【にじいろWS 2022-5月】「透明なキャンバス テラスでお絵描き」クレヨン編

2022年5月23日 月曜日投稿


室内とテラスを仕切る透明なガラスサッシ、それが今回のキャンバス

「透明なキャンバス」という言葉に聞き覚えのある方は多いと思います。
実は、昨年6月に〈テラスで描こう、透明なキャンバス〉というテーマで、当園2階から園庭に通じる外通路と外階段にあるガラスの壁面をキャンバスにして絵を描くというワークショップを行いました。
そう、テーマだけをみれば、その続編ともいえます。


でも、今回そのキャンバスとなるのは昨年と違い、いつもワークショップを行う室内とそれにつながる室外のテラスを仕切る透明なガラスサッシがキャンバス(支持体*)になります。
部屋の形状に沿うように横長に広がって連なる大きなガラスサッシは、まさにお絵描き用のキャンバスにはぴったりかもしれません。
その横長に連なるガラスサッシをちょうど半分に分け、室内から見て左側を年中クラス、右側を年長クラスのスペースとしました。
また、絵を描くために使用する画材も、昨年はアクリル絵の具と筆でしたが、今回は専用のガラスクレヨンを用います。
これは日常園で使うクレヨンと変わらないので、子どもたちにとっては手に馴染んだ画材といえます。

年長クラスの子どもたちは昨年のそれを覚えていたようで、「すぐにやりたい(描きたい)!」と勢いよく集まって来たのですが、どうもようすが違うのですぐに「あれ?」という表情になりました。
そして今回初めて透明なガラスにお絵描きをする年中クラスの子どもたちは、なにをするのかやや不安そうです。
いずれにしても、今回の透明なガラスのキャンパスに描くワークショップはただの続編ではなさそうです。

*支持体(Support):絵画においては、絵の具を塗るために使用するキャンバスや画用紙などを指します。

年中クラスがガラスいっぱいに描いたのは、植物の成長物語

今回2回目のワークショップとなる年中クラスの子どもたちは、室内に入って先生の顔を見るなり、
「アヤコせんせ~い!」と大きな声で呼びかけました。
先生の名前は、まっさきに覚えたようです。
とはいえ、まだまだ「何をするのかな?」と戸惑うようすは隠せません。
そこで先生は、まず子どもたちと一緒にあそびながら全身を動かし、からだとこころをほぐしていきます。
〈アート〉活動だって、こころとからだのストレッチはとても重要ですから。

からだもこころも整えたら、いよいよはじまりです。
子どもたちは全員テラスへ出て、室内とテラスを仕切っている透明なガラスサッシに沿って一列にまっすぐ並びました。
そして、そのガラスサッシ越しに室内を眺めると、そこには先生がひとり、1本のクレヨンを持って立っているのが見えました。
先生はゆっくりガラスに近づくと、そのクレヨンで、なんと目の前にある透明なガラスに絵を描きはじめました。
赤い丸や三角、花の絵など、それもガラスの向こうに立ち並ぶ子どもたちの目の前に。
一瞬それに驚く子どもたちでしたが、そのうち目の前に描かれた絵を見て笑い声が出はじめました。
なにしろ、子どもたちの目の前にあるガラスの反対側から、次々に絵が描かれていくなんて、見たこともない不思議な体験でしたから。

そんなふうに絵を描き終えると、先生も子どもたちのいるテラスに出て、
「いま先生が描いたように、みんなも目の前のガラスに好きな絵をいっぱい描いてください!」
と大きな声で促しました。
もちろん、年中クラスの子どもたちはガラスに絵を描くなんてはじめてですから、「え~っ?」と誰もがまだ不安そうな声を上げました。
すると、子どもたちと一緒にテラスに立っていた園長が、
「今日はいいよ、どんどん描いてね」とニコニコしながら言いました。
そう言われたら、もう躊躇する子などはひとりもいません。
先生が用意したいくつもの色のクレヨンからそれぞれが好きな色を選び、思い思いの絵をいっせいにガラスへ描きはじめました。
ひとや動物の絵、月や星、太陽、幾何学模様(?)、いくつもの色を重ねた色彩の塊など、みるみるガラスは子どもたちの自由な〈アート〉で埋まっていきました。

短時間で仕上げたそのようすを見て先生は、
「ずいぶん早く描けたね、みんなじょうずですごいなぁ」とほめると、さらに
「それじゃ、今度は先生がみんなに描いて欲しいもの(テーマ)をいいます」そう付け加え、
クレヨンで埋め尽くされたガラスサッシを濡れた雑巾で拭きました。
数回拭き取ると、もとのように透明なガラスサッシに戻ります。

いま描いたのは、まずはガラスに描くことに慣れること、それからどれくらい描いていけるのか、そんなことを見極めるためです。
先生はあらためて新しい絵を描きはじめました。
それは、緑色の小さな花の芽の絵でした。
そこから次第にツルが伸びていき、やがて葉が出て花が咲く・・・そんな植物が成長していく絵です。
この植物の成長する姿(ようす)を子どもたちに描いてもらおうというのが、先生が掲げたテーマでした。


ちょっと難しいんじゃないかな、というおとなの心配をよそに、子どもたちは先生の絵を見ながら感嘆の声を上げると、またしてもすぐさま見よう見真似で描きはじめました。

いつの間にか子どもたちの目の前のガラスには、新しく誕生した芽、そこから空に向かって伸びていくツルと葉、その先に咲き乱れるきれいな花々という、植物の成長物語が表れました。

反転して見た世界は、ウラ?オモテ?どっちがほんと!?

