アートを通じて楽しむ、秋の“Happy Halloween!”
10月の楽しみなイベントといえば、いまはハロウィンでしょうか。
昨年はコロナの影響で思うようなイベントが開催できず、寂しい思いをした方が多かったと思います。今年のハロウィンは、かたちはどうあれ、“Happy Halloween!”と笑顔のあいさつだけでも交わせたらいいですね。
さて、今回はそんなハロウィンを意識したワークショップです。
そして、「インスタレーション( Installation )」という表現方法を遊びながら体感します。
ハロウィンはご存知の通り、古代ケルト人の収穫を祝う宗教的なお祭りが始まりだそうです。
その当時、収穫期が終わり冬の季節が訪れると、それにともない魔女や悪霊もやって来ると信じられていました。そこで彼らを追い払うために火を焚き、仮面を被って身を守ったことがその起源といわれています。
現代は宗教的な意味合いはすっかり薄れて、さまざまなコスチュームを身にまとい、明るくてにぎやかな楽しいイベントに変わりました。
それでも、当時恐れられていた魔女や黒猫、コウモリにクモなどは、現代の仮装や飾りつけでも人気のある定番のアイテムです。
今回のワークショップに参加する子どもたちには、その定番のひとつ「クモ」に扮してもらいます。
といっても、クモの衣装を着て変身する必要はありません。気持ちだけクモになって、あのちょっと不気味なクモの巣をつくります。
それも、部屋いっぱいに広がるほど巨大で、糸が幾重にも複雑に絡み合ったクモの巣です。
クモの話から、巨大な「クモの巣」づくりへ
まずは、先生のクモのお話から—いつものように身振り手振りを交えて、すっかりクモになりきった先生です。
最初のうちはその姿を見て「クモ、だいきらい」と怖がっていた子どもたちでしたが、そのうち笑い転げたり、先生のクモを真似したりと、いつのまにかクモの話に興味津々。そうこうするうちに、なんだかみんなの気持ちが、小さなクモの子どもになったようです。
では、これからクモの巣をつくりましょう。
「クモの巣を見たことあるかな?木や花などがいっぱいある公園や、お家の周りなどあちらこちらにあるよね」
「クモの巣、いっぱいあるよ」
「見るけど、気持ちワル~い」
「そうだね、でもクモは害虫を食べてくれるよ」
先生は子どもたちとこんな掛け合いをしながら、部屋の左側の壁に1本の長いスズランテープの端を、ちょうど子どもたちの背丈ほどの高さに貼り付けました。そして、そのテープを持って真っすぐに伸ばし、部屋の右側の壁へと向かってゆっくり歩き出しました。一直線に張ったテープが右側の壁に届くと、同じようにそこに貼り付けます。次にまた長い1本の紙テープを持ち、その端を今度は右側にあるガラス扉に、同じような高さに貼り付けました。そこからまたも同じように左側の入り口付近へと、さっきのテープと交差するように一直線にテープを伸ばしながら歩き、左側の入り口付近に届いたら、同じくしっかり貼り付けます。
2本のテープが部屋の真ん中で交差して、大きなバツ印をつくりました。
「先生、なにしてるの?」
そんな光景を不思議そうに眺める子どもたちの視線もまた、先生とテープの動きに合わせて右から左へ、左から右へとゆっくり交差して行きます。
これは、まだまだはじまりの、はじまりです。
先生はまたまた別のテープを持って、こちら側から向こう側へ、向こう側からこちら側へと、少しずつ位置と高さに変化を加えながら同じことを繰り返しました。子どもたちの視線も、やっぱり同じように左右を行ったり、来たり…。
そんなふうに何度か繰り返すと、いく本ものテープが一直線に部屋の空間を横切り、それがいくつも交差し合って、いつの間にか空間全体が網の目のようになりました。
それでも、クモの巣と呼ぶにはほど遠い状態です。
先生も、さてさて、これからどうしましょう、という困り顔で子どもたちに目線を移しました。
ところが子どもたちは先生と同じことをやりたくて、もうさっきからうずうずしていたのです。
もちろん先生はそれを察していました。
そう、実はここからが子どもたちの出番です。
いよいよ今回のテーマ「クモの巣」づくり、スタートです!
