【にじいろWS 2022-1月】雪のデザイン

2022年1月20日 木曜日投稿


自然が織りなす美しいデザイン「雪の結晶」を描く

2022(令和4)年1月、年明け初めての「にじいろワークショップ」です。
ところで、今年は早々から雪のニュースが多いですね。
今回ワークショップを行った一週間ほど前(1月6日)、関東南部でも雪が降りました。
東京都心でも雪が積もり(最大で10cmほどですが)、通勤や通学に支障をきたして外出時はほんとうに大変でした。降りやんだあとも路面の凍結で、すべって大ケガをして病院に搬送されたひともたくさんいました。
雪に慣れていない首都圏のひとにはかなり厳しい日になったようです。

でも、当園の子どもたちにその日のことを聞くと、おとなとはまったく違う反応でした。
「降ったよ、でも少しだけだから、つまらなかった」
「もっといっぱい降れば、雪合戦ができたのに」
「大きな雪だるまをつくりたかったなぁ」
子どもたちにとっては、困るどころか、少しの雪では物足りなかったようです。

さて今回は、そんな雪がテーマです。
雪といっても、自然が織りなす美しいデザイン「雪の結晶」をモチーフに描くワークショップです。

空のなかで手をつなぎ、くっついて・・・生まれます

まずは、一週間ほど前に降った雪のはなしで盛り上がり、
「雪の歌といえば・・・」と先生がこんなメロディを口ずさみました。
♪~ありの~ままの~すがたみせるのよ~
すると子どもたちも即座に反応し、次の歌詞を大合唱です。
そうディズニー映画でヒットした『アナと雪の女王』の“Let It Go ありのままで”。
さすがに子どもたちはよく知っています。
では、お父さん、お母さんの世代はどんな歌を思い出すでしょうか?
そんなことを子どもたちと思い浮かべるのも楽しいのでは。

さて、いつものように子どもたちの気持ちがのって来たところで、ワークショップのはじまりです。
子どもたちに1枚の「雪の結晶」を集めた写真のプリントを配りました。
先生が「雪の結晶って知ってる?」とたずねます。
ほとんどの子がそのものの存在は知っているようです。
でも、それをこんなふうに見るのははじめてのこと。
「あ、きれい!」
「なんだ、これ!?」
「星みたい」
「へんてこなカタチをしてる」
子どもたちはいつものようにそのプリントを見ながら楽しそうに言いあっています。

「いろんな形があるでしょ、でもこれ、みんな雪の結晶だよ」
と先生が子どもたちに伝えます。
子どもたちは、模様も大きさもちがうのに、どれもが同じ雪の結晶だったことに驚いたようすです。

「だけど、よーくみてごらん、どれもが同じつくりをしているの、わかる?」
と先生は続けます。
「みんな、線でつながってる!」
「クモの巣みたいだ」
「なんだか矢印がいっぱいあるよ!?」
子どもたちはおもいおもいに見たこと、感じたことを発言していきます。

「そうだね、クモの巣みたいに見えるね、みんな線でつながっているし、矢印みたいだね。
でもね、よく見ていくと、どれもが同じ〈六角形〉をしているのがわかるかな?」
先生は、そう言うと〈六角形〉に切り取った黒い紙を掲げて見せました。
「これが、〈六角形〉というかたちです」と六つの角を順番に指でさしながら、説明していきます。
すると子どもたちは先に配られたプリントの写真と見比べてそのことに気づいたようです。
先生と同じように角をひとつずつ指さしながら
「ほんとだ!六つある、〈六角形〉だ!」
子どもたちは新しい発見に大喜びです。

さらに先生は、雪の結晶がどうしてできるのかをおもしろく、わかりやすくはなしました。
「先生はいま水(の分子)で、雲のなかにいます。雲のなかは冷蔵庫みたいに冷たくて、寒くて、一人でいたら凍りそう」
と言いながら、前にすわる子どもに手招きをして
「〇〇くんも先生と同じ水(の分子)ね、だからいっしょに手をつなごう!」
と左右の手それぞれをつなぎました。
「ほら、くっついた。さあ、これで手は全部で何本?」と周りにいる子どもたちに聞きました。
「4本!」子どもたちはいっせいに答えます。
先生は「そうだね、じゃ、〇〇さんも水(の分子)になって手をつなごう!」
とまた手前の子どもを呼ぶと、今度は先生の片方の手と新しく加わった子の片方の手をつなぎ、その子のもう片方の手は先に呼ばれた子の手とつなぎました。
これで三人それぞれの左右の手がひとつにつながりました。
「ぴったりくっついたよ、三人仲よくいっしょだね。それじゃ、いま全部で何本の手になったかな?」
「1本、2本、3本・・・6本!」またまた先生の質問に子どもたちは答えます。
「そう、6本」先生はそう笑顔で応えると、三人は手をつないだまま立ち上がりました。
すると、三人のまんなかにできた空間(スペース)が、六つの角を持つダイヤモンドのような形に見えました。
先生は子どもたちに言います。
「こうやって、水(の分子)が氷のように冷たい雲のなかで手をつないで、仲よくくっついてできたのが、雪の結晶だよ」
そして、
「よく見てごらん、先生たちのまんなかにできた、このかたちが〈六角形〉になった」
子どもたちは立ち上がり、それを見ておどろいたり、感心したり。
「ほんとだ!すご~い、雪の結晶だ」

