしていました。
なかにはお友だち同士の双眼鏡をぴったりとくっつけて、お互いの目を覗き合っている子もいました。

先生はそんな子どもたちに「この双眼鏡の真っ白な筒の部分に、好きなように色をつけたり、模様を描いたりして自分だけのものにつくり変えていいよ」と言いました。
すると、子どもたちはいっせいにクレヨンを使って自分だけのオリジナルな双眼鏡づくりをはじめました。
真っ白で均一な紙コップが、みるみるうちに個性を持ち出し、その子の色に染まっていきました。

年中クラスと年長クラスの子どもたちは、〈ごっこあそび〉をする前にまずは〝なりきり〟の小道具として双眼鏡づくりに夢中になりました。
でも、年長クラスの子どもたちは首から下げるスズランテープも自分自身で貼り付けました。
いずれにしても、サファリパークへ出かけるなら、遠くの動物たちを見るための双眼鏡は必要な小道具ですからね。

そうそう、それから先生は、双眼鏡づくりに励む子どもたち全員にサファリパークの特別入場券を配りました。
それはひとりひとりの名前を書き込むスペースがある、やはりオリジナルの入場券です。
先生自身〈ごっこあそび〉に手は抜きません。これは〝なりきり〟気分を盛り上げるための演出です。
当然、子どもたちのテンションはさらに上がります。
「入場券は失くさずに持っていてね」と言われて、いく人かの子どもたちは、大事にポケットにしまい込みました。

仮装の準備ができたら、いよいよ「サファリパーク」へ出発です!

今回の〝なりきり〟道具づくりの仕上げは、動物の被り物です。
これが一番むずかしく、でも一番楽しみな造形(ものづくり)でした。

年中クラスと年長クラスの子どもたちは、前もって頭からすっぽり被ることのできる紙袋をひとりひとり用意しました。
その紙袋の側面に、それぞれの児童の顔のかたちが切り取られています。
なので、その紙袋を被ったとき、顔だけが外に飛び出して見える仕組みです。

先生はお手本に、自分の顔に合わせて切り取った紙袋を手に取り、顔の出る部分に折り紙や厚紙で動物の顔に似せた三角の大きな耳や色とりどりのひげをつけました。
それを頭から被って顔だけを出すと、顔は先生ですが、その顔の周りには動物のような耳やたくさんのひげが
ありました。
子どもたちはその被りものを見て大笑いです。
それから先生はそれを被ったまま、動物の動きを真似て歩いて見せました。
その姿に子どもたちはさらに声を上げて大はしゃぎ。

テーマが「サファリパークに行こう」ですから、アフリカの大地に生息する動物たちをイメージしてつくります。
壁にプロジェクターで映し出された写真や、動物の本を参考にして、それぞれが自分のなりたい動物を決めて、その顔をつくっていきます。
どの子も自分でつくりたい動物の特徴をよく考えて、耳にしろ、ひげにしろ、見事につくりこんでいきました。
出来上がるとそれを被って、誰かれとなくさっそく四つ足になって動物になりきって歩き出しました。

特にいつもと力の入れようがちがったのは、年長クラスの子どもたちです。
というのも、来年2月に行われる園の発表会で、年長クラスが演じるおしばいの演目が『ライオンキング』だからです。もちろん、みなさんがよく知っている、ディズニーのアニメーション映画(1996年公開)です。
ご存知の通り、その物語に登場するのは、すべてアフリカの動物たちです。
そうなれば、がぜん力が入るのは当たり前ですね。
映画『ライオンキング』は、その後アメリカでミュージカルとして舞台公演がありましたし、日本でも劇団四季による公演が行われるなど、いまでは子どもたちにとって大好きなディズニー作品の1本として人気が高いようです。

来年の発表会に向けた練習もはじまっているのでしょう、その物語に登場するサバンナに生息する動物たちのこともよく知っていました。
すでに先生が説明するまでもなく、壁に映し出されたアフリカの動物たちの写真を見ながら、
「あ、シンバ!」、「ムファサかな?」、「スカーだよ」、
「これ、悪いハイエナたちだ」などと物語の役名で呼ぶ子どもたちもいたくらいです。
年長クラスの子どもたちの気持ちは、すっかり物語の世界に在るようです。