クモの目線で眺めれば、また違う体感も
テーブルにはあらかじめ用意した色とりどりのスズランテープや紙テープ、新聞を帯状に切り分けたもの、小さな鈴、ハサミ、そしてセロハンテープが並んでいます。
子どもたちは好きな素材を自由に選び、その端と端にセロテープを付け、先生が網の目状に張り巡らせたテープにそれを貼り付けていきます。先生と同じように、それを何度も何度も繰り返します。
目の前のテープから奥のテープへ、壁面やガラス扉から伸ばして別のテープへ、お友だちのテープから自分のテープへと、あちらこちらで交差していきます。長いテープも短いテープも、新聞の切れはしも、小さな鈴も、思い思いに貼り付けます。なかには、切れたテープを別の素材や色の違うテープで補修する子、同じところにテープをぐるぐる巻きにする子、床すれすれにテープをぶらぶらと垂らす子など、それぞれに貼り方も工夫しはじめました。無意識ですが、みんなが思いっきり〈アート〉を楽しんでいるのがわかります。
部屋の右側からも左側からも無数のテープが貼られ、そこから伸びていくさまざまなテープが部屋の空間でやはり無数に交差して、網の目がますます細かくなり、複雑な網の目模様をいくつも描いています。
子どもたちと先生、それに保育士たちみんなで部屋の隅の少し高い段から全体を見わたしました。
その瞬間、思わず歓声が上がりました。
そこに広がっていたのは、まさに、巨大なクモの巣そのものだったからです。
「じゃあ最後に、自分たちがつくったクモの巣の下をくぐってみようか」
そんな先生の掛け声に、子どもたちはわれ先にとばかりに急いでくぐろうとしましたが、
「でも、ただくぐるのではなく、クモになりきってみようか」
と先生から新たな提案が出されました。
すると、数人の子どもが腹ばいになったり、コロコロ回ったり、クネクネとからだをくねらせたり、思いついた体勢でいろいろ試してみました。どれもが虫のように見えてユニークでしたが、なかでも一番面白く、クモらしく見えたのはあお向けに寝そべって、手足をもぞもぞ動かしながら進んでいく体勢でした。
それにこうしてくぐると、自分たちがつくったクモの巣が真上に見えて、ほんとうにクモになったような感覚でこの不思議な空間を体感できることにも気づきました。
クモの巣をくぐりぬけていく子どもたち全員が、ほんとうにクモの子どものように見えてきました。
今回も、最後の最後まで楽しんだワークショップでした。
枠にとらわれない、「インスタレーション」という表現方法
今年度のワークショップは、一貫して通常の枠にとらわれない〈アート〉をテーマにしてきました。
今回のテーマに挙げた「インスタレーション( Installation )」も、まさにそれに則したものです。
「インスタレーション」とは、簡単に言えば、〈アート〉を展示する空間そのものをひとつの作品としてとらえる、ということです。
一般的に考えれば、壁にひとつひとつの作品が額などに収まって展示され、それを順番に眺めるのが美術鑑賞です。でも「インスタレーション」はそんな既成概念から離れ、展示会場そのものが〈アート〉になっているので、壁を見ても、床や天井を見ても、つまりその空間に存在する全てが鑑賞の対象となり、その空間に身を置くことで、全身で〈アート〉を体感するという鑑賞の仕方といってもいいでしょう。これは特に「現代美術」における表現方法として認知されてきました。
今回のワークショップは、まさにその表現方法です。
子どもたちには、このような難しい説明などはしません。でも、部屋の空間全体を使って、「クモの巣」というひとつの作品をつくり上げ、自分たちでそれを体感(鑑賞)することに大きな意義があります。
型にはめない、枠にとらわれない—これって、理解はしていても、私たちおとなの実生活ではなかなかできませんが、子どもたちにはいまのうちにたくさんのそれを体感させてあげたいと考えています。
ドキュメンテーション
ハロウィンの飾りで蜘蛛の巣は定番のようです。
秋になると蜘蛛が成長し、大型の女郎蜘蛛などが巣を作り始めるからか、
立派な蜘蛛の巣を見かけることが多くなります。
蜘蛛の巣は美しく、度々芸術の世界でも取り上げられることがあります。
蜘蛛の巣を部屋に張り巡らして遊びます。
異空間の面白さ、線と線のからむ面白さ、素材との探求様々を研究します
※一見、危なく見えますが、 何度も検証して何度もやっている内容です
written by OSAMU TAKAYANAGI