「ハーイ、じゃ、きょうはみんなに、この雪の結晶を描いてもらいます」
先生は子どもたちにそう言って、用意した黒画用紙、絵の具の入ったパレットと筆、筆洗器を配りはじめました。

ひとの個性といっしょです、ひとつとして同じデザインはありません

先生はお手本用の黒画用紙を1枚持って中央にすわると、子どもたちはその周囲に集まりました。
黒画用紙を床にひろげ、その横には白、赤、青、緑、黄色の絵の具が入ったパレットを置いて、筆を1本握ると
「描きはじめる前に、まず画用紙をよく見てね。まんなかに小さな点(穴)があるのを確かめること」
と画用紙の中央の小さな点を指でさしました。
「それから、その周りに六つの点(穴)があるのも確認してね」
と、画用紙の中心から周囲にある点もひとつひとつ指でさしていきました。
子どもたちに配った黒い画用紙も、あらかじめ中心と六角形の六つの頂点に、千枚通し(工具)で小さな点が打って(開けて)あります。
光にかざせばわかる程度の、ほんとうに小さな点(穴)です。

「それがわかったら、描きはじめるよ」と先生が言い、まずは白の絵の具に筆をつけました。
「最初はこの中心の点から出発しますね。それを、まわりの六つの、どの点でもいいので結びます」と言いながら、筆を中心に置いて、その周りに打ったひとつの点まで1本の直線で結びました。
「こんなふうに、中心から六つの点まで6本の線を結んでいきます」
これで雪の結晶を成す、中心点から周囲に向かって伸びる6本の線ができました。
「次は、この線にどんな模様を描き入れていこうかな。さっきみんなに渡した雪の結晶のプリントを見るといいよ」
と、そのプリントを参考にしながら、さまざまな模様を描きくわえていきました。
先生オリジナルの、きれいな雪の結晶が仕上がりました。
子どもたちはもう慣れたものです。そこまで先生が描くと、いつもの「描きたい!描きたい!」コールです。

早速、子どもたちは配られた黒画用紙の中心点を指でさがし、その周囲の六つの点も確かめました。
そして、筆に絵の具をなじませて、中心点から周囲に打った点までまっすぐに線を描きました。
どの子も6本、いろいろな色を使って、じょうずに描けました。
あとは、それぞれが思いのままに飾りつけていきます。

プリントや先生のお手本を見ながら慎重に、ゆっくり描く子。
大胆な色使いで、一気に6本の線に飾りを描く子。
雪の結晶だけでは物足りないのか、その周りに雪の模様まで描きこむ子。
雪の結晶が、ひとつとして同じ模様にならないのと同様に、子どもたちの個性もひとつとして同じものはありません。そう考えれば、このテーマはもっとも個性の出るワークショップともいえます。

そうそう、実は、絵の具を入れたパレットを使うのは、今回がはじめての体験でした。
でも、先生がお手本を描くときにしっかり見ていたからか、それともこれまでワークショップで絵の具の使い方に慣れていたせいか、どの子も上手にパレットを使いこなしていました。
子どもたちのなかには、パレットのなかで色が混ざり合って違う色に変化することに興味を覚えた子もいました。
「絵を描くことに集中しなさい」などとは言いません。絵を描くって、そんなふうに、絵を描く以外にもたくさんのことを学んだり、体験したり、考えたりできるから楽しいのです。それこそが、〈アート〉です。

こうしてでき上ったたくさんの個性豊かな雪の結晶は、園のなかでいつまでもとけずにきらきらと輝き続けることでしょう。

雪の結晶は、「かみさまのおくりもの」です

「きれいだね/きらきらかがやく/かみさまのおくりもの」
こんなすてきな文を書いたのは詩人の谷川俊太郎さんです。
これは、写真家の吉田六郎さんが撮影した雪の結晶の写真ひとつひとつに、谷川さんが言葉をつけた『きらきら』(アリス出版)という本に収められているものです。
吉田六郎さんは写真家であり、科学教育映画の監督でもあります。
おはなしが少しそれますが、吉田六郎さんは、世界で最初に雪の結晶のしくみを解明した物理学者の中谷宇吉郎先生と出会って以来、この雪の結晶に魅せられて後半生をその撮影にささげたそうです。
もし、この本を目にする機会があれば一度手に取ってみてはいかかでしょうか。絵本のように子どもがひとりでも読めるものです。
また、興味があれば、中谷宇吉郎先生の著作『雪と人生』(角川ソフィア文庫)もお薦めです。
「雪は天から送られた手紙である」という名言を残された、中谷先生の随筆集です。
専門的な難しい内容の本ではありませんので、拾い読みしても楽しい一冊です。

ワークショップのなかでも先生がそれとなく子どもたちに伝えましたが、もし次に雪の降る日があれば、ぜひ一度親子で雪の結晶を見てください。黒や紺色といった色の濃い布や紙等の上に雪を置き、文具として購入できる程度の虫メガネが1本あれば、とても不思議で、美しい世界をのぞき見ることができますから。

ドキュメンテーション

雪のデザイン
自然界には自然の法則に従ってできる美しいデザインがあふれています。
冬に子どもたちが楽しみにしている雪にも一定の法則があり、そこに美しさが宿ります。
しかし、実は結晶には様々な形があるのです。
美しさの法則を見つけ、デザインを学び、描いてみます!

written by OSAMU TAKAYANAGI