そんな年長クラスの子どもたちも〝なりきり〟道具づくりの仕上げに一生けん命です。
年中クラスの子どもたちよりはワークショップの経験も知識も一年分多いせいか、動物の顔づくりにもそれぞれがひと工夫もふた工夫も加え、かなり凝ったつくりをしています。
例えば、巨大なタカ、大口のワニ、鼻の長いゾウ、パンダなんていうアフリカとは無縁の動物まで登場しましたが、どれもが顔の周りに貼り付ける耳や羽根も、鼻にひげも、口元さえ立体的な造形物を完成形として描きながらつくっていました。いく人かの子どもたちは腕にまでその動物の一部分を模したものを巻き付けて全身で表現していました。
最後は先生や保育士にサポートしてもらいながらも、みんなイメージ通りに仕上がりました。

子どもたちが創作に打ち込んでいる間に、先生と保育士でお部屋の奥に、あおぞらサファリパークの舞台をつくりました。
年中クラスと年長クラスの子どもたち共に、そのサファリパークでそれぞれが仕上げた動物になりきって作品を発表し合いました。
お客役と、動物役を半分ずつに分かれて交互に〈ごっこあそび〉を行いました。
お客役は入場券を入口で係員役の先生に渡し、双眼鏡で遠くから眺めたり、紙でつくったエサを与えたり。
動物役はドシドシ、バタバタ、ノロノロと四つん這いになりながら、動物の鳴き声まで真似して大騒ぎです。
どちらの役になっても、〈ごっこあそび〉は終わることを忘れて、時間いっぱいまでみんななりきっていました。
そんな光景を見る限り、年中クラスと年長クラスの子どもたちは、きっと、来年の発表会は最高の舞台になることまちがいなしですね!

子ども時代に体感すべき、普遍的な〈ごっこあそび〉の必要性

〈ごっこあそび〉はなにものかになること、なれることで、予期せぬたくさんのことを学びます。
今回はテーマを設定し、それに即した造形にも力を入れましたし、また最後にはからだを使って身体的なパフォーマンスにもつながりました。
これらは、表現するというアートの最も根源的な部分を体感した行為です。
冒頭でも触れましたが、仮装すること、若者たちの言い方を借りれば〝コスプレ〟も〈ごっこあそび〉の延長線上にあることではないでしょうか。そこには、あきらかに想像力と創造力が存在するからです。私ではない私になりきることで別の世界も見えますし、閉ざされた気持ちもある意味解放されるからです。

では今回も最後に「にじいろワークショップ」を企画・指導する松澤先生からのコメントを紹介して、結びとします。
「〈ごっこあそび〉を完結させるためには、何度も言うように想像する力と、それを表現するために創造する力が必要で、それを一番あそびとして取り入れるのが上手な幼児期に思い切りやれたかどうかで、その後のこころの持ちようや、大げさに言えば生き方みたいなものにも影響すると思います。
ひとつの物事をどれだけイメージできるか、できないかで仕事や生活の幅が広がるか、狭まるかに分かれることってあるでしょう。いつ、いかなる場所にいても、もうひとつ別の、まったくちがう世界へ自分を導いていけるかどうかで考え方も視方もかわりますからね。そうした行為は潜在的なものですから、小さいころに理屈ではなく身につけておきたいものです。
また子どもの情緒面の発達にも〈ごっこあそび〉の必要性は高いと言われていますから、大いに〈ごっこあそび〉を奨励したいものです。
それにしても、今回も、おとなの想像するかたちをはるかに超えた造形(ものづくり)と〈ごっこあそび〉への踏み込み方には驚きました。でも、それだけにこれからがとても楽しみです」

ドキュメンテーション

サファリパークに行こう~ライオンキングのサバンナをイメージしながら~
今回は造形で、ごっこ遊びを行ってみようと思います。
今年度の5歳児さんの演劇は「ライオンキング」ということで、ライオンたちが生活している、サバンナに住む動物たちをイメージし作り、動物になりきって遊ぶ、そんななりきり造形あそびをやってみます。
動物を作ることも、ルールを決めて遊び方を考えるのも面白い。なにができるかお楽しみです。

written by OSAMU TAKAYANAGI