年長クラスの子どもたちは一度同じような体験をしているので、テラスの外からいきなり描きはじめることにしました。
さすがに絵を描くのはお手の物とばかりに、どんどんガラスがクレヨン画で埋まっていきます。
年長クラスの子どもたちには、誤って描いた線や色、別の絵を描きたいときなどに濡れた雑巾を使ってきれいに拭き取る方法を教えました。
それを覚えると、右手にクレヨン、左手に濡れた雑巾を持って、器用に描いたり消したりする子もいました。

どの子も描いては消してまた描いてという動作に慣れたころ、テラス側から描いた絵を室内側から眺めてみることにしました。
描きかけの絵や完成した絵を、それぞれが室内とテラスを行ったり来たりして眺めます。
それを繰り返すうちに、
「なにか変だぞ」と子どもたちは気づきました。
目の前から見て正しいと思って描いていたはずの絵が、反対側から見ると左のものは右に、右のものは左に。
つまり、テラス側を正面と思って描いたはずの絵が、室内側からは反転して見えたのです。
こんな風に自分が描いた絵を反転して眺めることなどありませんから、誰もが新鮮な驚きを感じたはずです。

しばらくして、今度は先生がテラス側から描いた子どもたちの絵に対して、室内側から絵を描き足してみました。
その先生が描いた絵は、子どもたちから眺めると反転して見えます。
それを見た子どもたちは先生を真似て、テラス側から描いた自分の絵に、室内側から描いた自分の絵を重ねはじめました。
はたして、自分で描いた絵はどっちがオモテだったのか、ウラだったのか?
オモテだと思って描いたものが、実はウラだったかもしれない、そんな奇妙で複雑な絵が表れました。
昨年のワークショップでは、通路内のガラス壁に描いた絵をすぐにウラ側から眺めることはできませんでした。
ましてやウラ側からオモテ側の絵に重ねて描き足すなんて。
なので、昨年同じようなワークショップを受けた年長クラスの子どもたちも、これはまったく新しい体験なのです。

さらに先生はテラス側で黙々と絵を描いている子どもの反対(室内)側にいくと、その子の描く絵と対峙するかのようにその絵とは違う形や色で絵を重ねていきました。
それに気づいたその子は、まるで先生とコラボをするかのように、またそこにテラス側から違う形と色を描きました。先生も負けじと、またしてもその絵に別の形と色を足していきます。
そんなふたりのお絵描きの応酬を見ていると、言葉ひとつ発することはないものの、ガラス越しでも〈アート〉を媒介に確かなコミュニケーションがとれていることに感動しました。

描くことに向き合う、真剣な子どもたちのまなざし

こうして、年中クラスと年長クラスの子どもたちは、ガラスサッシという透明なキャンバスいっぱいに鮮やかな〈アート〉作品を描きました。
今回は昨年とは異なる支持体や画材を活用したことで、先に記したような新しい発見や感動がたくさんありました。
なかでも―これはおとなの目線での気づきですが―子どもたちが絵を描いている、まさにその時、どれほど真剣なまなざしで向き合っているのか、今回初めて見ることができました。
なぜなら、通常は画用紙などのように反対側から見ることのない支持体を使用するので、真正面から子どもたちの視線や手の動きを見ることはほぼ不可能です。
それが、両側から眺めることのできるガラスという支持体であったがために、それを見ることが可能になったのです。
もし今後このような機会があれば、お子さんが無我夢中で絵を描いている姿を横から眺めるだけではなく、真正面から見てあげてください。きっと、今まで気づかなかったお子さんのまなざしに出会うはずです。

今回を振り返り、「にじいろワークショップ」企画・指導の松澤先生は、
「常に新しい試みを加味して実践しているので、子どもたちの反応をひとつひとつ見ながら、そこで得たものをいかに今後につなげていくか。いわば毎回毎回が試行錯誤と発見の連続、それから反省の繰り返しですよ」
とにこやかに話してくれました。
子どもたち自身も、昨年体験して得たものと、今年のそれは大きく違うでしょう。
掲げるテーマは例え続編と称しても、当然ワークショップの内容は子どもたちと同じように日々成長し、変化し続けていくものです。
このワークショップに参加する私自身も、先生の言葉以上に試行錯誤と発見、そして反省の日々です。

※なお、今回のワークショップの作品は、当園ホームページ内の職員投稿「あおぞら美術館へようこそ(5/14)」でも紹介しています。

ドキュメンテーション

「透明キャンバス テラスでお絵描き」クレヨン編
テラスにお絵かきをします。
透明な画面での描画、描いた絵と向こうの景色がかさなって見えるかな。クレヨンの重なりが見えるかな。
クレヨンと絵の具も併用するか、またテーマ「花」「好きなもの」などと決めて導入するか相談したいと思います。

written by OSAMU TAKAYANAGI