工作用の廃材は、日常生活にあふれる〈アート〉から。
今回のワークショップは、どこのご家庭にもある紙製の廃材を利用した工作です。
特に立方体や円柱など、形のあるものを主な材料としました。
たとえば、牛乳パックやお菓子などいろいろな食品が入っていた箱、日用品に使用された容器、トイレットペーパーやラップ類の芯といった、日常生活にある大小さまざまな紙製の空き箱やそれに類するものです。
通常なら可燃ゴミかリサイクルとして、日々大量に処分されていくものばかりです。
でも、それらを改めてよく見みてください。ひとつひとつに施されたデザインや色彩、形状などが、使うひとに好印象を与え、利便性も高く、またそれぞれに個性的な魅力を放っていることに気づくはずです。
そう、これらはみな、いわゆる「パッケージデザイン」という、広義での〈アート〉でもあるのです。
そこで今回は、この身近にある廃材=〈アート〉を用いて、子どもたちの感性や発想力で工作をしてもらいました。
コレカラ、『廃材ロボット計画』ヲ、開始シマス!
さて、まずは先生が1000mlサイズの牛乳パックを、左右の手にひとつずつ取り、それをロボットの足のように床に立てて、ぎこちなく右足、左足、と交互に動かしてみせます。一歩踏み出すたびに、「ギーガシャ、ギーガシャ、ガシャーン」と機械がきしむような音真似もそれに加えてみます。
少しずつ本物のロボットのように見えてきました。
さらに、その足部分に別の四角い空き箱をふたつ貼り合わせて、胴体と頭の部分をつくりました。それから、頭の部分の箱の表面にはペットボトルのキャップをふたつ貼りつけて、まんまるな目をしたロボットの顔が完成です。
ここまでつくれば、子どもたちの目の前で動くそれは、もはやただの空き箱のかたまりではありません。
「あ、ロボットだ!」と、子どもたちのなかから大きな声が上がりました。
「ホントだ、ロボットだ」と、つぎつぎに同様の声が飛び出します。
そこで先生が子どもたちに問いかけます。
「みんなもつくってみたい?」と。
もちろん、子どもたちはいっせいに「つくるっ!」の返事。
先生は、ロボットのような機械の声(?)を真似て
「ソレデハ、コレカラ、『廃材ロボット計画』ヲ、開始シマス!」
自分の感性で材料を選ぶ―それがなによりも重要なこと。
部屋の一角に、床が見えないほどさまざまな紙製の廃材がぎっしり並べられています。
子どもたちひとりひとりが、自分のつくりたいロボットの材料を選びます。どれを使っても、いくつ使っても自由です。ほかにもペットボトルのキャップやストロー、モール、色テープなども用意しました。
でも、選ぶのはあくまでも子どもたち自身です。先生も保育士も、一切指示はしません。
ひとりひとりが、丹念に自分の欲しい材料を探します。自分の気持ちや考え、好き嫌いで自由に選んでいいのです。それが、その子の持つ、自分だけの感性であり、個性ですから。
可愛らしい、きれいな箱ばかりを集める子がいます。おもしろい絵柄や変わった形の箱を選ぶ子もいれば、ハデで明るい色調のものを探す子、おとなびた雰囲気のある容器を手にする子、さらにはそれらすべてを一気に両手いっぱい抱える子もいます。
子どもたちはほかの誰でもない、自分という存在に目覚めはじめています。だから、なによりも子どもたち自身で材料を選ぶということ、ほかの子の真似はしないということが、このテーマでの工作にはとても重要なことです。
こうして完成したロボットは、一体一体が、まるで子どもたちひとりひとりの分身のようです。
それはそうですね、自分自身が納得して集めた材料ばかりで組み立てたのですから、どれひとつとして同じものができるわけがありません。
どんなことが起きてもビクともしない頑丈そうなロボット。
まるでペットのように散歩にでも連れていきたくなる4本足のロボット。
太くて長い腕がパタパタと上下に動くロボット。
大空を飛び回るための翼をつけたロボット。
なんでも食べてしまいそうな大きな口がパクパク開くロボット。
自分の身長を超えていく背高のっぽのロボット・・・などなど。
子どもたちの人数だけ、個性豊かなロボットが出来上がりました。
それぞれにたくさんの工夫が施され、見ている先生や保育士たちも感心したり、驚いたり、笑ったりと楽しい気分にさせてくれました。
最後に、子どもたちは自分のロボットをみんなに紹介しました。
そして、ワークショップの終わりに、先生がこんなことを言いました。
「きっと、今夜、みんなが寝ているうちに動きだすかも…」と。
子どもたちはみんな大声で笑いましたが、「そうなるといいなぁ」って誰かが言うと、それに同調して「いいなぁ」という声があちらこちらで聞こえました。
意識的に眺めれば、生活のなかにも〈アート〉がいっぱい。
一般的な生活用品のなかにも〈アート〉はいっぱい存在します。今回工作の材料となった紙製の廃材ですが、先にお話したように、市販されている商品を包装した箱や容器は、そのほとんどが商業デザイナーと呼ばれる専門職のひとたちによる「パッケージデザイン」というジャンルに属する〈アート〉です。ですから、それらを意識的に眺めることで、〈アート〉を見る目を養うことも、感性を磨くこともできますし、時には心を豊かなものにしてくれます。
美術館へ出かけて名のある作家の作品に出会うことも大切ですが、なにげない毎日の生活のなかでも、こうした〈アート〉に触れることができます。むしろ子どもたちには、今回のワークショップのように、日常のなかの〈アート〉に触れながら、自由な発想のもとで切ったり、貼ったりしてあそぶことの方が大きな刺激を受けるように思います。
ドキュメンテーション
生活の中から出る、廃材、箱、カップなどを用いカッコいいロボットを作る。
機能や働き方をイメージして素材の形、色、大きさに着目し、イメージを膨らませて製作する。
準備:牛乳パック、またはお菓子やそのほか色々なものが入っていた空き箱、カップ、ペットボトルの蓋など、日常生活のなかから出た廃材。
written by OSAMU TAKAYANAGI