【にじいろWS 2021-6月】テラスで描こう 透明なキャンバス

2021年7月12日 月曜日投稿


 

キャンバス(canvas):油絵具やアクリル絵具などで絵を描くときに用いる布(画布)。

こんな「キャンバス」、見たことない?

通常、子どもたちが保育園でお絵描きをする場合は、スケッチブックや画用紙を用います。おそらくどこのご家庭でも同じでしょう。
なかには、使用済みの壁掛けカレンダーや大きな包装紙の裏側を使います、というご家庭があるかもしれません。それはそれでとても良い活用方法ですし、そんな風にさまざまな用紙を使ったら、子どもたちの創作意欲がより高まること間違いなしです。
でも、まさかとは思いますが、住居の窓ガラスや壁面にお絵描きをさせています、といったご家庭はないでしょうね・・・!?
今回は、そんな〈まさか〉、というような、通常では用いることのない「キャンバス」にお絵描きをするというワークショップです。

いつもの外通路や外階段が、「アート」の舞台に。

当園の2階から園庭に通じる外通路と外階段といえば、誰にとっても見慣れた建物の一部です。
子どもたちにとっても、そこは園庭へ行き来するための通路であり、遊ぶための場所でしかありません。
なので、2階のテラスから外通路の中央に集合した子どもたちは、これからここでなにをするのかな?とみんな少々とまどった表情をしています。

「それじゃ、はじめようかな」と先生が青い絵具に筆を浸して、あろうことか外通路を囲うガラスの壁面にゆっくりと小さなさかなの絵を描きだしました。
すると、「うわぁ~」と子どもたちはいっせいに目をまるくさせて、驚きの声を上げました。
こんなところに絵を描いちゃっていいのかな?叱られないのかな?と、どの子の顔にも「?」マークがいっぱいです。

大丈夫だよ、今日はこの透明なガラスの壁面が、みんなのキャンバスだから!
そして、この外通路と外階段が「アート」の舞台になるのです。

 

ガラスの向こうの景色も、ひとの心も、「幸せ色」に塗りました。

まず外通路エリアのガラスの壁面に向き合いながら整列したのは、4歳児クラスの子どもたちです。
そこで、ひとりひとりに絵具の入ったコップと筆が渡されました。絵具の色は各自で好きなものを選びます。

最初は、「ほんとに描いてもいいのかな」という気持ちからか、絵具のついた筆先を目の前のガラスの壁面におそるおそる押し当てていました。しかしそれも束の間、ガラスの壁面からその先に見えている景色までもが、緑、赤、黄、青色、さらにはそれらが混ざって生まれた新しい色で少しずつ塗りつぶされていくと、もう誰ひとりとして迷うことなく競い合うように描きだしました。

続く5歳児クラスの子どもたちは、外階段エリアの、同じくガラスの壁面がキャンパスです。
2階から外階段へ向かう途中で、外通路のガラスの壁面にびっしりと描かれた絵を見ながら「へ~すごいなぁ」「なんだか、おもしろそう」と、描きだす前からわくわく感が抑えきれないようす。
先生がお手本に怪獣の絵を描くと、それを見定めるやいなや、待ってました!とばかりにそれぞれがそれぞれの思いのままにお絵描き開始です。
透明だったガラスの壁面が、みるみるうちにさまざまな色と形で埋め尽くされていきました。

どちらのクラスの子どもたちも、自分の選んだ色に飽き足らず絵具の色(コップと筆)を交換したり、同じ壁面に数名が集まって大きな絵を共作したりと、後半はもう目の前のガラスのキャンバスに筆を走らせることに夢中です。

そうそう、これは余談ですが、1階のテラスや園庭で遊んでいた1~3歳児の子どもたちが、外通路や外階段でなにやらにぎやかにお絵描きをしている光景に目を止めると、自分の遊びをすっかり忘れてしまったようにずっと眺めていました。そのうち、どんどんガラスの壁面に広がっていく絵を見ながら手を叩いたり、指をさしたり、大きな声で笑ったり。
描いている子どもたちも、それを眺めている子どもたちも、誰もがみんな〈幸せな時間〉を共有しているように見えました。実は、そばで見守っていた園長や保育士も同じような気持ちだったかも。
それって、最高に素敵ですね。きっと、それこそが「アート」の持つ力なのかもしれません。

 

大切なのは、こころのキャンバスを学ぶこと、それを体験すること。

普通は〈しちゃダメ〉と言われるような、そんなお絵描きを思う存分楽しむことも大切な体験です。
「決められた用紙だけが、そのためのキャンバスではないよ」ということを学んだことが重要です。なぜなら、子どもたちが持っているこころのキャンバスは、おとなが想像するよりはるかに自由で無限大だからです。
一見ささいなことのようですが、それを自ら体験して知ることが大事です。
また、ガラスの壁面に筆をなでつける感触は、スケッチブックや画用紙とは明らかに違います。堅いけれど、滑るようになめらかで、今まで味わったことのない不思議な感触です。それだけでも子どもたちにとっては、記憶に残る貴重な体感を得たはずです。

ドキュメンテーション

保育園のテラスは気持ちの良い透明なキャンバスに変わります。筆でえがく、絵の具の痕跡が美しく見えます。
描いている側も外で見ている側も楽しい 。保育園が子どもたちのカラフルな絵で飾られて行きます。

written by OSAMU TAKAYANAGI

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